9 / 12
エロゲーですがハルウリはご法度です
エロゲー的大ピンチ
しおりを挟む翌朝、早速先輩の元へ報告へ向かおうとした私を、しかし意外な人が呼び止めた。
「杜野さん……だよね、二年D組の」
「あなたは……」
そこにいたのは間違いない、この一週間私が後をつけ回していた同級生。
同じクラスになったことも、まして話したこともない女生徒が、挑むような目で私を見ていた。
「佐藤さん……」
「話があるでしょ?……お互いに」
終わった、と思った。
どうやら私に探偵の才能はなかったようです。
「昨日、私のことつけてたよね」
連れ出されたのは定番の校舎裏。ヤンキー座りの不良たちが待ち構えている……ということはなかった。幸いなことに。
でも向かい合った佐藤さんは断定の形で私に訊ねてきた。大人しそう、真面目そう、と思っていたけど、そんなことはない。マズイ現場を見られたのは彼女のはずなのに、やけに堂々としている。お陰で私の方が悪いことをした気持ちになってしまう。
……って、いかんいかん。何を臆しているの、私。らしくないわよ、しっかりしなさい!
「……驚いたわ、まさかあなたがあんなところにいるなんて」
「高校生だからダメ、って?意外とマジメちゃんなんだ、杜野さんって。派手だし、もっと遊んでるかと思ってた」
「失礼ね、私は一途よ」
まったくもう。この私を捕まえて『遊んでる』ですって?ちょっと耳年増なだけで、ゲームでも現実でも純情が売りなのに。甚だ遺憾、断固抗議の姿勢である。
憤慨していると、しかし「まぁそれはどうでもいいんだけど」と横に捨て置かれた。いや、どうでもよくないんですけど?
「余計な口出しするつもりならやめてね、好きでやってるんだから」
「それならもっとバレないようにしてちょうだいよ。私だって別にあなたのことなんて知りたくもなかったわ」
「そうだね、これからは気をつける」
本当かしら?成績を落とした人の発言だとはとても思えない。というか、信用できない。
まぁでも。
「勝手にしたら?」
所詮は他人の人生。私の尺度であれこれ言うことでもなかろう。先輩への報告はさせてもらうけど、後のことは私の管轄外。やめるのも続けるのも佐藤さんの自由だ。
言い置いて、私は彼女に背を向けた。引き留める言葉はない。
あとは先輩への報告が終わればお役御免。晴れて自由の身……となるはずだった。
「先輩ったらどこへ行っちゃったのかしら……」
『今度こそ』と、休みじかんのたびに三年生の教室を覗いたのだけど、先輩の姿はなく。五限目が終わっても会うことは叶わなかった。欠席してるってわけでもないらしいのに、おかしな話だ。
運が悪いというより、おかしな力が働いているようにしか思えない。例えばそう、『ご都合主義』といわれるような類いの。
確信を持ったのは放課後のこと。帰り道、後ろ髪引かれる思いで恭介くんと別れたあと、角を曲がった先に、一台の車が停まっていた。
そしてその傍らに立っていたのは、今朝裏の顔を知ってしまったばかりの同級生と……幾人かの男性たち。大学生ほどに見える彼らは、私の顔を見るなり笑みを浮かべた。それは背筋がゾッとする、厭な笑い方だった。
「待ちくたびれたよ、杜野さん。でもここで待ってて正解だったね。こうしてちゃんと会えたんだから」
「……何か、用事でも?」
進行方向を塞ぐようにして立っている人たち。私はさりげなさを装って後方を確認しようとするけれど、その前に彼らは私を取り囲むようにして広がった。
こうなったらもう嫌でも理解できる。彼らの目的も、私を待ち受ける運命も。
時間稼ぎにもならない私の問いに、佐藤さんは笑った。
「──さぁ、車に乗って。痛い目みたく、ないでしょう?」
これがいわゆるドナドナというやつね。私は一人で納得する。
今は『ドー●ドーナ』でいうところの『ヒトカリ』フェイズであったらしい。つまりこの先にあるのは『ハルウリ』シーン。……うーん、それはいやだなぁ。
なんてことを考えながら車に乗せられ、揺られること……さてどのくらいか。正確なところはわからない。永遠のようで瞬きほどの道行き。処刑台へ続く階段を上らされてる気分は、私から時間感覚を奪うには十分だった。
そんなこんなで辿り着いたのはどこかの廃工場。こんなとこ、漫画とかドラマでしか見たことない。放り出されたコンクリートは冷たくて、すぐにお尻が冷えた。女の子に対する扱いじゃない。完全に『モノ』として見られている。酷くない?
「何をするつもり?」
「こんな人気のない場所まで連れてこられたらバカでも察しがつかない?」
おんなじ女として良心の呵責とか、感じないのだろうか。
座り込む私を見下ろして、佐藤さんは悪い顔。いい子ちゃんのふりをした悪魔は言葉を続ける。
「黙っててもらわないと困るの。私の彼、お金が必要でね。私が支えてあげないといけないからさ」
「あなたはそれでいいの?自分だけ身を削って……」
「そう思うこともあったよ、最初はね。でも今は別に?っていうか、私とヤるために大金はたく男たちを見ると優越感……なのかな、ゾクゾクするようになっちゃった」
女子高生でこの発言である。末恐ろしい。どうかこれがエロゲーワールド特有のことでありますように。こんなのが当たり前の感性になったら、私なんてとても生きていけない。純愛いちゃらぶえっち最高。寝取られ滅ぶべし。そりゃまあ確かに?『ガ●ン系の彼女』は名作ですけどリアルでは求めてないのよ。
というわけで「誰にも言わないから」と、定番のセリフで説得を試みてみる。
「バカね、ここまで連れてきた時点でそんな解決法存在してないの」
が、あえなく失敗。佐藤さんには侮蔑の目を向けられるし、男たちはにやにやと下卑た顔。さすが竿役。清々しいまでのクズっぷりである。酒女タバコしか頭になさそうな顔立ちだ。ようするに、私の好みのタイプではないってこと。
そんな男たちは「もういいだろ」「さっさとヤろうぜ」などと好き放題。佐藤さんも「そうだね」……じゃないわよ!犯罪よ犯罪!倫理感バグってるんじゃないの?
ジリジリと滲み寄るクソ野郎共に私は顔を引き攣らせる。
「さて、どうしてやろうか」
「まずは自分で脱いでもらおうぜ」
「なんでもいいから早くしてよ。撮影係っていうのも結構大変なんだからね」
「はいはい」
マズイ。これはヒジョーにマズイ。このままでは私の初体験が廃工場になってしまう。嫌よ、絶対。……これが好きな人相手だったら退廃的なのもいいかなぁって思えるかもしれないけど。相手は名前も知らないヤンキーだ。不良だ。犯罪者だ。痛いのだけは嫌……っていう願いすら叶えてもらえるかは怪しい。
壁際に追い詰められながら、私は必死で頭を働かす。なんでもいい、何か、脱出の糸口となるものは…………
「そういえばどうして私が後をつけてるって気づいたの?」
「ああ、そのこと?」
尾行している間、一度として気づかれた様子はなかった。なのに、どうして?
下らないと一蹴されるかと思った問いに、しかし佐藤さんはにんまりと笑う。
「ヤナムラ……っていったっけ?あなた、あの人と随分仲良くしてくれたみたいね」
彼女の口から出てきたのはこの場に無関係なはずの人。その名前に、私は固まる。ヤナムラ……柳村さん。私より幾らか歳上の、寂しそうな匂いのする人。
「あいつ、オレらのダチなんだよ。ちょっと聞いたらアンタのこともあっさり教えてくれたぜ?」
「あいつのことも誘ったんだけどなぁ」
「こんなオイシイの断るなんて、アイツ不能なんじゃねぇの?」
聞いてもいないのに、男たちは色々なことを教えてくれる。それも得意げな顔で。まったく、腹立たしい。
まさか彼が……と思う一方で、どこか納得している自分もいる。こんな頭の弱い連中に付き合わされていたら、そりゃあ世を儚みたくもなるわよね。
でもよかった。彼がここにいなくて。友達になれたと思った人に目の前で裏切られたら、さすがの私も傷ついたかもしれない。
「あれ?泣いちゃった?」
「泣くわけないでしょう?第一、そんなに親しくないもの。そんな人のことなんて知らないわ」
「ホントかなぁ?実はアイツのこと好きだったんじゃないの?」
「好きじゃないし、傷ついてもいないわ」
うそ。本当はさっきから胸が痛くて、泣きたいくらいに痛くて、痛くて、でもそんなの矜持が許さないから、私は唇に力を入れた。
絶対に、こいつらの前では泣いてなんかやらない。屈したりなんかしない。握りしめた拳で、手のひらに立てた爪で、私は自分の心を守った。
そんな私を、男たちは嘲笑う。
「まぁいいや。始めようぜ」
男の一人が私の背後に回る。羽交い締めにされた私に、男の手が伸びる。引き抜かれたスカーフを口内に押し込められる。太股に汗ばんだ手が置かれ、それが徐々に上へ上へと這わされる。
その間も私は目を閉じなかった。目を逸らしたら負けだと思った。負けたくなんかなかったから、睨み続けた。男たちを、その後ろで笑っている佐藤さんを。
睨みながら隙を窺っている、と──
「うぉぉおおおおおおお!」
絶叫が響いて、佐藤さんの隣にいた男が倒れ込んだ。その頭にバットをフルスイングしたのは──あぁ、どうしよう。泣かないと決めたのに、泣いてしまいそう。
背中に光を受けて駆け寄ってくるのは、大好きな、たった一人のひと。
「恭介くんっ!」
「いま助けるからな、ざくろ!」
助けに来てくれた。助けようとしてくれた。それが堪らなく嬉しくて、泣きたいくらいに嬉しくて。
拘束が緩んだ隙に、私は太股を触る男を蹴り上げた。
0
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました
雨宮羽那
恋愛
結婚して5年。リディアは悩んでいた。
夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。
ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。
どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。
そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。
すると、あら不思議。
いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。
「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」
(誰ですかあなた)
◇◇◇◇
※全3話。
※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。
――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。
「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」
破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。
重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!?
騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。
これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、
推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
パン作りに熱中しすぎて婚約破棄された令嬢、辺境の村で小さなパン屋を開いたら、毎日公爵様が「今日も妻のパンが一番うまい」と買い占めていきます
さら
恋愛
婚約者に「パンばかり焼いていてつまらない」と見捨てられ、社交界から追放された令嬢リリアーナ。
行き場を失った彼女が辿り着いたのは、辺境の小さな村だった。
「せめて、パンを焼いて生きていこう」
そう決意して開いた小さなパン屋は、やがて村人たちの心を温め、笑顔を取り戻していく。
だが毎朝通ってきては大量に買い占める客がひとり――それは領地を治める冷徹公爵だった!
「今日も妻のパンが一番うまい」
「妻ではありません!」
毎日のように繰り返されるやりとりに、村人たちはすっかり「奥様」呼び。
頑なに否定するリリアーナだったが、公爵は本気で彼女を妻に望み、村全体を巻き込んだ甘くて賑やかな日々が始まってしまう。
やがて、彼女を捨てた元婚約者や王都からの使者が現れるが、公爵は一歩も引かない。
「彼女こそが私の妻だ」
強く断言されるたび、リリアーナの心は揺れ、やがて幸せな未来へと結ばれていく――。
パンの香りと溺愛に包まれた、辺境村でのほんわかスローライフ&ラブストーリー。
【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています
22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。
誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。
そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。
(殿下は私に興味なんてないはず……)
結婚前はそう思っていたのに――
「リリア、寒くないか?」
「……え?」
「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」
冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!?
それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。
「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」
「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」
(ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?)
結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる