寂愁のアップルパイ

悲しみの恋

とある日、風見は小也から昼休み中に呼び出しを受けた。

まさか………やっぱり本当はワイの事………♪

そうささやかな気持ちを抱いていた風見に……現実は、あまりにも残酷で………

『僕、今月の末でここを辞めるんだ。………新しい職場が決まって……』

何処か戸惑いながらも……でも真っ直ぐに風見を見つめ、そう告げる小也。

何時かは、「その日」が訪れるのを風見はちゃんと理解していた。

『おめでとう、ございます……』

そうことばを発しながら……風見は目から溢れるモノを止められなかった。


風見はひとりとある思いつきを実行しようとしていた。

最後に小也さんに会えるのは……来週の金曜日やから、準備せんと！

ーその前日の木曜日ー
風見が立っていたのは台所。
けして料理が得意とは言えない風見は、最後に「無謀なプレゼント」を贈ろうと考えたのだ。

出来た‼(ひとり大満足風見)

コレを一晩冷やしといて……
明日冷蔵庫から出して………


ーそして金曜日の昼休みー
小也と向かい合わせに何時も通りに昼食を済ませた風見。小也も同じく終わっている事を見計らい……

『こ……コレ……お口に合うか分かりませんが………』

少し 挙動不審になりながらも、小也の前に提出したアルミホイルの包み。

不思議に思いながらもそれを開いてみる小也。

『………アップルパイ………僕の好きな………』

昨夜は風見、ひとりでコレを製作していたのであった。
良く良く考えてみると、
好きなモノ=自分が何処のモノが一番好きか、色々追い求めるモノ……そうだとは思わないかね？←アンタ誰？

そこに気づいた風見！贈った後に激しく後悔する羽目になるのであった。

『いただきます。(合掌)』

静かに手を合わせ、アルミホイルを剥がし一口口に入れる小也。

暫し無言の時がふたりの間を流れた。

『ごちそうさまでした。(合掌)美味しかったです。』

口はそう言ってはいたけれども………表情カオが物語っていた、本当の事を。 

この時の気持ちは、風見は生涯忘れないであろう。