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第123話
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あらゆる地域、あらゆる種族において、差別的な感情が存在する……か。
それは、真実だろう。
人間の社会にも、様々な差別がある。その差別的感情を、ハッキリ態度に表す人間もいれば、口には出さないものの、心の奥深くで、暗い炎のように燃やしたままにしている人間もいる。
差別心というものが、決して消えない人間の本質なのだとしたら、違いは、それを態度に表すかどうかだ。……それならば、内心はどうあれ、知性と教養のある大人の振る舞いを選び、公然と相手を侮蔑するのは恥ずべきことであると述べるストッフェンの考え方は、知的人種として正しい思想と言える。
しかし、今の話を聞いていると、ストッフェンは、先程の感じの悪い男を叱責してはくれたものの、心の奥底では、やはり他種族に対して、なんらかの差別心を抱えているような気がしてきた。
とはいえ、悪い人ではないと思うので、あまり気を張る必要はないだろう。私はストッフェンに向き直り、少し気になった事柄を尋ねることにした。
「あの、ストッフェンさん。さっき、『エルフ式魔術ボクシングは衰退の一途をたどっている』っておっしゃっていましたけど、それ、本当なんですか? 確か、大会関係者の方々も、そんな感じのことを話していましたが……」
エリスはかつて、『エルフ式魔術ボクシング』のことを『私たちエルフの誇り』と語っており、それを馬鹿にした用心棒の男と酔っぱらって大喧嘩をしたくらいである。その『エルフの誇り』が、今や衰退しつつあるというのは、なんとも寂しい話だ。
ストッフェンは、苦笑とも自嘲ともつかぬ笑みを口に浮かべ、リングに向けて顎をしゃくった。……一般的なボクシングリングの倍以上ある大きなリングの上には、エリスを含め、7人のボクサーが立っており、彼らは皆、思い思いに体を動かし、試合開始のゴングを待っている。
「見てください、この少ない選手たちを。……7人ですよ? エルフの里全域に参加を募って、たったの7人。優勝者には、我らがエルフ族の至宝である、偉大なる巫女、ヒヒロミカ様のお言葉を賜るチャンスがあるというのに、これだけしか選手が集まらないのは、若いエルフが『エルフ式魔術ボクシング』に興味を失っているれっきとした証拠です」
それは、真実だろう。
人間の社会にも、様々な差別がある。その差別的感情を、ハッキリ態度に表す人間もいれば、口には出さないものの、心の奥深くで、暗い炎のように燃やしたままにしている人間もいる。
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しかし、今の話を聞いていると、ストッフェンは、先程の感じの悪い男を叱責してはくれたものの、心の奥底では、やはり他種族に対して、なんらかの差別心を抱えているような気がしてきた。
とはいえ、悪い人ではないと思うので、あまり気を張る必要はないだろう。私はストッフェンに向き直り、少し気になった事柄を尋ねることにした。
「あの、ストッフェンさん。さっき、『エルフ式魔術ボクシングは衰退の一途をたどっている』っておっしゃっていましたけど、それ、本当なんですか? 確か、大会関係者の方々も、そんな感じのことを話していましたが……」
エリスはかつて、『エルフ式魔術ボクシング』のことを『私たちエルフの誇り』と語っており、それを馬鹿にした用心棒の男と酔っぱらって大喧嘩をしたくらいである。その『エルフの誇り』が、今や衰退しつつあるというのは、なんとも寂しい話だ。
ストッフェンは、苦笑とも自嘲ともつかぬ笑みを口に浮かべ、リングに向けて顎をしゃくった。……一般的なボクシングリングの倍以上ある大きなリングの上には、エリスを含め、7人のボクサーが立っており、彼らは皆、思い思いに体を動かし、試合開始のゴングを待っている。
「見てください、この少ない選手たちを。……7人ですよ? エルフの里全域に参加を募って、たったの7人。優勝者には、我らがエルフ族の至宝である、偉大なる巫女、ヒヒロミカ様のお言葉を賜るチャンスがあるというのに、これだけしか選手が集まらないのは、若いエルフが『エルフ式魔術ボクシング』に興味を失っているれっきとした証拠です」
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