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沈む影
3-2.
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その日から、2人の歪な関係が始まった。
一旦はレオを家へ帰らせたものの、十日に一度だった呼び出しが、やがては一週間置き、五日置き、いつしか三日置きとなっていた。
王から直々にレオを連れて来るよう勅命を受けながらも、逃げ回るレオを捕らえられずにいた側近は次第に追い詰められ、ついには裏稼業の男たちを雇って、麻袋を被せるという人さらい同然の手段を使って連れてきていたことをサンザは知らない。
どんな手順を踏もうと、どれほど汚い手を使おうと、必要な時にレオがこの腕の中にいさえすればサンザにはどうでも良かった。
*****
ハルバ姫との結婚式当日、終わりが見えない宴の真っ最中、静かに近づいてきたハーランに「運んでおきました」と耳打ちされた。
待ちに待った報告だった。
隣りに座る花嫁に退席を告げると、サンザは足早に寝室へと向かった。
部屋の片隅に置かれた木箱の蓋を開けると、そこには丸く小さく身を縮めて眠るレオがいた。
物音に起きる気配がない。
長いこと逃げ回ったのか、閉じ込められた木箱から脱出しようともがいたのか。そのどちらもかもしれない。念願の献上品はよほど疲れていると見え、眠りがとても深いようだった。
しかし、申し訳ないと思う気持ちより先に胸に広がったのは圧倒的な安堵だった。
サンザはレオのごわつく髪を撫で、こけた頬を撫でた。そして木箱から抱き上げる。
あまりの身体の軽さに驚きながら、埃まみれになるにも拘わらず、自らのベッドにレオをそっと横たえた。
サンザはレオを抱いた余韻でのみ、正室と側室を抱くことができた。レオの体温がまだ身の内に微かに点っている間だけ反応し、それが薄れた途端にすべてがまた沈黙する。
その不可解な反応は、知らず知らずのうちにサンザ自身の不安と焦燥を煽り、ますますレオを手放せなくなっていた。
レオは王の不能を治すための「薬」であり、呪いを解くための「生贄」でもあった。
そして今日も、自分のために、ひいては我が国のために、哀れな獲物を犠牲にしようとしていた。
*****
レオは王城の寝室に軟禁された。
それは豪華な寝室だったが、金の檻と変わらなかった。
自室に戻るたびに、国王サンザはレオを抱いた。
サンザは国政の重圧と不眠に苛まれていたはずなのに、レオを視界に入れるたびに、制御不能な、異常なまでの欲望が湧き上がってくるのを感じていた。
「もう……やめて、お願い」
夜明け前、サンザが四度目の行為を終えようとした時、レオが懇願するように呟いた。レオの体は、サンザの激しさを受け止めきれず、完全に力が抜けている。
サンザは満足感に満ちた息を吐き、レオを抱き寄せた。
「受け入れるのが、痛い」と、レオは絞り出すように訴えた。
その言葉を思い出し、サンザは自らの行為で赤く腫れたレオの柔らかな場所を、優しく舐め始めた。
「ひっ……!」
国王であるサンザの予想外の行動に、レオは全身を震わせ、一瞬で顔を青ざめさせた。彼の目にははっきりと畏れの色が浮かんでいた。
「いや! も、もう解放してください……お願い、陛下」
レオは涙と鼻水をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくり、解放を哀願した。
その様子に、サンザの胸に鋭い痛みが走る。
この激しい感情は、愛なのか、それともただの支配欲なのか。
サンザには判別がつかない。
「ダメだ」
サンザは静かに告げた。その声は、拒否を許さない絶対的な力を持っていた。
「お前は私の物だ。どこにも行かせない」
その言葉を聞いた瞬間、レオは驚きで一瞬泣きやんだ。サンザは、この一瞬の静寂を逃すまいと、その涙に濡れた唇に口付けようと顔を近づける。
「いや……っ!」
しかし、レオは激しく首を振って拒絶し、サンザから顔を背け、再び激しく泣き出した。
その時、寝室のドアの外から控えめなノックが響いた。側近がサンザを呼びに来たのだ。
サンザは重い溜息をつき、ベッドから降りた。寝室と繋がっている大理石張りの浴室へ向かい、急いで身支度を整える。
*****
寝室に戻ると、太陽が差し込み始めていた。
ベッドの上、乱れたシーツの中央には、ふたりの汗と精液で汚れたままのレオが、力なく座りこんでいた。
その目はまだ赤く腫れているが、虚ろにサンザを見ていた。
その光景を見た瞬間、サンザの胸に、愛おしさが込み上げてきた。この、ありのままの自分だけを映し出す存在。
サンザは足音を立てずにベッドに近づき、もう一度、その唇に口付けようと屈みこんだ。
レオは身を捩り、顔を逸らした。
サンザはそれ以上強要しなかった。その代わり、レオの濡れた髪にそっと口づけた。
衛兵に促され、サンザは乱れた寝室を後にした。
ドアが閉ざされる瞬間、彼は力なく座りこむレオの姿を脳裏に焼き付けた。
一旦はレオを家へ帰らせたものの、十日に一度だった呼び出しが、やがては一週間置き、五日置き、いつしか三日置きとなっていた。
王から直々にレオを連れて来るよう勅命を受けながらも、逃げ回るレオを捕らえられずにいた側近は次第に追い詰められ、ついには裏稼業の男たちを雇って、麻袋を被せるという人さらい同然の手段を使って連れてきていたことをサンザは知らない。
どんな手順を踏もうと、どれほど汚い手を使おうと、必要な時にレオがこの腕の中にいさえすればサンザにはどうでも良かった。
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ハルバ姫との結婚式当日、終わりが見えない宴の真っ最中、静かに近づいてきたハーランに「運んでおきました」と耳打ちされた。
待ちに待った報告だった。
隣りに座る花嫁に退席を告げると、サンザは足早に寝室へと向かった。
部屋の片隅に置かれた木箱の蓋を開けると、そこには丸く小さく身を縮めて眠るレオがいた。
物音に起きる気配がない。
長いこと逃げ回ったのか、閉じ込められた木箱から脱出しようともがいたのか。そのどちらもかもしれない。念願の献上品はよほど疲れていると見え、眠りがとても深いようだった。
しかし、申し訳ないと思う気持ちより先に胸に広がったのは圧倒的な安堵だった。
サンザはレオのごわつく髪を撫で、こけた頬を撫でた。そして木箱から抱き上げる。
あまりの身体の軽さに驚きながら、埃まみれになるにも拘わらず、自らのベッドにレオをそっと横たえた。
サンザはレオを抱いた余韻でのみ、正室と側室を抱くことができた。レオの体温がまだ身の内に微かに点っている間だけ反応し、それが薄れた途端にすべてがまた沈黙する。
その不可解な反応は、知らず知らずのうちにサンザ自身の不安と焦燥を煽り、ますますレオを手放せなくなっていた。
レオは王の不能を治すための「薬」であり、呪いを解くための「生贄」でもあった。
そして今日も、自分のために、ひいては我が国のために、哀れな獲物を犠牲にしようとしていた。
*****
レオは王城の寝室に軟禁された。
それは豪華な寝室だったが、金の檻と変わらなかった。
自室に戻るたびに、国王サンザはレオを抱いた。
サンザは国政の重圧と不眠に苛まれていたはずなのに、レオを視界に入れるたびに、制御不能な、異常なまでの欲望が湧き上がってくるのを感じていた。
「もう……やめて、お願い」
夜明け前、サンザが四度目の行為を終えようとした時、レオが懇願するように呟いた。レオの体は、サンザの激しさを受け止めきれず、完全に力が抜けている。
サンザは満足感に満ちた息を吐き、レオを抱き寄せた。
「受け入れるのが、痛い」と、レオは絞り出すように訴えた。
その言葉を思い出し、サンザは自らの行為で赤く腫れたレオの柔らかな場所を、優しく舐め始めた。
「ひっ……!」
国王であるサンザの予想外の行動に、レオは全身を震わせ、一瞬で顔を青ざめさせた。彼の目にははっきりと畏れの色が浮かんでいた。
「いや! も、もう解放してください……お願い、陛下」
レオは涙と鼻水をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくり、解放を哀願した。
その様子に、サンザの胸に鋭い痛みが走る。
この激しい感情は、愛なのか、それともただの支配欲なのか。
サンザには判別がつかない。
「ダメだ」
サンザは静かに告げた。その声は、拒否を許さない絶対的な力を持っていた。
「お前は私の物だ。どこにも行かせない」
その言葉を聞いた瞬間、レオは驚きで一瞬泣きやんだ。サンザは、この一瞬の静寂を逃すまいと、その涙に濡れた唇に口付けようと顔を近づける。
「いや……っ!」
しかし、レオは激しく首を振って拒絶し、サンザから顔を背け、再び激しく泣き出した。
その時、寝室のドアの外から控えめなノックが響いた。側近がサンザを呼びに来たのだ。
サンザは重い溜息をつき、ベッドから降りた。寝室と繋がっている大理石張りの浴室へ向かい、急いで身支度を整える。
*****
寝室に戻ると、太陽が差し込み始めていた。
ベッドの上、乱れたシーツの中央には、ふたりの汗と精液で汚れたままのレオが、力なく座りこんでいた。
その目はまだ赤く腫れているが、虚ろにサンザを見ていた。
その光景を見た瞬間、サンザの胸に、愛おしさが込み上げてきた。この、ありのままの自分だけを映し出す存在。
サンザは足音を立てずにベッドに近づき、もう一度、その唇に口付けようと屈みこんだ。
レオは身を捩り、顔を逸らした。
サンザはそれ以上強要しなかった。その代わり、レオの濡れた髪にそっと口づけた。
衛兵に促され、サンザは乱れた寝室を後にした。
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