とある悪役令嬢は婚約破棄後に必ず処刑される。けれど彼女の最期はいつも笑顔だった。

三月叶姫

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side エドガー

もう一人の罪人

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「あの悪女がついに処刑されるんだな! ざまぁみろだ!!」
「聖女様を殺そうとするなんて、とんでもない女だよ!」
「悪い奴は早く死んじゃえー!!」

 処刑台のある広場へ着いた僕は、その異様な光景に言葉を失った。
 今から一人の命が失われようとしているのに、この場にいる人間は、その瞬間を今か今かと待ちわびている。
 彼女は何の罪も犯していない。それなのに、みんな彼女が悪者だと信じて疑っていない。

 サルウェルが姿を現すと、今度は大歓声が広場に響き渡った。
 国民の前で慈しむ様に微笑む本物の悪党を、今すぐにでも殺したくなる気持ちを唇を噛みしめて必死に耐えた。

 暫くして、アメリア嬢が処刑台へと連れてこられると、人々から心無い罵声が浴びせられた。
 少しやつれて、髪もツヤを失い整えられていない状態で、女性用の囚人服を着せられている。
 変わり果てた彼女の姿を見て、ショックで息が詰まった。

 一体彼女は今、どんな思いでこの場所にいるのだろうか? 婚約者に裏切られ、罵声を浴びせられ、殺される事を……。

 出来る事なら今すぐ彼女を助け出したい。
 僕の力を使えば不可能ではない。
 だが……。

 こんな苦しみ、知らない方がいいに決まってる。こんな辛い記憶を持って生き続けるよりも……。次こそ必ず助け出す。だから今回は……耐えるんだ。

 拳を強く握りしめ、すぐにでも彼女の元に駆け付けたい気持ちを押し殺した。
 彼女は処刑台の真ん中で膝をつき、顔をあげてニッコリと微笑んだ。
 それが彼女の強がりの笑みだと、僕はすぐに分かった。

 やはり君は辛い時、笑うんだな。あの時と同じ様に……。

 姿は変わってもあの時と変わらないその笑顔に、僕の胸は熱くなった。

 その時だった。
 前方にいた子供が、彼女の顔に石を投げつけ、それが当たった額からは血が流れだした。

 あのクソガキ!!何てことを!!

 少し驚いた表情で見開いた彼女の瞳からは、ポロポロと大粒の涙が溢れ出した。
 次の瞬間、彼女の顔が悲しみの表情へと一転した。

「お願い.......助けて.......もう、死にたくない……繰り返したくない……。 お願いだから、この人生を終わらせて.......」

 ………………なん……だって……?

 彼女の言葉。その意味を――
 僕は信じられなかった。信じたくなかった。
 嗚咽を繰り返し、泣き続ける彼女を見た人々は歓喜に沸いたが、僕の頭はただ混乱するだけだった

 まさか彼女も……時間を巻き戻っていた……?

 よく考えれば思い当たる節はあった。
 彼女とサルウェルは、聖女が現れるまでは本物の夫婦の様だと周りが羨むほど仲が良かった。
 だからこそ、僕も自分の初恋を諦めて、王太子の相手として相応しい女性と婚約した。

 それなのに、彼女がサルウェルに対する愛は全く無い様だと報告を受けた。それどころか、聖女と王太子が仲良くなる事を邪魔しないように立ち回っていた。
 そして、六回目と七回目の不可解な世界の崩壊……もしかしたらその時、彼女は自ら――。

 だとしたら……僕は一体、何回彼女を殺したんだ……?
 彼女を助けると息巻きながら、実際に彼女を苦しめ続けていたのは僕じゃないのか?
 それに僕はこの繰り返す時間を……彼女の死を利用して、自分の国の問題も解決しようとしていた。
 僕は結局あの時と同じ、自分の事しか考えていなかったんじゃないのか?

 その時、ザワついていた人々の声が途切れた。
 それが何を意味するか――気付くよりも先に

「アメリア!!!」

 とっさに彼女の名前を叫んでいた。
 
 次の瞬間、執行人の剣の一振により、彼女の首がコトリと落ちた。

 「あ……あああああああ!!!!」

 目の前で殺された彼女の姿を見て、僕は絶叫し、両膝を突いた。
 
 これを彼女は何度経験した? 死ぬまでの恐怖にどれだけ震えてきた?

「ああああああああああああ!!!」

 どんな思いで、最期に彼女は笑っていたんだ!!?

 彼女がこれまで経験してきた出来事を想像して、僕は胸が引き裂かれそうになる程に痛んだ。
 だけど彼女はもっと痛かったはずだ。
 苦しかったはずだ!!
 彼女の悲しみはこんなものじゃなかった!!
 
 全てが憎い。
 彼女を死に追いやったサルウェルも!
 彼女の死を喜ぶこいつらも!
 彼女を苦しめるこの世界も!
 彼女を終わらない苦しみへと導いてしまった僕自身も!!

 今もまだ、彼女の死を喜ぶ歓声が広場を埋めて尽くしている。

「そんなに処刑が好きなら見せてやるよ……本物の悪党の処刑をな!」

 僕は瞬間転移魔法を使用し、サルウェルのすぐ後ろへ降り立ち、その襟足を掴み取ると、またすぐに処刑台へと移動した。
 突然、処刑台に現れた僕達の姿を見た人達からは歓声が止んだ。 

「な!? なんだ貴様は――」
 
 サルウェルが僕の方へ振り返ったその顔面を、思いっきり殴りつけた。
 床にうつ伏せになって倒れた王太子の後頭部を足で押さえつけ、僕は腰に帯びていた剣を引き抜き振り上げた。
 間もなく世界は崩壊する。残された時間は少ない。

「お前も一度くらい死んでみせろ!!! 彼女の苦しみを!! 無念を!!! 味わってみせろ!! そして喜ぶんだな!! その苦しみが一度だけで済む事を!!!!」

「グゥッ……なにを――」

 何か言いかけたその言葉を待つことなく、僕はその首めがけて剣を振り下ろした。

 先程まで歓喜に沸いていたその場は悲鳴へと変わり、パニックに陥った人達が逃げ出していく。
 そして、いつものように世界がひび割れを起こし始めた。

 だけどまだ終わらない。
 もう一人の罪人を罰するまでは。
 僕は彼女の前で両膝をつき、手にしている剣を自らの首元に当てた。

「アメリア、本当にすまない。僕を許さなくてもいい。だけど僕はもう、君を二度と殺させはしない。次は必ず、僕が助けに行くから――」

 世界が崩壊する。
 それよりも早く、僕は自らの命に終止符を打った。



 さあ、彼女を迎えに行こう――。
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