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03白鷺トロフィーの行方
消えたトロフィー事件14
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俺は奈緒と共に、生徒や一般客が往来する廊下を歩いていった。しかしこのシチュエーション、思いっきりデートのような気がする。純架への気遣いはあっさり塗り替えられ、俺は二人きりの甘い雰囲気を楽しんだ。まあ、甘いと思っているのは俺の方だけかもしれないが……
奈緒は何らかの悲愴さをまとっている。それを繕え切れないまま、俺の袖をつまんで誘った。
「文芸部の先輩が文集売れなくて困ってるって言っててさ。買いに行こうよ」
「どんな内容なんだ?」
モノによるわな。奈緒は人差し指を顎に押し当てて記憶を呼び覚ます。
「恋愛小説とかエッセイとか、色々詰まってるみたい。500円だって」
「高いな」
「その代わり分厚いらしいよ」
「よし、分かった。行ってみるか」
文芸部は旧校舎2階にある。その道すがら、俺たちは懐かしい人物に出会った。
「あっ、光井さん!」
「やあやあ、お二人さん。お久しぶり」
元県警刑事部捜査第一課の刑事で、『変わった客事件』の主役だった人物、光井さん。好々爺といった風情で、白い口髭をたくわえている。紺のジャケットを着用しているが、それはだいぶ年季の入ったものだった。
奈緒がいっとき憂いを忘れたらしく、朗らかに頭を下げた。
「学園祭、見に来てくれたんですね」
「若い人たちにパワーをもらいに来たんですよ。……とはいいつつも、実はこっそり桐木君たちの顔も見たくてね。お邪魔させてもらいました」
俺は和やかな気分に浸った。と同時に、これはまたとない機会だと捉える。
「実は今、俺たちは難題を抱えていまして……。光井さんは元刑事でしたよね? ぜひ事件のあらましを聞いていただいて、感想などもらえるとありがたいのですが」
「ほう、それは面白そうですな」
俺たちは落ち着いて話すために3年2組のメイド喫茶を利用した。ベタな出しものだったが、本物のそれより遥かにサービスが悪いので、会話の邪魔をされることはなく、その点は感謝した。それにしても女子のメイド服って華があるなあ。
俺は15分ほどかけて白鷺トロフィーの紛失について洗いざらい打ち明けた。もちろん小声である。光井さんは66歳とは思えぬ集中力で、相槌を打ちながら耳を傾けた。時にメモを取る。
全て話し終えると、光井さんは髭を撫でた。
「いや、不思議な事件だ」
紙コップのコーヒーを一口すする。
「やはり周防君が怪しいとしか言いようがありません。彼を追い詰められる証拠などはないのですか?」
「それが全く。あるのは周防生徒会長が潔白だという証言だけです」
「桐木君は何と?」
「いや、まだ生徒会室に居残って、あれこれ考えているようですね」
「彼に任せるしかありませんな。私はお手上げです。何せ現役を離れてから久しくて、勘も鈍ってしまいまして……面目ありません」
奈緒が恐縮してぺこぺこ頭を下げる。こうして話しているのを見る限り、普段の彼女が戻ってきているように思えるが……
「いえいえ、とんでもない! 私たちのことを気にかけていただいて、ありがとうございます」
光井さんが苦笑し、ゆっくりとコーヒーを飲み干した。空のカップをテーブルクロスの上に置く。
「なんだかわくわくしますね。お手上げとは言いましたが、桐木君の話も聞きたくなりました。生徒会室の場所をご教示いただけますか? ぜひ彼に会って私が出来ることをしたいのです」
「すみません、ありがとうございます」
俺たちは生徒会室がどこにあるか教えると、廊下で光井さんと別れた。改めて文芸部へ向かって歩き出す。奈緒が嬉しそうに言った。
「光井さん、元気で良かった。やっぱりまた『シャポー』に顔を出してるのかしら」
「そうならいいな」
奈緒の知り合いらしい女子三名が通りすがりに声をかけてくる。奈緒は二言三言言葉をかわし、快活な笑みを振りまいた。
彼女らと別れ、更に歩を進める。売店で買ったのであろうアメリカンドックを頬張りながら、男子数名が脇を通過した。
俺は連絡通路を渡りながら奈緒に問いかけた。
「そういえば勉強の方はどうだ? 邁進するって言ってたけど」
「最近は全然」
とりあえずなされた、といった具合の返答に、俺は首を傾げる。小声で耳打ちした。
「やっぱり宮古先生が気になって、学習が手につかないとか」
奈緒は窓外を一瞥しながらつぶやいた。
「それはもう終わったよ」
「え?」
そこで文芸部の部室に到着した。
長い机に文集がうず高く積み上げられている。昨日の今日でまだ数十冊残っているようで、なるほど確かに売れ行きは悪いみたいだ。
「あっ、飯田じゃないか」
3名ほどの女子部員たちの中から、上級生らしいぽっちゃりした女子が手招きした。奈緒がその側へ小走りで歩み寄る。
「桧垣先輩、文集を買いに来ましたよ」
「そうこなくちゃ。にしても彼氏連れとはやるな、飯田」
おっ、いいこと言うね桧垣先輩。
奈緒は手をぶんぶん振って即座に否定した。
「違いますよ。彼は友達の一人です」
ああ、そう。俺はがっくりきた。何なら『肩叩きリラクゼーション・スペース』の施術を今すぐ受けたいほど落ち込む。桧垣先輩は文集を山から二冊手に取った。
「まあいいや。二人で二冊だな?」
「はい」
俺と奈緒はそれぞれ財布から500円玉を取り出し、桧垣先輩に渡した。
「毎度あり!」
受け取った文集はなるほど確かに分厚く、読み応えがありそうだ。表紙には『白鷺の翼』と明朝体で書かれている。ぺらぺらめくってみた感じでは、さすがにプロ級とは言えないものの、それなりに上手い挿絵が挟まれていて、なかなか豪華だった。
「この絵も文芸部が?」
桧垣先輩は一瞬呆けた後、豪快に笑い飛ばした。
「まさか。漫画部に協力してもらったんだよ。あっちはもう漫画誌を作って完売してるそうで、悔しいったらありゃしないね」
奈緒は財布をしまいながら微笑んだ。
「協力できて良かった。それじゃ頑張ってください、桧垣先輩」
「なんだ、もう行くのか?」
「せっかくだから早速どこかで読ませていただきます」
「そうか。じゃあな、飯田」
奈緒と一緒に、俺は教室を出た。ここまで何ごともない。もしかして奈緒は別段何の悩みも抱えていないのだろうか? 俺がそう深読みしていただけで……。それとも、懊悩は実際にわだかまっているものの、相談相手として俺は役者不足だとか見なしているのだろうか?
「座って読みたいな。屋上行こうよ」
俺の思いを探ろうともせず、奈緒は先行して新校舎に戻り、階段を上った。屋上なんて久しぶりだ。
ぽかぽか陽気のそこは人だらけだった。生徒と一般客が7対3ぐらいの割合で腰を下ろし、食べ物をつまみながら話に華を咲かせている。
「満席だな」
俺の言葉にうなずきつつ、奈緒は一方を指差した。
「端の方が空いてるよ。行こう」
俺たちは並んでコンクリートブロックに座った。穏やかな風は秋の香りを乗せて、広い屋上をのんびり通過していく。文集の目次を見ながら、俺はさっきの会話を思い出して質問した。
「そういえば宮古先生に関して『終わった』って言ってたけど、何が?」
奈緒はこちらを見ずに、地面の溝を指先でなぞりながら答えた。
「私の問題よ」
「え、ちょっと意味が分からないんだけど」
奈緒は文集を買い求めたときのはっきりした物言いから、また曖昧な、心ここにあらずの口調に戻っている。いったい何を気にしているんだろう?
俺は返事がないので黙って文集を読み始めた。若き著者たちは読ませる術を心得ている。俺が感心していると、奈緒が誰にともなく言った。
「へえ、この主人公、最後に告白するんだね」
俺は奈緒が目を通しているのと同じページを開いた。少し巻き戻して読むと、どうやら恋愛小説らしい。奈緒が続ける。
「でもふられておしまいなんだ。……そうね、現実は上手くいかないものね」
俺は「完」の文字を眺めながら相槌を打った。
「妙にリアルというか、説教くさいというか……。何か今の辰野さんと英二、それから菅野さん、三人の関係を思い出すなあ」
奈緒がほんの少しだが興味を示し、片足を現実に戻した。
「え、何で? その三人、こじれてるの?」
おっと、英二が日向を好きなのは内緒だったっけ。俺が奈緒を好きなことを黙ってくれている英二を、裏切るわけにはいかない。
「いや、何でもない」
奈緒は追及しようとしなかった。やはり落ち着かない表情で文集を閉じる。
「……あのさ、朱雀君」
思い詰めたような重たい口調だった。
「私のこと、どう思う?」
え?
俺は周囲の景色が、急なスローモーションでもかかったかのように失速するのを感じた。待った、これはどういう意味での問いかけだ? 俺が彼女をどう思うかだって? そんなのもちろん……
「なくてはならない存在、かな」
「ふぅん……」
奈緒は俺の瞳を真っ直ぐ見つめる。彼女の目に少し警戒が覗いたのは気のせいか。
「それは友達として? それとも『探偵部』の一部員として? あるいはクラスメイトとして?」
何だ、俺は急に何を試されてるんだ?
「全部だ、もちろん」
奈緒は答えず、何かを振り切るように立ち上がる。スカートをはたいた。
「そろそろ行こっか、朱雀君」
え? もう?
「まだ20分の1も読んでないんだけど……」
「2年3組がお化け屋敷やってるんだ。昨日入って面白かったから、今日も遊びに行きたいの。それとも朱雀君、もう体験済み?」
俺は昨日はトロフィー捜しで忙しかった。お化け屋敷も目の前を通過しただけだ。奈緒と一緒に楽しめるならそれもいいかもしれない。
「分かった、行こう」
奈緒は何らかの悲愴さをまとっている。それを繕え切れないまま、俺の袖をつまんで誘った。
「文芸部の先輩が文集売れなくて困ってるって言っててさ。買いに行こうよ」
「どんな内容なんだ?」
モノによるわな。奈緒は人差し指を顎に押し当てて記憶を呼び覚ます。
「恋愛小説とかエッセイとか、色々詰まってるみたい。500円だって」
「高いな」
「その代わり分厚いらしいよ」
「よし、分かった。行ってみるか」
文芸部は旧校舎2階にある。その道すがら、俺たちは懐かしい人物に出会った。
「あっ、光井さん!」
「やあやあ、お二人さん。お久しぶり」
元県警刑事部捜査第一課の刑事で、『変わった客事件』の主役だった人物、光井さん。好々爺といった風情で、白い口髭をたくわえている。紺のジャケットを着用しているが、それはだいぶ年季の入ったものだった。
奈緒がいっとき憂いを忘れたらしく、朗らかに頭を下げた。
「学園祭、見に来てくれたんですね」
「若い人たちにパワーをもらいに来たんですよ。……とはいいつつも、実はこっそり桐木君たちの顔も見たくてね。お邪魔させてもらいました」
俺は和やかな気分に浸った。と同時に、これはまたとない機会だと捉える。
「実は今、俺たちは難題を抱えていまして……。光井さんは元刑事でしたよね? ぜひ事件のあらましを聞いていただいて、感想などもらえるとありがたいのですが」
「ほう、それは面白そうですな」
俺たちは落ち着いて話すために3年2組のメイド喫茶を利用した。ベタな出しものだったが、本物のそれより遥かにサービスが悪いので、会話の邪魔をされることはなく、その点は感謝した。それにしても女子のメイド服って華があるなあ。
俺は15分ほどかけて白鷺トロフィーの紛失について洗いざらい打ち明けた。もちろん小声である。光井さんは66歳とは思えぬ集中力で、相槌を打ちながら耳を傾けた。時にメモを取る。
全て話し終えると、光井さんは髭を撫でた。
「いや、不思議な事件だ」
紙コップのコーヒーを一口すする。
「やはり周防君が怪しいとしか言いようがありません。彼を追い詰められる証拠などはないのですか?」
「それが全く。あるのは周防生徒会長が潔白だという証言だけです」
「桐木君は何と?」
「いや、まだ生徒会室に居残って、あれこれ考えているようですね」
「彼に任せるしかありませんな。私はお手上げです。何せ現役を離れてから久しくて、勘も鈍ってしまいまして……面目ありません」
奈緒が恐縮してぺこぺこ頭を下げる。こうして話しているのを見る限り、普段の彼女が戻ってきているように思えるが……
「いえいえ、とんでもない! 私たちのことを気にかけていただいて、ありがとうございます」
光井さんが苦笑し、ゆっくりとコーヒーを飲み干した。空のカップをテーブルクロスの上に置く。
「なんだかわくわくしますね。お手上げとは言いましたが、桐木君の話も聞きたくなりました。生徒会室の場所をご教示いただけますか? ぜひ彼に会って私が出来ることをしたいのです」
「すみません、ありがとうございます」
俺たちは生徒会室がどこにあるか教えると、廊下で光井さんと別れた。改めて文芸部へ向かって歩き出す。奈緒が嬉しそうに言った。
「光井さん、元気で良かった。やっぱりまた『シャポー』に顔を出してるのかしら」
「そうならいいな」
奈緒の知り合いらしい女子三名が通りすがりに声をかけてくる。奈緒は二言三言言葉をかわし、快活な笑みを振りまいた。
彼女らと別れ、更に歩を進める。売店で買ったのであろうアメリカンドックを頬張りながら、男子数名が脇を通過した。
俺は連絡通路を渡りながら奈緒に問いかけた。
「そういえば勉強の方はどうだ? 邁進するって言ってたけど」
「最近は全然」
とりあえずなされた、といった具合の返答に、俺は首を傾げる。小声で耳打ちした。
「やっぱり宮古先生が気になって、学習が手につかないとか」
奈緒は窓外を一瞥しながらつぶやいた。
「それはもう終わったよ」
「え?」
そこで文芸部の部室に到着した。
長い机に文集がうず高く積み上げられている。昨日の今日でまだ数十冊残っているようで、なるほど確かに売れ行きは悪いみたいだ。
「あっ、飯田じゃないか」
3名ほどの女子部員たちの中から、上級生らしいぽっちゃりした女子が手招きした。奈緒がその側へ小走りで歩み寄る。
「桧垣先輩、文集を買いに来ましたよ」
「そうこなくちゃ。にしても彼氏連れとはやるな、飯田」
おっ、いいこと言うね桧垣先輩。
奈緒は手をぶんぶん振って即座に否定した。
「違いますよ。彼は友達の一人です」
ああ、そう。俺はがっくりきた。何なら『肩叩きリラクゼーション・スペース』の施術を今すぐ受けたいほど落ち込む。桧垣先輩は文集を山から二冊手に取った。
「まあいいや。二人で二冊だな?」
「はい」
俺と奈緒はそれぞれ財布から500円玉を取り出し、桧垣先輩に渡した。
「毎度あり!」
受け取った文集はなるほど確かに分厚く、読み応えがありそうだ。表紙には『白鷺の翼』と明朝体で書かれている。ぺらぺらめくってみた感じでは、さすがにプロ級とは言えないものの、それなりに上手い挿絵が挟まれていて、なかなか豪華だった。
「この絵も文芸部が?」
桧垣先輩は一瞬呆けた後、豪快に笑い飛ばした。
「まさか。漫画部に協力してもらったんだよ。あっちはもう漫画誌を作って完売してるそうで、悔しいったらありゃしないね」
奈緒は財布をしまいながら微笑んだ。
「協力できて良かった。それじゃ頑張ってください、桧垣先輩」
「なんだ、もう行くのか?」
「せっかくだから早速どこかで読ませていただきます」
「そうか。じゃあな、飯田」
奈緒と一緒に、俺は教室を出た。ここまで何ごともない。もしかして奈緒は別段何の悩みも抱えていないのだろうか? 俺がそう深読みしていただけで……。それとも、懊悩は実際にわだかまっているものの、相談相手として俺は役者不足だとか見なしているのだろうか?
「座って読みたいな。屋上行こうよ」
俺の思いを探ろうともせず、奈緒は先行して新校舎に戻り、階段を上った。屋上なんて久しぶりだ。
ぽかぽか陽気のそこは人だらけだった。生徒と一般客が7対3ぐらいの割合で腰を下ろし、食べ物をつまみながら話に華を咲かせている。
「満席だな」
俺の言葉にうなずきつつ、奈緒は一方を指差した。
「端の方が空いてるよ。行こう」
俺たちは並んでコンクリートブロックに座った。穏やかな風は秋の香りを乗せて、広い屋上をのんびり通過していく。文集の目次を見ながら、俺はさっきの会話を思い出して質問した。
「そういえば宮古先生に関して『終わった』って言ってたけど、何が?」
奈緒はこちらを見ずに、地面の溝を指先でなぞりながら答えた。
「私の問題よ」
「え、ちょっと意味が分からないんだけど」
奈緒は文集を買い求めたときのはっきりした物言いから、また曖昧な、心ここにあらずの口調に戻っている。いったい何を気にしているんだろう?
俺は返事がないので黙って文集を読み始めた。若き著者たちは読ませる術を心得ている。俺が感心していると、奈緒が誰にともなく言った。
「へえ、この主人公、最後に告白するんだね」
俺は奈緒が目を通しているのと同じページを開いた。少し巻き戻して読むと、どうやら恋愛小説らしい。奈緒が続ける。
「でもふられておしまいなんだ。……そうね、現実は上手くいかないものね」
俺は「完」の文字を眺めながら相槌を打った。
「妙にリアルというか、説教くさいというか……。何か今の辰野さんと英二、それから菅野さん、三人の関係を思い出すなあ」
奈緒がほんの少しだが興味を示し、片足を現実に戻した。
「え、何で? その三人、こじれてるの?」
おっと、英二が日向を好きなのは内緒だったっけ。俺が奈緒を好きなことを黙ってくれている英二を、裏切るわけにはいかない。
「いや、何でもない」
奈緒は追及しようとしなかった。やはり落ち着かない表情で文集を閉じる。
「……あのさ、朱雀君」
思い詰めたような重たい口調だった。
「私のこと、どう思う?」
え?
俺は周囲の景色が、急なスローモーションでもかかったかのように失速するのを感じた。待った、これはどういう意味での問いかけだ? 俺が彼女をどう思うかだって? そんなのもちろん……
「なくてはならない存在、かな」
「ふぅん……」
奈緒は俺の瞳を真っ直ぐ見つめる。彼女の目に少し警戒が覗いたのは気のせいか。
「それは友達として? それとも『探偵部』の一部員として? あるいはクラスメイトとして?」
何だ、俺は急に何を試されてるんだ?
「全部だ、もちろん」
奈緒は答えず、何かを振り切るように立ち上がる。スカートをはたいた。
「そろそろ行こっか、朱雀君」
え? もう?
「まだ20分の1も読んでないんだけど……」
「2年3組がお化け屋敷やってるんだ。昨日入って面白かったから、今日も遊びに行きたいの。それとも朱雀君、もう体験済み?」
俺は昨日はトロフィー捜しで忙しかった。お化け屋敷も目の前を通過しただけだ。奈緒と一緒に楽しめるならそれもいいかもしれない。
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