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第59話
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「その通りなんだけど、ほら、普通こういう時は、家族水入らずで過ごすもんじゃない? それなのに、さも当然のように実家までついていくのは、あまりにも常識知らずな気がして……」
「ソフィア様って、凄く気が強いかと思えば、変なところで遠慮しますよね」
「これでも、一応奥ゆかしい淑女のつもりなので……」
「とにかく、心配は無用です。父も母も寛容な人ですから、ソフィア様を歓迎してくれますよ。二年に渡る道場での修行中、僕がとてもお世話になったことを伝えれば、それこそ何ヶ月でもいていいと言ってくれるでしょう」
「そ、そんなにお世話はしてない気もするけど。でも良かった。あなたのご両親も、やっぱりあなたに似て優しいのね。そういえば、兄弟はいないの?」
そこで、シエルの表情がやや硬くなる。だがそれは、ほんの一瞬のことだったので、もしかしたら私の勘違いかもしれない。
「兄も弟も妹もいません。ただ、姉が一人……」
「そうなんだ。あなたのお姉さんなんだから、きっと凄い美人ね」
「ええ、まあ。美人ではあります。顔は」
なんだか妙な言い回しだった。美人"では"ありますという言い方は何か引っかかるし、最後に"顔は"と付け加えたのも、ちょっと変だ。
どことなく、シエルが姉の話題を続けるのを嫌がっている気がしたので、私はサッと話を打ち切ることにした。
「それじゃ、あなたの実家に行きましょうか。私たちが今いる大通りから、近いの?」
「はい。ここからなら、歩いて十分もかかりませんよ」
「へえ、華やかな大通りのすぐそばなんて、良い立地ね」
そんなことを話しながら、歩みを進める私たち。シエルの言った通り、歩き始めてから十分もたたないうちに、彼の実家に到着する。
その『シエルの実家』を見て、私はあんぐりと口を開けてしまった。
「宮殿……?」
そう。シエルの実家の第一印象は、宮殿だった。地価が高いと予想される、大通りのそばの土地を大胆に占め、堂々とそびえたつその姿は、豪邸などという表現ではとても足りない。やはり、宮殿と呼ぶのがしっくりくる。それくらい、荘厳で巨大な建物だった。
馬鹿みたいに口を開けて固まったままの私。
そんな私を、シエルは少し恥ずかしそうにしながら促す。
「さ、さあ、ソフィア様。いつまでもこうして、家の前で立っているのもなんですから、中に入りましょう」
私はいまだに口を開けたまま、かすかに顎を引き、シエルの後に続くようにして、おずおずと『宮殿』の中に入る。そこで、やっと思い出した。シエルが確か、次のようなことを言っていたのを。
『僕は落ちこぼれですが、僕の家は故郷では名家で、偉大な魔導師を何人も輩出しています』
いやいやいや!
名家ってレベルじゃないでしょ!
これ、貴族とか王族のレベルでしょ!
「ソフィア様って、凄く気が強いかと思えば、変なところで遠慮しますよね」
「これでも、一応奥ゆかしい淑女のつもりなので……」
「とにかく、心配は無用です。父も母も寛容な人ですから、ソフィア様を歓迎してくれますよ。二年に渡る道場での修行中、僕がとてもお世話になったことを伝えれば、それこそ何ヶ月でもいていいと言ってくれるでしょう」
「そ、そんなにお世話はしてない気もするけど。でも良かった。あなたのご両親も、やっぱりあなたに似て優しいのね。そういえば、兄弟はいないの?」
そこで、シエルの表情がやや硬くなる。だがそれは、ほんの一瞬のことだったので、もしかしたら私の勘違いかもしれない。
「兄も弟も妹もいません。ただ、姉が一人……」
「そうなんだ。あなたのお姉さんなんだから、きっと凄い美人ね」
「ええ、まあ。美人ではあります。顔は」
なんだか妙な言い回しだった。美人"では"ありますという言い方は何か引っかかるし、最後に"顔は"と付け加えたのも、ちょっと変だ。
どことなく、シエルが姉の話題を続けるのを嫌がっている気がしたので、私はサッと話を打ち切ることにした。
「それじゃ、あなたの実家に行きましょうか。私たちが今いる大通りから、近いの?」
「はい。ここからなら、歩いて十分もかかりませんよ」
「へえ、華やかな大通りのすぐそばなんて、良い立地ね」
そんなことを話しながら、歩みを進める私たち。シエルの言った通り、歩き始めてから十分もたたないうちに、彼の実家に到着する。
その『シエルの実家』を見て、私はあんぐりと口を開けてしまった。
「宮殿……?」
そう。シエルの実家の第一印象は、宮殿だった。地価が高いと予想される、大通りのそばの土地を大胆に占め、堂々とそびえたつその姿は、豪邸などという表現ではとても足りない。やはり、宮殿と呼ぶのがしっくりくる。それくらい、荘厳で巨大な建物だった。
馬鹿みたいに口を開けて固まったままの私。
そんな私を、シエルは少し恥ずかしそうにしながら促す。
「さ、さあ、ソフィア様。いつまでもこうして、家の前で立っているのもなんですから、中に入りましょう」
私はいまだに口を開けたまま、かすかに顎を引き、シエルの後に続くようにして、おずおずと『宮殿』の中に入る。そこで、やっと思い出した。シエルが確か、次のようなことを言っていたのを。
『僕は落ちこぼれですが、僕の家は故郷では名家で、偉大な魔導師を何人も輩出しています』
いやいやいや!
名家ってレベルじゃないでしょ!
これ、貴族とか王族のレベルでしょ!
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