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第24話
旅に出て、初めて迎える朝。
私は、爽快な気分で目を覚ました。
あのスリの少女――リーゼルのベッドは、なかなかに快適で、夜中に目を覚ましたりしてしまうこともなく、ぐっすり眠ることができた。私は体を起こし、「うぅん」と一度背伸びをしてから、誰に言うでもなく、「おはよう」と挨拶をする。
森の家で、一人暮らしをしていた頃からの習慣だ。ただの独り言の『おはよう』でも、起床の挨拶を口にすることで、なんとなくだが、『これから活動を始めるぞ』という心のスイッチが入る気がするのである。
だが、そんな私の、誰に向けて言ったわけでもない挨拶に、お返事が返ってきた。
「おはよう、お寝坊さん。よく眠れたかい?」
お返事の主は、リーゼルだった。
リーゼルは、長い黒髪を後頭部で結わえ、昨日のままの、タンクトップとショートパンツという恰好の上に、エプロンを着用している。……どうやらキッチンで、料理か何かをしていたらしい。
『お寝坊さん』と言われたことが気になって、私はベッドのすぐそばにあった時計を見る。……おおお、もう、朝の9時を回ってるじゃない。確かにこりゃ、『お寝坊さん』だわ。
これまでいつも、日の出と共に起きていた私としては、信じられないくらいの朝寝坊である。少々恥ずかしくなった私は、掛け布団で顔の半分を隠すようにしながら、言葉を発する。
「思ったより快適なベッドだったから、よく眠れたわ。掛け布団も、敷き布団も、おせんべいみたいに薄いのに、不思議ね。特に敷き布団は、ちょっと硬さを感じるくらいなのに」
リーゼルは、出来上がった料理をテーブルに配膳しながら、言う。
「知らないのかよ。ベッドは多少硬いくらいの方が、腰に良いんだぜ。なんでも、柔らかすぎるベッドだと、寝返りが打ちにくくて、逆に体に悪いそうだ」
「へえ、そうなの。……あなた、その年で、腰痛の心配なんかしてるわけ?」
「してねーよ。今の話は、親父が言ってたことの受け売りさ。親父は、酷い腰痛持ちだったもんでね。さて、起きたんなら、いつまでもベッドの中にいないで、顔でも洗ってきなよ。そしたら、朝食にしよう」
言われた通り、私はベッドから起き上がると、洗顔と歯磨きを済ませ、食卓に着いた。……目の前に広がっている料理は、品数こそ少ないものの、どれも美味しそうで、とても食欲をそそる。
「それじゃ、いただきます」
お行儀よくそう述べてから、まず目についたスクランブルエッグを口に運ぶ。んんん~、こりゃ美味しいわ。ふわふわで、バターの風味がしっかりきいてる。
私はあっという間にスクランブルエッグをたいらげると、ソーセージ、サラダ、テーブルロールを、怒涛の勢いで貪った。一言の会話もなく、夢中になって食べ続ける私を見て、リーゼルは苦笑した。
「凄い食いっぷりだな。あんた、昨日、自分は小食だって言ってなかったっけ?」
私は、爽快な気分で目を覚ました。
あのスリの少女――リーゼルのベッドは、なかなかに快適で、夜中に目を覚ましたりしてしまうこともなく、ぐっすり眠ることができた。私は体を起こし、「うぅん」と一度背伸びをしてから、誰に言うでもなく、「おはよう」と挨拶をする。
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だが、そんな私の、誰に向けて言ったわけでもない挨拶に、お返事が返ってきた。
「おはよう、お寝坊さん。よく眠れたかい?」
お返事の主は、リーゼルだった。
リーゼルは、長い黒髪を後頭部で結わえ、昨日のままの、タンクトップとショートパンツという恰好の上に、エプロンを着用している。……どうやらキッチンで、料理か何かをしていたらしい。
『お寝坊さん』と言われたことが気になって、私はベッドのすぐそばにあった時計を見る。……おおお、もう、朝の9時を回ってるじゃない。確かにこりゃ、『お寝坊さん』だわ。
これまでいつも、日の出と共に起きていた私としては、信じられないくらいの朝寝坊である。少々恥ずかしくなった私は、掛け布団で顔の半分を隠すようにしながら、言葉を発する。
「思ったより快適なベッドだったから、よく眠れたわ。掛け布団も、敷き布団も、おせんべいみたいに薄いのに、不思議ね。特に敷き布団は、ちょっと硬さを感じるくらいなのに」
リーゼルは、出来上がった料理をテーブルに配膳しながら、言う。
「知らないのかよ。ベッドは多少硬いくらいの方が、腰に良いんだぜ。なんでも、柔らかすぎるベッドだと、寝返りが打ちにくくて、逆に体に悪いそうだ」
「へえ、そうなの。……あなた、その年で、腰痛の心配なんかしてるわけ?」
「してねーよ。今の話は、親父が言ってたことの受け売りさ。親父は、酷い腰痛持ちだったもんでね。さて、起きたんなら、いつまでもベッドの中にいないで、顔でも洗ってきなよ。そしたら、朝食にしよう」
言われた通り、私はベッドから起き上がると、洗顔と歯磨きを済ませ、食卓に着いた。……目の前に広がっている料理は、品数こそ少ないものの、どれも美味しそうで、とても食欲をそそる。
「それじゃ、いただきます」
お行儀よくそう述べてから、まず目についたスクランブルエッグを口に運ぶ。んんん~、こりゃ美味しいわ。ふわふわで、バターの風味がしっかりきいてる。
私はあっという間にスクランブルエッグをたいらげると、ソーセージ、サラダ、テーブルロールを、怒涛の勢いで貪った。一言の会話もなく、夢中になって食べ続ける私を見て、リーゼルは苦笑した。
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