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黒と白の二人の世界
家具を買う2
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「まあ、俺がもう少し早くにこの街に来ていればお前の出る幕はなかったがな!」
どうやら自分の力を示して威張りたいお子様だったようだ。でもわかる、男子だもんね。そういうお年頃なんだよね。
ここは大人な俺が現実を見せてやろう。
「ほう、ずいぶんと腕に力がありそうだな。ちょっと試してやろう」
そう言って席を立ちながらこっそりと<強化>を使う。もう手慣れたもので黒い端末を見ずともスキルを使用できるようになっている。
俺は、酒を飲んでいる冒険者が多くいる場所に移動し腕相撲に誘う。平和的にCランク冒険者に現実の厳しさを教えてやらねばなるまい。
「勝負は簡単。互いにテーブルに肘を突いた状態で手を組み先に相手の手の甲をテーブルにつけた方の勝ちだ。俺の料理が来るまで相手をしてやる」
「ははは、面白い。やってやろうじゃないか。その細い腕じゃ勝負にならないだろうがな」
鍛えられている腕を見たって俺は動じない。ゆるりと周囲を見渡して手頃な若い男性冒険者を指差す。
「君、準備が出来たと思ったら初めの合図をしてくれ」
「えっ、俺?……わ、わかった。…レディー、ゴウ!」
勝負は言うまでもなく一瞬で終わった。
「もう一回やる?それとも他にやりたいやつはいるか?俺に買ったらブラックウルフの肉を分けてやろう」
俺の言葉に食堂にいた客がざわつき始める。三〇〇〇P以上の<強化>をしている俺が今更人間相手に負けるはずもない。ブラックウルフの肉など初めから譲る気はないのだ。
「次は俺がやるぜ。エイドはどうやら甘く見てて足を掬われたようだが、俺はそうはいかないぜ」
「レディー、ゴウ!」
「何ッ?」
次はゆっくりと倒してあげた。二人目の挑戦者は為す術もなくあっけなくやられるのだった。
「残念だったな。悪いが肉はやれない」
「くそ…なんでそんなほそぇ腕であんな力が出せんだよ」
これが、現実。
「ざまぁねぇな。次は俺が相手だ」
雑魚め。
「くそッ!そんなはずは…」
次。はい、次。
あっ、もう終わりだ。ランさんがご飯持って厨房から出てくる。
「ちょっと背伸びして大人な対応をしてしまった」
「どこが大人よ!子ども染みてるにも程があるわ!」
大人っぽく現実を突きつけたというのに彩乃に怒られた。
怒った顔も好きだ。なんか和む、怒られてるけど。
「ちょっと、聞いてるの?」
「うん、彩乃はいつも可愛いよ」
「かわっ…全然聞いてないじゃない!何考えてるのよ!こらっ」
彩乃とは短い時間だが長い付き合いだ。今更、遠慮なんて必要ないだろう。だから、頬を引っ張られたって怒ったりしない。
はあ、これが友達なのかな?なんか嬉しい。
「お待たせしました。さっき騒いでましたけど何かあったんですか?」
ランさんが、料理を席まで持ってきて先ほどの騒ぎについて聞いて来る。
「レイったら冒険者に絡まれて、勝負を仕掛けたのよ!それで私が怒っても全然反省しないし!」
彩乃がランさんに愚痴を漏らすように鬩ぎたてる。夫婦喧嘩ってこういうものなのだろうか?ちょっと楽しい。彩乃も怒ってはいるが、楽しそうにも見える。我慢が出来ないほど怒らせたなら本気で機嫌を取りに行くがそうではないから大丈夫だろう。
「ランさん、騒がしくしてごめんね」
「い、いえ。冒険者が騒いでいるのはいつものことですから。それじゃ、私は仕事が残ってますからもう行きますね」
「ラン、お仕事頑張ってね」
ぺこりと頭を下げ、ランさんは奥へと下がっていく。今日の夕食はステーキ肉だった。もしかしてあげたブラックウルフの肉だろうか?俺たちは注文をしていないので何が出てきてもおかしくない。
「これってもしかして…」
彩乃も同じことを思ったのだろう。
「うん、あげたやつなのかな?まあ、せっかくだし頂こう。たくさん上げたんだし大丈夫でしょう」
「そ、そうね。そういえばレイもお肉もらったわよね?ランにあげる分だけじゃなかったんだ」
「俺がもらったのはウルフの肉でも高級な部位らしいよ。牛で言ったらシャトーブリアンくらい?知らないけど、ウルフの中でもあまり取れない部位なんだって」
さっきの勝負があったからかそれともブラックウルフのステーキを食べているからか、周りにいる人の目がすごい。エイドとギルという冒険者なんてもうヤケ酒に入ってる。仲良いんだな。ちょっと羨ましいかも。お酒か。お酒が友達の源なのかもしれない。
「なあ、それブラックウルフの肉だろ?ちょっと、一口だけでいいから食わせてくれよ」
名前の知らない人が話しかけてきた。こう言う人には心を鬼にして追い返さないとだめだ。
「悪いけど、ここであなたにあげたら後ろにいる冒険者とかにもあげないといけなくなるから無理。その服装は商人?商人なら商取引に持っていくのがベストじゃないかな?」
ここで乗ってくる商人は三下も同然。もし乗ってきたら逆に大金を稼がせて貰う。俺の得意科目は現代社会。政治経済ならいろいろ調べたりして悪徳商法のおおまかな手口も騙されることはないと思う。独学だがマーケティングも勉強していた。
「…わかった。金を払うから食わせてくれ!」
三下以下だった。目の前に肉に目が暗んで周りが見えていない。商人の肩に手を置いて最終審判を下す。
「商人ならもう少し裏を掛け。俺がその気ならお前は今後商人として生きていけなくなるぞ。それともここで人生終了か?」
「うぐぅ……」
激しい葛藤の後、商人は帰っていった。そんなに食べたいものなのだろうか?
「美味しかったね。家に置く調味料とかも買わないとだめだな」
「調味料のこと忘れてたわ。食材自体はその日のうちになんとかなるけど調味料と生活用品は今のうちに買っておいた方が良さそうね」
食べ終わった俺たちはランさんにお礼を言ってから宿部屋に行く。これから俺の部屋で最終チェックを兼ねた家の構想計画会議が始める予定だ。
「今回の議題は、家に必要なものに見落としがないかどうか。明日買っておかなければならないもののチェック。ポイントとお金は足りるかの三点です。それでは「家に必要なものに見落としがないか」についてから始めたいと思います。お願いします」
芝居がかったセリフをいうとアイテム袋から家の見取り図を取り出す。領主の屋敷にいた時に相談して描いたものだ。といっても建築デザインの勉強などしたことがなかったので自分たちで見てわかる程度の簡単なものだ。
「やっぱり、階段の位置が微妙よね。地下の客室も階段のせいで予定が狂ったし」
階段の位置をどこに置けばいいのかわからず適当に空いてるところに置いたら地下の部屋が当初予定していた倍の部屋数になった。敷地内のできる限りを使って一人部屋三つと二人部屋三つだ。広いよりも多い方が良いということになった。客室はそんなに大きくもないし内装も日本のビジネスホテルのような感じだ。
「地下に関しては取り敢えずいいんじゃない?最近この世界の人とも関わりが増えてきたし、ないよりはいいでしょう」
「まぁ、そうね。レイの部屋はここでいいの?」
「別にどこでも構わないよ」
現時点では二階にバルコニーがあり、その下にベランダがある。バルコニーとベランダの違いは主に屋根の有無。部屋に日が差し込みやすいようにどの部屋も大きめの窓を採用している。
「彩乃はどこの部屋が良い?」
「んー、私はレイの部屋の前かな」
ということは自動的に一番奥の部屋がジジの部屋となる。俺の部屋がある通路の最後にはトイレもあるし、部屋のサイズはどこも大差ない。強いて言えば、俺の部屋が他二名の部屋と形が違く小さめとなっている。
「あっ、二階に手洗所がない」
「ほんとだ!どこに置こうか?」
置くとしたらトイレ横か前だろう。
「横に置くか前に置くか。どっちが使いやすいと思う?」
「私とジジの部屋はレイの部屋より多少大きいから少し削っても問題ないんじゃないかしら」
彩乃は使いやすさよりも公平さを取った。それと同時に彼女の部屋が一番大きくなった。全く公平ではない。
「まあ、いいか」
家の構図は決定とし次は買わなければならない家具について意見を出し合う。
「今日買ったのがベッドとタンス、テーブル、椅子よね。明日は何を買えばいいのかしら」
「残りの寝具一式。あとは食料と生活用品?」
「生活用品って今持ってる者以外何が必要かしら」
宿屋生活では、タオルと歯ブラシは買った。石鹸は付いていたし<着替え>を使えば風呂など入らずとも問題なく清潔でいられた。
「石鹸とタオルがもう少し欲しいかな。キッチンや二階の手洗器のところに置くものは必要でしょう?」
「ああ、そうね。そうだったわ。あとはごみ箱とかも必要かしら?」
この世界に来て俺の知っているごみ箱は見たことがない。というのもプラスチックがないのだ。木の箱にいろいろ捨てられているが直接捨ててあるため汚くなりそうなのであまり好きじゃない。
「文明って凄いのね。貝塚とか、無理だわ」
流石にそのまま埋めたりしないのではないか?見たことがない。
「そこは、生活しながらじっくり考えよう」
「そうね。今考えても結論出なそうだし」
一応考えなければならないものとしてメモを取っておく。
「家を建てたらしばらくは討伐依頼を頑張ろう。ジジの魔法訓練も兼ねて」
「そうね。ポイントが高い魔物がいると嬉しいのだけれど」
ポイントが高くなるというのは強いということだ。同じ魔物でも獲得ポイントに差が出るがそれはその魔物の経験値や個体差みたいな目で見ただけではわからない変数があるのではないかと勝手に思っている。一度にたくさん倒すので詳細はわからないがカメ討伐は本当にポイントになった。固くて高くて多い。固いのは勘弁してもらいたい。
「ブラックウルフを倒してたらポイントがもう少し増えたんだけどね」
ブラックウルフは生け捕りにしたのでポイントがもらえなかった。色付きウルフがどのくらい強いのか知らないがそちらでポイントを稼いだ感じだ。
「まあ、私は気にしてないわ。レイの優しさの象徴みたいなものよ」
彩乃はそう言ってくれるが本当は俺に殺す勇気がなかっただけのこと。
魔物とはいえ無駄な殺生をギルド職員に押し付けたのだ。これが優しさなどとは俺は思わない。
「ありがとう。さあ、話の続きをしよう。他に必要なものは?」
「せっかくお風呂に入るのだからシャンプーやボディタオルが欲しいわ」
「これも売ってないね…シャンプーは手作り出来ないかな?」
確か石鹸や食材から作る方法があったはずだ。
「私それ知ってるわ。今度作ってみましょう」
大量生産することが出来れば品質を変えて貴族相手にも商売が出来るかもしれない。そうなったら冒険者兼商人で資金の心配が消える。
「ひとまず明日買いに行くのは寝具一式と食料、生活用品だね」
「ええ、今日はもうおしまい?」
「そうだね、そろそろ寝ようか。夜も遅くなってきた」
「うん。それじゃ、おやすみ」
彩乃と手を振って別れ俺は家の見取り図などのメモ類をアイテム袋に仕舞うと横になった。
どうやら自分の力を示して威張りたいお子様だったようだ。でもわかる、男子だもんね。そういうお年頃なんだよね。
ここは大人な俺が現実を見せてやろう。
「ほう、ずいぶんと腕に力がありそうだな。ちょっと試してやろう」
そう言って席を立ちながらこっそりと<強化>を使う。もう手慣れたもので黒い端末を見ずともスキルを使用できるようになっている。
俺は、酒を飲んでいる冒険者が多くいる場所に移動し腕相撲に誘う。平和的にCランク冒険者に現実の厳しさを教えてやらねばなるまい。
「勝負は簡単。互いにテーブルに肘を突いた状態で手を組み先に相手の手の甲をテーブルにつけた方の勝ちだ。俺の料理が来るまで相手をしてやる」
「ははは、面白い。やってやろうじゃないか。その細い腕じゃ勝負にならないだろうがな」
鍛えられている腕を見たって俺は動じない。ゆるりと周囲を見渡して手頃な若い男性冒険者を指差す。
「君、準備が出来たと思ったら初めの合図をしてくれ」
「えっ、俺?……わ、わかった。…レディー、ゴウ!」
勝負は言うまでもなく一瞬で終わった。
「もう一回やる?それとも他にやりたいやつはいるか?俺に買ったらブラックウルフの肉を分けてやろう」
俺の言葉に食堂にいた客がざわつき始める。三〇〇〇P以上の<強化>をしている俺が今更人間相手に負けるはずもない。ブラックウルフの肉など初めから譲る気はないのだ。
「次は俺がやるぜ。エイドはどうやら甘く見てて足を掬われたようだが、俺はそうはいかないぜ」
「レディー、ゴウ!」
「何ッ?」
次はゆっくりと倒してあげた。二人目の挑戦者は為す術もなくあっけなくやられるのだった。
「残念だったな。悪いが肉はやれない」
「くそ…なんでそんなほそぇ腕であんな力が出せんだよ」
これが、現実。
「ざまぁねぇな。次は俺が相手だ」
雑魚め。
「くそッ!そんなはずは…」
次。はい、次。
あっ、もう終わりだ。ランさんがご飯持って厨房から出てくる。
「ちょっと背伸びして大人な対応をしてしまった」
「どこが大人よ!子ども染みてるにも程があるわ!」
大人っぽく現実を突きつけたというのに彩乃に怒られた。
怒った顔も好きだ。なんか和む、怒られてるけど。
「ちょっと、聞いてるの?」
「うん、彩乃はいつも可愛いよ」
「かわっ…全然聞いてないじゃない!何考えてるのよ!こらっ」
彩乃とは短い時間だが長い付き合いだ。今更、遠慮なんて必要ないだろう。だから、頬を引っ張られたって怒ったりしない。
はあ、これが友達なのかな?なんか嬉しい。
「お待たせしました。さっき騒いでましたけど何かあったんですか?」
ランさんが、料理を席まで持ってきて先ほどの騒ぎについて聞いて来る。
「レイったら冒険者に絡まれて、勝負を仕掛けたのよ!それで私が怒っても全然反省しないし!」
彩乃がランさんに愚痴を漏らすように鬩ぎたてる。夫婦喧嘩ってこういうものなのだろうか?ちょっと楽しい。彩乃も怒ってはいるが、楽しそうにも見える。我慢が出来ないほど怒らせたなら本気で機嫌を取りに行くがそうではないから大丈夫だろう。
「ランさん、騒がしくしてごめんね」
「い、いえ。冒険者が騒いでいるのはいつものことですから。それじゃ、私は仕事が残ってますからもう行きますね」
「ラン、お仕事頑張ってね」
ぺこりと頭を下げ、ランさんは奥へと下がっていく。今日の夕食はステーキ肉だった。もしかしてあげたブラックウルフの肉だろうか?俺たちは注文をしていないので何が出てきてもおかしくない。
「これってもしかして…」
彩乃も同じことを思ったのだろう。
「うん、あげたやつなのかな?まあ、せっかくだし頂こう。たくさん上げたんだし大丈夫でしょう」
「そ、そうね。そういえばレイもお肉もらったわよね?ランにあげる分だけじゃなかったんだ」
「俺がもらったのはウルフの肉でも高級な部位らしいよ。牛で言ったらシャトーブリアンくらい?知らないけど、ウルフの中でもあまり取れない部位なんだって」
さっきの勝負があったからかそれともブラックウルフのステーキを食べているからか、周りにいる人の目がすごい。エイドとギルという冒険者なんてもうヤケ酒に入ってる。仲良いんだな。ちょっと羨ましいかも。お酒か。お酒が友達の源なのかもしれない。
「なあ、それブラックウルフの肉だろ?ちょっと、一口だけでいいから食わせてくれよ」
名前の知らない人が話しかけてきた。こう言う人には心を鬼にして追い返さないとだめだ。
「悪いけど、ここであなたにあげたら後ろにいる冒険者とかにもあげないといけなくなるから無理。その服装は商人?商人なら商取引に持っていくのがベストじゃないかな?」
ここで乗ってくる商人は三下も同然。もし乗ってきたら逆に大金を稼がせて貰う。俺の得意科目は現代社会。政治経済ならいろいろ調べたりして悪徳商法のおおまかな手口も騙されることはないと思う。独学だがマーケティングも勉強していた。
「…わかった。金を払うから食わせてくれ!」
三下以下だった。目の前に肉に目が暗んで周りが見えていない。商人の肩に手を置いて最終審判を下す。
「商人ならもう少し裏を掛け。俺がその気ならお前は今後商人として生きていけなくなるぞ。それともここで人生終了か?」
「うぐぅ……」
激しい葛藤の後、商人は帰っていった。そんなに食べたいものなのだろうか?
「美味しかったね。家に置く調味料とかも買わないとだめだな」
「調味料のこと忘れてたわ。食材自体はその日のうちになんとかなるけど調味料と生活用品は今のうちに買っておいた方が良さそうね」
食べ終わった俺たちはランさんにお礼を言ってから宿部屋に行く。これから俺の部屋で最終チェックを兼ねた家の構想計画会議が始める予定だ。
「今回の議題は、家に必要なものに見落としがないかどうか。明日買っておかなければならないもののチェック。ポイントとお金は足りるかの三点です。それでは「家に必要なものに見落としがないか」についてから始めたいと思います。お願いします」
芝居がかったセリフをいうとアイテム袋から家の見取り図を取り出す。領主の屋敷にいた時に相談して描いたものだ。といっても建築デザインの勉強などしたことがなかったので自分たちで見てわかる程度の簡単なものだ。
「やっぱり、階段の位置が微妙よね。地下の客室も階段のせいで予定が狂ったし」
階段の位置をどこに置けばいいのかわからず適当に空いてるところに置いたら地下の部屋が当初予定していた倍の部屋数になった。敷地内のできる限りを使って一人部屋三つと二人部屋三つだ。広いよりも多い方が良いということになった。客室はそんなに大きくもないし内装も日本のビジネスホテルのような感じだ。
「地下に関しては取り敢えずいいんじゃない?最近この世界の人とも関わりが増えてきたし、ないよりはいいでしょう」
「まぁ、そうね。レイの部屋はここでいいの?」
「別にどこでも構わないよ」
現時点では二階にバルコニーがあり、その下にベランダがある。バルコニーとベランダの違いは主に屋根の有無。部屋に日が差し込みやすいようにどの部屋も大きめの窓を採用している。
「彩乃はどこの部屋が良い?」
「んー、私はレイの部屋の前かな」
ということは自動的に一番奥の部屋がジジの部屋となる。俺の部屋がある通路の最後にはトイレもあるし、部屋のサイズはどこも大差ない。強いて言えば、俺の部屋が他二名の部屋と形が違く小さめとなっている。
「あっ、二階に手洗所がない」
「ほんとだ!どこに置こうか?」
置くとしたらトイレ横か前だろう。
「横に置くか前に置くか。どっちが使いやすいと思う?」
「私とジジの部屋はレイの部屋より多少大きいから少し削っても問題ないんじゃないかしら」
彩乃は使いやすさよりも公平さを取った。それと同時に彼女の部屋が一番大きくなった。全く公平ではない。
「まあ、いいか」
家の構図は決定とし次は買わなければならない家具について意見を出し合う。
「今日買ったのがベッドとタンス、テーブル、椅子よね。明日は何を買えばいいのかしら」
「残りの寝具一式。あとは食料と生活用品?」
「生活用品って今持ってる者以外何が必要かしら」
宿屋生活では、タオルと歯ブラシは買った。石鹸は付いていたし<着替え>を使えば風呂など入らずとも問題なく清潔でいられた。
「石鹸とタオルがもう少し欲しいかな。キッチンや二階の手洗器のところに置くものは必要でしょう?」
「ああ、そうね。そうだったわ。あとはごみ箱とかも必要かしら?」
この世界に来て俺の知っているごみ箱は見たことがない。というのもプラスチックがないのだ。木の箱にいろいろ捨てられているが直接捨ててあるため汚くなりそうなのであまり好きじゃない。
「文明って凄いのね。貝塚とか、無理だわ」
流石にそのまま埋めたりしないのではないか?見たことがない。
「そこは、生活しながらじっくり考えよう」
「そうね。今考えても結論出なそうだし」
一応考えなければならないものとしてメモを取っておく。
「家を建てたらしばらくは討伐依頼を頑張ろう。ジジの魔法訓練も兼ねて」
「そうね。ポイントが高い魔物がいると嬉しいのだけれど」
ポイントが高くなるというのは強いということだ。同じ魔物でも獲得ポイントに差が出るがそれはその魔物の経験値や個体差みたいな目で見ただけではわからない変数があるのではないかと勝手に思っている。一度にたくさん倒すので詳細はわからないがカメ討伐は本当にポイントになった。固くて高くて多い。固いのは勘弁してもらいたい。
「ブラックウルフを倒してたらポイントがもう少し増えたんだけどね」
ブラックウルフは生け捕りにしたのでポイントがもらえなかった。色付きウルフがどのくらい強いのか知らないがそちらでポイントを稼いだ感じだ。
「まあ、私は気にしてないわ。レイの優しさの象徴みたいなものよ」
彩乃はそう言ってくれるが本当は俺に殺す勇気がなかっただけのこと。
魔物とはいえ無駄な殺生をギルド職員に押し付けたのだ。これが優しさなどとは俺は思わない。
「ありがとう。さあ、話の続きをしよう。他に必要なものは?」
「せっかくお風呂に入るのだからシャンプーやボディタオルが欲しいわ」
「これも売ってないね…シャンプーは手作り出来ないかな?」
確か石鹸や食材から作る方法があったはずだ。
「私それ知ってるわ。今度作ってみましょう」
大量生産することが出来れば品質を変えて貴族相手にも商売が出来るかもしれない。そうなったら冒険者兼商人で資金の心配が消える。
「ひとまず明日買いに行くのは寝具一式と食料、生活用品だね」
「ええ、今日はもうおしまい?」
「そうだね、そろそろ寝ようか。夜も遅くなってきた」
「うん。それじゃ、おやすみ」
彩乃と手を振って別れ俺は家の見取り図などのメモ類をアイテム袋に仕舞うと横になった。
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