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第二章.惚れ薬を飲んだ男 ルーカス回想編
0.彼女との出会い
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俺は秒で外出の支度を終え、執務室から飛び出した。
階段を駆け下り、外への扉を開けようとした時だった。
「ルーカス!!」
その言葉に思わずチッと舌打ちして声の主の方へ振り返った。
俺に睨まれたダンはギクリと体を震わせたが、恐る恐る妻の身を案じた。
「えっと…ユーリは…?」
「アイツならさっき帰ったぞ」
俺の言葉を聞いて安心したのか、ダンは一息つくと、申し訳なさそうに俺の顔色を伺った。
「はぁ…すまなかった。一体何の話しだったんだ?」
「話す必要も無い、くだらない話だ」
「え、そうなの?あ…あとルーカス、これ…」
ダンはその手に持っていた数枚の封筒を手渡してきた。
俺はそれを受け取り、1枚ずつ差出人の名前を確認していく。
俺が手にしている物は全て、エリーゼの家に送られる予定の手紙である。
俺が経営する事業のひとつに配送関係があり、首都内はもちろん、国内のありとあらゆる場所に集配所を設置してある。
各地の集配所からエリーゼの家宛ての物を回収し、有害と判断した物は速やかに処分している。
エリーゼに危険な物を近づける訳にはいかない。
もちろん、エリーゼを狙う男共も有害として排除する。
俺は一通り確認し終え、受け取った封筒の中の1枚を握りつぶし、ダンに押し付けた。
「燃やせ」
それを受け取ったダンはかなり嫌そうに顔を歪めている。
「ルーカス。何回も言うけど、人の手紙を勝手に処分するの…これ犯罪だからね?ちゃんと自覚してるよね?」
ダンは何かを確認するように俺を見ているが、どうやらコイツは的はずれな勘違いをしている様だな。
「何を言ってるんだ。こんな下心のある男が、エリーゼの色気を前にして、その醜い欲望を我慢出来る筈が無いだろ。俺はエリーゼの身の安全を確保しながら、新たな性犯罪者が生まれるのを未然に防いでいるだけだ。」
「その発想に至る君が1番危険だと思う…」
ダンが何かを言っているが、これ以上は時間の無駄だ。
「じゃあ俺は行ってくる。あとは頼んだぞ」
「ああ、行ってらっしゃ…って何処に!?」
「エリーゼの所だ」
白目を向いて動かなくなったダンを残し、俺は外への扉を開け、指笛を鳴らした。
馬小屋から飛び出して来たコールに飛び乗り、エリーゼの元へと向かった。
最近は何かと忙しく、なかなかエリーゼに会いに行く事が出来なかった。
5日ぶりのエリーゼとの再会に俺は胸を踊らせながら、彼女の家へと急いだ。
エリーゼと初めて出会った時の事、彼女と一緒に過ごした日々を思い出しながら…。
俺はこの首都で生まれ、男爵の息子として立派な屋敷の中で、多くの使用人に囲まれて何不自由なく暮らしていた。
しかし俺が8歳の時、父親は賭博で借金を背負った友人を助けるため、多額のお金を友人に貸した。
だが、その友人こそが賭博を経営する側の人間と通じていて、騙し取った父親のお金を経営資金として利用していた。
後に違法賭博として摘発された時、父親は多額のお金を融資していたと濡れ衣を着せられ、爵位を剥奪された。
その事がきっかけとなり、信頼関係を失った父親の経営していた事業が次々と倒産。
多額の借金を抱えて行方を晦ました父親の代わりに、母は住んでいた屋敷や領土を全て売り払い、幼い俺を連れて助けを求めるように故郷の田舎村へ向かった。
快く迎えてくれた村の人達のおかげで、俺達は救われた。
しかし、当時の俺はそれまでの贅沢な暮らしから一変した、平民の生活を受け入れられずにいた。
村の人達が分け隔てなく接してくる態度や、食べ物を分けてくれる事全てが、可哀想な人を哀れんでいる様で、イラついていた。
それに加え、父親がいなくなってからの屋敷の使用人達の態度がガラリと変わった事も俺が人間不信となる大きな要因となった。
以前までは優しく接してくれていた人達が、鬱憤を晴らすように暴言、罵声を吐き、見下してくる奴ら…僅かに残っていた金品を盗んで行く奴らもいた。
俺にとっては家族同然の存在だったのに…彼らにとって俺は、お金を稼ぐためだけに存在する人間だったのだ。
父親も友人を信じたから裏切られた。
だから俺はもう誰も信じない。
俺には誰も必要ない…そう思っていた。
俺は家に閉じこもり、誰とも会うことなく一人でひたすら勉強していた。
いつか首都に行き、再び貴族の座を取り戻し、俺を見下してきた奴らを見返すために。
時々、村の子供達が俺を訪ねて来たらしいが、母親に頼んで全て無視することを決め込んでいた。
だけどある日突然、俺の部屋に彼女はやってきた。
その日、俺はいつもの様に二階の自分の部屋で、机に向かって勉強していた。
ふいに人の気配を感じて顔をあげると、開け放っていた窓の淵にエリーゼは立っていた。
そよ風で彼女の長い髪が波打つようにふわふわと揺れ、差し込む日差しに照らされエメラルドの様な輝きを放つ瞳、慈愛に満ちた様な笑顔…。
その姿を見て、天使が俺の部屋に舞い降りてきたのかと錯覚した。
俺はこの時、完全にエリーゼに一目惚れしてしまった。
誰だ?木を登ってここに来たのか?
俺に会いうために……?
うるさい程にドキドキと胸が高鳴る音に戸惑い、つい目を逸らしてしまったが、このまま彼女を帰したくなかった。
「木登り教えて!!」
何故そんなことを言ってしまったのか、自分でもよく分からなかったが、それがきっかけでエリーゼと友達になることが出来た。
彼女と一緒に遊ぶうちに、家の外へ出る機会も多くなり、村の人間とも少しずつ打ち解けていった。
エリーゼに教わった木登りは純粋に楽しかった。
首都では木に登るなんて遊びは出来なかったし、マナーが悪いからしてはいけないと教えられてきた。
初めての経験に、最初は思う様に出来なかった。だが、登るのに夢中になっている時は嫌な事全て忘れられた。何よりも、てっぺんまで登った時の達成感は気持ちが良かった。
エリーゼも木登りだけは抜群に上手かった。
何回も競走したが、結局1度も勝つことは出来なかった。
そして木登りを教えてもらう代わりに、俺はエリーゼに勉強を教える事になった。
軽い気持ちで引き受けたが、これが予想以上に大変だった。
彼女は年齢よりもレベルの低い課題をいつもさせられていたが、それでも彼女の解答はいつも間違えていた。
「エリーゼ…問題をよく読んでみようか。『クッキーが10個あります。兄はクッキーを2個、弟はクッキーを3個食べました。残りは何個でしょうか?』さあ、答えはなんだ?」
「…この問題おかしいわよ。なんでお兄さんの食べたクッキーの方が少ないの?年齢的にもお兄さんの方が多く食べても良いと思うの。クッキー2個では足りないわ…4個食べさせてあげましょう!だから…余ったクッキーは3個ね」
そう言うと、エリーゼは計算式を書くスペースに「お兄さんは4個食べたのよ」と書いた後、答えに3と記入した。
「そうだな…。この弟は体があまり大きくないんだ。兄は弟に大きくなってほしくて、少しでも多く食べて欲しかったんじゃないかな?」
「!なるほど…!!じゃあ弟にはクッキーを5個…いえ、6個あげましょう!お兄さんは4個、弟は6個…残ったクッキーは0個ね!」
「なぜ増やす…?じゃあ、こっちの問題はどうだ?『お母さんと子供は1個ずつパンを買いました。全部で何個買ったでしょうか?』で、なんで答えが3個になるんだ?」
「だってお父さんにも買ってあげないと可哀想でしょ?お父さんのパンが無いじゃない!」
「……そうだな、もしかしたらこの家族にはお父さんが居ないのかもしれないな」
「!!そんな……じゃあ、おじいちゃんとおばあちゃんも一緒に住めばいいわ!答えは4個ね!!」
「なぜ増えていく…?」
エリーゼの解答はいつもめちゃくちゃだった。
正そうとすればするほど、正解とかけ離れていった。
だけど、エリーゼはいつも優しかった。
実際には存在しない、ただの例文として使われるだけの家族ですら、幸せになってほしいと彼女は願っていた。
そんな彼女の話を聞いているのは心地よかった。
何の打算も無い彼女の純粋な優しさに、俺の荒んだ心は癒されていった。
だから俺は彼女の答えを否定する事をやめた。
「そうだな…。エリーゼの答えが正解だ」
どうかそのままの彼女でいてほしい。
そんな彼女を否定する存在から、俺は守る事を決めた。
「エリーゼ、なんでいつも計算式を書くところに謎の文章を書くんだ……?なぜ問題の内容を勝手に変えてしまうんだ?」
エリーゼの答案用紙を見た教師が戸惑いの表情で詰め寄ってきたところを、俺はすかさず間に入った。
「先生、エリーゼは間違っていた箇所を正したのです」
「いや、これ間違い探しをしろと言ってるわけじゃないぞ。ここには計算式を書けと言ってるんだ」
苛立ちを隠せなくなってきている教師を前にしても、俺は少しも引く気は無い。
エリーゼは何も間違えてない。
彼女の解答は俺が守る。
「エリーゼは幸せの方程式をここに書いたんだ」
「おい上手いこと言うな」
「先生、時間の無駄だからさっさと進めて」
呆れ返ったユーリの声で、教師は眉をピクピクさせながら、諦めた様にエリーゼの解答にマルを付けていった。
そんなやり取りはその後も何度か続いた。
「ルーカスはいつも先生と何の話をしているの?」
俺と教師が討論を終えた後、エリーゼは不思議そうに俺に聞いてきた。
「この世の不条理な現実を正すための討論をしているんだ」
「……あはは!ルーカスおもしろーい!」
絶対に何も理解していないエリーゼは無邪気に笑っていたが、それこそ俺が守りたいものだった。
彼女の笑顔が守れてよかった。
やがて、エリーゼの解答用紙は常に満点になった。
それがたとえ、本来の答えと違っていたとしても。
階段を駆け下り、外への扉を開けようとした時だった。
「ルーカス!!」
その言葉に思わずチッと舌打ちして声の主の方へ振り返った。
俺に睨まれたダンはギクリと体を震わせたが、恐る恐る妻の身を案じた。
「えっと…ユーリは…?」
「アイツならさっき帰ったぞ」
俺の言葉を聞いて安心したのか、ダンは一息つくと、申し訳なさそうに俺の顔色を伺った。
「はぁ…すまなかった。一体何の話しだったんだ?」
「話す必要も無い、くだらない話だ」
「え、そうなの?あ…あとルーカス、これ…」
ダンはその手に持っていた数枚の封筒を手渡してきた。
俺はそれを受け取り、1枚ずつ差出人の名前を確認していく。
俺が手にしている物は全て、エリーゼの家に送られる予定の手紙である。
俺が経営する事業のひとつに配送関係があり、首都内はもちろん、国内のありとあらゆる場所に集配所を設置してある。
各地の集配所からエリーゼの家宛ての物を回収し、有害と判断した物は速やかに処分している。
エリーゼに危険な物を近づける訳にはいかない。
もちろん、エリーゼを狙う男共も有害として排除する。
俺は一通り確認し終え、受け取った封筒の中の1枚を握りつぶし、ダンに押し付けた。
「燃やせ」
それを受け取ったダンはかなり嫌そうに顔を歪めている。
「ルーカス。何回も言うけど、人の手紙を勝手に処分するの…これ犯罪だからね?ちゃんと自覚してるよね?」
ダンは何かを確認するように俺を見ているが、どうやらコイツは的はずれな勘違いをしている様だな。
「何を言ってるんだ。こんな下心のある男が、エリーゼの色気を前にして、その醜い欲望を我慢出来る筈が無いだろ。俺はエリーゼの身の安全を確保しながら、新たな性犯罪者が生まれるのを未然に防いでいるだけだ。」
「その発想に至る君が1番危険だと思う…」
ダンが何かを言っているが、これ以上は時間の無駄だ。
「じゃあ俺は行ってくる。あとは頼んだぞ」
「ああ、行ってらっしゃ…って何処に!?」
「エリーゼの所だ」
白目を向いて動かなくなったダンを残し、俺は外への扉を開け、指笛を鳴らした。
馬小屋から飛び出して来たコールに飛び乗り、エリーゼの元へと向かった。
最近は何かと忙しく、なかなかエリーゼに会いに行く事が出来なかった。
5日ぶりのエリーゼとの再会に俺は胸を踊らせながら、彼女の家へと急いだ。
エリーゼと初めて出会った時の事、彼女と一緒に過ごした日々を思い出しながら…。
俺はこの首都で生まれ、男爵の息子として立派な屋敷の中で、多くの使用人に囲まれて何不自由なく暮らしていた。
しかし俺が8歳の時、父親は賭博で借金を背負った友人を助けるため、多額のお金を友人に貸した。
だが、その友人こそが賭博を経営する側の人間と通じていて、騙し取った父親のお金を経営資金として利用していた。
後に違法賭博として摘発された時、父親は多額のお金を融資していたと濡れ衣を着せられ、爵位を剥奪された。
その事がきっかけとなり、信頼関係を失った父親の経営していた事業が次々と倒産。
多額の借金を抱えて行方を晦ました父親の代わりに、母は住んでいた屋敷や領土を全て売り払い、幼い俺を連れて助けを求めるように故郷の田舎村へ向かった。
快く迎えてくれた村の人達のおかげで、俺達は救われた。
しかし、当時の俺はそれまでの贅沢な暮らしから一変した、平民の生活を受け入れられずにいた。
村の人達が分け隔てなく接してくる態度や、食べ物を分けてくれる事全てが、可哀想な人を哀れんでいる様で、イラついていた。
それに加え、父親がいなくなってからの屋敷の使用人達の態度がガラリと変わった事も俺が人間不信となる大きな要因となった。
以前までは優しく接してくれていた人達が、鬱憤を晴らすように暴言、罵声を吐き、見下してくる奴ら…僅かに残っていた金品を盗んで行く奴らもいた。
俺にとっては家族同然の存在だったのに…彼らにとって俺は、お金を稼ぐためだけに存在する人間だったのだ。
父親も友人を信じたから裏切られた。
だから俺はもう誰も信じない。
俺には誰も必要ない…そう思っていた。
俺は家に閉じこもり、誰とも会うことなく一人でひたすら勉強していた。
いつか首都に行き、再び貴族の座を取り戻し、俺を見下してきた奴らを見返すために。
時々、村の子供達が俺を訪ねて来たらしいが、母親に頼んで全て無視することを決め込んでいた。
だけどある日突然、俺の部屋に彼女はやってきた。
その日、俺はいつもの様に二階の自分の部屋で、机に向かって勉強していた。
ふいに人の気配を感じて顔をあげると、開け放っていた窓の淵にエリーゼは立っていた。
そよ風で彼女の長い髪が波打つようにふわふわと揺れ、差し込む日差しに照らされエメラルドの様な輝きを放つ瞳、慈愛に満ちた様な笑顔…。
その姿を見て、天使が俺の部屋に舞い降りてきたのかと錯覚した。
俺はこの時、完全にエリーゼに一目惚れしてしまった。
誰だ?木を登ってここに来たのか?
俺に会いうために……?
うるさい程にドキドキと胸が高鳴る音に戸惑い、つい目を逸らしてしまったが、このまま彼女を帰したくなかった。
「木登り教えて!!」
何故そんなことを言ってしまったのか、自分でもよく分からなかったが、それがきっかけでエリーゼと友達になることが出来た。
彼女と一緒に遊ぶうちに、家の外へ出る機会も多くなり、村の人間とも少しずつ打ち解けていった。
エリーゼに教わった木登りは純粋に楽しかった。
首都では木に登るなんて遊びは出来なかったし、マナーが悪いからしてはいけないと教えられてきた。
初めての経験に、最初は思う様に出来なかった。だが、登るのに夢中になっている時は嫌な事全て忘れられた。何よりも、てっぺんまで登った時の達成感は気持ちが良かった。
エリーゼも木登りだけは抜群に上手かった。
何回も競走したが、結局1度も勝つことは出来なかった。
そして木登りを教えてもらう代わりに、俺はエリーゼに勉強を教える事になった。
軽い気持ちで引き受けたが、これが予想以上に大変だった。
彼女は年齢よりもレベルの低い課題をいつもさせられていたが、それでも彼女の解答はいつも間違えていた。
「エリーゼ…問題をよく読んでみようか。『クッキーが10個あります。兄はクッキーを2個、弟はクッキーを3個食べました。残りは何個でしょうか?』さあ、答えはなんだ?」
「…この問題おかしいわよ。なんでお兄さんの食べたクッキーの方が少ないの?年齢的にもお兄さんの方が多く食べても良いと思うの。クッキー2個では足りないわ…4個食べさせてあげましょう!だから…余ったクッキーは3個ね」
そう言うと、エリーゼは計算式を書くスペースに「お兄さんは4個食べたのよ」と書いた後、答えに3と記入した。
「そうだな…。この弟は体があまり大きくないんだ。兄は弟に大きくなってほしくて、少しでも多く食べて欲しかったんじゃないかな?」
「!なるほど…!!じゃあ弟にはクッキーを5個…いえ、6個あげましょう!お兄さんは4個、弟は6個…残ったクッキーは0個ね!」
「なぜ増やす…?じゃあ、こっちの問題はどうだ?『お母さんと子供は1個ずつパンを買いました。全部で何個買ったでしょうか?』で、なんで答えが3個になるんだ?」
「だってお父さんにも買ってあげないと可哀想でしょ?お父さんのパンが無いじゃない!」
「……そうだな、もしかしたらこの家族にはお父さんが居ないのかもしれないな」
「!!そんな……じゃあ、おじいちゃんとおばあちゃんも一緒に住めばいいわ!答えは4個ね!!」
「なぜ増えていく…?」
エリーゼの解答はいつもめちゃくちゃだった。
正そうとすればするほど、正解とかけ離れていった。
だけど、エリーゼはいつも優しかった。
実際には存在しない、ただの例文として使われるだけの家族ですら、幸せになってほしいと彼女は願っていた。
そんな彼女の話を聞いているのは心地よかった。
何の打算も無い彼女の純粋な優しさに、俺の荒んだ心は癒されていった。
だから俺は彼女の答えを否定する事をやめた。
「そうだな…。エリーゼの答えが正解だ」
どうかそのままの彼女でいてほしい。
そんな彼女を否定する存在から、俺は守る事を決めた。
「エリーゼ、なんでいつも計算式を書くところに謎の文章を書くんだ……?なぜ問題の内容を勝手に変えてしまうんだ?」
エリーゼの答案用紙を見た教師が戸惑いの表情で詰め寄ってきたところを、俺はすかさず間に入った。
「先生、エリーゼは間違っていた箇所を正したのです」
「いや、これ間違い探しをしろと言ってるわけじゃないぞ。ここには計算式を書けと言ってるんだ」
苛立ちを隠せなくなってきている教師を前にしても、俺は少しも引く気は無い。
エリーゼは何も間違えてない。
彼女の解答は俺が守る。
「エリーゼは幸せの方程式をここに書いたんだ」
「おい上手いこと言うな」
「先生、時間の無駄だからさっさと進めて」
呆れ返ったユーリの声で、教師は眉をピクピクさせながら、諦めた様にエリーゼの解答にマルを付けていった。
そんなやり取りはその後も何度か続いた。
「ルーカスはいつも先生と何の話をしているの?」
俺と教師が討論を終えた後、エリーゼは不思議そうに俺に聞いてきた。
「この世の不条理な現実を正すための討論をしているんだ」
「……あはは!ルーカスおもしろーい!」
絶対に何も理解していないエリーゼは無邪気に笑っていたが、それこそ俺が守りたいものだった。
彼女の笑顔が守れてよかった。
やがて、エリーゼの解答用紙は常に満点になった。
それがたとえ、本来の答えと違っていたとしても。
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