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第3章〜芸州編(其の肆)〜

第44話

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「な、なんと若! 福島正則と接見ですか!?」

 廃城跡にあるボロボロの館で六郎、忠吾郎、神田次郎右衛門と今後のことを相談していた。
「だ、大助さま、一体どういうことでしょう?」
「忠吾郎、俺は福島さまのご領地である芸州で謹慎中の身だ。接見の意図はわからないが会わぬ訳にはいかない。だから俺の居ない間、次郎右衛門殿と一緒に領民の面倒を見ててくれ。……いいな?」
「えっ? 僕が!?」
「そうだ。まあ、何事もなければ直ぐに帰ってくる」
「い、いやあ……自信ないよお」
「数日のことだ。あと、源と和も頼んだぞ」
「は、はぁ」
「若、誠にお会いなさって大丈夫ですか?」
「ふむ。ま、伊賀の者も護衛につくし何とかなる」
「では、いざと言う時は……?」
「その時は……その時だ、六郎」

 不安がる忠吾郎だが、次郎右衛門も居るし食材も沢山ある。困ったことがあれは国宗家へ頼れば良いと言い聞かせ、何とか説得をした。

***

 翌日、忠次郎が息を切らせながら廃城跡へ来た。

「た、大変です! 藩主福島正則公が大助さまと接見したいと……はぁはぁ……先程、伝達がありましたあー!」
「そうか、分かった。一旦「離れ」へ戻ろうか」
「だ、大助さま? 驚かないのですか!?」
 事前に知っていたとは忠次郎には言えない。
「うむ。ま、こういう日が来るだろうと覚悟していたからな」
「でも、今頃になって接見とは、一体何故?」
「さあ、それは会ってみないと分からない」
「そ、それで私も代官殿と同行することに相なって……ああ、どうしましょう!!」
「落ち着け、忠次郎。何とかなる」
「落ち着いてなんていられません! 私は大助さまのように胆が据わっていませんよお……」

 忠次郎はかなり動揺していた。無理もない。庄屋代行とは言え、国の領主(藩主)へ接見など普通ならあり得ないことなのだ。

 震える忠次郎をともない、六郎を連れて「離れ」へ戻ると国宗家の郎党らが沢山集まっていた。皆、興奮している。
 母屋では山林郷の郡廻り、木嶋五右衛門と代官、梶山治兵衛が福島家の旗本を丁重にもてなしていた。
「父上、大助さまがお戻りになられました」
「おお、真田さま。お待ちしてました」
 すると旗本が酒に酔っているのか、上機嫌で俺に命令を下した。
「真田大助か。大夫正則さまより、接見の命令が出ておる。至急支度して明日早朝に出立せよ」
「ははっ」
「うむ。場所は西国街道沿いの春日神社である。儂が連れて行かねばならん。木嶋と梶山、それに国宗も同行を命ずる。よいな?」
「ははーっ」
「あー、それと真田よ、それなりの正装でなくてはならんぞ。あるのか?」
「それなりと申されても……」
「無いか? 仕方ないの。木嶋、準備致せ」
「はっ。では道中、私の屋敷へ寄りましょう」

 こうして明日の出立へ向け準備を整えていくことになった。接見などどうせあっという間だろう。だが、こんな極貧の村でも藩主へ何らかの貢物を出さなければならないと、国宗家は大忙しのようだ。
 俺は自分がこの地でどう生きてきたか? それを示すものを考えていた。

「お久、味噌を殿様に献上しようと思うが?」
「あい、宜しいかと。では綺麗なうつわに入れましょう」
「うむ。頼む」
 お久は内心、心配してると思うが口にも態度にも表さず淡々と支度をしている。そんなお久を思わず抱きしめて弁解めいたことを口にした。

「ま、まあ謹慎中の俺がしかとこの地へ根付いて、大人しく過ごしてるかの確認だろうな」
「……あい、分かってますよ。大助さま」

 大丈夫だ。きっと生きて帰れる。──俺は心の中でそう願った。






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