白の放物線

comacomainu

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1-1.

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「おい。テレビを野球中継に変えろ」

宝崎は、右手に掴んだ麻雀牌の感触を確かめながら、壁にかけられた時計へと視線を走らせて、ちょうどテレビの横を通りがかった若衆に声をかけた。

「BSです?」

「知らん。とにかく変えろ。タイタンズ対ジャガーズ戦だ」

「はあ……」

若衆は気の抜けた返事をしながら、手にしていたスマホを覗き込み、「BSじゃやってないみたいっすね」と呟く。
そのままリモコンを操作すると、画面が切り替わり、壁掛けの大型モニターには見慣れたスタジアムの光景が映し出された。

画面いっぱいに広がる天然芝の緑。青空に映える白のユニフォーム。試合開始と同時に歓声が噴き上がる

風にたなびく球団旗も、選手の肌に光る汗の粒もが、モニター越しに鮮明に迫ってくる。
眩しいはずはないのに、その映像を真っ直ぐ見据えていられず、宝崎は細く目をひそめ、麻雀卓へと視線を落とした。

その様子を見ていた向かいの席の片平が、空になったビール缶をぐしゃりと握り潰し、肩を震わせて笑う。

「また補佐はタイタンズに賭けてるんですか? 昨日で確か五連敗でしたよね。ドブに金を捨ててるようなもんですよ」

眼光鋭く睨みつける宝崎をいなすように、片平はにやつきながら肩を竦めて、指に挟んでいた二筒(リャンピン)を捨てた。
実際、今シーズンのタイタンズは、呪われているとしか思えないほど歯車が噛み合っていない。投手に内野手にと、主力に怪我人が続出し、チームの底が抜けたような有り様だった。

「今、いくらくらい溶かしてるんです?」

「十三万」

「そりゃまた、景気の良いことで」

片平は吹き出した。

「せめて交流戦まで様子を見りゃ良かったのに。今のタイタンズに張るなんて、負け馬の尻を叩くようなもんですよ」

「何事も思い立ったが吉日なんだよ」

「確かに補佐以外にとっては吉日だったでしょうがね。まあ、胴元なしの身内のお遊びで良かったじゃないですか。いざとなりゃ踏み倒せばいい」

はす向かいで、わざとらしく盲牌(モーパイ)の真似事をしていた舎弟頭の神尾が、その言葉にぴくりと反応した。
そう言えば、宝崎の負け分をそっくり掠め取って、ひとり勝ちしているのはこいつだった。

「そういや片平、最近お前のところでFXを始めたらしいな」

「ええ、おかげさまで。円安が一段落した隙を狙う素人が多くてボロ儲けですよ。投資の”と”の字も知らねえ年寄りが、なんであんなもんに手を出すんですかね。自分らの寿命より先に残高が尽きるってのに」

「自分の手に余るもんに乗っかるのが悪い。老後の蓄えを溶かされても、そりゃ自業自得ってもんだ」

「補佐も、支払いがきつくなったら俺の顔を思い出してくださいよ。借用書にちょいとサインをもらえりゃ、トイチ……いや、補佐なら特別にトサンで札を積みますよ」

「誰がお前みたいな悪徳金融に金を借りるか。それより、ほら、ロンだ、ロンっ。その二筒待ちだったんだよ」

それまで余裕綽綽な笑みを浮かべていた片平だったが、宝崎の手牌が開かれた瞬間、「げえっ」と牛蛙が捻り潰されたような声をあげた。

「悪いな、片平」

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