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ミルクティー大騒動~新たなるミルクティーを求めて三千里~
電車って乗っているとなんか黄昏たくなるよね
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「そうは言っても上りか下りかだな~」
ここに来て電車に乗るのはこれで3回目。
まさか今日乗ることになるなんて。
他の街のことなんて、全く分からない。
ここからは手当たり次第に行くしかない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り、鉄砲撃ってばんばんばん、柿の種っと」
困った時のおまじないによって、下り方面に決まった。
まず一つ先の駅に行くことにした。一つ一つ降りて確認するしかない。
でも出来るだけ急がなきゃ。
まる一日かかってしまいそうな予感がする。
いや、ほぼほぼそうなる可能性が大いに高い。
次の電車は、って見る前に、まずどれに乗るかよな。
正直どれでもいいんよなぁ~。どこに何があるとか全然分かってないし。
とりあえず、行ったことがある山手線に乗ることに。
次の電車の時間は……あと8分後か。思ったより時間があるようで良かった。
いや、待てよ。ここからスムーズにホームまでたどり着くとは考えられない。
8分、それは余裕とも言い難く、かと言ってぎりぎりでもない。
とても微妙な時間であった。
ほんとはICカードをきちんと持っていたけど、自宅に置いてきた。
この市内で流石に買えるだろうと思っていたから。
てか普通はそう思うじゃん?! 私が都会をなめ過ぎていたのかしら。
そんなことを考えている暇はない。
さっさと一駅分の切符を買う。
改札に通し、案内の看板に従って進んで行く、早歩きで。
走ったら人にぶつかって危ないからね。本当は走りたいけど。
そしてどうにか迷うことなくたどり着いた。
この階段を上れば、目的地のホームだ。
多分、時間も余裕があるはずだ。迷ったとしても一瞬だったし。
ちょっとだけ時間ロスしたけど、多分セーフでしょ。
階段をどんどんと上っていく。
ちょうど上階段を上りきる半分辺りのこと。駅メロが聞こえてきた。
そしてアナウンスも。
「えっ待って、そんなに時間喰ってた感じ?!」
出来る限り急いで、でも気をつけて駆け足で上ってゆく。
ホームが見えた時にはもう電車が着いていた。
それどころかもう発車しそうな雰囲気だ。
チラチラと素早く周りを見る。近くに人は誰も居ない。
誰も居ないから走ろうかと思った。
でも駆け込み乗車は危ない。
まぁそこまで危険を冒してまで乗りたくないし。
なんて思っていたのに、気がつくと走り出していた。
そんなこと言いつつ、やっぱり出来る限り早く乗りたいのね。
その衝動のまま任せ走る。周りに人は居ないから大丈夫。
走ると言っても数メートル、走るだけ。
走って何秒かしたくらいのこと。電車は発車してしまった。
走った意味なんてなかったじゃん!
そんなことは最初から分かっていたつもりだったのに。
いざ間に合わなかったとなると、少しショックを受けてしまう。
電車を横目に見ていたので、とりあえずきちんと前を見る。
なんと前には人が居た。
黒髪ロングの制服を着ていた少女だ。
目と鼻の先と言っても過言ではない距離。
そして少女の方は猫背になって、俯いている。
こっちのことに全く気付いていない。このままじゃ正面衝突してしまう。
今出来る行動は一つ。
「危ないからっ! どーいーてーっ!」
びくっと肩を震わせ、勢いよくこちらを振り向く少女。
瞬時にこの状況を理解したのだろう。
その言葉を聞いてさっと後ろに下がった。人間の本能的な危機察知力、恐るべし。
ただ一つだけ問題が。後ろに下がるときに少女は鞄を手放してしまった。
よって、このまま走り続けたら通るであろう道に、鞄だけが残る。
「えっ」
まぁどうなるのかはお分かりの通り。
鞄に躓き、盛大に転ぶのであった。
大きな音が響き渡ったと同時に、私の視界は真っ暗になっていた。
それは地面に倒れ込んでいるから、だからそれは良いんだけど。
問題なのはその時に発生した怪我。
めっちゃ痛い。想像以上に痛すぎる。
「だっ……大丈夫……です……かっ……?!」
凄く心配してくれているんだろうなぁ、声色でそう伝わってくる。
大丈夫、と答えたいけど、少なくともそうではないからなぁ。
「大丈夫……って言いたいけど、限りなくアウトに近いセーフかも……」
「それって……、ほぼほぼ……アウト……では……あり……ませんか?」
言われてみたらそうかも。でも感覚的にだけど骨折はしてなさそうだからなぁ。
「うーん、骨は折れてなさそうだからねぇ~。だからその表現にしたのさ」
「なっ……なるほど」
納得してくれたみたいだ。とりあえず気になることがある。
この時間帯に高校生は居ないはず。
つまりこの子は何らかの理由で学校を休んでいると思われる。
そして今、同じ方面の電車に乗ろうとしている。
一瞬見ただけだけど、何か深い事情がありそう。
学生生活を楽しんでいるようには見えなかったし。
とりあえずちょっと聞いてみるか。
もし行き先が一緒なら、良き旅人になりそうな感じがするし。
まだ痛みがあるから倒れたまま話しかけるとしよう。
「君に聞きたいことがあるんだけど~」
「わっ……私……ですか……。あっ……あの……どちら様……です……か」
ありゃま、なんか想像以上に怯えてる。
学校をサボっていることを通報されちゃうって思ってるのかしら。
ぜ~んぜん、そんなことつもりないのに。
てかどんな事情かも分からずに、そんなことしないし。
ここは敵意がないことを伝えねば。
「まぁ名前は分からなくてもいいじゃないかっ。私が知りたいのはあんたが今からどこに行くかってこと。それ以外、今は聞かないから安心しな」
こう伝えれば大丈夫だろう。
顔が見えないからどういう反応しているか分かんないけどね。
「ほっ……本当に……ですか……。学校の人に……言ったり……しま……せんか」
理由は分からないけど予想は的中した。
てかそれくらいしか思いつかない。
「言わない言わないっ。私はね、新発売のミルクティーを買いに行くの。ここにはもうどこにもないから、とりあえず隣の駅にね。それであんたも隣の駅に行くなら、一緒に行きたいな~ってだけの話よ」
これに限る。知りたいのはたったこれだけなのだ。
「えっ……同じ……です。私も……同じ目的です。しかも、行く場所も……同じです」
偶然にも目的も行先も一緒。
これは奇跡だ。これを奇跡と呼ばずに何というものか。
「えっ嘘~!」
あまりの嬉しさに痛みのことを忘れ、勢いよく起き上がる。
「じゃあさ今日はさ、今から一緒に行動しな~い?」
少女は少し戸惑いながらも首を縦に頷いた。
「やった~! 嬉しい~ありがと~」
私はつい舞い上がり、少女を抱きしめそうになった。
でも転んで服が汚れているだろうと思い、エアーハグをしたのだった。
「そっ……そんなに……嬉しいもの……ですか? ひっ……ひと……一人じゃ……ないだけで」
「そうよ、こんな些細なことで幸せな気分になれるのよ。少なくとも私は、ね」
ひょんなことから一緒に行く人を見つけた。
予想外の展開だけど、とても喜ばしい。
この長くも短くなるかもしれない旅に戦友が加わった。
ともかく彼女ともう少し仲良くなりたい。
ここは自己紹介しかないだろう。
近くのベンチに座る。
少女もささっと鞄を取り、少し距離を開けて座った。
そして改めて向き合う。
「せっかく一緒に行くことになったんだから、軽く自己紹介しよっか。あぁちなみに名前はもう何でもいいよ、ただし本名以外ね。私も本名じゃない名前を言うつもりだし。名前は本当に何でもいいよっ。名前らしいものでも良ければ、お菓子の名前でも文房具でもなんでも良きっ」
「本名……以外……です……か、そんなこと……初めて……言われました」
「いわゆるマイルールってやつね。やっぱり色んな名前を使ってみたいし。本名はまたの機会ってことでね」
「はっ……はぁ……」
少女は困惑気味、まぁそりゃそうか。本名以外って限定されたらそうなるよね。
普通の人なら当然だ。
まぁ気にしたって仕方がないし。
コホンと咳ばらいをしてから自己紹介を始めた。
「改めまして自己紹介っ。私の名前は伊集院ほのかっ、19歳だよんっ。甘い物や可愛いものやミルクティーが大好き。特に優雅なひと時様のはもう最っ高! The王道だねっ。一応フリーランスってやつだよ~。目指せ個人事業主っ!」
少女はポカンとしている。
「いっ……伊集院……ですか」
「そ、なんかさお金持ちっぽくない? お嬢様って感じがしてさ。エレガントで華やかで可憐で美しい女性を連想させるから、今日はこれ」
「今日ってことは……毎日違う名前……を?」
「その通~り! 気分によって名前を変えてるのさ。と言っても、あまり名乗る場面がないから意味が無いけどね~。あんたが初めてかも、こうやって名乗るの。いつも考えるだけ考えて、誰にも言えずじまいだからさ~」
と言ってるけど、もしかしたら名乗ったことがあるかもしれない。
覚えていないだけで。
基本的に今を生きているから、過去のことはあんまり覚えていない。
本当に印象的なことは覚えているけど。修学旅行とか卒業式とか。
「次は……私の番……ですね」
少女は大げさなくらいに深呼吸をした。
きっと緊張しているのだろう。
「私の名前は……ココア……マカロン……です。じゅっ……17歳です……高校生です……あっ……あの……」
「ん、どしたの」
「本当に……学校の人に……言わない……ですよね……」
「だーいじょうぶ、だーいじょうぶ! 私ココアちゃんの学校知らないしっ」
右手の親指を立ててウインクをしてみせる。
「そう……ですか……。あの……良かったらもう少し詳しく……言っても大丈夫ですか……。もっと話したい……ので」
「いいよいいよーっ。ぜんっぜん大丈夫! がんがん話しちゃってぇ~」
私の言葉を聞いた途端に、少しだけ表情が柔らかくなっていた。
どうやら少しだけ打ち解けたみたい。
「輝愛高校に……通ってます……今日は……授業があったのですけど……。そんな気分じゃなくて……なんなら凄く消えてしまいたいな……って気分で……。りっ……理由があるんですけど……きっ聞いてくれますか……」
「うん、いいよ、聞いてあげるから話してごらん」
彼女が話した内容はこうだ。
家では両親と父方の祖父母と一緒に暮らしている。
学校でも決して多くではないけど、きちんと友達が数人いる。
特にいじめられることもなく、高校生活を楽しんでいるとのこと。
問題なのは家にいる父方の祖父母だ。
まず祖父はとても心配症、だから何回も色んなことを確認してくる。
少し問題が起きただけで報告しに来る。
正直に言うと鬱陶しい。
そして自分では何もしない癖に、横から何度も何度も口を出してくる。
更に喋りのスピードが基本的に少し速い。
その上にぼそぼそだからいまいち聞き取りにくい時がある。
これだけでも十分にストレスは溜まるのに、祖母にも問題があるのだ。
祖母は母の代わりに時々料理を作ってくれたり、家事もしてくれる。
様々な人と仲が良くて、よく縁側でお話をしているのをよく見かける。
世間体がとても良い人と言えるだろう。
しかし時々、母に意地悪を言ったり、わけの分からないことでキレたりする。
昔の人間だから、と言えばそれで片付くかもしれない。
けど嫁は如何なる時もきちんと家事をこなすもの、と考えているとのこと。
あまりにも考え方が昔過ぎる。
母はハンドメイドのお店をネット上で運営している。
だから基本的に在宅。
もちろんきちんと働いていることをみんな知っている。
それなのに、料理は嫁が作って当たり前などと考えているのだ。
料理を作っていると言ったけど、圧倒的に母が作っている回数の方が多い。
祖母も最近は少し別の料理も作るようになった。
母が料理を作られない時は、ずっとカレーライスにきゅうりの漬物ばかりだった。
それ以外は一切作らない、なんて時期もあった。
それには理由がある。
そう、認知症だ。去年の三月辺りからそれらしい症状が出て来た。
だから何回も同じことを聞いてくる。その上に聴力も下がる始末だ。
祖父母の会話なんて、ずっと聞いていると気が遠くなりそうになる。
もう少しゆっくり喋ればいいのに、喋らないから何度も祖母が聞き返す。
はっきり喋らないから尚更だ。
しかも内容に少し耳を澄まして見ると。
どうでもいい世間話だったり、全く二人は気にしなくてもいいことばかり。
ちなみに父は普通に会社で働いているサラリーマン。
どんなことをしているかは詳しく知らないとのこと。
何回かストレスで頭がおかしくなりそうになったけれど。
友達に話したり、SNSで非公開の誰もフォローしていないアカウントで、愚痴ったりとどうにかやっていけていた。
しかし、もう無理だと思ってしまう出来事が起きた。
それは昨日の夜の話になる。
ここに来て電車に乗るのはこれで3回目。
まさか今日乗ることになるなんて。
他の街のことなんて、全く分からない。
ここからは手当たり次第に行くしかない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り、鉄砲撃ってばんばんばん、柿の種っと」
困った時のおまじないによって、下り方面に決まった。
まず一つ先の駅に行くことにした。一つ一つ降りて確認するしかない。
でも出来るだけ急がなきゃ。
まる一日かかってしまいそうな予感がする。
いや、ほぼほぼそうなる可能性が大いに高い。
次の電車は、って見る前に、まずどれに乗るかよな。
正直どれでもいいんよなぁ~。どこに何があるとか全然分かってないし。
とりあえず、行ったことがある山手線に乗ることに。
次の電車の時間は……あと8分後か。思ったより時間があるようで良かった。
いや、待てよ。ここからスムーズにホームまでたどり着くとは考えられない。
8分、それは余裕とも言い難く、かと言ってぎりぎりでもない。
とても微妙な時間であった。
ほんとはICカードをきちんと持っていたけど、自宅に置いてきた。
この市内で流石に買えるだろうと思っていたから。
てか普通はそう思うじゃん?! 私が都会をなめ過ぎていたのかしら。
そんなことを考えている暇はない。
さっさと一駅分の切符を買う。
改札に通し、案内の看板に従って進んで行く、早歩きで。
走ったら人にぶつかって危ないからね。本当は走りたいけど。
そしてどうにか迷うことなくたどり着いた。
この階段を上れば、目的地のホームだ。
多分、時間も余裕があるはずだ。迷ったとしても一瞬だったし。
ちょっとだけ時間ロスしたけど、多分セーフでしょ。
階段をどんどんと上っていく。
ちょうど上階段を上りきる半分辺りのこと。駅メロが聞こえてきた。
そしてアナウンスも。
「えっ待って、そんなに時間喰ってた感じ?!」
出来る限り急いで、でも気をつけて駆け足で上ってゆく。
ホームが見えた時にはもう電車が着いていた。
それどころかもう発車しそうな雰囲気だ。
チラチラと素早く周りを見る。近くに人は誰も居ない。
誰も居ないから走ろうかと思った。
でも駆け込み乗車は危ない。
まぁそこまで危険を冒してまで乗りたくないし。
なんて思っていたのに、気がつくと走り出していた。
そんなこと言いつつ、やっぱり出来る限り早く乗りたいのね。
その衝動のまま任せ走る。周りに人は居ないから大丈夫。
走ると言っても数メートル、走るだけ。
走って何秒かしたくらいのこと。電車は発車してしまった。
走った意味なんてなかったじゃん!
そんなことは最初から分かっていたつもりだったのに。
いざ間に合わなかったとなると、少しショックを受けてしまう。
電車を横目に見ていたので、とりあえずきちんと前を見る。
なんと前には人が居た。
黒髪ロングの制服を着ていた少女だ。
目と鼻の先と言っても過言ではない距離。
そして少女の方は猫背になって、俯いている。
こっちのことに全く気付いていない。このままじゃ正面衝突してしまう。
今出来る行動は一つ。
「危ないからっ! どーいーてーっ!」
びくっと肩を震わせ、勢いよくこちらを振り向く少女。
瞬時にこの状況を理解したのだろう。
その言葉を聞いてさっと後ろに下がった。人間の本能的な危機察知力、恐るべし。
ただ一つだけ問題が。後ろに下がるときに少女は鞄を手放してしまった。
よって、このまま走り続けたら通るであろう道に、鞄だけが残る。
「えっ」
まぁどうなるのかはお分かりの通り。
鞄に躓き、盛大に転ぶのであった。
大きな音が響き渡ったと同時に、私の視界は真っ暗になっていた。
それは地面に倒れ込んでいるから、だからそれは良いんだけど。
問題なのはその時に発生した怪我。
めっちゃ痛い。想像以上に痛すぎる。
「だっ……大丈夫……です……かっ……?!」
凄く心配してくれているんだろうなぁ、声色でそう伝わってくる。
大丈夫、と答えたいけど、少なくともそうではないからなぁ。
「大丈夫……って言いたいけど、限りなくアウトに近いセーフかも……」
「それって……、ほぼほぼ……アウト……では……あり……ませんか?」
言われてみたらそうかも。でも感覚的にだけど骨折はしてなさそうだからなぁ。
「うーん、骨は折れてなさそうだからねぇ~。だからその表現にしたのさ」
「なっ……なるほど」
納得してくれたみたいだ。とりあえず気になることがある。
この時間帯に高校生は居ないはず。
つまりこの子は何らかの理由で学校を休んでいると思われる。
そして今、同じ方面の電車に乗ろうとしている。
一瞬見ただけだけど、何か深い事情がありそう。
学生生活を楽しんでいるようには見えなかったし。
とりあえずちょっと聞いてみるか。
もし行き先が一緒なら、良き旅人になりそうな感じがするし。
まだ痛みがあるから倒れたまま話しかけるとしよう。
「君に聞きたいことがあるんだけど~」
「わっ……私……ですか……。あっ……あの……どちら様……です……か」
ありゃま、なんか想像以上に怯えてる。
学校をサボっていることを通報されちゃうって思ってるのかしら。
ぜ~んぜん、そんなことつもりないのに。
てかどんな事情かも分からずに、そんなことしないし。
ここは敵意がないことを伝えねば。
「まぁ名前は分からなくてもいいじゃないかっ。私が知りたいのはあんたが今からどこに行くかってこと。それ以外、今は聞かないから安心しな」
こう伝えれば大丈夫だろう。
顔が見えないからどういう反応しているか分かんないけどね。
「ほっ……本当に……ですか……。学校の人に……言ったり……しま……せんか」
理由は分からないけど予想は的中した。
てかそれくらいしか思いつかない。
「言わない言わないっ。私はね、新発売のミルクティーを買いに行くの。ここにはもうどこにもないから、とりあえず隣の駅にね。それであんたも隣の駅に行くなら、一緒に行きたいな~ってだけの話よ」
これに限る。知りたいのはたったこれだけなのだ。
「えっ……同じ……です。私も……同じ目的です。しかも、行く場所も……同じです」
偶然にも目的も行先も一緒。
これは奇跡だ。これを奇跡と呼ばずに何というものか。
「えっ嘘~!」
あまりの嬉しさに痛みのことを忘れ、勢いよく起き上がる。
「じゃあさ今日はさ、今から一緒に行動しな~い?」
少女は少し戸惑いながらも首を縦に頷いた。
「やった~! 嬉しい~ありがと~」
私はつい舞い上がり、少女を抱きしめそうになった。
でも転んで服が汚れているだろうと思い、エアーハグをしたのだった。
「そっ……そんなに……嬉しいもの……ですか? ひっ……ひと……一人じゃ……ないだけで」
「そうよ、こんな些細なことで幸せな気分になれるのよ。少なくとも私は、ね」
ひょんなことから一緒に行く人を見つけた。
予想外の展開だけど、とても喜ばしい。
この長くも短くなるかもしれない旅に戦友が加わった。
ともかく彼女ともう少し仲良くなりたい。
ここは自己紹介しかないだろう。
近くのベンチに座る。
少女もささっと鞄を取り、少し距離を開けて座った。
そして改めて向き合う。
「せっかく一緒に行くことになったんだから、軽く自己紹介しよっか。あぁちなみに名前はもう何でもいいよ、ただし本名以外ね。私も本名じゃない名前を言うつもりだし。名前は本当に何でもいいよっ。名前らしいものでも良ければ、お菓子の名前でも文房具でもなんでも良きっ」
「本名……以外……です……か、そんなこと……初めて……言われました」
「いわゆるマイルールってやつね。やっぱり色んな名前を使ってみたいし。本名はまたの機会ってことでね」
「はっ……はぁ……」
少女は困惑気味、まぁそりゃそうか。本名以外って限定されたらそうなるよね。
普通の人なら当然だ。
まぁ気にしたって仕方がないし。
コホンと咳ばらいをしてから自己紹介を始めた。
「改めまして自己紹介っ。私の名前は伊集院ほのかっ、19歳だよんっ。甘い物や可愛いものやミルクティーが大好き。特に優雅なひと時様のはもう最っ高! The王道だねっ。一応フリーランスってやつだよ~。目指せ個人事業主っ!」
少女はポカンとしている。
「いっ……伊集院……ですか」
「そ、なんかさお金持ちっぽくない? お嬢様って感じがしてさ。エレガントで華やかで可憐で美しい女性を連想させるから、今日はこれ」
「今日ってことは……毎日違う名前……を?」
「その通~り! 気分によって名前を変えてるのさ。と言っても、あまり名乗る場面がないから意味が無いけどね~。あんたが初めてかも、こうやって名乗るの。いつも考えるだけ考えて、誰にも言えずじまいだからさ~」
と言ってるけど、もしかしたら名乗ったことがあるかもしれない。
覚えていないだけで。
基本的に今を生きているから、過去のことはあんまり覚えていない。
本当に印象的なことは覚えているけど。修学旅行とか卒業式とか。
「次は……私の番……ですね」
少女は大げさなくらいに深呼吸をした。
きっと緊張しているのだろう。
「私の名前は……ココア……マカロン……です。じゅっ……17歳です……高校生です……あっ……あの……」
「ん、どしたの」
「本当に……学校の人に……言わない……ですよね……」
「だーいじょうぶ、だーいじょうぶ! 私ココアちゃんの学校知らないしっ」
右手の親指を立ててウインクをしてみせる。
「そう……ですか……。あの……良かったらもう少し詳しく……言っても大丈夫ですか……。もっと話したい……ので」
「いいよいいよーっ。ぜんっぜん大丈夫! がんがん話しちゃってぇ~」
私の言葉を聞いた途端に、少しだけ表情が柔らかくなっていた。
どうやら少しだけ打ち解けたみたい。
「輝愛高校に……通ってます……今日は……授業があったのですけど……。そんな気分じゃなくて……なんなら凄く消えてしまいたいな……って気分で……。りっ……理由があるんですけど……きっ聞いてくれますか……」
「うん、いいよ、聞いてあげるから話してごらん」
彼女が話した内容はこうだ。
家では両親と父方の祖父母と一緒に暮らしている。
学校でも決して多くではないけど、きちんと友達が数人いる。
特にいじめられることもなく、高校生活を楽しんでいるとのこと。
問題なのは家にいる父方の祖父母だ。
まず祖父はとても心配症、だから何回も色んなことを確認してくる。
少し問題が起きただけで報告しに来る。
正直に言うと鬱陶しい。
そして自分では何もしない癖に、横から何度も何度も口を出してくる。
更に喋りのスピードが基本的に少し速い。
その上にぼそぼそだからいまいち聞き取りにくい時がある。
これだけでも十分にストレスは溜まるのに、祖母にも問題があるのだ。
祖母は母の代わりに時々料理を作ってくれたり、家事もしてくれる。
様々な人と仲が良くて、よく縁側でお話をしているのをよく見かける。
世間体がとても良い人と言えるだろう。
しかし時々、母に意地悪を言ったり、わけの分からないことでキレたりする。
昔の人間だから、と言えばそれで片付くかもしれない。
けど嫁は如何なる時もきちんと家事をこなすもの、と考えているとのこと。
あまりにも考え方が昔過ぎる。
母はハンドメイドのお店をネット上で運営している。
だから基本的に在宅。
もちろんきちんと働いていることをみんな知っている。
それなのに、料理は嫁が作って当たり前などと考えているのだ。
料理を作っていると言ったけど、圧倒的に母が作っている回数の方が多い。
祖母も最近は少し別の料理も作るようになった。
母が料理を作られない時は、ずっとカレーライスにきゅうりの漬物ばかりだった。
それ以外は一切作らない、なんて時期もあった。
それには理由がある。
そう、認知症だ。去年の三月辺りからそれらしい症状が出て来た。
だから何回も同じことを聞いてくる。その上に聴力も下がる始末だ。
祖父母の会話なんて、ずっと聞いていると気が遠くなりそうになる。
もう少しゆっくり喋ればいいのに、喋らないから何度も祖母が聞き返す。
はっきり喋らないから尚更だ。
しかも内容に少し耳を澄まして見ると。
どうでもいい世間話だったり、全く二人は気にしなくてもいいことばかり。
ちなみに父は普通に会社で働いているサラリーマン。
どんなことをしているかは詳しく知らないとのこと。
何回かストレスで頭がおかしくなりそうになったけれど。
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