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第九話 村の長
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三人は、村長の自宅までやって来た。
村長宅は周囲の住居とは一風変わり、構造からして崩れにくい堅牢な造りをしている。木造ながら重厚感があり、豪華な装飾が施されていた。なぜか扉の横には、村長本人の銅像まで置かれている。
「いつ来ても、この家はでけえよなー。あと、この銅像、ほんと趣味悪いよな。」
ソウはそう言いながら、村長の銅像をぺちぺちと叩いて確かめている。
「おい、お前。そんなベタベタ銅像触るなよ。」
ラルクは呆れたように言った。
――コンコン。
ゲンは、相手に聞こえるよう、やや強めに扉をノックした。
「爺さん、いるか? 狩猟班遊撃のゲンだ。バガールの件から戻った。いるなら出てきてくれ。」
すると、きぃ……と音を立てて扉が開いた。
いかにもという風貌の白髪の老人が姿を現す。顎髭はぼわっと伸びているが、その佇まいには歴戦を潜り抜けてきた猛者の風格があった。村長は、見た目とは似つかわしくない木製の長いジョウロを、杖代わりにして立っていた。
(相変わらず、ヤンの爺さんって変なんだよなぁ。あのジョウロ、本来の使い方で使ってるところ、一度も見たことないし。)
「おお、おぬしら帰ってきたのか。ご苦労じゃったな。これで食糧問題も一段落じゃろう。……ん? ゲンよ、久方ぶりじゃのう。童も元気に育っておるようで安心じゃわい。こんな場所でもあれじゃから、どれ、客間でわし自慢の苦花ティーでも飲むか? カカカカカカッ。」
村長は高らかに笑いながら、ジョウロをとん、とん、と地面に打ちつけた。
「爺さん、それどころじゃないんだよ。その……や、ヤンが……。」
「なんじゃ? 最近目が悪くてのう。ラルクもおったのか。して、ヤンはどこに行ったんじゃ? お前と一緒に狩りに出ておらんかったか?」
「だから、そのヤンのことなんだが……。」
「なんじゃ、ヤンがどうかしたのか? また悪い癖が出たか。罠を張ってから帰るとか言って、まだ戻っておらんのじゃろ。」
ヤンガは、長い髭をもさもさと撫でながら言った。
「……違う。奇妙な怪物が現れて、それで狩猟班のみんながやられた。ヤンも……その犠牲になった。亡骸さえ、持ち帰ることができなかった……。」
「……いま、何と言った? それは本当なのじゃな?」
「そうだ。現に、我々は編成の異なる三人で、この村に戻ってきたんだ。俺とソウは怪物と直接交戦していないが、このラルクは実際に戦い、命からがら帰還したんだ。」
ゲンは、重々しい口調でそう告げた。
「……そうか。老い先短いわしより先に、孫が逝くとはな……。あの子は、両親を狩猟事故で二人とも亡くしておる。それを、わしが育ててきた。なぜなんじゃ……。なぜ、わしより先に、我が子が、孫が旅立たねばならぬのか……。」
「……爺ちゃん……。」
ソウは、悲しみに震えるヤンガを見て、自分も胸が締めつけられる思いだった。
ヤンガは身体を小刻みに震わせ、皺だらけの顔をさらに歪め、大粒の涙をこぼした。その瞬間、杖代わりにしていたジョウロから苦花の根がもさりと伸び、やがて白い花を咲かせた。
「苦い……この花は、見た目は白く美しいが、口にすれば酷く苦い。……苦いのう。なんと、苦く、重いことか。村の民に知らせねばならぬ。長として、わしには責任がある。じゃが……あれほど頑張っていたヤンが、なぜ……。」
ヤンガは一度息を整え、続けた。
「食糧調達に出た者たちも、きちんと供養してやらねばならぬ。村の民を大広間に集め、訃報を伝えよう。そして、怪物への対抗策を練らねばならぬ。」
三人は、重苦しい表情のまま、黙ってうなずいた。
やがて、ゲンがおもむろに口を開いた。
「分かった。それは俺たちが請け負う。まずは、皆を大広間に集めるところからだ。……あと、爺さん。あんたの気持ち、痛いほど分かる。失う痛みも、苦しみも。この花は、あんたからの供花として、受け取らせてもらう。」
「もちろんじゃ。そのつもりで出した花じゃ。村の周辺に自生するこの苦花は、名前はともかく、村の象徴でもある。歓迎と送別、二つの意味を持つ花じゃ。狩りに出る者、そして帰る者……誰しも一度でも村を離れれば、その懐かしさを思い出す花となる。ヤンや村の民に、捧げねばならぬ。」
これからのことを思うと、ソウの胸は重くなった。
だが、脅威となる怪物に襲われ続けては、何も守れない。
現実は、重く、苦く、そして時に残酷だ――。
ソウは、そのことを痛みとともに 学んだ。
村長宅は周囲の住居とは一風変わり、構造からして崩れにくい堅牢な造りをしている。木造ながら重厚感があり、豪華な装飾が施されていた。なぜか扉の横には、村長本人の銅像まで置かれている。
「いつ来ても、この家はでけえよなー。あと、この銅像、ほんと趣味悪いよな。」
ソウはそう言いながら、村長の銅像をぺちぺちと叩いて確かめている。
「おい、お前。そんなベタベタ銅像触るなよ。」
ラルクは呆れたように言った。
――コンコン。
ゲンは、相手に聞こえるよう、やや強めに扉をノックした。
「爺さん、いるか? 狩猟班遊撃のゲンだ。バガールの件から戻った。いるなら出てきてくれ。」
すると、きぃ……と音を立てて扉が開いた。
いかにもという風貌の白髪の老人が姿を現す。顎髭はぼわっと伸びているが、その佇まいには歴戦を潜り抜けてきた猛者の風格があった。村長は、見た目とは似つかわしくない木製の長いジョウロを、杖代わりにして立っていた。
(相変わらず、ヤンの爺さんって変なんだよなぁ。あのジョウロ、本来の使い方で使ってるところ、一度も見たことないし。)
「おお、おぬしら帰ってきたのか。ご苦労じゃったな。これで食糧問題も一段落じゃろう。……ん? ゲンよ、久方ぶりじゃのう。童も元気に育っておるようで安心じゃわい。こんな場所でもあれじゃから、どれ、客間でわし自慢の苦花ティーでも飲むか? カカカカカカッ。」
村長は高らかに笑いながら、ジョウロをとん、とん、と地面に打ちつけた。
「爺さん、それどころじゃないんだよ。その……や、ヤンが……。」
「なんじゃ? 最近目が悪くてのう。ラルクもおったのか。して、ヤンはどこに行ったんじゃ? お前と一緒に狩りに出ておらんかったか?」
「だから、そのヤンのことなんだが……。」
「なんじゃ、ヤンがどうかしたのか? また悪い癖が出たか。罠を張ってから帰るとか言って、まだ戻っておらんのじゃろ。」
ヤンガは、長い髭をもさもさと撫でながら言った。
「……違う。奇妙な怪物が現れて、それで狩猟班のみんながやられた。ヤンも……その犠牲になった。亡骸さえ、持ち帰ることができなかった……。」
「……いま、何と言った? それは本当なのじゃな?」
「そうだ。現に、我々は編成の異なる三人で、この村に戻ってきたんだ。俺とソウは怪物と直接交戦していないが、このラルクは実際に戦い、命からがら帰還したんだ。」
ゲンは、重々しい口調でそう告げた。
「……そうか。老い先短いわしより先に、孫が逝くとはな……。あの子は、両親を狩猟事故で二人とも亡くしておる。それを、わしが育ててきた。なぜなんじゃ……。なぜ、わしより先に、我が子が、孫が旅立たねばならぬのか……。」
「……爺ちゃん……。」
ソウは、悲しみに震えるヤンガを見て、自分も胸が締めつけられる思いだった。
ヤンガは身体を小刻みに震わせ、皺だらけの顔をさらに歪め、大粒の涙をこぼした。その瞬間、杖代わりにしていたジョウロから苦花の根がもさりと伸び、やがて白い花を咲かせた。
「苦い……この花は、見た目は白く美しいが、口にすれば酷く苦い。……苦いのう。なんと、苦く、重いことか。村の民に知らせねばならぬ。長として、わしには責任がある。じゃが……あれほど頑張っていたヤンが、なぜ……。」
ヤンガは一度息を整え、続けた。
「食糧調達に出た者たちも、きちんと供養してやらねばならぬ。村の民を大広間に集め、訃報を伝えよう。そして、怪物への対抗策を練らねばならぬ。」
三人は、重苦しい表情のまま、黙ってうなずいた。
やがて、ゲンがおもむろに口を開いた。
「分かった。それは俺たちが請け負う。まずは、皆を大広間に集めるところからだ。……あと、爺さん。あんたの気持ち、痛いほど分かる。失う痛みも、苦しみも。この花は、あんたからの供花として、受け取らせてもらう。」
「もちろんじゃ。そのつもりで出した花じゃ。村の周辺に自生するこの苦花は、名前はともかく、村の象徴でもある。歓迎と送別、二つの意味を持つ花じゃ。狩りに出る者、そして帰る者……誰しも一度でも村を離れれば、その懐かしさを思い出す花となる。ヤンや村の民に、捧げねばならぬ。」
これからのことを思うと、ソウの胸は重くなった。
だが、脅威となる怪物に襲われ続けては、何も守れない。
現実は、重く、苦く、そして時に残酷だ――。
ソウは、そのことを痛みとともに 学んだ。
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