ご主人様は若い女性が苦手なのです。

鼻血の親分

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第三章〜ご主人様を攻略致しますので〜

23. ご主人様は語られたのです

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「ドミニク。すまないが二人きりにしてくれ」
「かしこまりました。セリア、参りましょう」

 執事殿と侍女長がお部屋から出て行かれます。彼女は悔しさを滲ませていました。けれども彼の誘導で別の扉から密かにダイニングルームの裏手へ回り、待機させる手はずです。

 侍女長にご主人様の本音を聞かせるために。

「君に尋ねたいことがある」
「わたくしもお話しがございます」
「……聞こうか」
「ご主人様。貴方は侍女長のことが好きなのですね?」
「な、何だと!」

 顔色がお変わりになられました。余りにも意表を突いた質問だったのでしょうか?

「まぁ好きと言いますか、母親の様な感情を抱いているのではと」
「答える必要はないと思うが」
「これはカウンセリングです。ご主人様が若い女性が苦手だと方々で困るのです」
「カウンセリング? そうか。君は薬剤師であるとともに精神医療の心得もあるのか。なるほど。で、困るとはどういう意味だ?」
「この屋敷でも若い女性は遭遇しない様、気を使っています。お城でもそうではないですか?」
「ん、そう言えば」

 彼は腕を組まれ考え込んでしまいました。お気づきになられてないのは異常だと思いますが。

「ご主人様。苦手を克服するには原因を探らないとなりません。もう一度お聞き致します。貴方は母親を亡くされ寂しい思いをされていた。そんな折、唯一甘えられる存在にセリアがいたのです。いっぱい甘えたかった。けれども……」

 彼は手のひらを見せてそれ以上の言葉を遮りました。

「正直に答えるのがカウンセリングだよね。では答えよう」
「はい。包み隠さずお願いします」
「うむ……僕は母とお付きのセリアに育てて貰った様なものだ。だが母は病弱だったから会えないことが多くてね。そんな時はいつもセリアが相手してくれた」
「大切な存在だったのですね」
「ああ。特に母を亡くして以降、彼女なしでは生きていけないと思ったほどだ」
「けれどもセリアは手のひら返した様に冷たくなった。貴方は何度も怒られ女性恐怖症に……」
「父も体調崩してね。僕が跡取りだったから取り巻く人たちが急に厳しくなったのは分かるけど」
「お辛かったのですね」
「ああ。とても辛かったよ。いつしか彼女とは殆ど口を聞かなくなった。あの変貌が頭に残って他の女性と話するのも怖くなったんだ」

 なるほど。深く傷ついたのですね。

「ですが。ご主人様は立派な領主となられました。これは皆様が心を鬼にしたからこそではないでしょうか?」
「それは……感謝はしてるが」
「もうわだかまりを捨てる時ですよ。彼女も涙を呑んであえて厳しく接したのです。ご主人様のためを想って」
「う、うむ」
「で、今でも彼女が好きですか?」

 彼は暫く沈黙しましたが、やがて意を決して語られたのです。

「ああ、今でも好きだ。あれから十五年経ってもセリアは美しい女性だと思ってる。大好きさ」

 うむむ。正直でよろしい。と、言いたいところですが妻の前でよくもぬけぬけと。ま、まぁいいでしょう。これはカウンセリングですから。

「よく分かりました。では少々荒療治致します」
「ん、荒療治?」
「はい。恥ずかしいけど耐えてくださいね」

 わたくしは裏手の方を振り返りました……





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