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第二部

16. 侍女の巻⑯

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フィガーにお水を飲ませてる間に、キース様と湖畔にあるベンチへ腰掛けました。
よし、こ、こ、告白する絶好の機会だわ!
と、意気込んでおりましたが、上手く言葉が出ません。沈黙は嫌です。とにかく何かお話しなければ……。
あ、そうだ!思い出したわ。
「キース様、ジョーをご紹介してくださいまして、ありがとうございました」
「ああ、お姉さんは派閥に入れたようだね。行進で見かけたよ」
「そうなんです!私も何とかお役目を果たしてホッとしてます!」
「それは良かった。侍女も大変だろう。で、ポピーは後宮に慣れたかい?」
「え?うーん、まあ……」
「何だ?奥歯に詰まった様な言い方だね。思う事があるんだったら聞いてみたいな」
そう仰られると、つい本音で喋りたくなります。
「私、思うんですけど、そもそも後宮って必要なんですかね?伏魔殿って呼ばれてるんですよ。ドロドロした足の引っ張り合いがお盛んで……。それでも皇太子様の寵愛を受ければ良いですけど、そうでない婦人の方が圧倒的に多い訳だしー」
「……なるほど」
「あ、でもジョーに聞いたけど、あぶれた令嬢は宮廷勤めの独身貴族と結ばれる様、奔走してるみたいで、それは良い事だなーって思います」
「ああ、そう言う一面もある」
「でもねー、こう言っちゃー叱られるかも知れないですけど、100人も抱え過ぎですよー。どんだけ欲張り殿下なんですか?で、結局選んだのはグレースとライラでしょう?あのお二人って結構オバさんじゃん!殿下って絶対年増が好みなんですよ」
「そ、そうなのかな……?」
「そうです。趣味が悪いですよ。ホントに自分のお好みで選んでおいでなのか、お聞きしたいくらいですわ!」 
「ポピーは結構ズバズバ言うタイプなんだね」
「あ……ごめんなさい。私ったら」
つい、言いたい放題口にしてしまった。これでは告白どころじゃない。
「皇室も色々、家柄のバランスを取るために、好きでもない婦人を選ばざるを得ないと聞いた事があるんだ」
「そうなんだ。つか、御正室が居ますよね!まあ、皇室の世界は存じませんけど、愛人くらい自分のお好みで選ぶべきだと思いますよ!」
「うん、僕もそう思うよ。ポピー」
あーあ、せっかくお逢いしたのに毒演会の様な感じになっちゃって……。
私は激しく後悔と同時に告白を断念しました。

***

「仕立て屋さんの調査によると、複数の殿方がお姉様の行進を見て、気になっているらしいです」
姉の顔がほころぶのに時間はかからなかった。
「そう!で、で?何処の御方なの⁉︎」
「えー、先ずは……」
独身官僚や貴族の名と役職など事細かに説明する。姉は皇太子様の事などすっかり忘れ浮かれていた。
「ああ、実際に拝見したいわ」
「お姉様、お手つきを目指してるんじゃないの?」
「まあ、そうだけどー。でも残り5ヶ月切ったからね。そろそろ考えとかないとー」
なるほど。もしや姉は最初っから可能性の低い『お手つき』より、むしろ貴族を狙っていたのかもね。そのための宮廷行列だったのかしら?まあ、それでも殿方を捕まえられるなら此処へ来た甲斐もあったもんです。

お父様、姉は皇太子様への淡い期待を抱きつつも、現実味のある『婿選び』に舵を切った様です。恩給は期待出来ませんね。そこで今度は私にと、お考えにならない様、手を打っておきたいところですけど……中々上手く行きません。残り5ヶ月、私も処女喪失に奔走します!












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