彼女は小石

よなぷー

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読書部01

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「さあ、今日はみんなで楽しくやろう! 乾杯!」

「乾杯!」

 渡来保わたらい・たもつが僕の住むマンションを訪問してから2日後。大蔵秀三おおくら・しゅうぞう部長が音頭を取り、今日はいったん活動を休止して、持ち寄ったお菓子を食べて雑談することになった。僕――田辺篤彦たなべ・あつひこの風邪からの復帰にあわせてくれた上での、読書部新入部員歓迎会である。

 大雑把な黒髪の保が、コカコーラを楽しんでから、峰山香織みねやま・かおり副部長に話しかけた。

「峰山副部長、本当にしゃべりが単語ですよねー。何でですか?」

 漆黒のポニーテールが揺れ、切れ長の瞳が一瞬保を映し出す。しかしすぐに興味を失ったかのようにあさってを向いた。

「無回答」

 ショートカットで平々凡々な河合留美かわい・るみさんが、気安く多奈川美穂たながわ・みほさんへお菓子をすすめた。

「多奈川さん、きのこの山食べる? 美味しいよ」

「あ、ありがとう、地味子ー」

 河合さんの頬が引きつった。もらったものをむしゃむしゃ食べる、赤いツインテールの多奈川さんに、一応とばかりに質問する。

「その地味子って、私の……あだ名なの……?」

 軽い返事が返ってきた。

「そうだよー。いいじゃん、地味子でー」

 河合さんの目が恐ろしい光をまとった。

「……多奈川さん、今日からあなたのことを派手子って呼ぶわ」

「えー、何それー!」

 そんな二人をよそに、僕も含めた男子3人はポテトチップスの話題に入った。

「大蔵部長、ポテチは何味が好きですか?」

 眼鏡でハンサムな3年生は、そのひょろ長い胴体を愉快げに揺らした。

「僕は塩味だな。というより、一択だろう。塩味以外は認めないな」

 保が失礼にも嘲笑し、靴裏で拍手する。

「そりゃないですよ。俺はコンソメパンチ一択ですね。塩味なんて邪道です、邪道」

「コンソメパンチこそ邪道だよ邪道! 田辺くんは?」

 僕は笑いながら手を振った。

「ポテチ? はっ、僕はキャラメルコーン派なんで……」

 大蔵部長と保がハモった。

「渋いな……」

 河合さんはスタイル抜群の峰山副部長に果敢にチャレンジする。見上げた根性だね。

「峰山副部長はどんなジャンルの本がお好きなんですか?」

「ミステリ」

「そうなんですか! いいですよね、複雑で重厚な謎が解けていって、真実があぶりだされるの!」

「河合は?」

「私ですか? 私は恋愛系ですね。胸がきゅんきゅんする初恋ものなんか物凄く好きです。ここの書架にはそういう本もあるんで助かりました。この前読んだ本も面白かったなあ……!」

 保が耳ざとくその台詞を聞きつけ、軽く嘲笑した。

「留美さあ、現実の恋愛はそうそう上手くいくもんじゃないぜ。お前、恋したことあんのかよ」

「いや、ないけど……」

 僕は身を乗り出す。父さんと川で魚釣りして以来、他人の色恋沙汰に多少は興味を持つようになったんだよね。

「河合さん、たとえば保とかどう?」

「いや、それはないわ」

 即答。石像と化す保を、多奈川さんが痛快におちょくる。

「やーい、渡来くんふられたー! やーいやーいー!」

 保は気を取り直すようにコカコーラを飲み干し、その缶を机に乱暴に置いた。

「何だよ篤彦、その振りは。留美に告ってもないのにふられるって、どんな災難だよ。美穂もうっさい。で、美穂は? 美穂は付き合ってる彼氏とかいたりするの?」

「えっ」

 今度は多奈川さんが絵画と化した。ややあってどうにか言葉を紡ぎ出す。

「ま、前はいたよー」

「前って……じゃあ別れたのか?」

「うっ……。い、いいじゃない、あたしのことはー!」

 突如大蔵部長が、ジャックと豆の木のように立ち上がった。七三分けの髪がふわりと浮いて落ちる。

「そうだ諸君、部長からの伝言だ。何かオススメの文庫本を3冊リストアップしておいてくれ。これから発売する奴で、国内作品で、読みたくて読みたくてしょうがない、というものをね」

 僕はポッキーをかじった。チョコの風味が口いっぱいに広がって美味だ。

「急にまた、何でです?」

「予算の消費だ。部活動として存続が決定した以上、まだ未消費の部費について使い道を決めておかないと、来年度の予算が減額される恐れがあるからな。まあ急がなくてもいい、6月頃までに頼むぞ」

 多奈川さんが勢いよく挙手した。

「はいはーいー! 質問ー! 新書は駄目なんですかー!」

「新書はNG! 誰がどう触ったか分からない古本もNG! 国内の新品の文庫本こそが当読書部のストライクゾーンだ!」

 保がうっとりと陶酔とうすいするように漏らした。

「新品限定はいいっすね。あの真新しい紙の匂い、インクの新鮮な香りはたまらないものがありますよね」

「よくぞ言った渡来くん! それでこそ読書部員のかがみだ!」

「同感」

「あっ、峰山副部長もそう思いますか?」

 河合さんがとんがりコーンを食しながら何気なしに聞いた。
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