エロゲーヒロインだけど【主人公の友人】を攻略したい!

クリーム

文字の大きさ
7 / 12
エロゲーですがハルウリはご法度です

新たな出会い

しおりを挟む


 ラブホテルの前でひとり身を潜める制服姿の女子高生。……客観的に見たら怪しいことこの上ない。そう気づいたのものの後悔先に立たず。

「なっ、なんのことかしら!?私は別に……そうっ!迷子!道に迷っちゃっただけで、ここのホテルになんて全っ然興味ないからっ」

 慌てた唇の紡ぐ言い訳の、なんと白々しいこと。考える間もなしに言った言葉はあまりに頼りなく、自分で自分を殴りたくなる。
 なんだ、迷子って。この歳で、それもこんなホテル街で、そんな言い訳が通用するはずがない。
 実際、青年の目も不審者を見るもの。「迷子、ねぇ」言外に『嘘だろ』と言われ、私は「ぐぬぬ」と呻いた。
 ──さて、どうしよう。

「……あぁ。学校に連絡とか、そういうのするつもりはないから、安心して」

 一応成績優秀者のはずの私の脳みそを必死でフル回転させていたところ、である。
 ふと閃いた。そんな様子で呟いたのは青年のほう。相変わらずの無表情に、真意は掴めないが──

「じゃあなんで声かけたの?」

「ひとりで百面相してるあんたに興味がわいたから……?」

「なぜ疑問系」

「まぁなんとなくだよ」

 なんとなくで人の寿命を縮めないでほしい。私には恭介くんと一緒に同年同日同時刻に死んでおんなじ墓に入るという夢があるんだから。
 けどとりあえずの危険(?)は去ったらしい。目の前の彼は発言通り、携帯を取り出すこともなく、無味乾燥とした双眸のまま。小綺麗な顔立ちをしているのに、勿体ない。

「で?あんたがこんなとこで百面相してた理由は?」

「ああそれは身辺調査を頼まれたから……」

 気が抜けたせいだろうか。またしても、またしてもである。私の唇は反乱を起こしたらしい。勝手に真実を打ち明けかけ、しかし口をつぐんだところでもう遅い。

「身辺調査?」

 ばっちりしっかり聞かれてしまった。ううっ……、この人が難聴系主人公だったらよかったのに。
 とはいえ己の蒔いた種。私は迷った末に「……そうよ」と頷いた。

「人に頼まれたの。それで跡をつけてたら……ここに」

「へえ?バイト?」

「や、バイトっていうか……使い走り?」

「……いじめられてんの?大丈夫?」

 名前も知らない人に心配されてしまった。
 ……いい人、なのかも。なに考えてるのかさっぱり伝わってこないけど。

「心配してくれてありがと。でも気にしないで、私は平気だから」

 声をかけたのは私が百面相をしていたから。その理由は話したし、これで用はないはず。
 そう思い、私は『さよなら』のつもりで手を振ったのだけど、……青年が立ち去る様子はない。

「あんたは、」

「ん?」

「……その人が出てくるまで、ここで待つつもり?」

「まぁそうね。写真とか、撮った方がいいだろうし」

 生徒会長がどの程度の調査結果を求めているのか、知らないけど。でも今のところ私の目でしか確認は取れていないから、証拠のひとつやふたつ用意しておいた方がいいだろう。
 自分の言ったことに自分で納得している、と──

「……ならオレも付き合うよ」

「は?」

「退屈しのぎにはなるでしょ、お互い」

 よくわからないことを言い出した、名前も知らない人。安っぽいネオンの光が透き通った瞳を照らす。それは雑多な人波の中で星の煌めきのように映った。

「……暇なの?」

「暇……とは違うけど、特にやりたいこともないから」

 男は『やなむら』と名乗った。「柳の村と書いて、柳村」下の名前は小説家から取った古風なものらしく、あまり好きではないと言う。

「『柳村敏』だったら面白かったのに」

「なんで?」

「ほら、『上田敏』って詩人がいるでしょう?彼、『柳村』って名乗ってたこともあって、それで……」

「ふうん?」

 あんまり興味がないらしい。恭介くんだったらちゃんと聞いてくれるのに。
 ……なんて、いちいち比べちゃうのはどっちに対しても失礼かしら。

「まぁでも、私も自分の名前あんまり好きじゃないから気持ちはわかるわ」

「そう?かわいいじゃん、『ざくろ』って、響きが」

「だから嫌なの。だってこれから大人になって、おばあちゃんになっても『ざくろ』なのよ?もっとよく考えてつけてほしかったわ」

 ビルの壁に寄りかかり、ふたり下らない会話を続ける。
 その中で、『幾らか歳上らしい』と思ったのは間違っていなかったことも知った。柳村…さんは大学生で、暇潰しにこの辺りを散歩していたとのこと。

「やっぱり暇人なんじゃない。学生なら学生らしく勉学に励みなさいな」

「そうはいっても何か目的があって大学生になったわけじゃないし、死ぬために生きてるみたいなものだよ」

 淡々と言うその顔、その目に光が宿るのは人工的な光源によるところ。それさえ届かない、深い翳りの中にあったなら──果たして彼の目はどのように映ったろうか。怖いと、そう思うこともあったのだろうか。……『私』なら、どう思ったろう。

「なに言ってるの。人間なんてみぃんな死に向かって生きているのは変わりないわ。むしろどうせ死ぬのは一緒なんだから、それなら好きなこと思いっきりやって死ぬのが賢い生き方ってもんよ」

 でも私は『私』じゃない。前世を知っている。つまらない生き方をして、勝手に自分の世界を縮めて、そんなだからつまらない死に方をしたんだろう。覚えてないけど。
 だからこそこの世界では好きなように生きるって決めた。自分の意思で人を好きになって、恋をして、そして死ぬ。いい人生だったと、来世があるならそう思いたい。ただそれだけのこと。
 だから、難しく考えることないと思う。

「高校生に人生を説かれた……」

「ふふん、あなたとは人生経験が違うのよ」

「さっきまでひとりでアホ面さらしてたのに……」

「こら、誰がアホ面よ」

 眉をつり上げて拳を握ると、彼は僅かに唇を緩めた。
 ……なんだ、笑えるんじゃない。あんまり無表情だから、てっきり表情筋が死んでるのかと思った。

「やりたいことないならモデルとかアイドルとか、そういうのやればいいじゃない。あなた、顔はいいし。ジャ●ーズ…じゃない、ジョニーズだっけ?私が代わりに履歴書送ってあげましょうか」

「いや無理でしょ。オレ、笑うの下手だし」

「笑えてたじゃない、いま」

「それはあんたの顔が愉快だったから……」

「なに?ケンカ売ってるの?買うわよ」

 シャドーボクシングの真似事をすると、また笑われた。別に笑わせるためにやってるんじゃないんだけど、と口を尖らせても表情は変わらず。……この具合だと箸が転がっても笑えるんじゃないかしら。

「まぁ考えとくよ。せっかく提案してくれたんだから」

 この日は結局、二時間ほどで佐藤さんはホテルから出てきた。その跡を追って駅まで向かい、そこで柳村さんとは別れた。彼のほうから『送る』と言ってくれたのだ。やっぱり悪い人じゃないと思う。……物言いはちょっと失礼だけど。

「じゃあね」

 ひらりと手を振って、さよなら。もうこれっきり会うこともないだろう。
 そう思っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧乏貴族の俺が貴族学園随一の麗しき公爵令嬢と偽装婚約したら、なぜか溺愛してくるようになった。

ななよ廻る
恋愛
貴族のみに門戸を開かれた王国きっての学園は、貧乏貴族の俺にとって居心地のいい場所ではなかった。 令息令嬢の社交場。 顔と身分のいい結婚相手を見つけるための場所というのが暗黙の了解とされており、勉強をしに来た俺は肩身が狭い。 それでも通い続けているのは、端的に言えば金のためだ。 王国一の学園卒業という箔を付けて、よりよい仕事に就く。 家族を支えるため、強いては妹に望まない結婚をさせないため、俺には嫌でも学園に通う理由があった。 ただ、どれだけ強い決意があっても、時には1人になりたくなる。 静かな場所を求めて広大な学園の敷地を歩いていたら、薔薇の庭園に辿り着く。 そこで銀髪碧眼の美しい令嬢と出会い、予想もしなかった提案をされる。 「それなら、私と“偽装婚約”をしないかい?」 互いの利益のため偽装婚約を受け入れたが、彼女が学園唯一の公爵令嬢であるユーリアナ・アルローズと知ったのは後になってからだ。 しかも、ユーリアナは偽装婚約という関係を思いの外楽しみ始めて―― 「ふふ、君は私の旦那様なのだから、もっと甘えてもいいんだよ?」 偽装婚約、だよな……? ※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』『アルファポリス』に掲載しております※ ※ななよ廻る文庫(個人電子書籍出版)にて第1巻発売中!※

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。 ――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。 「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」 破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。 重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!? 騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。 これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、 推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...