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後日談(渡会視点)
しおりを挟むそれから、五年が経った。
朝の駅前は相変わらず慌ただしい。
スーツの波に紛れながら、渡会は改札を抜けた。
スマートフォンを取り出すと、画面の隅に通知が一件だけ浮かんでいる。
〈――今夜は遅くなる〉
それだけの短いメッセージ。
差出人の名前を見て、渡会は小さく息を吐いた。
〈……了解〉
短く返して、ポケットに端末を滑り込ませる。
昔なら、理由を聞いた。誰と、どこで、何時まで?
今はもう、聞かないことにしている。
それは、信じているからじゃない。
聞いたところで何も変わりはしないと知ったからだ。
残業を終えて、マンションの鍵を開けると、ひと気のない空気はひんやりとしていた。
広くも狭くもないリビング。2人の部屋。寝室はひとつ。
5年前に買ったダブルベッドは、今もそこにある。
浪人を経て難なく第一志望の大学に入り、卒業して、就職して。
「一緒に暮らす」は、いつの間にか「一緒にいるだけ」にすり替わった。
キッチンで湯を沸かしながら、渡会はふと思い出す。
生徒会室。
終わりを思った嵐の夜。
雨粒が窓ガラスを叩き、紙の匂いと湿った空気が混ざりあったあの夜。
そして、「特別だった」というあいつの言葉。
――特別だった。
たぶん、それは本当だったのだろう。
今も、そうなのかもしれない。
ただ、特別と唯一は違った。
その違いを知った今でも、あの夜の感情が心の奥で静かに揺れる。
カップを持ってソファに腰を下ろす。
壁に掛けられた時計が、淡々と時を刻む。
徳村が帰ってくるのは、たぶん深夜だ。
怒る気力は、もうない。
悲しむほどの純粋さも、あの頃のがむしゃらさも、もう残っていない。
それでも、玄関の鍵が回る音を想像すると、胸の奥が、ほんの少しだけ騒ぐ。
馬鹿だな、と自分で思う。
ここまで来て、まだ期待している。
――それでもいい。
渡会は、そう結論づけるのが、いつの間にか上手くなっていた。
正しい選択だったかどうかは、わからない。
けれどこれは、自分が選び続けてきた日常だ。
湯気の立つカップを両手で包みながら、渡会は静かに目を閉じた。
窓の外に聞こえる夜の風、遠くの車の音、静かな街の気配。
今夜も、同じベッドで眠る。
それだけは、確かな未来だった。
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