二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ

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第51話

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「今回だって、そいつのせいで俺のメンツが潰れちまったのに、『もうやめよう』とか、寝言ほざいてやがんだぞ? それで、キレちまったんだよ。で、お前をやるついでに殺しちまおうと思ったわけだ。こんなアホ、生かしといてもしょうがないからな」

「この人は、アホなんかじゃありません」

「なんだと?」

「昨日の喧嘩、先に手を出したのは私です。だからハッキリ言って、悪いのは私の方です。なのにこの人は、『昨日のことは、俺が悪かった』と謝ってくれました。普通、自分の顔をボコボコにした相手に、昨日の今日で、そんなこと言えませんよ。この人、本当は真面目で、優しい人なんだと思います」

「けっ、俺たちの世界じゃなぁ、そういう野郎は『甘ったれ』って言うんだよ」

「そうですか。じゃあ、あなたみたいな人は、なんて言うんですか? 『ゲス野郎』ですか?」

 嘲笑うようなその言い方で、ただでさえ怒りで赤黒くなっていた兄の顔が、さらに人間離れしたものになった。……だが、怒っているのは、エリスも同様だった。気がつけば、先程までの冷静さはどこへやら、エリスは牙をむくようにして、憎悪のこもった瞳で兄を睨みつけていた。

 そ、そう言えばこの子、滅茶苦茶短気だったわね。
 むしろ今まで、よく平静を保ってたものだわ。

 エリスは拳を構え、ファイティングポーズをとると、煮えたぎるマグマを口から少しずつ噴き出すように、淡々と語る。

「エルフの世界には、こんな格言があります。『喧嘩して、謝り合ったらもう友達』……私の好きな言葉です」

「くだらねぇ戯言だな」

「そして、こんな格言もあります。『友の敵は、己の敵』……あなたは、私の友達を殺そうとしました。決して許せません。この拳で、叩き潰します」

「やれるもんならやってみろよこのボケが。てめぇもそこそこやるようだが、不意打ちじゃなく、真正面からやりあって、俺に勝てると思ってんのかぁ? 原始人同然のクソエルフの分際でよぉ」

 威嚇するような言葉と共に、兄の体に強烈なオーラが揺らめき始める。

 むっ……
 この男、やたらと言うことが下劣だが、実力は本物らしい。

 燃え盛る炎のような、濃密な闘気。
 武術をやる人間なら、一目見ただけで、ただ者ではないとわかる。

 私の見立てでは、この男、エリスとほぼ互角の使い手だろう。……いや、自分の弟を容赦なく殺そうとした冷徹さを考慮すると、エリスの方が若干不利かもしれない。

 エリスは、なんだかんだ言って優しい。

 今にして思えば、昨日、用心棒の弟をボコボコにしたときも、兄に不意打ちをしたときも、相手の実力に応じて、ちゃんと命を奪わないように加減をしていた。私と戦った時とは、『魔拳』の濃度が全然違ったからね。

 しかし、この用心棒の兄には、一切の情けがない。

 人間的にはどうかと思うが、命のやり取りをする場合は、やはり非情な人間の方が強い。この男がどんな武術を使うのか、手の内も分からないことだし、エリスに加勢してあげたいところだが、どうやらエリスは一対一でやる気のようだ。
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