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第十一話 慰霊祭
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昨日から重苦しい空気はさほど変わっていない。それでも村人たちは、慰霊祭の準備に追われていた――。
木を幾重にも組み上げ、長く火が保たれるよう考え抜かれた組み方で、台は徐々に高くなっていく。
弱肉強食――自然の摂理のもとでは、狩る側も狩られる側も、等しく代償を支払う。だが、今回の代償はあまりにも大きかった。
村人たちは「死人に口なし」どころか、まるで生者にも口がないかのように、物静かに作業を進めていた。
「……静かだな。」
ラルクが、ぽつりとソウに言った。
「それくらいで、ちょうどいいんじゃねえの。昨日みたいに、誰かがドヤされるよりはさ。」
ソウは肩をすくめる。
「ソウ、お前、まだ根に持ってるのか。昨日のこと。」
「べっつに。……でも、本当のことを言っただけだし。辛いのは、みんな同じだろ。」
「まあ、そうだが……あ、そうだ。ヤンの好きだった物、ヤンガの爺さんの所に取りに行こうぜ。」
「お、それいいな。ちょうど暇だったし。」
二人は村長宅へ向かった。
――すると、外からではあったが、扉越しにヤンガとゲンの会話が聞こえてきた。
「爺さん、怪物が出たんだ。しかも、俺たちが知ってる類じゃない。策を固める必要がある。今までは自由に動いてきたが、今は有事だ。いち民草として言わせてもらう。この村の防御網は、あまりにも脆い。」
「……それは、そうじゃのう。じゃが、周辺の索敵も疎かにはできん。怪物の動きが分からんし、食糧の問題もあるからのう。」
二人は山積する課題に、頭を悩ませていた。
――キイ、バタン。
「お、取り込み中だったか。……おっ、地図じゃん。」
ソウは遠慮なく中へ入り、地図に手を置いた。
「ここが村。狩りに出た進路は西。森林を抜けて高原、中央に二対の巨木。その先、北西へ進むと荒地で、さらに行けば河。向こう側は山陵――こんな感じか。」
指でなぞりながら、状況を整理していく。
「なるほどな……。奴と遭遇したのは、高原と荒地の境目、河に近い場所ってわけか。」
ラルクは口早に言い、ゲンは頷いた。
「防御じゃなく、行動範囲を制限する。……つまり、これだ。」
彼は地図の河を指差す。
「河に毒でも流す気なの?」
ソウが眉をひそめる。
「違う。そんなことをすれば、下流の生態系が死ぬ。追う必要もない。奴の行ける場所を減らすんだ。河を使って、隔てる。」
「じゃが、どうやってやるんじゃ。」
「だよな。河を一本増やすってことだろ。そんなの出来るのかよ。」
ヤンガとラルクは頭を傾げた。
「簡単だ。分流点に高低差を作る。一時的に流れを堰き止めて、解放する。勢いを利用して、南南西に円を描くように誘導し、本流へ繋げる。」
ゲンは淡々と言った。
「名付けて、水流囲い作戦だ。」
「……ほんとに、うまくいくのかね。」
ソウは鼻をほじりながら聞いている。
「正直、規模は大きい。だが、やる価値はある。正面衝突は避けたい。囲い込んで、川向こうから投擲で仕留める。無理なら、川の牢に閉じ込める。」
「被害は、確かに抑えられそうじゃの。」
ヤンガは腕を組んだ。
「ただ、距離感が分からんのが不安じゃが。」
「そこは、いい案がある。……まあ、今は叩き台が出来ただけだ。慰霊祭の準備を手伝いに行こう。」
「そうじゃのう。」
「そうだ、ヤンの好きな物を、一緒に送ってやりたいんじゃが。」
ラルクが尋ねると、ヤンガは頷いた。
「これを持っていくといいじゃろう。」
羽で煌びやかに装飾された万年筆を差し出す。
「ヤンは、これを欲しがっておったからのう。」
「……いいのか。」
「ああ。渡すつもりだったんじゃ。だが、立派になってからと思っておってな。」
「そっか。向こうで、たくさん使ってくれるな、きっと。」
ソウが扉を開ける。
「よし。準備できたし、手伝いに行こうぜ。」
こうしてソウたちは、ラルクの亡き友ヤンへ送る品を携え、慰霊祭の準備へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
――そして、今宵。
熱帯の気温も下がり、澄んだ空気の中、星空はくっきりと姿を現していた。星々は互いに競い合うかのように、強く輝いている。
魂鎮めの火台から、ぱちぱちと音が弾ける。
その周囲には焚き火台が設えられ、小さな蝋燭の灯が、炎へと導かれるように揺らめいていた。傍らには、苦花が供えられている。
「ヤン……。今まで馬鹿ばっかやってたけどよ。……お前のこと、俺は尊敬してた。」
ラルクは炎を見つめた。
「だからさ。負けねえように、立派になってやる。」
ゲンとソウ、ヤンガは、その背中を静かに見守る。炎の光が、三人の瞳に揺れていた。やがて、全員が黙祷を捧げる。
――ラルクは、苦花を拾い、燃え上がる炎へ投げ入れた。
一瞬、火勢が強まり、やがて静まる。
ラルクは蝋燭の灯を手に、離れにある墓へ向かった。
木の板には【ヤン】、その隣には【アンナ】と刻まれている。
ラルクは、万年筆をそっと板の前に置いた。
「安らかに眠れ。……アンナに伝えられなかったこと、向こうで伝えられるといいな。」
涙が頬を伝う。ゲンは静かに俯き、ソウとヤンガは静かに涙を流した。
闇の中、村には小さな灯火が揺れている。
魂鎮めの火台の炎は、やがて星々の輝く銀河へと溶け込むように昇っていった。
ソウは夜空を見上げ、ヤンとアンナが微笑み合っている姿を、確かに見た気がした――。
木を幾重にも組み上げ、長く火が保たれるよう考え抜かれた組み方で、台は徐々に高くなっていく。
弱肉強食――自然の摂理のもとでは、狩る側も狩られる側も、等しく代償を支払う。だが、今回の代償はあまりにも大きかった。
村人たちは「死人に口なし」どころか、まるで生者にも口がないかのように、物静かに作業を進めていた。
「……静かだな。」
ラルクが、ぽつりとソウに言った。
「それくらいで、ちょうどいいんじゃねえの。昨日みたいに、誰かがドヤされるよりはさ。」
ソウは肩をすくめる。
「ソウ、お前、まだ根に持ってるのか。昨日のこと。」
「べっつに。……でも、本当のことを言っただけだし。辛いのは、みんな同じだろ。」
「まあ、そうだが……あ、そうだ。ヤンの好きだった物、ヤンガの爺さんの所に取りに行こうぜ。」
「お、それいいな。ちょうど暇だったし。」
二人は村長宅へ向かった。
――すると、外からではあったが、扉越しにヤンガとゲンの会話が聞こえてきた。
「爺さん、怪物が出たんだ。しかも、俺たちが知ってる類じゃない。策を固める必要がある。今までは自由に動いてきたが、今は有事だ。いち民草として言わせてもらう。この村の防御網は、あまりにも脆い。」
「……それは、そうじゃのう。じゃが、周辺の索敵も疎かにはできん。怪物の動きが分からんし、食糧の問題もあるからのう。」
二人は山積する課題に、頭を悩ませていた。
――キイ、バタン。
「お、取り込み中だったか。……おっ、地図じゃん。」
ソウは遠慮なく中へ入り、地図に手を置いた。
「ここが村。狩りに出た進路は西。森林を抜けて高原、中央に二対の巨木。その先、北西へ進むと荒地で、さらに行けば河。向こう側は山陵――こんな感じか。」
指でなぞりながら、状況を整理していく。
「なるほどな……。奴と遭遇したのは、高原と荒地の境目、河に近い場所ってわけか。」
ラルクは口早に言い、ゲンは頷いた。
「防御じゃなく、行動範囲を制限する。……つまり、これだ。」
彼は地図の河を指差す。
「河に毒でも流す気なの?」
ソウが眉をひそめる。
「違う。そんなことをすれば、下流の生態系が死ぬ。追う必要もない。奴の行ける場所を減らすんだ。河を使って、隔てる。」
「じゃが、どうやってやるんじゃ。」
「だよな。河を一本増やすってことだろ。そんなの出来るのかよ。」
ヤンガとラルクは頭を傾げた。
「簡単だ。分流点に高低差を作る。一時的に流れを堰き止めて、解放する。勢いを利用して、南南西に円を描くように誘導し、本流へ繋げる。」
ゲンは淡々と言った。
「名付けて、水流囲い作戦だ。」
「……ほんとに、うまくいくのかね。」
ソウは鼻をほじりながら聞いている。
「正直、規模は大きい。だが、やる価値はある。正面衝突は避けたい。囲い込んで、川向こうから投擲で仕留める。無理なら、川の牢に閉じ込める。」
「被害は、確かに抑えられそうじゃの。」
ヤンガは腕を組んだ。
「ただ、距離感が分からんのが不安じゃが。」
「そこは、いい案がある。……まあ、今は叩き台が出来ただけだ。慰霊祭の準備を手伝いに行こう。」
「そうじゃのう。」
「そうだ、ヤンの好きな物を、一緒に送ってやりたいんじゃが。」
ラルクが尋ねると、ヤンガは頷いた。
「これを持っていくといいじゃろう。」
羽で煌びやかに装飾された万年筆を差し出す。
「ヤンは、これを欲しがっておったからのう。」
「……いいのか。」
「ああ。渡すつもりだったんじゃ。だが、立派になってからと思っておってな。」
「そっか。向こうで、たくさん使ってくれるな、きっと。」
ソウが扉を開ける。
「よし。準備できたし、手伝いに行こうぜ。」
こうしてソウたちは、ラルクの亡き友ヤンへ送る品を携え、慰霊祭の準備へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
――そして、今宵。
熱帯の気温も下がり、澄んだ空気の中、星空はくっきりと姿を現していた。星々は互いに競い合うかのように、強く輝いている。
魂鎮めの火台から、ぱちぱちと音が弾ける。
その周囲には焚き火台が設えられ、小さな蝋燭の灯が、炎へと導かれるように揺らめいていた。傍らには、苦花が供えられている。
「ヤン……。今まで馬鹿ばっかやってたけどよ。……お前のこと、俺は尊敬してた。」
ラルクは炎を見つめた。
「だからさ。負けねえように、立派になってやる。」
ゲンとソウ、ヤンガは、その背中を静かに見守る。炎の光が、三人の瞳に揺れていた。やがて、全員が黙祷を捧げる。
――ラルクは、苦花を拾い、燃え上がる炎へ投げ入れた。
一瞬、火勢が強まり、やがて静まる。
ラルクは蝋燭の灯を手に、離れにある墓へ向かった。
木の板には【ヤン】、その隣には【アンナ】と刻まれている。
ラルクは、万年筆をそっと板の前に置いた。
「安らかに眠れ。……アンナに伝えられなかったこと、向こうで伝えられるといいな。」
涙が頬を伝う。ゲンは静かに俯き、ソウとヤンガは静かに涙を流した。
闇の中、村には小さな灯火が揺れている。
魂鎮めの火台の炎は、やがて星々の輝く銀河へと溶け込むように昇っていった。
ソウは夜空を見上げ、ヤンとアンナが微笑み合っている姿を、確かに見た気がした――。
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