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6. ダミー・ドール
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かつて、ひとつだった魂が欠けて落ち、もう一つの命となりました。さて、生まれるべき数奇な命は1世に1人。でもその1人が欠陥品になってしまったのならば、どちらも表に出すしかないでしょう?だから私は二人にそう告げたの。
「ふたりを別々の場所に産み落とします。いつか時間が巡って出会えた時に、アダムはイヴを守りなさい。そしてイヴ、あなたは……」
これは不測の事態です。でも…
これはこれで、楽しむと致しましょう。
~Some years ago…in the another world.~
まだ俺達があの世界にいた頃のことだ。
今となっては当然の物理法則なんて通じない、あの歪んだ世界にいた頃。俺とリリノアはかつてひとつの命だったことを創世者から聞かされた。そして、欠片の方は俺であることも。その時リリノアは眠っていた。だからその話を彼女が知っているのかどうかは、生を受けた後にも分からない。しかし彼女は俺という存在を作ってしまったことでいくつか欠陥が生まれてしまったのだ。これが、後ほど一族を騒がせた原因なのだが。
リリノアが失ったのは、《性》と《アドニスの記憶》だった。だから、彼女に受け継がれた神々の意志と記憶のなかに、アドニスという男神は存在していない。そして、《性》を無くした彼女は、本来男児に生まれるはずだったのに、誕生を前にして女児へと変わった。だから、預言者には
「次の神の子はアダム、箱舟を操るノアの魂をもつ男の子ですよ。」
と伝えてあったのだ。
しかし、不測の事態にも関わらず、創世者のパンドラは焦りの色一つ見せることは無かった。
『ねぇ、カイン。どうして一族は、神の子を《呪われた子》や《悪魔の子》なんて言うのかしらね。これは私たち神様からのプレゼントなのに…』
『悪魔だなんて嘘よ。大切な神様の愛子だわ。だから、ね?あなたにお願いがあるの。』
『神の子を、神の子として守りなさい。』
そうして2人の神、及び悪魔の子が現世へと送り出された。全く別の、全く違う環境の、同じ一族の元に。
そう、これが俺とリリノアが生まれる前の出来事だった。
●●●
~Time is now.~
カインside
オレの話を聞いたアン姉さんは、薄闇に光る蝋燭の灯りの陰に隠れて泣いていた。その涙にどんな意味が隠されていたのかを、俺はすべて読み取ってやることは出来ない。姉さんはいつも、その感情を黒い淵の眼鏡のレンズの向こうに霞ませているような気がするのだ。
「でもね、姉さん。たしかに俺は、一族に知られざる呪われた子なわけなんだけど、あくまでかけらに過ぎないんだよ。本体はリリノアで、俺はその1パーセントにも満たない欠片から無理やり作られた存在なんだ。だから、呪われた子って言うのも完全じゃなくて、創世者の意思だから曖昧なんだけど…取り敢えず成長は本体のリリノアに合わせて進んでいるんだ。まぁ、俺の方が2年早くズレてるけどね。だからとにかく、」
「待ちなさい、カイン。私が心配してるのはそこじゃないわ!」
アンは鼻をすすってから少し呼吸を整えるように小さなため息を漏らし、意を決したように口を開いた。
「カイン。その話を知っているのは他に誰かいるの?」
「…いや、いない。俺もリリノアも、誰にも話していないから。今初めて、誰かに話したのが姉さんだ。」
「そう…あのね、貴方には選択を迫ることになるわ。…いいえ、一族は選ばせてなどくれないわね。貴方、リリノアに子供を産ませなさい。」
「…は?」
「それが嫌なら…いや、だめ。嫌とか言ってたらリリノアが苦しむことになるわ。」
「だから、どういうことだ。全く話が読めないのだが。」
ハテナが浮かぶ俺をよそに、姉さんは頭を抱えるように言った。
「アダムとイヴの話は知ってるわね?アダムの骨の欠片から、イヴという初めての女性が生まれたの。つくられた、と言うわね。それが、性別は逆転したものの貴方達という形で具現化されてしまったのよ。ブルード族のしきたりを知っているかしら?次の呪われた子…つまり当主を産ませるために、現役の当主だけが子供を作らされるのよ。男ならイヴ、女ならアダムの血を探して、当主は呪われた子が生まれるまで同世代との子供を何人も産んで試すのよ。呪われた子かどうかは生まれて見なきゃわからないからね。」
「え、それじゃあノアが子供を生むってこと?でも、なんで俺なの。」
「同世代の《神の意志を継ぐ血》の濃さは、大体が均等に分かれるのよ。でも、貴方というアダムに近しい存在がいるなら、その分他の貴方の同世代の血が薄いという事なのよ。どういう事かもう分かるわね?」
彼女は右手を上げて眼鏡に触れて、それをやや乱暴に外してテーブルに置いた。
俺は言葉に詰まった。分からないわけが無くなってしまったじゃないか。
「血が薄ければ薄いほど、次の神の子は生まれないんだね。でも、それなら俺がいなくなれば…」
「そうね。何も知らない貴方としては、それが最善策に思えるでしょう。でもね、そんなことしたらノアがさらに苦しむって分からないの?生まれるはずのない異端児を求めて、それこそ同世代の男達の数だけ子供を産むことになる。それに、呪…神の子じゃないなら要らないと言う男が殆どだわ。」
「要らない…?」
「殺処分よ。まぁ、男児なら生かされるかもしれないけれど…。でも、力にならない女は殺されてしまうのよ。ダミー・ドールと呼ばれてね。」
「ダミー…でも、そんな話聞いたことない」
「でも事実よ。アンタが知らないだけ。」
「そんな、」
「私がそのダミードールなのよ!」
…。
時間が止まった気がした。勢いに任せて言い放ったアンも、ふと我に返って目を見開いて足元を見つめている。肩で息をして、ガタンと音を立てて椅子に座った。
「…私ね、双子の妹がいたのよ。貴方には、もう一人姉がいたの。でもね、私だけが生まれてすぐから全てにおいて秀でてしまったの。あと少しで、呪われた子だったろうって言われたくらいにね。だから生かされたの。普通なら、私みたいなのは処分されるわ。…私の妹のようにね。」
彼女は懐かしい思い出を引き出すように目を細めた。そしてメガネを手に取り、再びかける。
「じゃあ、俺が子供を産ませたとして、1回で神の子が生まれる可能性は?」
「ゼロよ。」
「は!?」
即答で何を言っているんだ!?さっきまでと話が違…
「1度目は生まれない。2度目も。私の研究で分かってきたことなの。何があっても、二人目まではダミー。そして、三人目からやっと、生まれる可能性が出てくるものなの。だから、少なくとも3人ね。」
「そんな…」
「だから、二人目までは早いうちに産ませておきなさい。でないと、一族から逃げきれないわ。」
逃げる、か。確かにそうだった。一族には、せめて従っているようには見せておかなければならない。でなければ、きっとノアも俺も、今のように自由に生きることなどできないから。おそらく、本邸に連れ戻されて半ば閉じ込めるように生かされるに決まっている。俺は自分の過去がトラウマのせいもあり、そんな生活が再び繰り返されるなら死んだ方がマシだなどと不謹慎にも思えてしまうだろう。
俺はもう一度、診察台に横たわるリリノアを見た。彼女は一体、どこまで知っているのだろうか?しかし、その華奢で病弱そうな有様を見ていると、守らねばと思えてくるのは運命共同体の性だからだろうか。
「…分かった。俺が一生をかけて、リリノアに寄り添えばいいんだね。」
「どういう事だか、ちゃんと理解してる?」
「もちろんさ。俺ならば、彼女の長い長い人生を共に生きることが出来る。そして…」
未だに薄らと涙を浮かべている姉に向かい、彼女がしてくれたようにふわりと抱きしめた。今はもう俺の方が背は高いけれど、姉はいつでも俺の頼もしい姉だった。
「…そして、心から愛せる。」
「うん。しっかりやるのよ、私の自慢の弟なんだから、失敗なんて許さないからね。」
窓の外を見ると、いつの間にか夜が明けていた。白い朝焼けが窓を照らして、蝋燭の炎も燃え尽きていた。一睡もしていないのに眠気はなく、頭はスッキリとしている。
「そうだ、貴方に1つ、いいことを教えてあげるわ。」
「いいこと?」
「そう。ひと月くらい前に、アンタが仕事あるからって言ってノアを私にあずけたでしょう?その時、あの子が言ってたのよ。まぁ、幼いから純粋にアンタのことを想って言ったのかもしれないけれどね?」
「…なんて?」
「カインの子しか産まないって言ったのよ、ノア。」
「なっ…」
「良かったわね、ちゃんと懐いてるじゃない。」
「でも、今は…」
「記憶がなくても、きっと意思は変わらないわ。あの子の中に住む神様たちが覚えているからね。アンタも、記憶がなくなったからって、今のリリノアを別人のように扱うんじゃないわよ?」
「…あぁ、そうだね。そうするよ。」
この年にもなって、まだ姉に説教されるとは思ってもみなかった。しかし、たしかにそのとおりかもしれない。
「ノア…」
そっとリリノアを撫でると、もう平熱に戻っていた。そろそろ目覚めるかな、なんて思っていると。
「…っ、カイン?ここ、は?」
「ノア、気がついたかい?どこか痛いところは?」
「大丈夫だよ。ねぇ、ここは…」
「俺の姉、アネモネの家だよ。」
「アネモネ…アンさん?」
俺は息を飲んだ。
「ノア!覚えているのかい!?」
リリノアは、ぬらりと濡れた大きな瞳を瞬かせ、小さく頷いた。
●●●
リリノアside
本邸にて気を失った私は、再び白の世界に来ていた。相変わらずそこにルリアの姿はないけれど、どこかから微かに呼ばれているような気がして、目を閉じて耳をすませた。
「リリノア…リリノア…」
どこから呼んでいるのだろう?近いようで遠い。が、遠いと思えば近い。ここは現ではない、夢の中だから何でもありのようだ。
「ルリア?いるの?」
「えぇ、えぇ。いるわよ。でもね、近くにはいけないのよ。」
「どうして?」
「気にしなくていいのよ。そんなことよりね、リリノア。」
彼女の声が急に近くなった。そして、切羽詰ったような苦しげな口調で、私の耳元に囁いた。
「ノア、ギリシャへ向かいなさい。」
ただ、それだけを伝えて彼女はいなくなった。
「ふたりを別々の場所に産み落とします。いつか時間が巡って出会えた時に、アダムはイヴを守りなさい。そしてイヴ、あなたは……」
これは不測の事態です。でも…
これはこれで、楽しむと致しましょう。
~Some years ago…in the another world.~
まだ俺達があの世界にいた頃のことだ。
今となっては当然の物理法則なんて通じない、あの歪んだ世界にいた頃。俺とリリノアはかつてひとつの命だったことを創世者から聞かされた。そして、欠片の方は俺であることも。その時リリノアは眠っていた。だからその話を彼女が知っているのかどうかは、生を受けた後にも分からない。しかし彼女は俺という存在を作ってしまったことでいくつか欠陥が生まれてしまったのだ。これが、後ほど一族を騒がせた原因なのだが。
リリノアが失ったのは、《性》と《アドニスの記憶》だった。だから、彼女に受け継がれた神々の意志と記憶のなかに、アドニスという男神は存在していない。そして、《性》を無くした彼女は、本来男児に生まれるはずだったのに、誕生を前にして女児へと変わった。だから、預言者には
「次の神の子はアダム、箱舟を操るノアの魂をもつ男の子ですよ。」
と伝えてあったのだ。
しかし、不測の事態にも関わらず、創世者のパンドラは焦りの色一つ見せることは無かった。
『ねぇ、カイン。どうして一族は、神の子を《呪われた子》や《悪魔の子》なんて言うのかしらね。これは私たち神様からのプレゼントなのに…』
『悪魔だなんて嘘よ。大切な神様の愛子だわ。だから、ね?あなたにお願いがあるの。』
『神の子を、神の子として守りなさい。』
そうして2人の神、及び悪魔の子が現世へと送り出された。全く別の、全く違う環境の、同じ一族の元に。
そう、これが俺とリリノアが生まれる前の出来事だった。
●●●
~Time is now.~
カインside
オレの話を聞いたアン姉さんは、薄闇に光る蝋燭の灯りの陰に隠れて泣いていた。その涙にどんな意味が隠されていたのかを、俺はすべて読み取ってやることは出来ない。姉さんはいつも、その感情を黒い淵の眼鏡のレンズの向こうに霞ませているような気がするのだ。
「でもね、姉さん。たしかに俺は、一族に知られざる呪われた子なわけなんだけど、あくまでかけらに過ぎないんだよ。本体はリリノアで、俺はその1パーセントにも満たない欠片から無理やり作られた存在なんだ。だから、呪われた子って言うのも完全じゃなくて、創世者の意思だから曖昧なんだけど…取り敢えず成長は本体のリリノアに合わせて進んでいるんだ。まぁ、俺の方が2年早くズレてるけどね。だからとにかく、」
「待ちなさい、カイン。私が心配してるのはそこじゃないわ!」
アンは鼻をすすってから少し呼吸を整えるように小さなため息を漏らし、意を決したように口を開いた。
「カイン。その話を知っているのは他に誰かいるの?」
「…いや、いない。俺もリリノアも、誰にも話していないから。今初めて、誰かに話したのが姉さんだ。」
「そう…あのね、貴方には選択を迫ることになるわ。…いいえ、一族は選ばせてなどくれないわね。貴方、リリノアに子供を産ませなさい。」
「…は?」
「それが嫌なら…いや、だめ。嫌とか言ってたらリリノアが苦しむことになるわ。」
「だから、どういうことだ。全く話が読めないのだが。」
ハテナが浮かぶ俺をよそに、姉さんは頭を抱えるように言った。
「アダムとイヴの話は知ってるわね?アダムの骨の欠片から、イヴという初めての女性が生まれたの。つくられた、と言うわね。それが、性別は逆転したものの貴方達という形で具現化されてしまったのよ。ブルード族のしきたりを知っているかしら?次の呪われた子…つまり当主を産ませるために、現役の当主だけが子供を作らされるのよ。男ならイヴ、女ならアダムの血を探して、当主は呪われた子が生まれるまで同世代との子供を何人も産んで試すのよ。呪われた子かどうかは生まれて見なきゃわからないからね。」
「え、それじゃあノアが子供を生むってこと?でも、なんで俺なの。」
「同世代の《神の意志を継ぐ血》の濃さは、大体が均等に分かれるのよ。でも、貴方というアダムに近しい存在がいるなら、その分他の貴方の同世代の血が薄いという事なのよ。どういう事かもう分かるわね?」
彼女は右手を上げて眼鏡に触れて、それをやや乱暴に外してテーブルに置いた。
俺は言葉に詰まった。分からないわけが無くなってしまったじゃないか。
「血が薄ければ薄いほど、次の神の子は生まれないんだね。でも、それなら俺がいなくなれば…」
「そうね。何も知らない貴方としては、それが最善策に思えるでしょう。でもね、そんなことしたらノアがさらに苦しむって分からないの?生まれるはずのない異端児を求めて、それこそ同世代の男達の数だけ子供を産むことになる。それに、呪…神の子じゃないなら要らないと言う男が殆どだわ。」
「要らない…?」
「殺処分よ。まぁ、男児なら生かされるかもしれないけれど…。でも、力にならない女は殺されてしまうのよ。ダミー・ドールと呼ばれてね。」
「ダミー…でも、そんな話聞いたことない」
「でも事実よ。アンタが知らないだけ。」
「そんな、」
「私がそのダミードールなのよ!」
…。
時間が止まった気がした。勢いに任せて言い放ったアンも、ふと我に返って目を見開いて足元を見つめている。肩で息をして、ガタンと音を立てて椅子に座った。
「…私ね、双子の妹がいたのよ。貴方には、もう一人姉がいたの。でもね、私だけが生まれてすぐから全てにおいて秀でてしまったの。あと少しで、呪われた子だったろうって言われたくらいにね。だから生かされたの。普通なら、私みたいなのは処分されるわ。…私の妹のようにね。」
彼女は懐かしい思い出を引き出すように目を細めた。そしてメガネを手に取り、再びかける。
「じゃあ、俺が子供を産ませたとして、1回で神の子が生まれる可能性は?」
「ゼロよ。」
「は!?」
即答で何を言っているんだ!?さっきまでと話が違…
「1度目は生まれない。2度目も。私の研究で分かってきたことなの。何があっても、二人目まではダミー。そして、三人目からやっと、生まれる可能性が出てくるものなの。だから、少なくとも3人ね。」
「そんな…」
「だから、二人目までは早いうちに産ませておきなさい。でないと、一族から逃げきれないわ。」
逃げる、か。確かにそうだった。一族には、せめて従っているようには見せておかなければならない。でなければ、きっとノアも俺も、今のように自由に生きることなどできないから。おそらく、本邸に連れ戻されて半ば閉じ込めるように生かされるに決まっている。俺は自分の過去がトラウマのせいもあり、そんな生活が再び繰り返されるなら死んだ方がマシだなどと不謹慎にも思えてしまうだろう。
俺はもう一度、診察台に横たわるリリノアを見た。彼女は一体、どこまで知っているのだろうか?しかし、その華奢で病弱そうな有様を見ていると、守らねばと思えてくるのは運命共同体の性だからだろうか。
「…分かった。俺が一生をかけて、リリノアに寄り添えばいいんだね。」
「どういう事だか、ちゃんと理解してる?」
「もちろんさ。俺ならば、彼女の長い長い人生を共に生きることが出来る。そして…」
未だに薄らと涙を浮かべている姉に向かい、彼女がしてくれたようにふわりと抱きしめた。今はもう俺の方が背は高いけれど、姉はいつでも俺の頼もしい姉だった。
「…そして、心から愛せる。」
「うん。しっかりやるのよ、私の自慢の弟なんだから、失敗なんて許さないからね。」
窓の外を見ると、いつの間にか夜が明けていた。白い朝焼けが窓を照らして、蝋燭の炎も燃え尽きていた。一睡もしていないのに眠気はなく、頭はスッキリとしている。
「そうだ、貴方に1つ、いいことを教えてあげるわ。」
「いいこと?」
「そう。ひと月くらい前に、アンタが仕事あるからって言ってノアを私にあずけたでしょう?その時、あの子が言ってたのよ。まぁ、幼いから純粋にアンタのことを想って言ったのかもしれないけれどね?」
「…なんて?」
「カインの子しか産まないって言ったのよ、ノア。」
「なっ…」
「良かったわね、ちゃんと懐いてるじゃない。」
「でも、今は…」
「記憶がなくても、きっと意思は変わらないわ。あの子の中に住む神様たちが覚えているからね。アンタも、記憶がなくなったからって、今のリリノアを別人のように扱うんじゃないわよ?」
「…あぁ、そうだね。そうするよ。」
この年にもなって、まだ姉に説教されるとは思ってもみなかった。しかし、たしかにそのとおりかもしれない。
「ノア…」
そっとリリノアを撫でると、もう平熱に戻っていた。そろそろ目覚めるかな、なんて思っていると。
「…っ、カイン?ここ、は?」
「ノア、気がついたかい?どこか痛いところは?」
「大丈夫だよ。ねぇ、ここは…」
「俺の姉、アネモネの家だよ。」
「アネモネ…アンさん?」
俺は息を飲んだ。
「ノア!覚えているのかい!?」
リリノアは、ぬらりと濡れた大きな瞳を瞬かせ、小さく頷いた。
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リリノアside
本邸にて気を失った私は、再び白の世界に来ていた。相変わらずそこにルリアの姿はないけれど、どこかから微かに呼ばれているような気がして、目を閉じて耳をすませた。
「リリノア…リリノア…」
どこから呼んでいるのだろう?近いようで遠い。が、遠いと思えば近い。ここは現ではない、夢の中だから何でもありのようだ。
「ルリア?いるの?」
「えぇ、えぇ。いるわよ。でもね、近くにはいけないのよ。」
「どうして?」
「気にしなくていいのよ。そんなことよりね、リリノア。」
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