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第五章 芸州編 宝刀と共に消えた落武者
第44話 会わぬわけには
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「な、なんと若! 福島正則と接見ですか!?」
廃城跡にあるぼろぼろの館で、六郎、忠吾郎、神田次郎右衛門と今後のことを相談していた。
「だ、大助さま、一体どういうことでしょう?」
「忠吾、俺は福島さまのご領地である芸州で謹慎中の身だ。接見の意図は分からないが、会わぬわけにはいかない。だから俺のいない間、次郎右衛門殿と一緒に領民の面倒を見てくれ。いいな?」
「えっ? 僕が!?」
「そうだ。まあ、何事もなければすぐに戻る」
「い、いやあ……自信ないよお」
「数日のことだ。それに、源と和のことも頼んだぞ」
「は、はぁ……」
不安げな忠吾郎だったが、次郎右衛門もいるし、食材も十分にある。困ったことがあれば国宗家に頼ればいいと諭し、何とか説得した。そして、六郎と廃城跡を見廻りしながらこれまでの経緯を伝えた。
「なるほど。いや、驚きましたぞ。で、若はどうなさるおつもりですか? 今一度お考えを聞かせてくだされ。先ほどは皆がおったゆえに……」
「うむ、俺は接見に応ずる。どうなるかわからないが、ここを逃げ出せば国宗家をはじめ、村全体に悪い影響が及ぶと思う。そんな裏切りはできない」
「若らしいですな。では、いざと言うときは半蔵ら伊賀の者ともども戦覚悟で望むと?」
「その時は……その時だ、六郎」
「かしこまりました。この望月六郎が半蔵殿と連携し、必ずや若をお守りいたします!」
いや、お前だけでも逃げてくれ……
そう言いたかったが六郎の覚悟と気迫に押され、言葉を飲み込んでしまった。言っても聞かないだろう。それに、犬死とは決まっていない。僅かな望みを胸に、俺は「すまん」……と心の中で呟いた。
翌日、忠次郎が息を切らせながら廃城跡へ駆け込んできた。
「た、大変です! 藩親方さまが大助さまと接見したいと……はぁ、はぁ……先ほど、伝達がありましたあー!」
「そうか、分かった。一旦「離れ」へ戻ろうか」
「大助さま、驚かないのですか!?」
事前に知っていたとは、忠次郎には言えない。
「うむ。まあ、こういう日が来るだろうと覚悟していたからな」
「でも、今になって接見を求めるとは、一体なぜでしょう?」
「さあ、それは会ってみないと分からん」
「それで……父上が足を挫いて、大事には至りませんが、道中歩くのは難しいとのことで、私が代わりに代官さまと同行しなければなりません。……ああ、どうしましょう!」
「落ち着け、忠次郎。何とかなる」
「落ち着いてなんていられません! 私は大助さまのように胆が据わっていませんよお……」
忠次郎はひどく動揺していた。無理もない。庄屋の代行が、一国の領主と接見するなど、あまりないことなのだ。
震える忠次郎を伴い、六郎とともに「離れ」へ戻ると、すでに国宗家の郎党たちが大勢集まっていた。皆、興奮した様子だ。
母屋では、山林郷の郡廻り・木嶋五右衛門と代官・梶山治兵衛が、福島家の重臣である郡奉行を丁重にもてなしていた。
「父上、大助さまがお戻りになられました」
「おお、真田さま。お待ちしておりました」
すると、酒に酔っているのか、郡奉行が上機嫌な様子で俺に命令を下した。
「真田大助か。藩親方さまより、接見の命令が出ておる。至急支度し、明日早朝に出立せよ」
「ははっ」
「うむ。場所は西国街道沿いの春日神社である。儂が案内せねばならん。木嶋と梶山、それに国宗も同行を命ずる。よいな?」
「ははーっ」
「ああ、それと真田よ、それなりの正装でなくてはならんぞ。用意はあるのか?」
「それなりと申されても……」
「無いか? 仕方ないの。木嶋、準備致せ」
「はっ。では道中、私の屋敷へ寄りましょう」
こうして、明日の出立に向けて準備を進めることになった。接見など、俺が捕えられない限りはどうせあっという間に終わるだろう。だが、こんな極貧の村であっても、藩主へ何らかの貢ぎ物を用意しなければならない。国宗の者たちは、その準備に大忙しのようだった。
そんな中、俺は自分がこの地でどう生きてきたのか──それを示すものは何かを考えていた。
「お久、味噌を殿様に献上しようと思うが?」
「あい、よろしいかと。では、きれいな器にお詰めしましょう」
「うむ。頼む」
お久は内心、俺のことを案じているはずだ。しかし、それを口にも態度にも出さず、淡々と支度を整えている。その姿を見ていると、思わず抱きしめたくなった。
俺はお久をそっと抱き寄せ、弁解めいたことを口にする。
「ま、まあ……謹慎中の俺が、しかとこの地へ根付き、大人しく過ごしているかの確認だろうな」
「……あい、分かっておりますよ、大助さま」
大丈夫だ。きっと生きて帰れる。
俺は、心の中でそう強く願った──。
廃城跡にあるぼろぼろの館で、六郎、忠吾郎、神田次郎右衛門と今後のことを相談していた。
「だ、大助さま、一体どういうことでしょう?」
「忠吾、俺は福島さまのご領地である芸州で謹慎中の身だ。接見の意図は分からないが、会わぬわけにはいかない。だから俺のいない間、次郎右衛門殿と一緒に領民の面倒を見てくれ。いいな?」
「えっ? 僕が!?」
「そうだ。まあ、何事もなければすぐに戻る」
「い、いやあ……自信ないよお」
「数日のことだ。それに、源と和のことも頼んだぞ」
「は、はぁ……」
不安げな忠吾郎だったが、次郎右衛門もいるし、食材も十分にある。困ったことがあれば国宗家に頼ればいいと諭し、何とか説得した。そして、六郎と廃城跡を見廻りしながらこれまでの経緯を伝えた。
「なるほど。いや、驚きましたぞ。で、若はどうなさるおつもりですか? 今一度お考えを聞かせてくだされ。先ほどは皆がおったゆえに……」
「うむ、俺は接見に応ずる。どうなるかわからないが、ここを逃げ出せば国宗家をはじめ、村全体に悪い影響が及ぶと思う。そんな裏切りはできない」
「若らしいですな。では、いざと言うときは半蔵ら伊賀の者ともども戦覚悟で望むと?」
「その時は……その時だ、六郎」
「かしこまりました。この望月六郎が半蔵殿と連携し、必ずや若をお守りいたします!」
いや、お前だけでも逃げてくれ……
そう言いたかったが六郎の覚悟と気迫に押され、言葉を飲み込んでしまった。言っても聞かないだろう。それに、犬死とは決まっていない。僅かな望みを胸に、俺は「すまん」……と心の中で呟いた。
翌日、忠次郎が息を切らせながら廃城跡へ駆け込んできた。
「た、大変です! 藩親方さまが大助さまと接見したいと……はぁ、はぁ……先ほど、伝達がありましたあー!」
「そうか、分かった。一旦「離れ」へ戻ろうか」
「大助さま、驚かないのですか!?」
事前に知っていたとは、忠次郎には言えない。
「うむ。まあ、こういう日が来るだろうと覚悟していたからな」
「でも、今になって接見を求めるとは、一体なぜでしょう?」
「さあ、それは会ってみないと分からん」
「それで……父上が足を挫いて、大事には至りませんが、道中歩くのは難しいとのことで、私が代わりに代官さまと同行しなければなりません。……ああ、どうしましょう!」
「落ち着け、忠次郎。何とかなる」
「落ち着いてなんていられません! 私は大助さまのように胆が据わっていませんよお……」
忠次郎はひどく動揺していた。無理もない。庄屋の代行が、一国の領主と接見するなど、あまりないことなのだ。
震える忠次郎を伴い、六郎とともに「離れ」へ戻ると、すでに国宗家の郎党たちが大勢集まっていた。皆、興奮した様子だ。
母屋では、山林郷の郡廻り・木嶋五右衛門と代官・梶山治兵衛が、福島家の重臣である郡奉行を丁重にもてなしていた。
「父上、大助さまがお戻りになられました」
「おお、真田さま。お待ちしておりました」
すると、酒に酔っているのか、郡奉行が上機嫌な様子で俺に命令を下した。
「真田大助か。藩親方さまより、接見の命令が出ておる。至急支度し、明日早朝に出立せよ」
「ははっ」
「うむ。場所は西国街道沿いの春日神社である。儂が案内せねばならん。木嶋と梶山、それに国宗も同行を命ずる。よいな?」
「ははーっ」
「ああ、それと真田よ、それなりの正装でなくてはならんぞ。用意はあるのか?」
「それなりと申されても……」
「無いか? 仕方ないの。木嶋、準備致せ」
「はっ。では道中、私の屋敷へ寄りましょう」
こうして、明日の出立に向けて準備を進めることになった。接見など、俺が捕えられない限りはどうせあっという間に終わるだろう。だが、こんな極貧の村であっても、藩主へ何らかの貢ぎ物を用意しなければならない。国宗の者たちは、その準備に大忙しのようだった。
そんな中、俺は自分がこの地でどう生きてきたのか──それを示すものは何かを考えていた。
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お久は内心、俺のことを案じているはずだ。しかし、それを口にも態度にも出さず、淡々と支度を整えている。その姿を見ていると、思わず抱きしめたくなった。
俺はお久をそっと抱き寄せ、弁解めいたことを口にする。
「ま、まあ……謹慎中の俺が、しかとこの地へ根付き、大人しく過ごしているかの確認だろうな」
「……あい、分かっておりますよ、大助さま」
大丈夫だ。きっと生きて帰れる。
俺は、心の中でそう強く願った──。
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