夫より強い妻は邪魔だそうです【第一部完】

小平ニコ

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第64話

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 シエルの実家での生活は、まさに悠々自適。

 シエルのお父さんもお母さんも、実の娘に接するように私に優しくしてくれて、人様の家で、こんなに居心地よく過ごしていいものだろうかと恐縮するほどだった。

 シエルが帰って来たことを聞きつけ、親戚の人たちが総出で訪ねてきたが、さすがはシエルの一族と言うべきか、全員が美男美女で、しかも朗らかで優しい。

 だが、過去にシエルが言った言葉を思い出し、少し妙な気持ちになる。

『僕は落ちこぼれで、魔導師としての能力はせいぜいが中の下。親族にも随分と馬鹿にされました』

 シエルは確か、このようなことを言っていた。

 私が会ったシエルの親族たちは皆優しく、同じ一族の少年を馬鹿にしたり見下したりするような人間は一人もいなかった。さりとて、シエルが嘘を言ったとも思えず、私は首をひねるばかり。

 いや、ちょっと待てよ。もしかしたら、『シエルを馬鹿にした親族』というのは、『私がまだ会っていない親族』なのかもしれない。

 しかし、さっきも言ったが、シエルの親族は総出でやって来たので、まだ会っていない親族がいるとしたら、もう死んだという話のシエルの姉だけである。

 なんだか違和感のある、その死んだという姉のことが気にかかり、私はある日、シエル本人に思い切って聞いてみることにした。ただ、彼が姉の話題を好まないことは知っているので、少しでも言いよどむような場面があれば、すぐに話を打ち切るつもりでもあった。

 現在、私とシエルはお屋敷の中庭にいる。華麗に咲き誇る見事な花々を眺めながら、シエルは私の疑問に答えてくれた。今までのように、姉の話題を避けるそぶりは特になかった。

「ソフィア様のご推察通りです。親族は皆、僕をとても可愛がってくださっていて、僕を徹底的に見下し、馬鹿にしていたのは、姉のマルグリットだけでした」

「そうだったの……。あの、今日は、お姉さんのことをすんなり話してくれるのね」

「ここ数日、ソフィア様が僕に何かを聞きたそうにしていることは、分かっていましたから。それに、父と母がおこなった姉についての説明も、妙だと思っているのでしょう?」

「ええ、まあ。『あの子は死にました』って言ったときの二人の様子、なんだか変だったから。ついでに言うなら、あなたの様子も」

 シエルが淀みなく話してくれるのをいいことに、ずけずけと突っ込んでいく私。そんな図々しさにも、シエルは苛立ちを見せることはなかった。

 シエルのこういった優しさにいつも甘えてしまう自分を少し恥ずかしく思うが、どんな時でも優しい彼がいつも近くにいてくれることが、嬉しくもあった。

「……姉の話題は、一族の間で禁忌なんです。名前を出すことすら避けられているほどに」
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