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ー案件その拾弍ー人事異動

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再び今年もやって来た6月。私は『窓口』というポジションを得て、その笑顔を武器にお客様からボーナス預金を獲得する事が…もちろん出来なかったOTLので、やはり昨年の如く、母校を駆け回り資金を集め…やはり父親の力にしっかりお世話になった。

因みに今更ながら銀行は、5日、10日…等『5』の倍数の日は何気に忙しい。公共料金等の口座引き落としが多いからだろうか。



そして7月。恒例の人事異動。この時代は、基本女子行員の異動はあまり無かった。しかし、男子行員の異動の凄まじさには…唖然とさせられた。
この日、我が支店には…2名の行員への異動が命じられた。
1人はまさかの松木さん。いつか、この支店から異動した事が無いと…本人が口にしていたのを聞いた。もう1人は……新入行員時代を共に過ごした、岡田。

あまりの運命の悪戯に、私は落胆するのも忘れて暫し呆気に取られていた。

2人の送別会が、今週の金曜日に予定された。

支店から、去りゆく1人1人に『送別の品』を手渡す事になっている。松木さんの希望は腕時計、そして岡田の希望は、『お任せ致します!』だそうであった。
仕事終わりに、女子行員みんなで時計屋さんに向かう。色々あるな…と腕時計を物色していると、一番お姉さんな先輩がニヤニヤし…私に一言。

『加地さんに、松木さんのプレゼントを選んでもらおうよ?』

えぇっ!?私が…選んで良いんですか!!?1つ1つ腕時計を見る私の目も慎重になる。小一時間程悩み、

『こ…これなんか…如何ですか…?』

お姉さん先輩に1つの腕時計を指差す。思わず緊張が走る。先輩は暫しじぃっとその腕時計を見てニッコリ笑い、

『良いんじゃない?きっと松木さんも気に入るよ?』

と太鼓判を押してくれた。

時計屋のお姉さんに綺麗にラッピングして貰い、次は岡田の品を選びに行く。そこであの新入行員が、

『あの…ネクタイなんか…どうでしょうか?』

そうおずおずと提案してきた。お姉さん先輩も、

『うん!それ…いいかも?…でも…この時間、開いてる紳士服店は無いのよね?田代さん、買い物…頼まれてくれない?明日は、5時に上がって良いから』

新入行員は、嬉しそうに引き受けた。

それを聞いていた私は、何故かモヤモヤする気持ちを隠すのに必死だった。
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