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SCENE.1【抗憑依体質者、御手洗凛】
Capture.15『返事』
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「ありがとうございました」
お辞儀すると、お客様は満足そうな笑顔を浮かべて会釈してくれた。接客対応したお客様を店先まで見送る、これも業務のうちだ。何とか取り繕って笑ってみせるものの――
「御手洗さん、ちょっといいかな?」
奈々さんの件以来、店内の雰囲気は暗く、楽しい職場ではなくなっていた。そんな中、店長の颯太さんから私は呼び出された。
「どうしました、店長?」
私の片想いの相手。失恋相手。未だにそれを引きずっているのも事実だった。とはいえ、勝手に想って、勝手に失恋したのだから、彼にしてみたら全く関係のない話ではある。
「クリスマス商戦に向けて、飾りつけを考えているんだけど、皆の意見を聞こうと思ってね……」
奈々さんが亡くなってから、すでに二か月が過ぎていた。
「えっと……店長、私……」
「うん、分かってるよ。あと二週間、だよね」
事務所で椅子に座って対面している。一か月ぶりだろうか。
「じゃ、率直に聞くけど……考え直してもらえたりしないかな?」
颯太さんは、申し訳なさそうな顔でそう言った。考え直す、きっとあの事だろう。
「ごめんなさい……つ、次も決まっているので」
「そ、そうだよね……いや、実はさ――」
奈々さんの自殺は、テレビで報道された。店舗名や個人名は伏せられていたが、いろいろ探れば辿り着ける程度の情報は明らかになっていた。その上、SNSなどでも騒がれてしまい、BABY BABY横浜アウトレット店は、ブラック企業のレッテルを貼られていた。
結果、求人をかけても応募はなく、クリスマスという書き入れ時を迎えるというのに、私まで退職するという事態に、本部から叱られていると颯太さんは話した。
「大変ですよね……」
「うん、まぁ……仕方ないんだけどさ」
「でも、ごめんなさい……」
次が決まっている。というのは、嘘だった。本当は、次なんて決まっていない。ただ、奈々さんの一件から、空気が悪い上、颯太さんと陽菜ちゃんを見ていると心が痛いのも大きかった。それに加えて、お母さんが倒れた事で、お母さんを失う恐怖を覚えて、少しでも傍にいてあげたいと思った事で、退職を決断した。
「時間、取らせちゃってごめんね」
「いえ……そ、それじゃ、店内に戻りますね」
「うん、よろしくね」
ここで働くのもあと十日。大好きだったBABY BABYに就職できて浮かれていたのがほんの半年前なんて、信じられないほど濃い時間を過ごした気がしていた。
「ねぇ、御手洗さん」
お客様が畳まずに放置した服を畳んでいると、さくらちゃんが声をかけて来た。
「さくらちゃん、どうしたの?」
「終わったらちょっと付き合って」
「え?」
「そんなに時間は取らない」
「う、うん。いいよ?」
「それじゃ」
ふわっと長い髪をなびかせ、去っていく彼女の姿に、私は羨ましさを覚えた。良い香りまでさせるんだから、ずるいと思う。
「さくら、何の用だった?」
いつも仕事中はそばにいない小太郎さんが現れていた。何故か、彼はさくらちゃんだけは気にかけているのだ。
「終わったら付き合って欲しいらしいです」
「……ついに決闘か? 待ってたぜ」
何やら、指をポキポキと鳴らして気合を見せている彼に、私は首を傾げる。彼にとって、彼女はどんな存在なのだろう……
*
「さくらちゃん、お待たせ!」
就業後、裏口の外で待っていたさくらちゃんに声をかけると、彼女は歩き始める。
「ここだと人目があるから……スタバ行きましょ」
スタバでも人目はあると思うけど。そんな事を思いながら、私は彼女に従い、スタバの席に付く。キャラメルマキアートを一口付けた後、眉間に皺を寄せた彼女。
「御手洗さん、まだ返事してないそうね」
「返事?」
何の事だろう。率直に思った。
「呪霊特別調査室から勧誘に対してよ」
何で彼女はその事を知っているのだろう……私は疑問に思ったのだった。
お辞儀すると、お客様は満足そうな笑顔を浮かべて会釈してくれた。接客対応したお客様を店先まで見送る、これも業務のうちだ。何とか取り繕って笑ってみせるものの――
「御手洗さん、ちょっといいかな?」
奈々さんの件以来、店内の雰囲気は暗く、楽しい職場ではなくなっていた。そんな中、店長の颯太さんから私は呼び出された。
「どうしました、店長?」
私の片想いの相手。失恋相手。未だにそれを引きずっているのも事実だった。とはいえ、勝手に想って、勝手に失恋したのだから、彼にしてみたら全く関係のない話ではある。
「クリスマス商戦に向けて、飾りつけを考えているんだけど、皆の意見を聞こうと思ってね……」
奈々さんが亡くなってから、すでに二か月が過ぎていた。
「えっと……店長、私……」
「うん、分かってるよ。あと二週間、だよね」
事務所で椅子に座って対面している。一か月ぶりだろうか。
「じゃ、率直に聞くけど……考え直してもらえたりしないかな?」
颯太さんは、申し訳なさそうな顔でそう言った。考え直す、きっとあの事だろう。
「ごめんなさい……つ、次も決まっているので」
「そ、そうだよね……いや、実はさ――」
奈々さんの自殺は、テレビで報道された。店舗名や個人名は伏せられていたが、いろいろ探れば辿り着ける程度の情報は明らかになっていた。その上、SNSなどでも騒がれてしまい、BABY BABY横浜アウトレット店は、ブラック企業のレッテルを貼られていた。
結果、求人をかけても応募はなく、クリスマスという書き入れ時を迎えるというのに、私まで退職するという事態に、本部から叱られていると颯太さんは話した。
「大変ですよね……」
「うん、まぁ……仕方ないんだけどさ」
「でも、ごめんなさい……」
次が決まっている。というのは、嘘だった。本当は、次なんて決まっていない。ただ、奈々さんの一件から、空気が悪い上、颯太さんと陽菜ちゃんを見ていると心が痛いのも大きかった。それに加えて、お母さんが倒れた事で、お母さんを失う恐怖を覚えて、少しでも傍にいてあげたいと思った事で、退職を決断した。
「時間、取らせちゃってごめんね」
「いえ……そ、それじゃ、店内に戻りますね」
「うん、よろしくね」
ここで働くのもあと十日。大好きだったBABY BABYに就職できて浮かれていたのがほんの半年前なんて、信じられないほど濃い時間を過ごした気がしていた。
「ねぇ、御手洗さん」
お客様が畳まずに放置した服を畳んでいると、さくらちゃんが声をかけて来た。
「さくらちゃん、どうしたの?」
「終わったらちょっと付き合って」
「え?」
「そんなに時間は取らない」
「う、うん。いいよ?」
「それじゃ」
ふわっと長い髪をなびかせ、去っていく彼女の姿に、私は羨ましさを覚えた。良い香りまでさせるんだから、ずるいと思う。
「さくら、何の用だった?」
いつも仕事中はそばにいない小太郎さんが現れていた。何故か、彼はさくらちゃんだけは気にかけているのだ。
「終わったら付き合って欲しいらしいです」
「……ついに決闘か? 待ってたぜ」
何やら、指をポキポキと鳴らして気合を見せている彼に、私は首を傾げる。彼にとって、彼女はどんな存在なのだろう……
*
「さくらちゃん、お待たせ!」
就業後、裏口の外で待っていたさくらちゃんに声をかけると、彼女は歩き始める。
「ここだと人目があるから……スタバ行きましょ」
スタバでも人目はあると思うけど。そんな事を思いながら、私は彼女に従い、スタバの席に付く。キャラメルマキアートを一口付けた後、眉間に皺を寄せた彼女。
「御手洗さん、まだ返事してないそうね」
「返事?」
何の事だろう。率直に思った。
「呪霊特別調査室から勧誘に対してよ」
何で彼女はその事を知っているのだろう……私は疑問に思ったのだった。
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