黒白

真辺悠

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黒と白の二人の世界

久しぶりのクエスト

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 俺は今EランクなのでDランククエストまで受けることが出来る。Dランクの掲示板には『ミニオンの群れ捜索』というどうにも興味惹かれる依頼があった。

「俺の知ってるミニオンは黄色いがそういった感じか?受けてみよう」

 受付にいたカレラさんに依頼を受ける旨を伝える。仕事思考のカレラさんの口調は丁寧だ。

「ミニオンは基本群れで行動します。知性が高く大人くらいの大きさの魔物です。今回の依頼はミニオンが数匹発見されたのでアジトを見つけることになります。今日は彩乃さんはいないですね。なんでですか?」

 今日はそればかりだ。同じことを何度も聞かれているので別行動するときもあるのだと言っておく。

 くれぐれも戦おうとはしないでください、とは言われたが、気になるし約束はできない。大きいとは意外だったが、怖いのだろうか?

 依頼の手続きを済ませると街の外に出る。ミニオンが発見されたのは山脈の麓らしい。街からでは遠いが走れば馬車で行くより早く着くだろう。
強化ブースト>を使い山脈に向けて走り出す。

 たまに冒険者の姿を見かけたが走っていてすぐに追い越してしまうためどんな人なのかもわからなかった。三〇分ほど走ると山脈のほど近くまで来る。

 <魔物探知地図>を開くとこの辺りの地図が表示された。

「おお、結構魔物がいる。この中にミニオンがいるのか?」

 魔物の印をタップすると魔物の名前が表示される。

「ウルフ、ウルフ、オーク?、ゴブリン…ミニオンいないじゃん」

 オークというのが初めて聞いたが察するに豚の魔物だろう。強いのかな?行ってみる?でも、遊んでると日が暮れる。

 短い葛藤のあと瞬殺することに決めた。もし瞬殺出来なかったら逃げてミニオン探索を再開する。とりあえず、その姿をみたい。

「具体的な方針は林の中に入ってから考えるか」

 特に計画も練らずその場の状況次第で。基本強いと逃げ、弱ければ瞬殺する。アイテム袋から細剣を取り出し<強化ブースト>を使う。

 オークの反応があった場所に向かうと二足歩行をした豚が立っていた。俺はその近くの茂みに身を隠すようにして止まり様子を見る。

 黒い端末を操作し<高周波>を発動させると地面を踏み込みオークの横を通り過ぎた。

 振り向けば時間差で首の半分以上を切られたオークが倒れた。高周波を纏っているおかげで難なくと切れてしまった。倒したオークをアイテム袋に仕舞い、地図を開くと魔物に囲まれていることが分かった。

「やばっ、逃げないとッ。見えないがなんて魔物だ?」

 魔物の反応をタップするとバイパーと出てきた。知らない魔物だ。姿も見えないし小さいのかもしれない。

 アイテム袋から銃を取り出し<実弾>と<粘糸>を使えるようにする。それから念のため<強化ブースト>と細剣のスキルも再発動させた。

「準備できたぞ。どこからでもかかってこい」

 もちろん返事はなく、風に揺れた葉の音と鳥の鳴き声にか聞こえない。反応がないのでこちらから手を出すことにした。

「そこかな?」

 黒い端末に映る反応をみて実弾を発射する。

「「「シャアアアァァァ」」」

 いきなり大きな悲鳴のような叫び声が響き黒い物体が林から飛び出てくる。
 咄嗟に上に飛び木の枝に乗った。

「バイパーって蛇のことか!」

 俺にもわかる名前にしてほしかった。アニメは見ることはあったがゲームは基本していない。こういうファンタジー的なものには疎いのだ。

 まずは、<粘糸>で蛇と蛇をくっつけていく。とにかく数が多いのですべてを見える場所に集めたい。
 ある程度集まったら実弾で一気にまとめて倒そうと考えていた。

「<実弾>が効かないッ!」

 流石は魔物というべきか普通の蛇とは違った。皮膚が堅く今のレベルの<実弾>では簡単に弾かれてしまう。下に降りて先ほど作り上げた蛇の塊を高周波を纏った細剣で細かく刻むともう一度木の上に上る。

「戦い難い。ここは退いた方がいいか」

 分が悪い戦いをする必要はない。ここは引いてミニオン探索に戻ることにする。

「ミニオンはどこかな?本当にいるのかどうかもわからないし」

 <魔物探知地図>も魔物の反応を映すだけで特定の魔物を絞り込むことはできない。

「他に良い感じのスキルでも…ん?」

 いつの間にか<補助サポート>に新しいスキルが追加されていた。

『<魔眼> 常時発動スキル。目に魔力を流すことで周囲が良く見えるようになる。魔法、魔術具の情報を取得することも可能。』

 ふむ。多分以前のカメを倒したときにレベルが上がって追加されたのだろうが気が付かなかった。常時発動らしいが一体どんな感じなのか。

「おお、確かにこれはよく見える」

 第六感とでもいうのか、周囲の環境を感覚的につかめる感じだ。

「でも、ミニオン探索には向いてないね」

 残念ではあるが自力でミニオン探索をすることにする。地図を見ていると近くに湖を見つけた。武器はアイテム袋に仕舞い<強化ブースト>を使うと湖に行ってみることにする。

 林の中は少し危険なので速度を落とし周囲に気を付けながら進む。魔眼も働かせながら蛇にも注意していたが襲われることなく湖に到着した。

「何もないね。小さい湖だし一周してみようかな」

 反対側に向かって歩を進め黒い端末で近くの魔物を見つけては狩っていく。この林には蛇が多い。ウルフもいるが群れから外れたものなのか単体や二、三匹で行動している。

 湖の反対側に来るとすぐ近くに絶壁があった。その壁にはいくつも穴が空いている。まるで何かの巣穴だ。

「…冒険者なら冒険するべきか?もしかしたらミニオンがいるかもしれないし」

<魔物探知地図>で巣穴の中に魔物がいないか確認する。

「いたー、ミニオンいたー」

 遂に見つけた。ここがミニオンのアジトとみて間違いないだろう。

「さて、アジトは見つけたがここで帰るのもね。せっかくだし、どういう魔物なのか見てみたい」

「大体二五から三〇くらいか。穴の数と大体同じだ」

 念のためスキルを発動させ手ごろな穴に入る。中は暗くが狭かった。

「がああああああ」

 中では一匹のミニオンが苦しんでいた。気味が悪かったので他の穴に入り直す。

「があああぁぁぁ」

 他四つほど見たがどの穴にいたミニオンも苦しそうにしている。

「何かにやられて苦しんでいる?」

 <魔眼>を働かせミニオンを観察するとミニオンの体内に異物のようなものが入っているのがわかった。

 わかったというのは語弊があるかもしれない。もっと曖昧で、適当なのだが、そうなのだろうと思ったのだ。

「何か変なものでも食べたのかね」

 今日の依頼はミニオンの討伐ではなくアジトの捜査だ。依頼は達成したので帰ることにしよう。ミニオンの容態は気になるが今の<魔眼>のレベルではあまり調べてもわからない。

 苦しそうにしているとなんとかしてやりたいが直す術もなくどうしようもない。少し名残惜しいが街に帰ることにした。既に夕時だ。

強化ブースト>を使って林からでるとそのまま街に向けて走り出す。四〇分かからないぐらいで街に着き報告をするためギルドに入る。このときもう日が沈みかかっていた。

「カレラさん、少しいいですか」
「レイ君、どうされましたか?確かミニオンの捜索に行きませんでしたっけ?」
「今帰ってきたところ。報告なんだけど俺にもちょっとわからないことが起きてて」

 カレラさんに地図を用意してもらいミニオンのアジトと思われる穴と中で苦しんでいるミニオンのことを話す。

「ここに壁があってその中にミニオンがいた。でもどのミニオンも凄く苦しそうにしていたんだよね。これはあくまで俺の見解だけど体内に異物が紛れ込んでミニオンはそれを必死に抵抗しているように見えた」
「体内に異物ですか。わかりました。アジトの位置もつかめましたし私からギルドマスターに報告しておきます」

 報告を済ませ、依頼達成の手続きをしてもらうとカレラさんはそのままギルドマスターのところに行ってしまった。今日はこれで仕事が終わりらしい。

「結局レイは来なかったね」
「うん、どこにいるのかな?」
「もしかしたら領主の屋敷なのかな。私が行った時も泊まることになったし」

 彩乃とジジが話しながらギルドに入って来た。なんだかずいぶんと仲が良さそうだ。嬉しいことだがちょっと悔しい。

「彩乃、ジジ」

 俺は二人に声を掛ける。気付いた二人は小走りで駆け寄ってきた。

「レイ、ずいぶんと遅かったわね。何をしていたの?」
「領主の頼み事はすぐ終わったよ。でも午後は他の依頼を受けていた。それでジジ、魔物に寄生する魔物っていないかな?」

 ジジは魔物について詳しい。本人はギルドにある魔物図鑑でいろんな魔物をみたことがあるからと言っていたが一度や二度見た程度では頭に入らないだろう。

 何度も見て勉強したのかもしれない。その知識を活用させてもらう。

「それってパラサイトのこと?」

 パラサイト?寄生虫ってことだよね。

「そのパラサイトに寄生された魔物はどうなるか知ってる?」
「…すみません。そこまでは知らないです」

 流石にわからないか。だが、有力な情報は手に入った。それにしてもやはりジジは魔物に詳しい。仲間に引き入れて良かったと思う。

「ううん、助かったよ。ありがとう」
「レイ、そのパラサイトがどうにかしたの?」
「午後に受けた依頼にね。詳しい話は食事をしながら話す?俺も彩乃の方の話も聞きたいから」
「そうね、ギルドの食べ物は初めてだけど美味しいのかしら」

 ギルドでは食事や酒も売っていてその場で食べることができる。食事は外の屋台や宿で済ませていたので今まで利用したことがなかった。

 ギルド食堂の仕組みとしてはフードコートを想像してもらえばいいと思う。注文をして札を貰って席で待っていると職員が料理を持ってきてくれる。結構な広さがあるし日本のように音が鳴って知らせるものがあるわけでもないため自分で取りに行くことがない。

「それで午後はミニオンっていう魔物のアジトを見つける依頼を受けたんだけどミニオンが巣穴の中で苦しんだ様子でいたの。もしかしたらジジが言ったようにパラサイトに寄生されるのを必死に抵抗してて苦しんでいたのかもね」

 この仮説があっているのかそれとも全く違うなにかが理由なのか、それはわからない。ただ、黒い端末にもパラサイトという魔物は載っていなかった。

「ミニオンってどんな魔物なの?」

 ミニオンは聞いていたように大きかった。まだ小さい個体もいたがあれは子どもだろう。

 ミニオンについて軽く話すとギルド職員が料理を持ってきてくれたので話を一旦やめることにした。

 食事中にする話ではない。
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