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SCENE.1【抗憑依体質者、御手洗凛】
Capture.4『トイレの中』
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私は一人暮らしをしている。
大学進学を期に始めたその生活は、振り返ってみればかれこれ4年になった。当時は新築物件で、お父さんに頼み込んで何とか許してもらった1DKのこのアパートも、外壁の陰ではコケや傷が見え始めるくらいの経年劣化を見せていた。
大学生活の全てを記憶したこの部屋。思い入れはある。友達はもちろん、私だって普通に恋もしたし、彼氏を部屋に招いた事だってあった。たくさんの思い出が詰まったその部屋。だから、就職しても離れたいと思わなかった。
それに何より便利だった。駅まで徒歩5分。コンビニもコインランドリーも近くて、ピザからハンバーガー、何でもデリバリーできる場所。そして、11階という高さの窓から見下ろす街の景色が好きだった。
「はぁ……」
そんな私だけの居城。そこには見慣れない物がある。座布団に胡坐をかき、テレビに視線を釘付けにされているその背中を見て、思わずため息が出ていた。
小太郎と名乗るこの男性。昨日、あの不思議な祠で出会い、結局付いて来てしまったのだ。それにこの人は幽霊だ。オカルトに詳しくないから、理由は説明できない。だけど、アニメや映画なんかで知った知識で判断するなら……
彼はたぶん、良くない霊なんだと思う。
未練や恨みなんかがないと、霊として現れないってイメージだし、地蔵で封印されて祠に丁寧に祀られている時点で、怨霊か何かなんだと思う。
要するに、世間一般的に言うならば、私は取り憑かれた。または、呪われた。という奴なんだろう。だけど――
「なぁ、凛。みたらし団子、もうねぇのかよ?」
「さっき食べたばっかりですけど?」
「んだよケチだなぁ。嫁の貰い手がなくなるぞ? かっかっかっかっ! お! 馬鹿だな、かの者」
こうして、バラエティーを見ながらケラケラ笑っている姿を見ると、とても悪霊には思えない。しかも、見た目が私好みのイケメン。声もイケメンなのだから、厄介である。ついつい、言う事を聞いてしまう私がいたり……
彼はみたらし団子が好きみたいで、キャンプの間も、帰り道も、部屋に付いてからも、それだけを食べている。同じ物ばっかりで飽きないのか不思議に思って――
「同じ物ばかりで飽きませんか?」
尋ねた私に、彼は笑顔で答えた。
「好物だけ食える。幸せだろ? それに野菜は好きじゃねぇ」
「それなら、魚や肉でもいいんじゃないですか?」
「さかな? 何だよ、それ? 肉なんて不味くて食えたもんじゃねぇ」
不思議に思った。魚に関しては、どうやら知らない様子。そんな事があるのだろうか。肉が不味いというのもおかしな話だ。だけど、とりあえず、みたらし団子には飽きていない事は分かった。
「まぁ、いいか……」
私は、テレビを楽しむ彼を放って、トイレに入った。便座に座り、ズボンを下ろして気を抜く。ふと顔を上げる――
「きき、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「何だ? どうした?」
キョロキョロと慌てて辺りを見渡す彼。いや、そうじゃないから……
「ななな、何やってるんですかっ!! ここはトイレですからっ!! 私が入ってますからっ!!」
「いや、この部屋に来てからずっと気になっていたんだが……」
彼は顔だけをドアから突っ込み、私の顔の前で覗き込んでいるのだ。そして、赤面してもじもじする私を無視して質問を続ける。
「この部屋でお前、何してるんだ? 何度も入っている様子だが」
「だから……トイレですって!!」
彼は首を傾げた。もういい。いいから外に出てよ……
「……尿です」
私の言葉に、ようやく合点がいった様子で、彼は大きく頷いた。
「かっかっかっ! 小便かっ! すまんすまん! ここは厠なんだな」
そう言って、やっとトイレの中から出て行ってくれた。
「……何なの、本当」
私は両手で頭を抱え、首を垂れるのだった。
大学進学を期に始めたその生活は、振り返ってみればかれこれ4年になった。当時は新築物件で、お父さんに頼み込んで何とか許してもらった1DKのこのアパートも、外壁の陰ではコケや傷が見え始めるくらいの経年劣化を見せていた。
大学生活の全てを記憶したこの部屋。思い入れはある。友達はもちろん、私だって普通に恋もしたし、彼氏を部屋に招いた事だってあった。たくさんの思い出が詰まったその部屋。だから、就職しても離れたいと思わなかった。
それに何より便利だった。駅まで徒歩5分。コンビニもコインランドリーも近くて、ピザからハンバーガー、何でもデリバリーできる場所。そして、11階という高さの窓から見下ろす街の景色が好きだった。
「はぁ……」
そんな私だけの居城。そこには見慣れない物がある。座布団に胡坐をかき、テレビに視線を釘付けにされているその背中を見て、思わずため息が出ていた。
小太郎と名乗るこの男性。昨日、あの不思議な祠で出会い、結局付いて来てしまったのだ。それにこの人は幽霊だ。オカルトに詳しくないから、理由は説明できない。だけど、アニメや映画なんかで知った知識で判断するなら……
彼はたぶん、良くない霊なんだと思う。
未練や恨みなんかがないと、霊として現れないってイメージだし、地蔵で封印されて祠に丁寧に祀られている時点で、怨霊か何かなんだと思う。
要するに、世間一般的に言うならば、私は取り憑かれた。または、呪われた。という奴なんだろう。だけど――
「なぁ、凛。みたらし団子、もうねぇのかよ?」
「さっき食べたばっかりですけど?」
「んだよケチだなぁ。嫁の貰い手がなくなるぞ? かっかっかっかっ! お! 馬鹿だな、かの者」
こうして、バラエティーを見ながらケラケラ笑っている姿を見ると、とても悪霊には思えない。しかも、見た目が私好みのイケメン。声もイケメンなのだから、厄介である。ついつい、言う事を聞いてしまう私がいたり……
彼はみたらし団子が好きみたいで、キャンプの間も、帰り道も、部屋に付いてからも、それだけを食べている。同じ物ばっかりで飽きないのか不思議に思って――
「同じ物ばかりで飽きませんか?」
尋ねた私に、彼は笑顔で答えた。
「好物だけ食える。幸せだろ? それに野菜は好きじゃねぇ」
「それなら、魚や肉でもいいんじゃないですか?」
「さかな? 何だよ、それ? 肉なんて不味くて食えたもんじゃねぇ」
不思議に思った。魚に関しては、どうやら知らない様子。そんな事があるのだろうか。肉が不味いというのもおかしな話だ。だけど、とりあえず、みたらし団子には飽きていない事は分かった。
「まぁ、いいか……」
私は、テレビを楽しむ彼を放って、トイレに入った。便座に座り、ズボンを下ろして気を抜く。ふと顔を上げる――
「きき、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「何だ? どうした?」
キョロキョロと慌てて辺りを見渡す彼。いや、そうじゃないから……
「ななな、何やってるんですかっ!! ここはトイレですからっ!! 私が入ってますからっ!!」
「いや、この部屋に来てからずっと気になっていたんだが……」
彼は顔だけをドアから突っ込み、私の顔の前で覗き込んでいるのだ。そして、赤面してもじもじする私を無視して質問を続ける。
「この部屋でお前、何してるんだ? 何度も入っている様子だが」
「だから……トイレですって!!」
彼は首を傾げた。もういい。いいから外に出てよ……
「……尿です」
私の言葉に、ようやく合点がいった様子で、彼は大きく頷いた。
「かっかっかっ! 小便かっ! すまんすまん! ここは厠なんだな」
そう言って、やっとトイレの中から出て行ってくれた。
「……何なの、本当」
私は両手で頭を抱え、首を垂れるのだった。
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