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第三章〜ご主人様を攻略致しますので〜

19. ご主人様は激怒しますか?

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「ディアナ様っ」

 書庫で侍女長に待ち伏せされておりました。ぬいぐるみに関する書物をお借りしようと思っていたところですが……

 お顔を近づけてクンクン嗅がれます。そして嫌悪感丸出しの表情をされるのです。

「あ、あの」
「ちょっと匂いますわね!」
「気をつけていたのですが」
「ご主人様のベッドルームからも同じ匂いがしました。ご説明頂けますか?」
「はい。これはアロマオイルの香りでございます。心が落ち着きリラックス効果が期待されるので、ご主人様にプレゼントさせて頂きました。幸い、お気に召されたと執事殿から聞きましたが……」

 侍女長はかなり気に食わない様子です。悔しさ全開で物凄くお睨みです。怖いです。その剣幕に侍女たちはわたくしの後ろへ隠れてしまいました。

「ふん、勝手なことを。と、思いましたがそれは百歩譲るとしましょう。問題はご主人様の苦手な猿のぬいぐるみです。どういうおつもりですか!」

 ふんわりお猿さんを見られたのですね。これは困りました。

「あれは、その……」
「じ、侍女長。あれは空想の動物でございます」
「カトリーヌ?」

 咄嗟に彼女が助け船を出してくれたのです。

「空想? どう見ても『猿っ』でしょうが!」
「いえ。わたくしが想像した動物です。決してお猿さんをモデルにした訳ではございません。はい」

 わたくしもつられて嘘をついてしまいました。

 ふん。っと鼻で鳴らした声が聞こえてきます。

「であるならば、紛らわしいのでお作り直してください。いいですね? ディアナ様!」
「はい。かしこまりました」

 ええ。既にリアルなカエルが完成してます。夕刻には執事殿へお渡しする予定……

 で す が。

 それを見られたら言い訳できませんね。さて、どうしましょう。

 プンプンで侍女長が立ち去って行く姿を見送りつつ、わたくしはあるアイデアが浮かびました。

 ご主人様のメッセージカードに、『ぬいぐるみはお城の執務室へお飾りください』と記したのです。お城なら侍女長の目も届かないので。

 そして夕刻。

「ディアナ様。今日のプレゼントは何でしょう」

 毎日同じ時刻に執事殿がお受け取りに来られます。いつも笑みを浮かべ、今日のぬいぐるみは何かと楽しみになさってるご様子。

「コレなんですけど……」

 恐る恐るカエルをお見せしました。グリーンの生地が主体で胴体は白。目が大きく、手足を揃えカエル座りの可愛い仕上げとなっております。

「ふむ。見事なカエルですね」

 あら『カエル』ってはっきり仰いましたね。まぁそうでしょう。苦労して似せましたので。

「冒険してみましたが執事殿はどう思います?」
「さて。どう出ますかな」
「あえて似せたのです。決して悪気がある訳ではございません」
「はい。ディアナ様のお考えは私なりに理解しております」

 執事殿がお認めになられた。ご主人様の苦手な生き物と知っていながらお認めに!

「ご理解頂きありがとうございます」
「貴女には期待してるのです」

 期待? つまり、もっとやりなさいと言うことですか? そうですよね。かしこまりました。何だか勇気が湧いてきます。ではではお言葉に甘え、次は『リアルお猿さん』で勝負致します。

 激怒されても構いません。むしろ感情を露わにして頂きたい。

 どんとこいっ、ご主人様! でございます。
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