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第3章〜芸州編(其の肆)〜
第41話
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山村へようやく代官の梶山が訪れた。災害から8日目のことである。梶山は平谷村、押村、山村、苗代村を管轄しており、各村々の被害状況をまとめている。
「忠次郎、これは見事な被害注進状だ……」
「代官さま、それを元に現地で状況を見て頂きたいです」
「うーん……まあ、待て。此処からの景色を見ながら大体の状況を掴みたい」
神社の境内から山村を一望しながら梶山は、出された井戸水を飲み干していた。
「宮迫神社の避難所も、この界隈では1番良い。流石は国宗殿だ」
「ありがとうございます。此処らより、南東に位置する神田家の縄張りが特に酷く、なにとぞご支援を賜りたく……」
「本百姓は廃城跡へ避難してるのか?」
「はい、ただ食材が……」
「……ふむ、何処もかしこもだ。何とかしてあげたいが、藩も苦しい」
「しかし、このままでは領民らは餓死致します」
「年貢を納められない村が続出してな。他の藩から救済米を掻き集めてるようだが……間に合うかどうか……」
「そ、そんなあ……」
「忠次郎、この注進状は非常に助かる。優先して支援することを約束しよう。だから庄屋として領民を抑えてくれ。……最悪、神田の本百姓は見捨てろ」
「み、見捨てる!?」
「村から出て行ってもらうよう促すしかない。親戚を頼れば何とか生きていけるかもしれん。野垂れ死ぬよりマシだろ」
「い、行き場のない領民らも居るのです。代官さま、何とぞご慈悲を……」
「忠次郎。庄屋とは、時として非情な判断も必要だ……村を守るためにな」
「……ああ、そ、そんな酷いこと……」
「うむ……大体のことは把握した。先ずは街道沿いから歩いて見ようか」
「は、はい」
***
廃城跡では食事の後片付けや寝床の掃除、男たちの語らい、子供らの笑い声など聞こえ、領民の活気が戻りつつあった。ただ、途中で保護した兄妹は俺の側から離れずに居る。
ふとそこへ、忍び寄る影が現れた……。
「あーあ、……また無茶な人助けか?」
「えっ? は、半蔵!? いつの間に!」
「私がお前を護衛してること、忘れたか?」
「だが……小屋以外で姿を見たことがない」
「ああ、そうだったな」
「何か急な用か?」
「うむ、福島正則公が江戸を出立したそうだ」
「ん?」
「国元へ帰って野分被害の確認だとさ」
「そうか。広島城はかなりの被害だと聞いた」
「問題はここからだ。その道中で、お前に接見するらしい」
「なっ!?」
「どうするんだ?」
「どうするって……どういうつもりだ!?」
「……さあ」
「俺を捕らえるためか!?」
「そうだとしたら、ここから逃げ出すか?」
──いよいよ来るべき日が来たのか……!?
「山村から離れたくない。こんな状況だ」
「ふーむ、そう言うと思った。ま、近々お迎えが来るだろうから、それまでにじっくり考えとけ」
「あ、ああ」
「私も大夫が接見する意図をもっと探ってみよう。じゃあな」
スッと半蔵が闇の中へ消えていった。
筵の上で兄妹が寝ようとしていた。俺は古い着物をそっと掛けてやる。
「お兄ちゃん……ありがと」
「お前ら名は何と言うんだ?」
「おいら、源だ」
「あたい、和よ」
「いい名だな。源、和、おやすみ……」
今、ここから逃げ出す訳にはいかないよな……。
俺は漠然とした不安を抱えながら、兄妹が眠るのを見守っていた。
「忠次郎、これは見事な被害注進状だ……」
「代官さま、それを元に現地で状況を見て頂きたいです」
「うーん……まあ、待て。此処からの景色を見ながら大体の状況を掴みたい」
神社の境内から山村を一望しながら梶山は、出された井戸水を飲み干していた。
「宮迫神社の避難所も、この界隈では1番良い。流石は国宗殿だ」
「ありがとうございます。此処らより、南東に位置する神田家の縄張りが特に酷く、なにとぞご支援を賜りたく……」
「本百姓は廃城跡へ避難してるのか?」
「はい、ただ食材が……」
「……ふむ、何処もかしこもだ。何とかしてあげたいが、藩も苦しい」
「しかし、このままでは領民らは餓死致します」
「年貢を納められない村が続出してな。他の藩から救済米を掻き集めてるようだが……間に合うかどうか……」
「そ、そんなあ……」
「忠次郎、この注進状は非常に助かる。優先して支援することを約束しよう。だから庄屋として領民を抑えてくれ。……最悪、神田の本百姓は見捨てろ」
「み、見捨てる!?」
「村から出て行ってもらうよう促すしかない。親戚を頼れば何とか生きていけるかもしれん。野垂れ死ぬよりマシだろ」
「い、行き場のない領民らも居るのです。代官さま、何とぞご慈悲を……」
「忠次郎。庄屋とは、時として非情な判断も必要だ……村を守るためにな」
「……ああ、そ、そんな酷いこと……」
「うむ……大体のことは把握した。先ずは街道沿いから歩いて見ようか」
「は、はい」
***
廃城跡では食事の後片付けや寝床の掃除、男たちの語らい、子供らの笑い声など聞こえ、領民の活気が戻りつつあった。ただ、途中で保護した兄妹は俺の側から離れずに居る。
ふとそこへ、忍び寄る影が現れた……。
「あーあ、……また無茶な人助けか?」
「えっ? は、半蔵!? いつの間に!」
「私がお前を護衛してること、忘れたか?」
「だが……小屋以外で姿を見たことがない」
「ああ、そうだったな」
「何か急な用か?」
「うむ、福島正則公が江戸を出立したそうだ」
「ん?」
「国元へ帰って野分被害の確認だとさ」
「そうか。広島城はかなりの被害だと聞いた」
「問題はここからだ。その道中で、お前に接見するらしい」
「なっ!?」
「どうするんだ?」
「どうするって……どういうつもりだ!?」
「……さあ」
「俺を捕らえるためか!?」
「そうだとしたら、ここから逃げ出すか?」
──いよいよ来るべき日が来たのか……!?
「山村から離れたくない。こんな状況だ」
「ふーむ、そう言うと思った。ま、近々お迎えが来るだろうから、それまでにじっくり考えとけ」
「あ、ああ」
「私も大夫が接見する意図をもっと探ってみよう。じゃあな」
スッと半蔵が闇の中へ消えていった。
筵の上で兄妹が寝ようとしていた。俺は古い着物をそっと掛けてやる。
「お兄ちゃん……ありがと」
「お前ら名は何と言うんだ?」
「おいら、源だ」
「あたい、和よ」
「いい名だな。源、和、おやすみ……」
今、ここから逃げ出す訳にはいかないよな……。
俺は漠然とした不安を抱えながら、兄妹が眠るのを見守っていた。
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