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エロゲーですがハルウリはご法度です
新たな出会い
しおりを挟むラブホテルの前でひとり身を潜める制服姿の女子高生。……客観的に見たら怪しいことこの上ない。そう気づいたのものの後悔先に立たず。
「なっ、なんのことかしら!?私は別に……そうっ!迷子!道に迷っちゃっただけで、ここのホテルになんて全っ然興味ないからっ」
慌てた唇の紡ぐ言い訳の、なんと白々しいこと。考える間もなしに言った言葉はあまりに頼りなく、自分で自分を殴りたくなる。
なんだ、迷子って。この歳で、それもこんなホテル街で、そんな言い訳が通用するはずがない。
実際、青年の目も不審者を見るもの。「迷子、ねぇ」言外に『嘘だろ』と言われ、私は「ぐぬぬ」と呻いた。
──さて、どうしよう。
「……あぁ。学校に連絡とか、そういうのするつもりはないから、安心して」
一応成績優秀者のはずの私の脳みそを必死でフル回転させていたところ、である。
ふと閃いた。そんな様子で呟いたのは青年のほう。相変わらずの無表情に、真意は掴めないが──
「じゃあなんで声かけたの?」
「ひとりで百面相してるあんたに興味がわいたから……?」
「なぜ疑問系」
「まぁなんとなくだよ」
なんとなくで人の寿命を縮めないでほしい。私には恭介くんと一緒に同年同日同時刻に死んでおんなじ墓に入るという夢があるんだから。
けどとりあえずの危険(?)は去ったらしい。目の前の彼は発言通り、携帯を取り出すこともなく、無味乾燥とした双眸のまま。小綺麗な顔立ちをしているのに、勿体ない。
「で?あんたがこんなとこで百面相してた理由は?」
「ああそれは身辺調査を頼まれたから……」
気が抜けたせいだろうか。またしても、またしてもである。私の唇は反乱を起こしたらしい。勝手に真実を打ち明けかけ、しかし口をつぐんだところでもう遅い。
「身辺調査?」
ばっちりしっかり聞かれてしまった。ううっ……、この人が難聴系主人公だったらよかったのに。
とはいえ己の蒔いた種。私は迷った末に「……そうよ」と頷いた。
「人に頼まれたの。それで跡をつけてたら……ここに」
「へえ?バイト?」
「や、バイトっていうか……使い走り?」
「……いじめられてんの?大丈夫?」
名前も知らない人に心配されてしまった。
……いい人、なのかも。なに考えてるのかさっぱり伝わってこないけど。
「心配してくれてありがと。でも気にしないで、私は平気だから」
声をかけたのは私が百面相をしていたから。その理由は話したし、これで用はないはず。
そう思い、私は『さよなら』のつもりで手を振ったのだけど、……青年が立ち去る様子はない。
「あんたは、」
「ん?」
「……その人が出てくるまで、ここで待つつもり?」
「まぁそうね。写真とか、撮った方がいいだろうし」
生徒会長がどの程度の調査結果を求めているのか、知らないけど。でも今のところ私の目でしか確認は取れていないから、証拠のひとつやふたつ用意しておいた方がいいだろう。
自分の言ったことに自分で納得している、と──
「……ならオレも付き合うよ」
「は?」
「退屈しのぎにはなるでしょ、お互い」
よくわからないことを言い出した、名前も知らない人。安っぽいネオンの光が透き通った瞳を照らす。それは雑多な人波の中で星の煌めきのように映った。
「……暇なの?」
「暇……とは違うけど、特にやりたいこともないから」
男は『やなむら』と名乗った。「柳の村と書いて、柳村」下の名前は小説家から取った古風なものらしく、あまり好きではないと言う。
「『柳村敏』だったら面白かったのに」
「なんで?」
「ほら、『上田敏』って詩人がいるでしょう?彼、『柳村』って名乗ってたこともあって、それで……」
「ふうん?」
あんまり興味がないらしい。恭介くんだったらちゃんと聞いてくれるのに。
……なんて、いちいち比べちゃうのはどっちに対しても失礼かしら。
「まぁでも、私も自分の名前あんまり好きじゃないから気持ちはわかるわ」
「そう?かわいいじゃん、『ざくろ』って、響きが」
「だから嫌なの。だってこれから大人になって、おばあちゃんになっても『ざくろ』なのよ?もっとよく考えてつけてほしかったわ」
ビルの壁に寄りかかり、ふたり下らない会話を続ける。
その中で、『幾らか歳上らしい』と思ったのは間違っていなかったことも知った。柳村…さんは大学生で、暇潰しにこの辺りを散歩していたとのこと。
「やっぱり暇人なんじゃない。学生なら学生らしく勉学に励みなさいな」
「そうはいっても何か目的があって大学生になったわけじゃないし、死ぬために生きてるみたいなものだよ」
淡々と言うその顔、その目に光が宿るのは人工的な光源によるところ。それさえ届かない、深い翳りの中にあったなら──果たして彼の目はどのように映ったろうか。怖いと、そう思うこともあったのだろうか。……『私』なら、どう思ったろう。
「なに言ってるの。人間なんてみぃんな死に向かって生きているのは変わりないわ。むしろどうせ死ぬのは一緒なんだから、それなら好きなこと思いっきりやって死ぬのが賢い生き方ってもんよ」
でも私は『私』じゃない。前世を知っている。つまらない生き方をして、勝手に自分の世界を縮めて、そんなだからつまらない死に方をしたんだろう。覚えてないけど。
だからこそこの世界では好きなように生きるって決めた。自分の意思で人を好きになって、恋をして、そして死ぬ。いい人生だったと、来世があるならそう思いたい。ただそれだけのこと。
だから、難しく考えることないと思う。
「高校生に人生を説かれた……」
「ふふん、あなたとは人生経験が違うのよ」
「さっきまでひとりでアホ面さらしてたのに……」
「こら、誰がアホ面よ」
眉をつり上げて拳を握ると、彼は僅かに唇を緩めた。
……なんだ、笑えるんじゃない。あんまり無表情だから、てっきり表情筋が死んでるのかと思った。
「やりたいことないならモデルとかアイドルとか、そういうのやればいいじゃない。あなた、顔はいいし。ジャ●ーズ…じゃない、ジョニーズだっけ?私が代わりに履歴書送ってあげましょうか」
「いや無理でしょ。オレ、笑うの下手だし」
「笑えてたじゃない、いま」
「それはあんたの顔が愉快だったから……」
「なに?ケンカ売ってるの?買うわよ」
シャドーボクシングの真似事をすると、また笑われた。別に笑わせるためにやってるんじゃないんだけど、と口を尖らせても表情は変わらず。……この具合だと箸が転がっても笑えるんじゃないかしら。
「まぁ考えとくよ。せっかく提案してくれたんだから」
この日は結局、二時間ほどで佐藤さんはホテルから出てきた。その跡を追って駅まで向かい、そこで柳村さんとは別れた。彼のほうから『送る』と言ってくれたのだ。やっぱり悪い人じゃないと思う。……物言いはちょっと失礼だけど。
「じゃあね」
ひらりと手を振って、さよなら。もうこれっきり会うこともないだろう。
そう思っていた。
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