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Ⅲ.貴方様と私の計略 ~ 婚約者 ~
140.落ちた令嬢の来訪②(ユミナ視点)
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彼女のひとなりを感じる瞬間。
己の不甲斐なさを悔いても、感謝は忘れない。
私は、そんな彼女を守りたいと心から思う。
どれほどの時が経ったのか・・・
明かり取りと思われる格子窓から、常に淡い光が漏れ、出される食事もまちまち。
時の流れが希薄となり、幾何の時が流れたのかわからなくなる。
わかることは、腕の中に・・・手が届く距離にミリィがいると言うことだけだ。
───一人で連れ去られていたら、精神を病んでいただろうな・・・
そう思いながら、軽く体を動かす彼女を眺める。
ミリィは、「いざという時に動けないのは困りますから」と、狭い部屋をグルグル歩いたり、軽く筋トレをしたりしている。
私はと言えば、そんな彼女に付き合ったり、素振りをしたりしている。
まぁ、素振りは彼女が動かないときだけではあるが。
───それにしても、ミリィは強いな
単純な力・・・そういう意味では、彼女は弱い。
試しに、剣を持たせてみれば、危なっかしくてみていられなかった。
だが、私は、ミリィは強いと思う。
───だって、そうだろう。連れ去られ、監禁されているのにも関わらず、我が儘も言わず、できることをしようとしているのだから
そう。彼女は、自分の弱さを悔やみはするものの、今現在何ができるのか。
それを考え、そして、行動に移している。
並みの精神力で出来ることではない。
熟練の戦士でさえ、出来ないかも知れないというのに。
その時、微かな悪意と空気の揺れを感じ、ミリィを腕の中に抱え込む。
彼女は、抗うことなく、私の腕に抱かれながら、大人しくしている。
そして僅かな時も経つことなく、扉が開かれる。
そこには、いつもと変わらぬ、魔王ルージュの姿がある。
「あら。まだ、正気を保っているのね。忌々しい男だけでなく、おちびちゃんも。面白いわね」
部屋を訪れるなり、ルージュは笑いながら告げる。
そして、自然な動作で、腕をもたげる。
ただ、それだけ。しかし、私の腕に小さなかすり傷を作り、新たな血がにじむ。
それは、腕だけではなく、脇腹や足にと十数カ所に同様の傷をつくる。
「ふん。まだ、加護の力が弱らないのね・・・かすり傷ぐらいの傷しか出来ないとか、忌々しいわね」
そう言いながら、ルージュは私へと直接手を伸ばす。
ぱきんっ!
私に触れるか、触れないかの距離で、氷が割れるような音と共に、ルージュの手が止まる。
そして、弾かれたように手を己の胸へと抱き込んだ。
「ほんと、なんなの?魔力であれば、ほんのかすり傷を追わせることは出来るけれど、直接手も下せない。意味がわからないわ」
その声と共に、手を顎にかけ、ぶつぶつと考え事を始めた。
「魔武器も駄目だったわよね・・・あと、試していないのは・・・───人の武器?」
ルージュの行き着いた答えに、少し拙いなと思う。
恐らくではあるが、私の腰にあるような剣・・・武器であれば、私を傷つける可能性が高いからだ。
───人の武器は、私にとって未知のものではない。加護とやらが発動しない可能性が高い・・・か?
「ふふ。待っていなさい。ちょっと、此方に持ってくるのが面倒だけれど。次こそは、忌々しいお前を殺してあげるわ」
ルージュは、そう言い残して部屋を去って行く。
そして、完全に気配が薄れたことを確認し、ミリィを腕の中から解放する。
「・・・大丈夫ですか?」
ミリィが無表情だが、心配している声音で尋ねてくる。
「ああ。大丈夫だ。これ位の傷なら、直ぐに塞がる」
現に、浅い傷は血が止まり、固まりかけている。
「・・・いつも、ごめんなさい。でも、ありがとうございます」
「君が無事なら、なんてこと無いよ」
ルージュが去ったあとのいつものやり取り。
ミリィの悔しさが謝罪となり、けれど、私への感謝は忘れない。彼女のひとなりを感じる瞬間でもある。
束の間の一時を過ごしていれば、いつもとは違う空気・・・空間の揺れをを感じ、ミリィを背後へと庇う。
そして、私が油断なく注視していれば、二つの人影がふわりと現れたのだった。
己の不甲斐なさを悔いても、感謝は忘れない。
私は、そんな彼女を守りたいと心から思う。
どれほどの時が経ったのか・・・
明かり取りと思われる格子窓から、常に淡い光が漏れ、出される食事もまちまち。
時の流れが希薄となり、幾何の時が流れたのかわからなくなる。
わかることは、腕の中に・・・手が届く距離にミリィがいると言うことだけだ。
───一人で連れ去られていたら、精神を病んでいただろうな・・・
そう思いながら、軽く体を動かす彼女を眺める。
ミリィは、「いざという時に動けないのは困りますから」と、狭い部屋をグルグル歩いたり、軽く筋トレをしたりしている。
私はと言えば、そんな彼女に付き合ったり、素振りをしたりしている。
まぁ、素振りは彼女が動かないときだけではあるが。
───それにしても、ミリィは強いな
単純な力・・・そういう意味では、彼女は弱い。
試しに、剣を持たせてみれば、危なっかしくてみていられなかった。
だが、私は、ミリィは強いと思う。
───だって、そうだろう。連れ去られ、監禁されているのにも関わらず、我が儘も言わず、できることをしようとしているのだから
そう。彼女は、自分の弱さを悔やみはするものの、今現在何ができるのか。
それを考え、そして、行動に移している。
並みの精神力で出来ることではない。
熟練の戦士でさえ、出来ないかも知れないというのに。
その時、微かな悪意と空気の揺れを感じ、ミリィを腕の中に抱え込む。
彼女は、抗うことなく、私の腕に抱かれながら、大人しくしている。
そして僅かな時も経つことなく、扉が開かれる。
そこには、いつもと変わらぬ、魔王ルージュの姿がある。
「あら。まだ、正気を保っているのね。忌々しい男だけでなく、おちびちゃんも。面白いわね」
部屋を訪れるなり、ルージュは笑いながら告げる。
そして、自然な動作で、腕をもたげる。
ただ、それだけ。しかし、私の腕に小さなかすり傷を作り、新たな血がにじむ。
それは、腕だけではなく、脇腹や足にと十数カ所に同様の傷をつくる。
「ふん。まだ、加護の力が弱らないのね・・・かすり傷ぐらいの傷しか出来ないとか、忌々しいわね」
そう言いながら、ルージュは私へと直接手を伸ばす。
ぱきんっ!
私に触れるか、触れないかの距離で、氷が割れるような音と共に、ルージュの手が止まる。
そして、弾かれたように手を己の胸へと抱き込んだ。
「ほんと、なんなの?魔力であれば、ほんのかすり傷を追わせることは出来るけれど、直接手も下せない。意味がわからないわ」
その声と共に、手を顎にかけ、ぶつぶつと考え事を始めた。
「魔武器も駄目だったわよね・・・あと、試していないのは・・・───人の武器?」
ルージュの行き着いた答えに、少し拙いなと思う。
恐らくではあるが、私の腰にあるような剣・・・武器であれば、私を傷つける可能性が高いからだ。
───人の武器は、私にとって未知のものではない。加護とやらが発動しない可能性が高い・・・か?
「ふふ。待っていなさい。ちょっと、此方に持ってくるのが面倒だけれど。次こそは、忌々しいお前を殺してあげるわ」
ルージュは、そう言い残して部屋を去って行く。
そして、完全に気配が薄れたことを確認し、ミリィを腕の中から解放する。
「・・・大丈夫ですか?」
ミリィが無表情だが、心配している声音で尋ねてくる。
「ああ。大丈夫だ。これ位の傷なら、直ぐに塞がる」
現に、浅い傷は血が止まり、固まりかけている。
「・・・いつも、ごめんなさい。でも、ありがとうございます」
「君が無事なら、なんてこと無いよ」
ルージュが去ったあとのいつものやり取り。
ミリィの悔しさが謝罪となり、けれど、私への感謝は忘れない。彼女のひとなりを感じる瞬間でもある。
束の間の一時を過ごしていれば、いつもとは違う空気・・・空間の揺れをを感じ、ミリィを背後へと庇う。
そして、私が油断なく注視していれば、二つの人影がふわりと現れたのだった。
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