グリーン・インパクト

未来が見えない

文字の大きさ
11 / 14

第十一話 慰霊祭

しおりを挟む
昨日から重苦しい空気はさほど変わっていない。それでも村人たちは、慰霊祭の準備に追われていた――。

 木を幾重にも組み上げ、長く火が保たれるよう考え抜かれた組み方で、台は徐々に高くなっていく。
 弱肉強食――自然の摂理のもとでは、狩る側も狩られる側も、等しく代償を支払う。だが、今回の代償はあまりにも大きかった。

 村人たちは「死人に口なし」どころか、まるで生者にも口がないかのように、物静かに作業を進めていた。

「……静かだな。」
 ラルクが、ぽつりとソウに言った。

「それくらいで、ちょうどいいんじゃねえの。昨日みたいに、誰かがドヤされるよりはさ。」
 ソウは肩をすくめる。

「ソウ、お前、まだ根に持ってるのか。昨日のこと。」
「べっつに。……でも、本当のことを言っただけだし。辛いのは、みんな同じだろ。」
「まあ、そうだが……あ、そうだ。ヤンの好きだった物、ヤンガの爺さんの所に取りに行こうぜ。」
「お、それいいな。ちょうど暇だったし。」

 二人は村長宅へ向かった。

 ――すると、外からではあったが、扉越しにヤンガとゲンの会話が聞こえてきた。

「爺さん、怪物が出たんだ。しかも、俺たちが知ってる類じゃない。策を固める必要がある。今までは自由に動いてきたが、今は有事だ。いち民草として言わせてもらう。この村の防御網は、あまりにも脆い。」
「……それは、そうじゃのう。じゃが、周辺の索敵も疎かにはできん。怪物の動きが分からんし、食糧の問題もあるからのう。」

 二人は山積する課題に、頭を悩ませていた。

 ――キイ、バタン。

「お、取り込み中だったか。……おっ、地図じゃん。」
 ソウは遠慮なく中へ入り、地図に手を置いた。

「ここが村。狩りに出た進路は西。森林を抜けて高原、中央に二対の巨木。その先、北西へ進むと荒地で、さらに行けば河。向こう側は山陵――こんな感じか。」
 指でなぞりながら、状況を整理していく。

「なるほどな……。奴と遭遇したのは、高原と荒地の境目、河に近い場所ってわけか。」
 ラルクは口早に言い、ゲンは頷いた。

「防御じゃなく、行動範囲を制限する。……つまり、これだ。」
 彼は地図の河を指差す。

「河に毒でも流す気なの?」
 ソウが眉をひそめる。

「違う。そんなことをすれば、下流の生態系が死ぬ。追う必要もない。奴の行ける場所を減らすんだ。河を使って、隔てる。」
「じゃが、どうやってやるんじゃ。」
「だよな。河を一本増やすってことだろ。そんなの出来るのかよ。」

 ヤンガとラルクは頭を傾げた。

「簡単だ。分流点に高低差を作る。一時的に流れを堰き止めて、解放する。勢いを利用して、南南西に円を描くように誘導し、本流へ繋げる。」
 ゲンは淡々と言った。
「名付けて、水流囲い作戦だ。」

「……ほんとに、うまくいくのかね。」
 ソウは鼻をほじりながら聞いている。

「正直、規模は大きい。だが、やる価値はある。正面衝突は避けたい。囲い込んで、川向こうから投擲で仕留める。無理なら、川の牢に閉じ込める。」
「被害は、確かに抑えられそうじゃの。」
 ヤンガは腕を組んだ。
「ただ、距離感が分からんのが不安じゃが。」

「そこは、いい案がある。……まあ、今は叩き台が出来ただけだ。慰霊祭の準備を手伝いに行こう。」
「そうじゃのう。」
「そうだ、ヤンの好きな物を、一緒に送ってやりたいんじゃが。」

 ラルクが尋ねると、ヤンガは頷いた。

「これを持っていくといいじゃろう。」
 羽で煌びやかに装飾された万年筆を差し出す。
「ヤンは、これを欲しがっておったからのう。」

「……いいのか。」
「ああ。渡すつもりだったんじゃ。だが、立派になってからと思っておってな。」
「そっか。向こうで、たくさん使ってくれるな、きっと。」

 ソウが扉を開ける。
「よし。準備できたし、手伝いに行こうぜ。」

 こうしてソウたちは、ラルクの亡き友ヤンへ送る品を携え、慰霊祭の準備へと向かった。

 ◇ ◇ ◇  ◇

 ――そして、今宵。

 熱帯の気温も下がり、澄んだ空気の中、星空はくっきりと姿を現していた。星々は互いに競い合うかのように、強く輝いている。

 魂鎮めの火台から、ぱちぱちと音が弾ける。
 その周囲には焚き火台が設えられ、小さな蝋燭の灯が、炎へと導かれるように揺らめいていた。傍らには、苦花が供えられている。



「ヤン……。今まで馬鹿ばっかやってたけどよ。……お前のこと、俺は尊敬してた。」
 ラルクは炎を見つめた。
「だからさ。負けねえように、立派になってやる。」

 ゲンとソウ、ヤンガは、その背中を静かに見守る。炎の光が、三人の瞳に揺れていた。やがて、全員が黙祷を捧げる。

 ――ラルクは、苦花を拾い、燃え上がる炎へ投げ入れた。

 一瞬、火勢が強まり、やがて静まる。

 ラルクは蝋燭の灯を手に、離れにある墓へ向かった。
 木の板には【ヤン】、その隣には【アンナ】と刻まれている。

 ラルクは、万年筆をそっと板の前に置いた。

「安らかに眠れ。……アンナに伝えられなかったこと、向こうで伝えられるといいな。」

 涙が頬を伝う。ゲンは静かに俯き、ソウとヤンガは静かに涙を流した。

 闇の中、村には小さな灯火が揺れている。
 魂鎮めの火台の炎は、やがて星々の輝く銀河へと溶け込むように昇っていった。

 ソウは夜空を見上げ、ヤンとアンナが微笑み合っている姿を、確かに見た気がした――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

恋愛リベンジャーズ

廣瀬純七
SF
拓也は、かつての恋人・純への後悔を抱えたまま生きてきた。ある日、過去へ戻れる不思議なアプリを手に入れるが戻った先で彼を待っていたのは、若き日の純ではなく――純そのものになってしまった自分自身だった。かつての恋人とやり直すはずが、過去の自分を相手に恋をするという奇妙で切ない関係が始まっていく。時間と心が交差する、不思議な男女入れ替わりストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...