宝刀と共に消えた落武者──真田大助の秘史

鼻血の親分

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第五章 芸州編 宝刀と共に消えた落武者

第45話 福島正則と対面

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 山村から押村を抜け、平谷村の山道を下ると、やがて少し開けた村へと出た。この辺りに、郡廻りの木嶋邸がある。
 出立してからすでに一時(約二時間)が経過していた。福島家の郡奉行をはじめ、役人の木嶋や梶山、そして忠次郎ら国宗の者にとって、ここで小休止を取るのはちょうど良い頃合いだった。俺は、この機にあらかじめ用意されていた裃に着替えることにした。

「若、道中を先回りしましたが、不審な様子は見受けられませんでした」
「六郎、半蔵たちはどうしている?」
「もしもの時に備え、伊賀の者は春日神社の本殿に潜んでおります」
「そうか……もしも、など起こらなければ良いが……」
「では、若、儂も半蔵と落ち合いますゆえ、これにて──」

 戦闘体制の六郎は一瞬のうちに邸宅の敷地から消え去った。俺は袴の帯を締め、その腰へ秀頼公の刀を差す。

「よし、忠次郎。いざ参ろうか!」
「はいっ!」

 一行は春日神社を目指し、再び歩みを進めた。西国街道を進むうちに、春日神社までの距離はあと一里(約4km)ほどとなる。

「忠次郎、急な話で国宗家には迷惑をかけたな」
「滅相もないです。緊張はしてますけど、藩親方さまに拝謁できるなんて、これ以上ない名誉です。一生の誇りになります」
「だが、台所事情も厳しいこの時期に、かなりの献上品を用意したと聞いたが……」
「いえ、何かの時に備えて取っておいた材木です。広島城の修復に役立てていただければ、国宗家の名も上がるというものですよ」
「そうか……そう言ってもらえると助かる。ありがとな」

 忠次郎は、献上品の目録だけを持参し、材木は後日届ける手はずになっているようだ。

「おーい、神社が見えたぞー!」

 先導する福島家の家臣が指差した先には、一直線に伸びる参道と、その先に佇む古い鳥居が見えてきた。

 ──いよいよか……。

 俺は、さすがに緊張を隠しきれなかった。

 境内を進み、拝殿で一礼した後、本殿へ入る。そこで福島家の者により、秀頼公から賜った刀を召し上げられた。藩主に拝謁する以上、当然のことではあるが、丸腰のまま何かあれば一溜まりもないという不安だけが胸をよぎる。
 そして、付き人である国宗の郎党はここで足止めされ、役人の郡奉行や木嶋、梶山、庄屋の忠次郎とともに拝謁の間で静かに待機する。やがて、福島正則が側近である家老・津田四郎兵衛を伴い姿を現した。

「藩親方様のおなーり! 一同、礼!」
「ははーっ!」

 正則は、国宗家からの献上品である目録と味噌の入った器に目を通しながら上座へ座る。

「……うむ、苦しゅうない。面を上げよ」
「ははっ!」

 武闘派で気性の荒い人物と聞いていたが、目の前の正則は初老で小柄な体格の男だった。しかし、その鋭い眼光と蓄えた髭、そして堂々とした佇まいは、確かにただ者ではない威厳を漂わせている。

 津田四郎兵衛が藩主に代わり口を開いた。
「あー、木嶋、山林郷の国宗はどの者か?」
「はっ、こちらに」
 木嶋が身振りで忠次郎を示すと、忠次郎は慌てて平伏し、大声で名乗った。

「わ、わ、私が国宗忠次郎でございまする!」

 正則はゆっくりとうなずき、口を開く。
「うむ、国宗よ、大儀であった。山林郷も野分台風の被害が甚大だと聞いておる。貴重な材木を提供してもらってよいのか?」
「はっ、広島城修復のために国宗家の材木をお使いいただけるのなら、これ以上の名誉はございませぬ!」
「よおく申した! その功を称え、山林郷の年貢を二年の間、猶予とする!」
「……えっ!?」
 突然の申し出に、忠次郎は一瞬言葉を失った。
「はっはっは……」
 正則が笑うと、木嶋が焦った様子で忠次郎を促す。
「こ、これ忠次郎! 御礼を申し上げよ!」
「あ、あーっ! ありがとうございます! た、助かります、とても……うっ、ううっ」
「うむ、うむ」

 思わぬ褒美に、忠次郎は嗚咽を漏らしながら、畳の上に大粒の涙を落としていた。日々、年貢のことで頭を悩ませていたのだから、それも無理はない。

「……で、真田の倅。大助とはそちか?」

 そして、ついにその瞬間が訪れた。

「はっ、私が真田幸村の嫡男、真田幸昌真田大助でございます」

 拝謁の間には、俺のほかにも木嶋、梶山、忠次郎が控えている。まさかこの状況で俺を捕えるとは考えにくい……だが、次の言葉に思わず背筋が凍った。

「うむ。……あ、お前たちは下がってよい」
「えっ?」
「あー、藩親方さまは真田と二人きりで話したいそうだ。お前ら、大儀であったぞ」
 津田四郎兵衛が木嶋らに退席を促した。

 どういうことだ? 俺を一人にして、このまま捕えるつもりなのか!?

 役人や忠次郎が席を立ち、襖が閉められると、より一層強い不安が胸をよぎる。

 襖の向こうには刀を抜いた家臣たちが潜んでるかもしれない……。

 そんな俺の様子を見透かしたように、福島正則はゆっくりと身を乗り出し、低く唸るように言葉を発した。

「さて……と」



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