黒白

真辺悠

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黒と白の二人の世界

家具を買う1

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 俺たちは今、主に木材を使った家具や小物を多く売っている場所に来ている。

「何が必要だっけ?」
「まずは、食事をするテーブルと椅子、ベッドにタンスかな?ベットのマットレスは明日見に行きましょうか。あとは…」

 俺と彩乃で何が必要なのか言いながら商品を見ている。まさに新婚同然の雰囲気だ。結婚したことないので知らないけど、多分そう。既婚者の皆さんもこういう経験ありますよね?あっ、……。ごめんね?

 ところで、ジジは先ほどから俯いている。どうしたの。

「ジジ、自分の分は自分で決めないと変なのにするよ!」

 俺がジジに選ぶように促すと後ろから笑い声が聞こえてくる。

「ははは、確かに自分で使う家具は自分で決めた方が良いがここにはそんな変なものなんかねぇぞ、ボク」

 なかなかガッツリした男性だ。この店の人だろう。というか、二人称ボクは初めてだな。君付けや様付けに引けを取らぬ、というか群を抜いて嫌な感じ。毎日何度も言われるので君付けには慣れてきている。もはや俺って『レイ君』だったわ、という感じだ。

 ボクはちょっと子供っぽいのでやめてほしいが、ここは俺が大人の対応でスルーする。相手に悪気がないのはわかっているから。

「ないなら作るまでですよ。それよりもクイーンサイズベッドってありません?」
「なんだ、クイーンが欲しいのか。そっちの嬢ちゃんと寝るのか?」

 何を言ってんだ、この男は。いくら新婚でも一緒のベッドで寝ないと思うぞ?寝ないよね?あれ、寝るのかな?ちょっと調査する必要があるかも。

 では、問題です。新婚当時、同じベッドで寝ましたか?

「一人で寝ますよ。広々と寝られるようにしたいだけです。それに彼女とは…えっと、そう!冒険者仲間ってだけだから」
「ははは、まあ、そんな怒るな。悪いことじゃないぞ」

 ダメだ、こいつ。素面のはずなのに酔ってる冒険者みたいだ。話が通じない。最近、ギルド職員や冒険者からも俺と彩乃はできてるって感じで見てくるのでつらい。

 何が一番辛いかっていうと、彩乃のような可愛い女の子の相手が俺だってことだ。自分を低く見積もっているつもりはないし、俺は彩乃よりも色々出来る子だと自負している。

 そりゃ、彩乃は勿体無いくらいに可愛いしもちろん学だってあるはずだよ。でも、だからこそなんか申し訳なくなるのだ。

「クイーンのベッドはここら辺だな」
「んー、これが良いかな。ヘッドボードに光の魔石が付いてるやつ」
「あー、それいいな。私もそれがいい」

 俺は寝るときに黒い端末で予定や欲しいものなどを適当に思いつくだけメモを取ったりしている。なので枕者に照明があると便利なのだ。それは、彩乃も同じなのだろう。

「おじさん、これ二つある?」
「これか、ちょっと待ってろ。倉庫を調べて来る」

 おじさんが調べに行ってくれる。なかったら彩乃に譲ってあげよう。俺は別に照明付きでなくともナイトテーブルを置く形でもいい。

「ジジちゃんはどれにするか決まった?」
「はい、これにします」
「えー、一番シンプルなやつじゃない。この引き出しが付いたやつはどう?」
「八万ドル…いえ、これで十分です」

 やっぱり、値段で決めてたよ。俺も日本にいたころはベッドに拘りなどなかったので何も言わないがマットレスはみんな同じものを買うように今夜にでも彩乃と相談した方がいいかもしれない。

 やっぱり布団は疲れがとれるいいものにしたいからね。

「おう、見てきたぞ。その魔石付きのベッドだが、少し材質は違うが同じ形のものはあった」
「ほう、どんな木材」
「こっちのはひのきだ。少し重いが長持ちする。あと湿気や断熱性も抜群だ。倉庫にあったのは、きりでこっちも湿気や断熱性は良いがひのきと比べたら見栄えや寿命に見劣りが見られるな」

 以外にもっともらしいことを言うものだ。だが、そこまでこだわる方ではないので俺は残り物でいいだろう。

「彩乃はひのきと桐どっちがいい?」
「んー、わたしはひのきがいいかも。レイは?」
「俺はもう一つの方で構わないよ。おじさん、その二つと…ジジはさっきのでいいの?」
「ジジちゃんはこれにするって」
「…じゃそれひとつ。あと一番シンプルなのはすべて頂戴」

 結局ジジは彩乃が勧めた引き出し付きのベッドにしたようだ。彩乃が勝手に決めた。そして初めにジジが選んだものは俺が全て買い占める。客室用に使うためだ。

「全部って、買いすぎじゃないか?宿屋でも始める気か?見たところお前さんもそっちの嬢ちゃんたちも若いようにみえるが」
「宿屋ではないけど、家を作るのに必要なんだよ」
「買ってくれるのはこっちとしても助かるから良いがな。ちゃんと金は払ってもらうぞ」
「OK.金の方は心配いらない」

 次に来たのはテーブルや椅子などの類を売っている店だ。店というより倉庫と言った方が良いかもしれない。大きな倉庫に商品が並んでいる。

「食卓テーブルはどのくらいの広さがいいのかな。お客さんが来た時に足らなくても困るよね?」

 確かに盲点だった。客室は作ったのに食事をするところがないのはダメだろう。そもそも呼ぶ客がいるかもわからない。前提から瓦解していた。

「丸くない長方形の机にして必要なときは増やせるようにする?」
「ああ、そういう感じにすればいいわね。あとは椅子だけどダイニングチェアと長椅子があるけど」
「ダイニングチェアでいいんじゃない。ジジはどう思う?」
「わ、私ですか。…一人一人別の椅子の方が移動しやすそうだと思います」

 たまに話を振らないとずっと黙ったままなのでこうしてジジの感想も聞くようにしている。これから一緒に暮らすことになるのに変に気を使う必要もない。できれば家具を買っているうちに仲良くなりたいものである。

 椅子については、ジジが言っていたように一人一人別の方がいいだろう。増設や持ち運びも簡単だ。

「ならこのテーブルとこの椅子でいいんじゃないかしら」
「俺もそれでいいと思う。リビングテーブルや自分の部屋に置くテーブルも見てみよう。ジジ、気に入ったのがあったら俺か彩乃に言ってね」

 ここからは各自の部屋に置くテーブルや椅子を見ることになった。自由時間というやつである。

「日本の自室にあったオフィス机がいいかな。気に入ってたし椅子もできればタイヤ付きの動かせるのがいい」

 俺が使っていたのはL字型の机だ。勉強ができる場所とパソコンを置く場所で分けていた。

「すみません。机を一つ作ってもらいたいけどできる?」
「どんな机だい。ここに並んでいるのじゃダメなのかい?」
「んー、出来れば作って欲しいかな。こういう形でここは丸くなるようにしてほしい。それからこの下に二段付けられる?」

 店員のおばさんに簡単に絵を描きながら説明する。途中、男性も加わり同じように説明すると大体伝わったのか作ってもらえることになった。

 オーダーメイドをしたあとはリビングテーブルがある場所に移動する。シンプルなものから細工が施されたものまである。

 リビングテーブルには何を置くものなんだ?

「客が来たときは飲み物とか?いや、それはダイニングテーブルかな。メモ帳や観葉植物?」

 わからなかった。全部当たっているようでもあるがはずれているような気もする。

「レイは何も買わないの?」
「俺はオーダーメードした。作ってもらうよ。ねえ、リビングにはどれを置こうか?」
「私はこの引き出しが付いてる可愛いのがいいかな。そういえばさ、ここってソファあるのかな?」

 リビングテーブルを見ていた見ていた彩乃がこちらを向いて首を傾げた。何度見てもこの動作は可愛いところがある。

「領主の執務室にあったのもソファと呼べるものではなかったしないかもね」

 領主の執務室にあった接客用の長椅子は木の椅子に厚い布を敷いてある感じだった。あれを見ればソファはないと思った方が良い。現代社会の文明がすごかったことが思い知らされる。

「じゃ、諦めるしかないか…」
「いや、俺たちには頼れるポイント制通販がある」
「そうだったわ!リビングはソファを置きましょう」

 ビシッと指を向けてそう決意する。ソファを置くことについては賛成だ。

 最終的にリビングテーブルと椅子四脚を二セットと彩乃はリビングテーブル、ジジは丸いカフェテーブルと椅子二脚を買った。

 彩乃は自分の部屋にもソファを置きたいらしい。

 本日の三軒目は主にタンスや棚を扱っている店だ。今まで見た中では一番小さい店だが、一番木のいい匂いがする。

「クローゼットにはハンガーにかけられるようにするからタンスは小さめのが一つあれば良いかな」
「服だけじゃなくて小物も収納できるようになっているのもあるわ」
「この大きな扉は何ですか?」

 ジジが気になったのは、畳んで収納するものとハンガーにかけて収納するツータイプ合体型のワードローブクローゼットだ。

 ここはあまり種類が多くなかったこともあり比較的すぐに決まった。俺は大きさがそれぞれ違う収納棚、彩乃は俺と同じ収納棚と普通にタンスをそしてジジは小さめのタンスを買った。

 今日の買い物はここまでとなる。色々見て回ったしそれなりに時間が経っていたからだ。ジジとは泊まっている宿が違うので今日は送り届け、明日も買い物の続きをする約束をする。

「ジジちゃん、明日も買い物をするからギルドで会いましょう」
「わかりました。今日はありがとうございました、楽しかったです」

 初めの方は遠慮していた感じだったが今日一日でだいぶ親睦も深められた、と思う。これなら一緒に住んでさほど問題なさそうだ。

 何よりジジは俺たちと馬が合う。考え方や価値観は違くとも何をするのが楽しいのか、何が苦手で何ができないのかとかを話していた。

「遅くなったね。ランさん待たせてるだろうし帰ろうか」
「そうね。…ごめんね、私ジジちゃんを説得しきれなかった。レイには助けてもらってばかり」
「何を言ってる?彩乃はいつも俺を助けてくれてるよ」
「本当?」

 本当だ。彩乃がいなければこの世界で一人だった。彩乃がいなければ俺は頑張ったりしないだろう。

 例えば俺が一人でこの世界に来ていたら、今頃いないのだと思う。どこか違う街に行ってるとか日本に戻っているとかではなくて、シンプルにいなくなってるのではないかと思う。

 これが恋の力か、などと感傷に慕っている場合ではなかったな。

「これからもずっと側にしてくれよ」

 告白をしてしまった。どうにも彩乃は同級生という感じがしない。妹キャラ感があって甘やかしたくなるというか兄としてなんとかしてやらないとと思ってしまう節がある。

 あるいは、そう思うことでこの可愛い子の隣にいる理由を作っているのかもしれない。

「うん。ずっと一緒に居ようね!」

 ほらね、俺の妹可愛いでしょ?

「夕食を食べたら家の構想を考えよう。今日から家具を買い始めたんだし決定していかないと」
「そうね。せっかく大きい土地を貰ったんだから家も豪華にいかないとね」

 領主の屋敷にいた時から何度か話し合いは重ねてきた。大体は決まってきたが、最終決定はまだしていない。ここまできたら妥協したくもないので確認は必要だろう。

「ランさん、ただいま」
「彩乃、レイ君!おかえりなさい。すぐ料理作りますね、空いてる席に座って待っていてください」

 宿に着くとランさんが席に勧めてくれる。なんだか周りの客から見られているような気がするんだが気のせいだろうか。

「おい、お前。お前がゴブリンキングとブラックウルフを倒したっていうのは本当か?冒険者ランクはいくつよ、ああ」

 めっちゃ喧嘩腰なんだがぁ?酒の臭いがするな。もう結構飲んでいるのかもしれない。

「俺のことを聞く前にお前が名乗るのが礼儀だろう?俺は礼儀がなってないやつが嫌いだ。後悔したくなかったらその態度をやめろ。あと俺にも話せないことがある」

 実際、話せないことは多い。まずこの街に来る前にいた場所とか持ち物のこととか言えないことだらけだ。

「俺はエイドだ。冒険者ランクはC、お前より上のはずだぜ」

 Cランクというのがどのくらい凄いのかいまいちピントこない。だが、逆ギレするのかと思ったがちゃんと名乗ったところを見れば根っこから悪い人でもないかもしれない。

 それに、酒臭いがそこまで酔っている感じではないようだ。

「俺はレイだ。こっちは彩乃。さっきの質問だが、答えはイエスだ。だが、ブラックウルフについては倒してはいないが正しい。いろいろあって倒し損ねた」

 感情面でいろいろと。それにしても今から料理を食べるのに魔物を倒したときの話はやめて欲しい。血とか見た記憶が甦って吐き気がしそうだ。ちょっともう、やばいかも。

「本当にお前がな。聞いた話じゃこの前港に出たアーケロンもお前がやったんだってな」
「えっ…なんで知ってる?あれは、領主が箝口令が敷かれているはず…」

 あの領主、大事な部分をおざなりにしやがった!!!
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