16 / 144
第16話
そんなことを思っているうちに、夜はどんどん更けていく。
「ふぁ~あ……ねむ……」
自然と、口からあくびが出た。
それも当然といえば当然である。
私はこれまで、日の出と共に起き、日が沈むのとほぼ同時に寝るという、非常に規則正しい生活をしてきた。思えば、こんなに夜遅くまで起きているのは、人生で初めてのことかもしれない。
旅の高揚感のおかげで、今まではあまり眠気を感じていなかったが、さすがにこれ以上起きているのはしんどくなってきた。もう、どこでもいいから適当な宿に入って、寝ちゃおうかな……
そう思った私は、とりあえず目についた宿に、フラフラと入ろうとした。
だが、入れなかった。
誰かが私の手を、グイっと引いたからだ。
ちょっと、いったい誰よ。
いきなり人の手を引っ張る無礼者は。
眠気のせいもあり、私は少々憮然とした顔で振り返る。
なんとそこには、先程私からお財布を盗んだ、スリの少年が立っていた。
少年は、帽子のツバに手をやり、少しだけ厳しい顔で、口を開く。
「そこは駄目だ。タチの悪いボッタクリ宿だよ。やめときな」
私は首を傾げ、問う。
「ボッタクリ宿ですって? この、正面の看板には、良心的なお値段が書いてあるみたいだけど……」
少年は指を振りながら「ちっちっち」と舌を鳴らし、言葉を続ける。
「良心的なのは看板だけさ。あんたみたいに何も知らない観光客をカモにして、頼んでもいないサービスを勝手にやって、最後に莫大な料金を請求してくるんだよ。しかも、サービス自体はまともだから、詐欺で訴えることもできない。悪知恵の回る野郎が経営してる宿さ」
「へええ~、本当に、タチ悪いわね。引き留めてくれて助かったわ。……さて、ここで質問です。スリのあなたが、どうして私を助けてくれるのかしら?」
少年は、帽子を目深にかぶり、顔の半分を隠すようにしながら、言う。
「その前に、俺の質問に、二~三、答えてくれ」
「えぇ~、質問に質問を返すのは、ルール違反じゃない?」
不満げにそう言う私だったが、まあ別に、少々の質問に答えてあげることくらい大した手間じゃないと思ったので、それ以上文句は言わずに黙っていると、少年は質問を始めた。
「あんた、この町の人間じゃないよな? 旅の魔法使いか?」
私は、頷いた。
「そうよ」
「さっき俺を浮かせたの、魔法だろ? なんて名前の魔法なんだ?」
「名前なんてないわよ、必殺技じゃあるまいし。あれは、自己浮遊魔法の応用よ。本来なら自分を浮かせる魔法を、他人に使っただけ。大したことじゃないわ」
「ほんとかよ。俺、優秀な魔法使いを何人か知ってるけどさ。自分が浮くならともかく、他人を自由自在に浮かせる魔法なんて、見たことないぞ」
「まあ、そうかもね。自分が浮くのと、他人を浮かすのじゃ、100倍くらい難易度が違うから」
「ふぁ~あ……ねむ……」
自然と、口からあくびが出た。
それも当然といえば当然である。
私はこれまで、日の出と共に起き、日が沈むのとほぼ同時に寝るという、非常に規則正しい生活をしてきた。思えば、こんなに夜遅くまで起きているのは、人生で初めてのことかもしれない。
旅の高揚感のおかげで、今まではあまり眠気を感じていなかったが、さすがにこれ以上起きているのはしんどくなってきた。もう、どこでもいいから適当な宿に入って、寝ちゃおうかな……
そう思った私は、とりあえず目についた宿に、フラフラと入ろうとした。
だが、入れなかった。
誰かが私の手を、グイっと引いたからだ。
ちょっと、いったい誰よ。
いきなり人の手を引っ張る無礼者は。
眠気のせいもあり、私は少々憮然とした顔で振り返る。
なんとそこには、先程私からお財布を盗んだ、スリの少年が立っていた。
少年は、帽子のツバに手をやり、少しだけ厳しい顔で、口を開く。
「そこは駄目だ。タチの悪いボッタクリ宿だよ。やめときな」
私は首を傾げ、問う。
「ボッタクリ宿ですって? この、正面の看板には、良心的なお値段が書いてあるみたいだけど……」
少年は指を振りながら「ちっちっち」と舌を鳴らし、言葉を続ける。
「良心的なのは看板だけさ。あんたみたいに何も知らない観光客をカモにして、頼んでもいないサービスを勝手にやって、最後に莫大な料金を請求してくるんだよ。しかも、サービス自体はまともだから、詐欺で訴えることもできない。悪知恵の回る野郎が経営してる宿さ」
「へええ~、本当に、タチ悪いわね。引き留めてくれて助かったわ。……さて、ここで質問です。スリのあなたが、どうして私を助けてくれるのかしら?」
少年は、帽子を目深にかぶり、顔の半分を隠すようにしながら、言う。
「その前に、俺の質問に、二~三、答えてくれ」
「えぇ~、質問に質問を返すのは、ルール違反じゃない?」
不満げにそう言う私だったが、まあ別に、少々の質問に答えてあげることくらい大した手間じゃないと思ったので、それ以上文句は言わずに黙っていると、少年は質問を始めた。
「あんた、この町の人間じゃないよな? 旅の魔法使いか?」
私は、頷いた。
「そうよ」
「さっき俺を浮かせたの、魔法だろ? なんて名前の魔法なんだ?」
「名前なんてないわよ、必殺技じゃあるまいし。あれは、自己浮遊魔法の応用よ。本来なら自分を浮かせる魔法を、他人に使っただけ。大したことじゃないわ」
「ほんとかよ。俺、優秀な魔法使いを何人か知ってるけどさ。自分が浮くならともかく、他人を自由自在に浮かせる魔法なんて、見たことないぞ」
「まあ、そうかもね。自分が浮くのと、他人を浮かすのじゃ、100倍くらい難易度が違うから」
あなたにおすすめの小説
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜
神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。
聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。
イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。
いわゆる地味子だ。
彼女の能力も地味だった。
使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。
唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。
そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。
ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。
しかし、彼女は目立たない実力者だった。
素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。
司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。
難しい相談でも難なくこなす知識と教養。
全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。
彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。
彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。
地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。
全部で5万字。
カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。
HOTランキング女性向け1位。
日間ファンタジーランキング1位。
日間完結ランキング1位。
応援してくれた、みなさんのおかげです。
ありがとうございます。とても嬉しいです!
妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。
大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!
向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。
とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。
こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。
土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど!
一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。