二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ

文字の大きさ
58 / 389

第58話

しおりを挟む
 私は、立ったまま足を180度開脚し、股関節を伸ばしながら答える。

「それで構わないわ。眼球や脊髄への攻撃はどうする?」

「有りでいいだろう。俺は目突きを食らうようなノロマではないし、それは、お前も同じはずだ」

「まあね」

 そこで会話は終わり、ラジアスは剣を置いて、鎧を脱ぎ去った。
 中から現れたのは、古代彫刻のような、惚れ惚れとする上半身だった。

 どこか一部分だけが、極端に太いとか、細いとか、そういうことがなく、僧帽筋、三角筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋、大胸筋――他にも、ありとあらゆる筋肉が均一に、美しく盛り上がっている。さすがは勇者。まさに闘士の理想とでもいうべき、見事な肉体である。

 優れた肉体には、ただそれだけで相手を圧倒する効果がある。
 私は、ラジアスの体にやや気圧されながら、あえて強気な発言をする。

「別に、鎧をつけたままでも良かったのに」

「俺が勝った後、『鎧を着てたから勝てたんだ』と言われるのは嫌だからな」

「自信満々ね。もう勝った気でいるんだ?」

「戦いというものは、誰もが勝つ気でやるものだろう? 最初から『負けるかもしれない』と思っているような情けない奴には、そもそも戦いの場に立つ資格などない」

「それもそうね。……ねえ、これは別に、挑発して言うわけじゃないけど、剣、使ってもいいわよ。あなた、素手よりも剣の方が本職でしょ?」

「気遣い無用だ。お前が素手なのだから、俺も素手でやる。それに、勇者は武芸百般に通じているからな。素手での戦いも、剣術とまったく変わらぬレベルでこなすことができる。お前も知っているだろう」

 その通りだった。

 かつて、魔王軍の策略で、武器を持っていない状態のラジアスが、いきなり巨大なオーガに襲われたことがあったが、ラジアスは焦ることもなく、オーガの側頭部に蹴りを打ち込んで、丸太のようだった太い首を、へし折ってしまったのである。その凄まじい蹴りが、今から私の頭めがけて飛んでくると思うと、かすかに体が震えた。

 そんな私に、ラジアスは怪訝そうな顔を向け、言う。

「おい、どうした?」

 しまった。
 戦いを前にして、震えているところを見られた。
 これでは侮られ、精神的に優位に立たれててしまう。

 そう思ったが、ラジアスの顔に浮かんだのは、嘲りの笑いではなく、不気味なものを見るような、困惑の表情だった。ラジアスは先程の私と同じく、やや気圧されたように、言葉を続ける。

「……不気味な奴だ。お前、これから死闘をするというのに、何故笑っている?」

 笑っている?
 私が?
 嘘でしょ?

 いや、だが、ラジアスはこんな時に、嘘をついて相手を惑わすような性格ではない。自分の実力に絶対の自信があるから、この男は、余計な小細工をしないのだ。

 荒野に鏡などあるはずがないので確認できないが、ラジアスが『笑っている』と言うのだから、私は笑っているのだろう。……死闘を前にして、にやにやと笑う自分の顔を想像し、私自身、確かに不気味だと思った。

 気がつけば、体の震えは収まっていた。どうやら、長々と続く恐怖や緊張の震えではなく、ただの武者震いだったらしい。私は一度だけ深呼吸し、ラジアスに問いかけた。

「おしゃべりはここまでにして、そろそろ始めましょうか?」

 ラジアスは、答えた。

「ああ」

 そして、死闘が始まった。
しおりを挟む
感想 288

あなたにおすすめの小説

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします

ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに 11年後、もう一人 聖女認定された。 王子は同じ聖女なら美人がいいと 元の聖女を偽物として追放した。 後に二人に天罰が降る。 これが この体に入る前の世界で読んだ Web小説の本編。 だけど、読者からの激しいクレームに遭い 救済続編が書かれた。 その激しいクレームを入れた 読者の一人が私だった。 異世界の追放予定の聖女の中に 入り込んだ私は小説の知識を 活用して対策をした。 大人しく追放なんてさせない! * 作り話です。 * 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。 * 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。 * 掲載は3日に一度。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...