114 / 219
第5部 赤壁大戦編
第94話 訪陣!新生ソンケン軍!
しおりを挟む
「兄さん、ここは戦地です。
気をつけてください」
「アニキ!
オレたちから離れるんじゃねーぜ!」
長く美しい黒髪に長身の女生徒・カンウ。
そして、お団子ヘアーの小柄な女生徒・チョーヒ。
この二人の義妹を連れ、俺・リュービは救援に駆けつけてくれたシュウユの陣営へ挨拶を兼ねてやって来た。
「うーん、そうなんだけどさ。
カンウ・チョーヒ、なんか近くない?」
「何を言ってるんですか兄さん!
今は教室防衛を優先するために、私とチョーヒしか護衛についてきていないんですからね。
兄さんの身は私たち二人で守らないといけないんです」
「そうだぜ、アニキ!
決して久しぶりの三人きりだとかそういうことじゃないんだぜ!」
両腕の自由を封じられながら、俺たちは一先ず、今シュウユ軍でお世話になっているうちの軍師・コウメイと窓口となっているロシュクを訪ねた。
「ようこそようこそ、リュービさん、カンウさん、チョーヒさん」
「ロシュクさん、この度は我が陣営との同盟、さらに対ソウソウへの参戦、ありがとうございます。
チュー坊君にもお礼の旨お伝えください」
「これはこれはリュービさん、ご丁寧に。
案内の前に一つお伝えしておくのですが、この度、我が主はチュー坊より通称名をソンケンと改めました。
以後はソンケンとお呼びいただきますよう、よろしくお願いいたしますぞ」
「ロシュクさん、わかりました。
では、ソンケン軍の総司令官・シュウユさんの元まで案内よろしくお願いします」
「わかりました。
しかし、こんな公の場で抱き合うなんてお熱いですな」
灰色の長い髪に黒いリボンをつけ、ブラウスの上から黒いローブを羽織り、手に扇子を持った女生徒・ロシュクがからかうように言う。
「ロシュクさん、これは別に抱きあってるわけじゃなくて…」
「そうですね…リュービさん…」
「あ、コウメイ、ようやく会え…うっ!」
「リュービさん、こういう場で主従が必要以上に近しいのは如何なものでしょうか」
ようやくの再会となった我らの軍師・コウメイは、目にかかるぐらいの長さの薄水色の髪の隙間から眼光を覗かせ、まだ幼さの残る愛らしい顔つきには怒気が含まれ、そのとても華奢な体躯からとは思えないほどの迫力で俺を睨み付けた。
「コウメイ、落ち着いて。
二人は俺の護衛に張り付いてるだけだ」
「そうです、コウメイさん。
これは護衛のためです」
「そうだぜ、あくまでも護衛だぜ!
別にやましい気持ちなんかないんだぜ!」
「ちょっとチョーヒ!
そんな言い方すると反って怪しくなるじゃないですか!」
「し、しまっただぜ!」
「むぅ、まったくリュービさんは…」
狼狽える俺や騒ぐカンウ・チョーヒに、コウメイは半ば呆れながらもムッとしかめっ面をプイッと横に向いた。
その様子に、茶髪をおさげに結い、浅黒い肌に、メガネをかけた女生徒・ゲツエイがからかい気味にコウメイに小声で絡んでいった。
「ふふふ、コウメイちゃん、焼きもちなのかな?」
「そんなのじゃありません!
さぁ、リュービさん、早くシュウユさんのところに行きましょう」
ご機嫌斜めのコウメイを先頭に俺たちはシュウユの待つ奥の本営に行こうとしたが、見知らぬ顔が三人、俺たちを呼び止めた。
「あ、ロシュクさん!
その人たちがリュービさん、カンウさん、チョーヒさんですか」
「あなた方が噂に名高いリュービ三兄妹ですか」
「ヒュー、噂通りのまぶいスケじゃねーか」
見知らぬ三人はソンケン軍の武将格だろうか、最初に喋ったのが女性、後に続いたのは男性二人であった。
「はじめましてですね。
俺がリュービです」
その言葉に、黒いローブを羽織った女生徒・ロシュクが反応する。
「おやー、リュービさんは初対面でしたか。
では、手短に紹介しておきましょうぞ。
端からバカ、チビ、チンピラです」
「誰がバカだー!」
「チビとは俺のことか!」
「ヒヒヒ、まあ、おりゃーチンピラかもな」
ロシュクからバカ呼ばわりされたのは、肩まで届く膨らんだポニーテールに、背は中程度だがスタイルの良い、ブラウスにベスト、ミニスカートの女生徒・リョモウ。
チビと呼ばれたのは、隣のリョモウより背が低い、長い髪を一つ結びにし、赤いハチマキをつけた男子生徒・リョートー。
チンピラと呼ばれたのは、三人の中で最も背の高い、オールバックの黒髪に、耳にピアス、腰からチェーンを垂らしたガラの悪い男子生徒・ハンショー。
この三人は共に一年生の新入武将だそうだ。
「ロシュクさん、前から思ってましたけど、私の扱いひどくないですか」
バカ呼ばわりされたポニーテールの女生徒・リョモウがロシュクに詰め寄るが、当のロシュクは意にも返さない様子でいなしてしまう。
「はいはい、リョモウちゃんは真正面から突っ込む以外の攻撃手段を覚えた方がいいですぞ」
「また私をバカにして!」
「さて、からかうのはこのぐらいにしまして、リュービさんはこの三人と初対面なら、ついでにもう一人新人を紹介しておきましょうぞ。
ついてきてくだされ」
ロシュクに連れられ、俺たちが歩き出そうとすると、チンピラのハンショーが義妹・カンウにからみ出した。
「ヒュー、あんたがカンウか。
噂通りのべっぴんだな。
どうだ、そんな優男に抱きつくのやめて、俺の女にならねーか」
その言葉にカンウの表情は一転、怒相に変わり、ハンショーに詰め寄った。
「兄さんのことを言ってるのであったら怒りますよ」
「オー、怖い怖い。
でも、カンウ、あんたの顔は覚えたぜ。
いつかあんたを手に入れてやるぜ」
「やれるものならやってみなさい。
なんでしたらこの場で試してみますか!」
「カン姉、オレも加勢するぜ!」
「カンウ、それにチョーヒも拳を下げてくれ。
ハンショー、君も下がってくれ。
兄としてカンウを君に任せることはできない」
「兄さん…」
その間に割り込むように、ロシュクがやって来てハンショーに釘を刺した。
「リュービさんは妹思いでございますな。
ハンショー、これ以上同盟に傷が入るようなことするならシュウユさんに報告いたしますぞ」
「オーオー、しゃーない。
退くとするか」
「さて、リュービさん。
改めて新人の元に案内しますぞ」
ロシュクに導かれ、俺たちは陣営外れの更衣室の方へと連れてこられた。
「まったく失礼な人でした。
こう見えて兄さんは脱いだら結構逞しい体なのに」
「カンウ、誤解されるからそれは他所で言わんでくれ」
「さて、イチャついてるところ悪いですが、まもなく到着いたしますぞ。
これから紹介するのはカンネーという人物でしてな。
二年生ですが、最近我が陣営に加わりました。
前にリュウヒョウ陣営にいたので、もしかしたら会ったことがあるやもしれませんな」
「カンネー?
いや、初耳ですね」
俺もリュウヒョウ陣営に長くいたが、その名に聞き覚えはなかった。
聞けばリュウヒョウ配下のコウソの部下だったそうで、コウソともそんなに会ってないし、対東校舎の最前線に張り付いていたのなら、なおさら会う機会もなかったのだろう。
「そうでしたか。
これが少々問題児でしてな。
私が呼び出しますので、ここで目と耳を塞いでおいてもらえますかな」
「問題児?」
問題児というなら、勝手に俺と同盟を結ぼうとしたこのロシュクも大概だと思うが、そのロシュクが言う問題児とはどれほどの者なのかと俄然興味が湧く。
「その、なんと言いますかな…」
そうこう話しているうちに更衣室前までやって来たが、奥よりなにやら不穏な声が漏れ聞こえてきた。
「あん…あん…あっ…」
何かが軋むような音と共に喘ぐような声が俺たちの耳に入ってきた。
「あのあの、この声はいったい…」
「ダメ、コウメイちゃん!
耳塞いで!」
おさげの女生徒・ゲツエイはとっさにコウメイの耳を塞ぎ、隣にいるカンウ・チョーヒも顔を真っ赤にする。
気まずい空気が辺りに流れる。
「ロシュク、この音はもしかしなくても…」
「ああ、もう始めてましたか。
ここでは慎むようにと注意はしたのですがねぇ」
ロシュクが頭を抱えながら、扉に手を伸ばそうとすると、先にガチャリと音が鳴り、向こうより扉が開けられた。
更衣室から姿を現したのは、大柄で逞しい、そして何より素っ裸の男性であった。
その登場に、キャーと女性陣から悲鳴が上がる。
「コウメイちゃん見ちゃダメです!」
「あ…あ…あ…」
「なんで学校で裸なんですか!」
「あれならアニキの方が勝ちだな…」
カンウ・ゲツエイは悲鳴を上げ、コウメイに至っては悲鳴を通り越して声にならない声を上げている。
あのロシュクでさえ固まってしまったが、何故かチョーヒだけわりと冷静だ。
てか、何を比べた。
とにかく女性陣が固まってしまったので、あまり気が進まないが、俺が彼に話しかける。
「えーと、あなたがカンネーさんですか?」
「もう…これ以上…無理…だ…」
「へ?」
そういうと素っ裸の男性は、その場に倒れこみ、そのまま失神してしまった。
「んー、悪くはないけど、二回目はないかな」
その素っ裸の男性の後ろから現れたのは、長身、銀髪に褐色肌の…いや、そんな情報はどうでもいい。
一糸纏わぬ女性であった。
彼女は豊満で、なおかつよく引き締まった筋肉質のその裸体を惜し気もなく俺たちに披露した。
そのあまりの姿に俺が反応するより早く、後ろからものすごい衝撃と共に俺の視界は奪われた。
「兄さん、何見てるんですか!
早く目を閉じて下さい!」
「アニキ、あの乳は目に毒だぜ!
オレとカン姉であいつを抑えておくから、アニキは向こう行ってろ!」
「イタタタタ!
カンウ・チョーヒ、痛い痛い!」
俺がカンウ・チョーヒに押さえつけられてるのもお構い無しに、その一糸纏わぬ女性は何一つ隠すことも無く、つかつかと俺たちの前に歩いてきた。
「へぇ、あんたもカン姉って呼ばれてんのかい?
あたいの名もカンネーだ。
似た名前同士よろしくね」
「よろしくじゃありません!
早く服を着てください!」
「あぁ、服かい?
どこやったかな?」
「カンネー、制服です。
こういうことは控えるよう伝えておいたはずですぞ」
「ありがとう、ロシュク。
こんなのはただの息抜きさ。
おやぁ、この制服あたいのじゃないね、胸の辺りがきついよ。
ほらぁ着たよ、これでいいだろ」
その言葉に俺の両目はようやく二人の義妹から解放された。
「よい目に…いや、ひどい目にあった」
「君がリュービだね。
どうだぃ、今夜あたいに抱かれてみる気はないかい?」
「に、兄さんになんてこと言うんですか!」
「おい、アニキを誑かすんじゃねーぜ!」
「リュービさんには必要ありません!」
カンウ・チョーヒ、さらにコウメイまで加わり、俺が口を挟む暇もなく、カンネーの言葉を遮った。
そしてその銀髪褐色肌の女性に代わり、ロシュクが俺たちに紹介をした。
「すみません、リュービさん。
この方はカンネー。
少々、性に奔放な困り者ですが、武勇においては我が軍屈指の実力者ですぞ」
「その紹介は心外ね。
あたいは気に入った男としかやらないよ」
「フォローになってません!
兄さん、早く次に行きますよ!」
「アニキ、次行くぜ!」
「リュービさん、急ぎましょう」
カンウ・チョーヒ・コウメイに引っ張られ、俺はカンネーへの挨拶もそこそこに、シュウユの待つ奥へと連れられた。
だがその道中、見知った顔が俺たちを呼び止めた。
「リュービか」
「テイフさん、この度は我らとの同盟ありがとうございます。
共にソウソウと戦いましょう」
出会ったのは、細身の体型に眼鏡、手首に赤いバンダナを巻いた男子生徒・テイフであった。
彼はこの軍の副司令に就任している。
テイフにも挨拶に伺おうと思っていたので、ちょうどよい機会と、俺は頭を下げた。
「リュービ、今は戦時だ。
あまりイチャつくな。
挨拶が終わったらすぐ自陣に戻られよ」
そういうとテイフはさっさと通りすぎてしまった。
テイフは元々真面目な人物であったが、以前に会った時よりその顔は険しく、語気も強いものとなっていた。
「すまんな、リュービ」
「コウガイさん。
それにカントウさんも」
テイフの後から現れたのは、訛りのあるしゃべり方をする、無精髭に、太ももに赤いバンダナを巻いた男子生徒・コウガイ。
そして、頭に赤いバンダナを巻き、頬に傷がある男子生徒・カントウの二人であった。
「テイフの奴、副司令に就任したのもそうじゃが、ソンケン(兄)の大将が辞め、ソンサクのお嬢が休み、一年のソンケン(弟)が継いだ。
目まぐるしく大将が代わり、三年代表の立場として気負うとるんじゃ」
「テイフの旦那は人一倍責任感が強い。
今は気が立っているのだ」
コウガイ・カントウの二人は申し訳無さそうに、テイフをフォローする。
「テイフもじゃが、シュウユも今は少々気が立っとってな。
気を悪うせんでくれ」
そういうとコウガイ・カントウは、テイフを追って去っていった。
少々、奔放な人物に会って気が緩んでいたが、今は戦時。
ソンケン軍の上層部の面々はかなり神経を尖らせているようだ。
俺たちは改めて気を引き締めてからシュウユの元へと向かった。
気をつけてください」
「アニキ!
オレたちから離れるんじゃねーぜ!」
長く美しい黒髪に長身の女生徒・カンウ。
そして、お団子ヘアーの小柄な女生徒・チョーヒ。
この二人の義妹を連れ、俺・リュービは救援に駆けつけてくれたシュウユの陣営へ挨拶を兼ねてやって来た。
「うーん、そうなんだけどさ。
カンウ・チョーヒ、なんか近くない?」
「何を言ってるんですか兄さん!
今は教室防衛を優先するために、私とチョーヒしか護衛についてきていないんですからね。
兄さんの身は私たち二人で守らないといけないんです」
「そうだぜ、アニキ!
決して久しぶりの三人きりだとかそういうことじゃないんだぜ!」
両腕の自由を封じられながら、俺たちは一先ず、今シュウユ軍でお世話になっているうちの軍師・コウメイと窓口となっているロシュクを訪ねた。
「ようこそようこそ、リュービさん、カンウさん、チョーヒさん」
「ロシュクさん、この度は我が陣営との同盟、さらに対ソウソウへの参戦、ありがとうございます。
チュー坊君にもお礼の旨お伝えください」
「これはこれはリュービさん、ご丁寧に。
案内の前に一つお伝えしておくのですが、この度、我が主はチュー坊より通称名をソンケンと改めました。
以後はソンケンとお呼びいただきますよう、よろしくお願いいたしますぞ」
「ロシュクさん、わかりました。
では、ソンケン軍の総司令官・シュウユさんの元まで案内よろしくお願いします」
「わかりました。
しかし、こんな公の場で抱き合うなんてお熱いですな」
灰色の長い髪に黒いリボンをつけ、ブラウスの上から黒いローブを羽織り、手に扇子を持った女生徒・ロシュクがからかうように言う。
「ロシュクさん、これは別に抱きあってるわけじゃなくて…」
「そうですね…リュービさん…」
「あ、コウメイ、ようやく会え…うっ!」
「リュービさん、こういう場で主従が必要以上に近しいのは如何なものでしょうか」
ようやくの再会となった我らの軍師・コウメイは、目にかかるぐらいの長さの薄水色の髪の隙間から眼光を覗かせ、まだ幼さの残る愛らしい顔つきには怒気が含まれ、そのとても華奢な体躯からとは思えないほどの迫力で俺を睨み付けた。
「コウメイ、落ち着いて。
二人は俺の護衛に張り付いてるだけだ」
「そうです、コウメイさん。
これは護衛のためです」
「そうだぜ、あくまでも護衛だぜ!
別にやましい気持ちなんかないんだぜ!」
「ちょっとチョーヒ!
そんな言い方すると反って怪しくなるじゃないですか!」
「し、しまっただぜ!」
「むぅ、まったくリュービさんは…」
狼狽える俺や騒ぐカンウ・チョーヒに、コウメイは半ば呆れながらもムッとしかめっ面をプイッと横に向いた。
その様子に、茶髪をおさげに結い、浅黒い肌に、メガネをかけた女生徒・ゲツエイがからかい気味にコウメイに小声で絡んでいった。
「ふふふ、コウメイちゃん、焼きもちなのかな?」
「そんなのじゃありません!
さぁ、リュービさん、早くシュウユさんのところに行きましょう」
ご機嫌斜めのコウメイを先頭に俺たちはシュウユの待つ奥の本営に行こうとしたが、見知らぬ顔が三人、俺たちを呼び止めた。
「あ、ロシュクさん!
その人たちがリュービさん、カンウさん、チョーヒさんですか」
「あなた方が噂に名高いリュービ三兄妹ですか」
「ヒュー、噂通りのまぶいスケじゃねーか」
見知らぬ三人はソンケン軍の武将格だろうか、最初に喋ったのが女性、後に続いたのは男性二人であった。
「はじめましてですね。
俺がリュービです」
その言葉に、黒いローブを羽織った女生徒・ロシュクが反応する。
「おやー、リュービさんは初対面でしたか。
では、手短に紹介しておきましょうぞ。
端からバカ、チビ、チンピラです」
「誰がバカだー!」
「チビとは俺のことか!」
「ヒヒヒ、まあ、おりゃーチンピラかもな」
ロシュクからバカ呼ばわりされたのは、肩まで届く膨らんだポニーテールに、背は中程度だがスタイルの良い、ブラウスにベスト、ミニスカートの女生徒・リョモウ。
チビと呼ばれたのは、隣のリョモウより背が低い、長い髪を一つ結びにし、赤いハチマキをつけた男子生徒・リョートー。
チンピラと呼ばれたのは、三人の中で最も背の高い、オールバックの黒髪に、耳にピアス、腰からチェーンを垂らしたガラの悪い男子生徒・ハンショー。
この三人は共に一年生の新入武将だそうだ。
「ロシュクさん、前から思ってましたけど、私の扱いひどくないですか」
バカ呼ばわりされたポニーテールの女生徒・リョモウがロシュクに詰め寄るが、当のロシュクは意にも返さない様子でいなしてしまう。
「はいはい、リョモウちゃんは真正面から突っ込む以外の攻撃手段を覚えた方がいいですぞ」
「また私をバカにして!」
「さて、からかうのはこのぐらいにしまして、リュービさんはこの三人と初対面なら、ついでにもう一人新人を紹介しておきましょうぞ。
ついてきてくだされ」
ロシュクに連れられ、俺たちが歩き出そうとすると、チンピラのハンショーが義妹・カンウにからみ出した。
「ヒュー、あんたがカンウか。
噂通りのべっぴんだな。
どうだ、そんな優男に抱きつくのやめて、俺の女にならねーか」
その言葉にカンウの表情は一転、怒相に変わり、ハンショーに詰め寄った。
「兄さんのことを言ってるのであったら怒りますよ」
「オー、怖い怖い。
でも、カンウ、あんたの顔は覚えたぜ。
いつかあんたを手に入れてやるぜ」
「やれるものならやってみなさい。
なんでしたらこの場で試してみますか!」
「カン姉、オレも加勢するぜ!」
「カンウ、それにチョーヒも拳を下げてくれ。
ハンショー、君も下がってくれ。
兄としてカンウを君に任せることはできない」
「兄さん…」
その間に割り込むように、ロシュクがやって来てハンショーに釘を刺した。
「リュービさんは妹思いでございますな。
ハンショー、これ以上同盟に傷が入るようなことするならシュウユさんに報告いたしますぞ」
「オーオー、しゃーない。
退くとするか」
「さて、リュービさん。
改めて新人の元に案内しますぞ」
ロシュクに導かれ、俺たちは陣営外れの更衣室の方へと連れてこられた。
「まったく失礼な人でした。
こう見えて兄さんは脱いだら結構逞しい体なのに」
「カンウ、誤解されるからそれは他所で言わんでくれ」
「さて、イチャついてるところ悪いですが、まもなく到着いたしますぞ。
これから紹介するのはカンネーという人物でしてな。
二年生ですが、最近我が陣営に加わりました。
前にリュウヒョウ陣営にいたので、もしかしたら会ったことがあるやもしれませんな」
「カンネー?
いや、初耳ですね」
俺もリュウヒョウ陣営に長くいたが、その名に聞き覚えはなかった。
聞けばリュウヒョウ配下のコウソの部下だったそうで、コウソともそんなに会ってないし、対東校舎の最前線に張り付いていたのなら、なおさら会う機会もなかったのだろう。
「そうでしたか。
これが少々問題児でしてな。
私が呼び出しますので、ここで目と耳を塞いでおいてもらえますかな」
「問題児?」
問題児というなら、勝手に俺と同盟を結ぼうとしたこのロシュクも大概だと思うが、そのロシュクが言う問題児とはどれほどの者なのかと俄然興味が湧く。
「その、なんと言いますかな…」
そうこう話しているうちに更衣室前までやって来たが、奥よりなにやら不穏な声が漏れ聞こえてきた。
「あん…あん…あっ…」
何かが軋むような音と共に喘ぐような声が俺たちの耳に入ってきた。
「あのあの、この声はいったい…」
「ダメ、コウメイちゃん!
耳塞いで!」
おさげの女生徒・ゲツエイはとっさにコウメイの耳を塞ぎ、隣にいるカンウ・チョーヒも顔を真っ赤にする。
気まずい空気が辺りに流れる。
「ロシュク、この音はもしかしなくても…」
「ああ、もう始めてましたか。
ここでは慎むようにと注意はしたのですがねぇ」
ロシュクが頭を抱えながら、扉に手を伸ばそうとすると、先にガチャリと音が鳴り、向こうより扉が開けられた。
更衣室から姿を現したのは、大柄で逞しい、そして何より素っ裸の男性であった。
その登場に、キャーと女性陣から悲鳴が上がる。
「コウメイちゃん見ちゃダメです!」
「あ…あ…あ…」
「なんで学校で裸なんですか!」
「あれならアニキの方が勝ちだな…」
カンウ・ゲツエイは悲鳴を上げ、コウメイに至っては悲鳴を通り越して声にならない声を上げている。
あのロシュクでさえ固まってしまったが、何故かチョーヒだけわりと冷静だ。
てか、何を比べた。
とにかく女性陣が固まってしまったので、あまり気が進まないが、俺が彼に話しかける。
「えーと、あなたがカンネーさんですか?」
「もう…これ以上…無理…だ…」
「へ?」
そういうと素っ裸の男性は、その場に倒れこみ、そのまま失神してしまった。
「んー、悪くはないけど、二回目はないかな」
その素っ裸の男性の後ろから現れたのは、長身、銀髪に褐色肌の…いや、そんな情報はどうでもいい。
一糸纏わぬ女性であった。
彼女は豊満で、なおかつよく引き締まった筋肉質のその裸体を惜し気もなく俺たちに披露した。
そのあまりの姿に俺が反応するより早く、後ろからものすごい衝撃と共に俺の視界は奪われた。
「兄さん、何見てるんですか!
早く目を閉じて下さい!」
「アニキ、あの乳は目に毒だぜ!
オレとカン姉であいつを抑えておくから、アニキは向こう行ってろ!」
「イタタタタ!
カンウ・チョーヒ、痛い痛い!」
俺がカンウ・チョーヒに押さえつけられてるのもお構い無しに、その一糸纏わぬ女性は何一つ隠すことも無く、つかつかと俺たちの前に歩いてきた。
「へぇ、あんたもカン姉って呼ばれてんのかい?
あたいの名もカンネーだ。
似た名前同士よろしくね」
「よろしくじゃありません!
早く服を着てください!」
「あぁ、服かい?
どこやったかな?」
「カンネー、制服です。
こういうことは控えるよう伝えておいたはずですぞ」
「ありがとう、ロシュク。
こんなのはただの息抜きさ。
おやぁ、この制服あたいのじゃないね、胸の辺りがきついよ。
ほらぁ着たよ、これでいいだろ」
その言葉に俺の両目はようやく二人の義妹から解放された。
「よい目に…いや、ひどい目にあった」
「君がリュービだね。
どうだぃ、今夜あたいに抱かれてみる気はないかい?」
「に、兄さんになんてこと言うんですか!」
「おい、アニキを誑かすんじゃねーぜ!」
「リュービさんには必要ありません!」
カンウ・チョーヒ、さらにコウメイまで加わり、俺が口を挟む暇もなく、カンネーの言葉を遮った。
そしてその銀髪褐色肌の女性に代わり、ロシュクが俺たちに紹介をした。
「すみません、リュービさん。
この方はカンネー。
少々、性に奔放な困り者ですが、武勇においては我が軍屈指の実力者ですぞ」
「その紹介は心外ね。
あたいは気に入った男としかやらないよ」
「フォローになってません!
兄さん、早く次に行きますよ!」
「アニキ、次行くぜ!」
「リュービさん、急ぎましょう」
カンウ・チョーヒ・コウメイに引っ張られ、俺はカンネーへの挨拶もそこそこに、シュウユの待つ奥へと連れられた。
だがその道中、見知った顔が俺たちを呼び止めた。
「リュービか」
「テイフさん、この度は我らとの同盟ありがとうございます。
共にソウソウと戦いましょう」
出会ったのは、細身の体型に眼鏡、手首に赤いバンダナを巻いた男子生徒・テイフであった。
彼はこの軍の副司令に就任している。
テイフにも挨拶に伺おうと思っていたので、ちょうどよい機会と、俺は頭を下げた。
「リュービ、今は戦時だ。
あまりイチャつくな。
挨拶が終わったらすぐ自陣に戻られよ」
そういうとテイフはさっさと通りすぎてしまった。
テイフは元々真面目な人物であったが、以前に会った時よりその顔は険しく、語気も強いものとなっていた。
「すまんな、リュービ」
「コウガイさん。
それにカントウさんも」
テイフの後から現れたのは、訛りのあるしゃべり方をする、無精髭に、太ももに赤いバンダナを巻いた男子生徒・コウガイ。
そして、頭に赤いバンダナを巻き、頬に傷がある男子生徒・カントウの二人であった。
「テイフの奴、副司令に就任したのもそうじゃが、ソンケン(兄)の大将が辞め、ソンサクのお嬢が休み、一年のソンケン(弟)が継いだ。
目まぐるしく大将が代わり、三年代表の立場として気負うとるんじゃ」
「テイフの旦那は人一倍責任感が強い。
今は気が立っているのだ」
コウガイ・カントウの二人は申し訳無さそうに、テイフをフォローする。
「テイフもじゃが、シュウユも今は少々気が立っとってな。
気を悪うせんでくれ」
そういうとコウガイ・カントウは、テイフを追って去っていった。
少々、奔放な人物に会って気が緩んでいたが、今は戦時。
ソンケン軍の上層部の面々はかなり神経を尖らせているようだ。
俺たちは改めて気を引き締めてからシュウユの元へと向かった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
21
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる