追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ

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第23話(デルロック視点)

 ……ん?

 気のせいだろうか?

 また少し、霧が濃くなった気がする。

 いや、気のせいじゃない。
 明らかに、霧が濃さを増している。

 それに、この霧、何か妙だ。

 うっすらと、色がついている。

 ……『色のついた霧』自体は、それほどめずらしい現象ではない。
 光の加減で、時刻によって、オレンジ色の霧が見えるのは、よくあることだ。

 だが、この霧は、色こそ薄いものの、毒々しい紫色である。

 まさかこれは、毒ガス?
 前王の崩御を聞きつけた他国が、我が国が新体制を築く前に、攻めてきたのか?

 一瞬パニックになり、そう思ったが、その可能性はほぼゼロだ。先程、若い重臣が述べた通り、我が国は近隣国との関係は良好だし、何より、大した資源もなく、交通の要所でもない我が国には、慌てて急襲するほどの価値などない。

 だいたい、毒ガスのような非人道的兵器を用いれば、その噂は一気に千里をかけ、歴史の上でも、永遠に汚名が残るのだ。どうしても勝たねばならない戦ならともかく、我が国のような小国を潰すのに、わざわざそんな方法を使う愚か者はいないだろう。

 ……ではいったい、なんなのだ。この『紫の霧』は。

 私はふらつきながらも、会議室を出て、寝室に戻った。
 ベッドに横たわると、少しだけ体が楽になり、自然とため息が漏れる。

 その時、もう何度目か忘れてしまったが、頭の中で、またあの声がした。

『愚か者。お前は、してはならぬことをした』

 ええい!
 いい加減にしろ!
 なんなのだ、この声は!

 私は最初、この声が、追放された魔女ラディアによる『嫌がらせのいたずら』だと思っていたが、こんなに長い時間、効果が持続する魔法などあるのか? いや、まあ、魔女の使う魔法なら、我々の常識を遥かに超える魔法もあるのかもしれないが、しかし……

 不可解な事態が続いていることと、体調不良の苛立ちもあり、私は声を荒げた。

「黙れ! お前は、いったい何者だ!? 何度も『愚か者』『愚か者』と侮辱しおって、私を誰だと思っている!」

 しかし、頭の中の声は、少しも気圧された様子はなく、昨晩のように、言葉を続ける。

『破滅の時は、迫っている。もう、救いはない』

 私は再び、声を荒げた。

「破滅だと!? なんだ、破滅とは! ぼんやりした言い方をするな! 具体的に言え!」

 そこで、頭の声は、黙ってしまった。

 くそっ! ふざけおって!

 正体不明の声が頭に響いて来るだけでも腹立たしいのに、意味深なことをほざくだけで、結局具体的なことは何も言わない、なんと不愉快な奴だ! 詳しいことを言う気がないなら、最初から話しかけてくるな!

 しかし、そんなとき。
 突然、頭の中の声は、呟いた。

『始まった』

 私は、ぽかんとして、「えっ?」と、間抜けな声を発してしまう。

 頭の中の声は、私の声など気にも留めずに、念押しするように、言った。

『破滅の時が、始まった。この国は、今日で終わりだ』
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