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プロローグ
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「レイチェル。君との婚約は破棄させてもらう」
思考が冷たく停止する。一瞬なにを言っているのか理解できなかった。
「殿下? 一体何を仰っているのですか?」
「分からないならもう一度言おう。レイチェル、君との婚約は破棄だ。もう二度と俺の前に顔を見せるな」
輝く金の髪をしたエドモンド殿下は、怜悧な瞳を剣のように細めて私を睨みつける。
夜会の参加者たちが静まり返ってこちらを見ている。今日の夜会は国の威信を掛けたモノ。確か各地から権力者を集めたと聞いている。
ならば今日この場で吐かれる言葉は全てが公的なものとなる。きっと彼の言葉は嘘じゃないんだろう。
なんで、どうして、待って下さい。縋る言葉は幾つも浮かぶけど、私を拒絶する冷たい目を前にして口が強張る。
殿下のあんな顔は見たことがないのだ。
「信じられん。よくぞ平気な顔をして俺を騙すことが出来たな」
「騙す……一体何のことですか?」
「未だにしらを切るとは。まあいい。マリアが全て教えてくれた」
殿下がそう言った直後、彼の横に一人の女性が寄り添うように立った。
ひと目見て蛇のような女だと思った。
ウェーブのかかった紫の髪と、甘ったるく男に媚びる顔付き。むせ返るほど艶やかな肢体をくゆらせ、エドモンド殿下にしなだれかかっている。
マリアという彼女に向ける殿下の目は、私に向けたことのない色を帯びていてーー
ああ、と。
何となく、事情を悟ることが出来た。
「本当はレイチェル様を信じたかったのですけれどーー」
誰も彼もが彼女の言葉に耳を傾けている。
こんな時にお父様とお母様は何をしているのだろう? さっきから妙に静かだと思ったけど、見れば王族の息が掛かった者達に囲まれていた。
なるほど。どうやら現状は事前に仕組まれたものらしい。
ならきっと状況は整えられていて、今から何を言おうが挽回することは出来ないんだろうなーーーーなんて。
そんなことはどうでもよくて。
私はただ悲しくて殿下を見つめた。
昔からずっと好きだった。この婚約が政略によるものだと、そこに愛がないと分かっていても、それでよかった。
少しでも彼の力になれるならって、必死に色んなお勉強をして、美貌にも磨きをかけて、それなのに、なんで?
そんなわかりやすい女に引っかかるの?
私の内心なんか知らずに、彼女たちは仕組まれた茶番を進めていく。
「レイチェル様は他国のスパイとしてエドモンド殿下に近付いたのです。そのやり取りを聞いてしまいましたわ」
「証人も既にこちらで揃えている。本来なら即刻断罪するところだが、元婚約者のよしみで弁明くらいはさせてやろう。なにか言うことはあるか?」
あるに決まってる。むしろ言いたいことしかない。けど悲しみ、怒り、絶望、色んな感情がぐちゃぐちゃになってうまく言葉を選べない。
つうっと、頬に涙が伝う。
「つまらん涙で気を引くな。なんの意味もない」
その言葉が悲しくて私は膝から崩れ落ちた。裏切られたことよりも、嵌められたことよりも、殿下の気持ちが私に一ミリもなかったことが悲しくて、どうすることも出来ない。
こうして私は第一王子から婚約破棄を言い渡された。
思考が冷たく停止する。一瞬なにを言っているのか理解できなかった。
「殿下? 一体何を仰っているのですか?」
「分からないならもう一度言おう。レイチェル、君との婚約は破棄だ。もう二度と俺の前に顔を見せるな」
輝く金の髪をしたエドモンド殿下は、怜悧な瞳を剣のように細めて私を睨みつける。
夜会の参加者たちが静まり返ってこちらを見ている。今日の夜会は国の威信を掛けたモノ。確か各地から権力者を集めたと聞いている。
ならば今日この場で吐かれる言葉は全てが公的なものとなる。きっと彼の言葉は嘘じゃないんだろう。
なんで、どうして、待って下さい。縋る言葉は幾つも浮かぶけど、私を拒絶する冷たい目を前にして口が強張る。
殿下のあんな顔は見たことがないのだ。
「信じられん。よくぞ平気な顔をして俺を騙すことが出来たな」
「騙す……一体何のことですか?」
「未だにしらを切るとは。まあいい。マリアが全て教えてくれた」
殿下がそう言った直後、彼の横に一人の女性が寄り添うように立った。
ひと目見て蛇のような女だと思った。
ウェーブのかかった紫の髪と、甘ったるく男に媚びる顔付き。むせ返るほど艶やかな肢体をくゆらせ、エドモンド殿下にしなだれかかっている。
マリアという彼女に向ける殿下の目は、私に向けたことのない色を帯びていてーー
ああ、と。
何となく、事情を悟ることが出来た。
「本当はレイチェル様を信じたかったのですけれどーー」
誰も彼もが彼女の言葉に耳を傾けている。
こんな時にお父様とお母様は何をしているのだろう? さっきから妙に静かだと思ったけど、見れば王族の息が掛かった者達に囲まれていた。
なるほど。どうやら現状は事前に仕組まれたものらしい。
ならきっと状況は整えられていて、今から何を言おうが挽回することは出来ないんだろうなーーーーなんて。
そんなことはどうでもよくて。
私はただ悲しくて殿下を見つめた。
昔からずっと好きだった。この婚約が政略によるものだと、そこに愛がないと分かっていても、それでよかった。
少しでも彼の力になれるならって、必死に色んなお勉強をして、美貌にも磨きをかけて、それなのに、なんで?
そんなわかりやすい女に引っかかるの?
私の内心なんか知らずに、彼女たちは仕組まれた茶番を進めていく。
「レイチェル様は他国のスパイとしてエドモンド殿下に近付いたのです。そのやり取りを聞いてしまいましたわ」
「証人も既にこちらで揃えている。本来なら即刻断罪するところだが、元婚約者のよしみで弁明くらいはさせてやろう。なにか言うことはあるか?」
あるに決まってる。むしろ言いたいことしかない。けど悲しみ、怒り、絶望、色んな感情がぐちゃぐちゃになってうまく言葉を選べない。
つうっと、頬に涙が伝う。
「つまらん涙で気を引くな。なんの意味もない」
その言葉が悲しくて私は膝から崩れ落ちた。裏切られたことよりも、嵌められたことよりも、殿下の気持ちが私に一ミリもなかったことが悲しくて、どうすることも出来ない。
こうして私は第一王子から婚約破棄を言い渡された。
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