【完結】君の夜に消える。

comacomainu

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後日談(徳村視点)

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五年が経っても、朝は嫌いだ。
目覚ましが鳴る前に目が覚めて、天井をじっと見つめる。
ベッドの片側はもう空いていたが、あいつの温もりはまだじんわりと残っていた。
いつからか、渡会は自分より先に起きるようになった。
キッチンの方から、かすかな生活音がする。
湯を沸かす音。カップを置く音。
わざと足音を立てないあたりが、あいつらしい。

「……行ってくる」

そう声をかけると、返事はない。
聞こえていないわけじゃないと、わかっている。


事務所に着き、ロッカーから作業着を取り出して袖を通しながら、昔のことを思い出す。
生徒会室。
終わりを思った嵐の夜。
泣きそうな顔で睨みつけてきた、あいつの目。
あの時、何を言えば正解だったのか。
今でも、たまに考える。

自分は昔から、欲しいものを欲しいと言うのは得意だった。
でも、言葉を飾るのはどうしても下手だった。

浮気をしなくなったわけじゃない。
正直に言えば、今でもそうだ。

『昨日は楽しかった。また遊びに連れてって』

届いたメッセージに親指を乗せ、左にスライドしてゴミ箱へ移す。
見られるわけではないが、この証拠を消す行為に、わずかな罪悪感が残る。

帰る場所がある、というのは、やはり厄介だ。
酔いに任せた軽い気持ちで誰かを抱いた夜ほど、決まってあいつの顔が浮かぶ。

『俺だけを見てくれる人がいい』

あの言葉が、今さらになって効いてくる。
遅すぎるのは、自覚している。


玄関のドアノブに手をかけて、一瞬だけ迷う。

〈――今夜は遅くなる〉

それだけのメッセージを送った。
理由を書かないのは、いつもの癖だ。
聞かれなくなったことに甘えているのも、わかっている。

〈了解〉

すぐに返ってきた短い返事に、胸の奥が、ちくりと痛んだ。
あいつを愛しているかと聞かれたら、きっと即答できない。
でも、あいつがいない生活を想像すると、ひどく現実味がなくなる。

それだけで十分だろ、と自分に言い聞かせながら、ドアを開ける。

室内に入ると、淡い光が灯されたリビングが目に入った。
空になったカップがひとつ、テーブルに置かれている。
ソファに腰を下ろし、ここにいたはずのあいつの姿を想像するだけで、胸が少し騒ぐ。
寝室の明かりは消えていた。
今日もあいつはあの広いベッドの片側でひとり眠っている。

自分は、今でもあいつを選び続けている。
逃げなかった。それが誇れることかどうかは、わからない。

ただ、あの部屋へ帰る。
同じベッドで待つあいつのところへ。
それが、自分の出した答えだった。
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