旅のまにまに

NOA

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1章

夢追人の町

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随分と真っ直ぐ歩いた。
なにも目的がなく歩いていた訳じゃない。
ただ旅においては寄り道すらも大事だということだ。

コンパスに沿らず歩いた結果随分と遠回りになったが目的の場所にはたどり着いた。
夢が蔓延る町''バルデン町''
旅人が多く集まるが故に夢が蔓延る町。
今では旅の登竜門として多くの旅人が第1の目的地としてここを選択するものが多い。
例外なく私も旅の中継地として設定をした。

町には珍しいことに門はなく代わりに音があった。

楽器隊の演奏、笑い声、店の呼び込み
香ばしい匂いに混じって甘い菓子の匂いが鼻をくすぐる。
騒がしいが嫌な気はしない。

「さて、飯でも食おう。」

腹が減っては何とやら、楽しむことも出来やしない。
町を適当に歩いて目に付いた飲食店に入る。
気前のいい夫婦が迎え入れてくれて飯を食いながら、今日は祭りなのだと教えてくれた。どうりで町の雰囲気が明るく騒がしいわけだ。飯を食い広場に向かいぐるりと見渡す。

屋台が並び、子どもたちが走り回り、音楽隊が調子外れの演奏をしている。

私は、しばらく人の流れに身を任せた。
行き先は決めない。
決めなくてもこういう町は勝手に面白いものを見せてくれる。

たどり着いたのは祭りのメインステージ。
どうやら今は子供たちが将来の夢を語っているらしい。少し見ていこうとふらっと方向を変えれば子供とぶつかってしまう。
「おっと、すまない。」
謝るが走り去っていく子供。元気なことはいいことだ、なんて少し頬を緩ませてステージを観覧する。

「ぼくの、しょうらいのゆめは、たびびとになることです。たくさんの、まちをまわって、いつかほんをだしたいです。」
恥ずかしがりながらも夢を宣言する未来ある子は見ていて飽きない。
「ねぇ君。」
ステージを見ていればすぐ横で声をかけられ突然のことに少し驚きながらもそちらを向けば、長身の男が立っていた。
リュックを背負い帽子を被った男だ。
見る人が見れば旅人だろうと断定ができる、そんな男が少し眉を下げ心配そうに話しかけてきた。
「何か無くしていないかい?」
その言葉に少し不信感を感じつつも一応自分の持ち物を確認すべくカバンの中を探る。
「...あ~。」
カバンに手を入れてすぐに気がついた。
いつもの場所にある物が無いことに、

失くしたのは金でも食べ物でもなかった。
小さな金属製のコンパス。

旅において道標を失うことは致命的だ。
少なくとも普通は。
ほんの一瞬だけ気持ちが焦ったがすぐに冷静さを取り戻した。

「君、なんで失くし物をしていること知ってるんだ?」
少し睨みながら男に問えば小さなため息を着く。その後悲しそうな表情をしてから
「僕も盗まれたんだよぉ。」
と、拍子抜けな返事を返してきた。
そんな話をメインステージの横でするものでも無いと思いその男と場所を移動する。

少し人通りも落ち着いた広場で歩きながら話を続ける。
「僕の名前はノア。ノア・ノヴァリス。気ままに旅をしている旅人だよ。」
「ルカ・サリオン。同じく旅人だ、それで?」
「ん?...あぁ、君、子供とぶつかっただろう?その時だよ。あの子やけにポケットが膨らんでいたきっと常習犯だね。」
夢を見る町で夢を見るべき子供が生きるために窃盗か。皮肉なもんだな。
「それで取り返すのかい?」
「ただのコンパスだ。それほど高価なものでも無いし、いいよ。」

高くも安くもないただの金属製のコンパス。
旅の始まりから共にしていただけで今日がきっと寿命だったのだ。などと言い訳まがいな言葉を頭で反芻させる。

「本当?」

ノアは足を止めこちらを見た。
その瞳は先程までの何も考えてい無さそうな瞳とは違い真剣な眼差しだった。
「旅においては道具は大事にすべきだよ。特に道標は、僕たちをその場所に連れていってくれるものだろ?」
視線が突き刺さる。何かを試しているようなそんな視線は少し怖い程だった。
合わせていた視線を少しずらし小さく息を吐いた。
「...君の意見も最もだな。」
そう言葉を吐けばノアは止めていた足をまた前へ踏み出し先程の雰囲気はどこへやら楽しそうに進み出す。
「早速目撃情報を集めよう!こうゆうのやってみたかったんだぁ。」
よく分からない男だ。まぁこうゆうことも旅の醍醐味か。

それから数時間...もかからずものの数十分で情報が集まった。
どうやら地元じゃ有名な盗っ人らしい。
店の人もほとほと困り果てているらしいがストリートチルドレンというのだろうか、孤児であるらしく頼るべく大人が居らずそんなことになってしまったらしい。
「夢とは程遠い現実だな。」
「そういう子が1番夢に近かったりするかもよ。」
よくいる場所も教えて貰い二人で教えてもらった路地裏に向かった。
薄暗く広場の音楽も小さく聞こえるような静かな場所で路地裏の隅でしゃがみ込んだ子供が居た。
何かを集中して触っているようで気付かれないように後ろから覗き込めば子供の手にはクルクルと針が回るコンパスがあった。
誰が見ても壊れているコンパスだ。
「それ、壊れているんじゃないか?」
声をかければ大きく肩を震わせて恐る恐るこちらを向いた。
私の顔を見るや否泣きそうな顔になりコンパスを握りしめた。
「君はそれが欲しいのか?」
コンパスを指さしながら問えば小さく頷いてからぽつりぽつりと話し始めた。
「僕、いつか旅に出たいんだ...だから、」
なるほどだからコンパスか。
今日を生きることですら必死だと言うのに夢を見るために盗んだのが売れもしないコンパスとは、
「まぁ盗みは良くないな。それ返してくれないか?」
コンパスを返してもらうべく手を差し出すがどうやら返そうという気にはならないらしい。手強い相手だ。
ひとつ大きなため息をついて子供の視線に合わせるようにしゃがむ。
「そのコンパスは君にとっては夢の象徴かもしれないが私にとっては旅を迷わずに進むための御守りなんだ。だから返して欲しい。」
少し優しく正直に思いを伝えれば子供はゆっくりと私の手にコンパスを返してくれる。
コンパスを見るが何度見ても壊れていることには違いない。
「ごめんなさい...。」
「別に構わないさ。」
そのままそこを立ち去ろうと立ち上がるがひとついいことを思いつきカバンの中を漁る。
「このコンパスはあげられないが、こっちは持って行っていい。」
紐で巻かれた紙を子供に投げ渡す。
子供は受け取り少し不思議そうにその紙を開く。
紙は少しだけ町が書かれた地図だ。紙のそのほとんどがまだ空白で書き示されていない。
「書き足すも足さないも君の自由だ。」
「...いいの?」
「構わないよ。」
先程の顔とは一転子供は目をキラキラと輝かせその空白の多い地図を見る。
それから顔を上げて私に問う。
「ぼく、旅に出てもいいの?」
その言葉に少しほんの一瞬言葉を迷い
「君次第だよ。」
そう一言言ってその路地裏から離れた。


「背中は押してあげないんだね。」
先程まで一言も喋らなかったノアは後ろからそう話し始めた。
「私の判断で旅に出るなら旅に出たあとも人に判断を委ねてしまうだろう。...それに変な責任は負いたくない。」
振り返らずどこへ向かう訳でもなくそう返答すれば「確かにね。」と返事が帰ってきた。
「...というか君は何を盗まれたんだ?」
あそこまで行って返してもらったのは私のコンパスだけだったことを思い出し聞いてみればノアは少し笑った。
「僕は何も盗まれてないよ。ただ面白そうだったからね。」
楽しそうに笑う男は本当に何を考えているのか分からない掴みどころのない男だ。
「それよりそのコンパス直すよ。」
その言葉に立ち止まりノアの顔を見る。
「別に盗まないさ。面白いものを見せてくれたお礼だと思ってよ。」
「...何も言ってないだろ。」

ノアの善意を受け取り広場の座れる場所でコンパスを直してもらうことにした。
ノアはカバンから工具を取り出し慎重にコンパスを解体していた。
数分もかからない内にしっかりと方角を指すコンパスが手元に帰ってきた。
「器用なんだな。」
「得意なんだよね。こうゆうの。」
工具をリュックにしまいながら得意げに話すノア。
これで道に迷わずに済みそうだ。
「それで君、次はどこを目指すの?」
「まだ町を出るとも言ってないが?」
「長期滞在するような人には見えなかったんだけどまだこの町に残る予定だった?」
なんだかこの男と喋ってると会話のテンポが乱れるな。
「...東の方に風車の多い町があるって聞いた。」
「へぇいいね。あそこは朝日が綺麗だ。」
即座に帰ってきた言葉に少し驚くが色んな所を回っているんだろう。
「君は?」
「僕はしばらくこの町に残るよ。祭りもまだ終わっていないしね。」
そう言ってノアは広場の方をちらりと見る。
つられて私も広場を見れば人の輪の中音楽と笑い声が夕日に照らされていた。
「それじゃあもう明日発つのかい?」
「そのつもりだ。」
短い沈黙。
次の言葉を探すようなそんな妙な間。
ノアは軽く笑いその場から立ち上がる。
「短い間だったけど楽しかったよ。君の旅が良いものになるように。」
1歩下がり胸に手を当て紳士のような振る舞いでお辞儀をする。
「エンカリア。」
少し遅れて私も立ち上がり同じような振る舞いで同じ言葉を返す。
「...エンカリア。」
旅人同士が出会い、別れる時に次の出会いが良きものであるように祈る古いならわしのようなものだ。
別れを惜しむ言葉でも再会を約束するような言葉でもない。自由で気ままな旅人にとって重荷にならない言葉だ。
顔を上げたノアは目を細めて笑いそれから何を言う訳でもなく背を向けて人混みに溶けて行った。
私は直してもらったばかりのコンパスを開く。針は北を指していた。
蓋を閉じる。
「さて、」
次の町に向かう理由は相変わらず曖昧なものだ。旅に明確を求めたくない私なりの旅。それでも足は自然に前へ出る。

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