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再会
しおりを挟む私は子供が嫌いだ。
すぐ騒ぐし、すぐ泣くし、悪いことをしても自分は許されると思っている。
それなのに、甘い顔で、「子供のしたことだから」と、咎める人間も少ない。
そんな子供が嫌いだ。
今日は、中学時代の友人の結婚式だ。
初恋の女の子が来るかもしれないと、少し期待していたけど、子供の世話で二次会からしか来られないらしい。
子供の世話ね・・・。
旦那にでも預けて来ればいいのに、お母さんと言う生き物は大変らしい。
披露宴は、別段変わったところもなく、出された料理が美味しい以外は、平凡で平均的な式だったと思う。
皆は、「良い式だったね。」「綺麗だったね。」等と、お世辞を言っているが、特段思ったことはないので、一人黙って二次会のケーキをちみちみ食べていた。
「おまたせ。ごめん、子供連れてきちゃったけど、大丈夫かな?」
振り向くと、地味なワンピースながらも、清楚で可憐な女性がそこに立っていた。
「亜由美ちゃん・・・?」
私が、驚いて声を発すると、その女性は、眉を少し下げ、困ったような表情を浮かべた。
「忘れちゃったかな?華ちゃん。」
「わ・・・。」
(忘れるわけないじゃん!)と言いかけて、言葉に詰まってしまった。
亜由美ちゃんは、私が中学時代ずっと片思いしていた相手だった。だけど、それを知っている人はここには誰もいないし、言う必要もないと思っていた。
ただ、亜由美ちゃんが、あまりにきれいになっていたのと、化粧の奥から、うっすら痣のようなものが見えたのが気になった。
「真由美、ご挨拶して。」
亜由美ちゃんは、しゃがみ込んで、隣に連れていた5~6歳くらいの女の子に声をかけた。
「赤坂真由美です。ママ・・・じゃなくて、母がいつもお世話になっています。」
子供があまりに大人びた挨拶をしたのにも驚いたが、名字が亜由美ちゃんの旧姓ということにも、驚いた。
周りも少しざわざわしている。亜由美ちゃんは、それを察したのか、また困り眉で答えた。
「おめでたい席だから、遠慮しようと思ったんだけどね・・・。」
なるほど、痣の理由も、子供の名前の理由もなんとなくわかった気がする。
「まあ、いいじゃん。また次があるって!」
菜摘が、大きな声で言うと、亜由美ちゃんは、また困り眉の笑顔を浮かべた。
菜摘のこういう気を利かせたつもりで気が利かないところ、いつもは嫌だったけど、亜由美ちゃんの困り眉が可愛くて今日は許せるなと一人感じていた。
二次会では、ほとんど新婦の加奈のノロケを聞くだけで終わってしまったので、また今度集まろうと言って、LINEを交換した。
生れて初めて、結婚式に出席してよかったと思った。今までは、ご祝儀だけ持っていかれると思っていたから。
そういえば、亜由美ちゃんは出来婚だったから、結婚式しなかったんだよな・・・。
帰宅後、不意にスマホをのぞき込む。
LINE一件の通知に心がざわついたのはいつ以来だろう・・・。
そんなことを考えながら、LINEを開く。
菜摘から集合写真が送られてきただけだった。
「なんだよ!期待させんな!!!」
期待って何だろうな・・・。そんなことを考えながら写真を眺める。
やっぱり・・・亜由美ちゃんはきれいだな・・・。
いつもの硬い表情が、少し緩むのが自分でもわかった。
初恋って言っても、そのあと恋をしてこなかったから、ずっと、亜由美ちゃんに恋をしているのかもしれない。
亜由美ちゃんと交換したLINEの通知画面を開く。
(スタンプ一個ぐらい押しちゃおうかな・・・)
スタンプ画面を開きながら、ベッドに雪崩れ込むと、手が一つのスタンプに当たってしまった。
慌てて確認すると、「LOVE YOU!」の文字が書かれた女の子のスタンプだった。
訂正しようと、文字を打とうとするが、あまりにタイミングよく自分の気持ちに即したスタンプを打ってしまったため、動揺して手が震えてしまう。
すぐさまスタンプは既読になり、亜由美ちゃんから、「LOVE YOU!」のスタンプが送り返されてきた。
きっとそういうノリと思われたんだろうと、心を落ち着かせ、文字を打つのに集中しようと思った矢先、うっかり通話ボタンを押してしまった。
5秒ぐらいで、スマホから、
「もしもし~どうしたの~?」
と、亜由美ちゃんの優しい声が聞こえてきた。
すぐに耳にスマホをあてる。
「あ・・・ごめん。間違えちゃって・・・さっきのスタンプもその・・・勝手に押されちゃって・・・。」
しどろもどろになりながらも、何とか状況を説明した。
「ふふふ。華ちゃんって、しっかりしてるのに、ときどきものすごくドジだよね。昔から変わらないな。」
「迷惑かけてたよね・・・。ごめん。」
数秒間があって、スマホからクスクス笑い声が聞こえてきた。
「亜由美ちゃん?」
私が声をかけると、亜由美ちゃんは、
「ごめんごめん、思い出し笑い。ちょっと待ってね、呼吸落ち着けるから。」
と言って深呼吸をした。
「思い出し・・・?」
私が聞くと、亜由美ちゃんは、またふふっと笑いながら話し始めた。
「中学二年の夏休み明けだったかな?私が、プール焼けで髪が茶色くなっちゃって、クラスのリーダー格の・・・何さんだっけ?まあいいや、その子とグループの子に絡まれたじゃない?」
「ああ、あったね、髪染めてきて色気づいてるとか、男誘ってるんだろとか、いちゃもんつけられてたね。」
「うん、あのとき、華ちゃんが言った言葉を思い出して笑っちゃって。」
「何言ったっけ私。」
「クラス中に聞こえる声で、『お前らの両親が色気づかなかったら、お前らここに居ねーじゃん。』って。ふふふ。」
「ちょ・・・下ネタじゃん!!!やだ恥ずかしい!!!」
「でも、そのあと男子が、リーダー格の子たちをからかったおかげで、私が目を付けられることはなくなったんだよね。」
確かそのあと、亜由美ちゃんから、お礼の手紙とお菓子をもらったっけ・・・。未だにその手紙は大事にしまってある。引越しのときも、必ず持ち歩いた。
「まあ、そのあと、華ちゃんが嫌がらせ受けるようになっちゃったんだけどね・・・。」
そういえばそうだった。あの一件以来、クラスのリーダー格とその一派は、執拗に私に嫌がらせをしてきた。といっても、そのたびに証拠を集めて、クラス会で発表してたんだったな。
「まあ、自分で解決してたから、特に何とも思ってなかったよ。友達守れたし、自分的には満足。」
本当は、亜由美ちゃんが絡まれてるのを見て、イライラしてただけとは、なかなか言えなかった。
「迷惑かけたのは私のほうなのにって思ったら、そのセリフ思い出しちゃった。ふふふ。」
「迷惑とは思ってないよ。自分で蒔いた種だし、自分で決着つけるのは何とも思ってなかったから。」
「華ちゃんは、本当に強いね・・・。」
「亜由美ちゃん?」
スマホの奥からの声が聞こえなくなった。
「亜由美ちゃん?どうした?」
ため息のあと、亜由美ちゃんは、少し声を詰まらせながら、「あのね。」と一言だけ言うと、泣き始めた。
「亜由美ちゃん?泣いてる?」
泣いているのはわかっていたけれど、問いかけをせずにはいられなかった。
「たぶん、皆気づいてたと思うけど、私、元旦那に暴力振るわれてて・・・。」
「それは・・・化粧で隠しきれてなかったから、わかってた。」
「自分だけ、殴られてれば、丸く収まると思ってたんだけど・・・。」
「うん。」
「真由美に手を上げてたこと、気づいてあげられなくって・・・。」
「子供に!?」
「うん、見えないように、つねったり、頭をたたいたりしてたみたい・・・。」
「最低だね。」
「だから、別れようって決めて、やっと別れられたんだけど、加奈の結婚式の前に、話をしようって言われて、そこで思いっきり殴られて・・・。」
「うん。」
「『俺の子供を返さなかったら、何度でもお前らを探し出してやる』って言われて、怖くて実家にも真由美を預けられなかった。」
あまりの事情に、さっきまでの高揚感が、苛立ちに代わっていた。
大好きな亜由美ちゃんを殴った男が、平然とのうのうと生きていると思うと、はらわたが煮えくり返りそうだった。
「話してくれてありがとう。私はどうすればいい?何か、弱みでも握る?」
そう言うと、亜由美ちゃんは、泣き続けた鼻声で、くすっと笑うと、
「変わってないね。そういうとこ大好き。でも、たまにこうして、話ができれば、それだけで嬉しい。」
そう言って、また、ふふふと笑った。
その日から、毎日LINEをするようになり、忙しくない日には、ときどき通話するようになった。
ただ、私が子供嫌いなのを知っている亜由美ちゃんは、なかなか会おうとは言ってこなかった。
つづく
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