死にゲー世界のヒロインだけど死にたくないから黒幕を攻略する

クリーム

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VSお兄ちゃん

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 図書室で体力を消耗した泉に、芳野薫は「家で休んだ方がいいね」と気遣った。

「人目があっちゃ落ち着いて休めないでしょう?」

 思考回路はぶっ飛んでいるくせ、先輩は時々常識人に戻ることがある。
 そういう時の彼には逆らう気も起きず、促されるがまま家路につく。もちろん薫も一緒だ。一人では不安だったし、先輩の方も自分の目の届くところにいてほしいと言っていた。
 だから、というだけで、深い理由などない。ないのだけれど、でも、他のひとから見たらどうなのだろう?
 実際、薫を連れて家に帰ると、兄である九条清志は玄関先で卒倒しそうなほどに驚いてみせた。

「泉が、あの泉が男を連れてきた……」

 いやまぁ、その言葉に間違いはないけれど。でもそれにしてもちょっと人聞きの悪い言い方ではなかろうか?
 泉は「ちょっと、お兄ちゃん!」と小さく抗議の声を上げる。先輩が隣にいる手前、兄が余計なことを言い出さないかハラハラしっぱなしだ。
 お願いだから、先輩の機嫌を損ねることだけは言わないでほしい。……というか早く家に上げてほしい。客人をいつまで玄関に置いておくつもりだろうか。

「だってお前、お前……、あんなに結城の小僧にべったりだったのに……。はっ!まさかアイツにいじめられたのか?」

「誠くんのことは関係ないから!」

 あぁもう、言わんこっちゃない!
 早速芳野薫の地雷──幼馴染みの名前を出されて、泉は慌てて否定する。
 本当はおおいに関係があるけど。幼馴染みに失望したのは事実だけど。
 でもそんな……べったりだったとか、昔のことを持ち出すのは勘弁してほしい。誰しも夢見る乙女だった時代があるはずだ。今は夢から覚めたのだから、これまでのことはきれいさっぱり水に流してもらいたい。

「そうか、とうとう……ううっ」

「なんでお兄ちゃんが泣くの!?」

「いやだって……長い戦いだったなぁと思ったらさ、つい。本当、よかったよ。泉が心変わりしてくれて」

「……そんなに誠くんのこと嫌いだったんだ」

 嫌いだというのは以前から聞いていたけれど、まさかこれ程とは。

「そりゃ当然だろ」

 何故か清志は胸を張って、親指を立てる。そこに涙の跡はない。
 まさかさっきのは嘘泣きだったのか。泉は兄に騙されたと知り、愕然とする。
 あまりに『それらしかった』から、心配したのに。お兄ちゃんのバカ。

「なんせ俺は陰キャだからな」

 ……それ、偉そうに言うことじゃないよね。
 泉は呆れるが、兄は一切気にしない。晴れ晴れとした顔で、

「ああいう陽キャと兄弟になるなんてごめんだったんだよなぁ。それに結城は八方美人だし、いい子ちゃんすぎるから女の方も放ってはおかないと思うんだよ。リア充死すべし!ってやつだな、うん」

 と続ける。
 その内容が実際当たらずとも遠からず……といったところであったから、泉は内心感心していた。
 陰キャだの陽キャだのは置いておくとして。それでも兄の人を見る目は確かなものだったらしい。今までオタクの戯言と聞き流していたのが申し訳なくなる。

「その点、……ええっと、芳野くんだっけ?」

「はい、お義兄さん」

「いや、キミの兄になったつもりはないんだけど」

 薫の気が早すぎる発言にツッコミを入れながらも、しかし清志は矯めつ眇めつ彼を見つめた。
 その顔の真剣なことといったら!泉の知る限り、記憶にない。どんな試験の時よりも真面目な顔で、いったい兄は何を知ろうとしているのだろう?
 何となく緊張してしまって、泉は胸の前で祈るように手を組んだ。『大丈夫だよ』とでも言うかのように薫が目配せしてくれるが、落ち着かない。

「……なるほど、」

 泉には一秒が一分に、一分が永遠にも感じられる頃。
 ようやく口を開き、ひとこと。清志は小さく顎を引いて、口角を持ち上げた。

「少なくともあいつよりは真面目そうだし、頼りがいもありそうだ。ていうか何より顔がいい!合格!おめでとうご両人!おめでとう俺!」

 ……真剣に聞いて、損をした。
 先刻までの厳格な空気はどこへやら。このひとも黙っていれば格好いいのになぁ、と泉は肩を落とす。合格だの不合格だの、客人に対して失礼な話だ。

 ──ていうか『おめでとう俺』ってなに?なんなの?なんでお兄ちゃんがそんなにはしゃいでるの?

 目の前で盛大な拍手を打ち鳴らす兄を眺め、泉は遠い目をした。

「……なに言ってるんだろう、このひと。ごめんなさい、先輩。このひとちょっと頭に傷があるんです」

「ん?ううん、気にしてないから大丈夫だよ。九条さんは謝らないで」

 今日会ったばかりの赤の他人に好き勝手言われたにも関わらず、薫は気にした風もなく微笑む。
 その上、「面白いひとじゃないか」とフォローまでしてくれて、泉は頭が上がらない。まさか自分の家族がここまで理解不能の存在だとは思ってもみなかった。
 しかし兄の清志はといえば、そんな妹の気持ちなど露知らず。

「泉と並んだ時のバランスもいいね!文系カップルって感じだ。うんうん、やっぱり清楚で可愛い系のヒロインには優しい王子さまタイプのヒーローが一番、間違ってもウェイ系の脳筋は近づかせちゃいけないね。悪いけどNTRは守備範囲外だから、俺の脳が壊れちゃうから」

「ほんと、なに言ってるんだろう……」

 オタクらしく饒舌に語ってはくれるが、専門用語の羅列に泉は圧倒されるばかり。内容についてはまったく頭に入ってこない。先輩を褒めているであろうことしか、泉には伝わってこなかった。
 そして薫の耳には、『カップル』と評されたところしか入ってこなかったらしく。彼は「なんだか照れちゃうな」とはにかみ笑う。都合のいい部分しか聞こえない耳というのは羨ましい代物だ。

「……なんでもいいから、そこ通してよ。お兄ちゃんがそこに立ってたんじゃ私の部屋にも行けないでしょ」

「え、部屋に行くのか?二人っきりで?」

「チャッキーとアナベルたちもいるけど」

「あの気味の悪い人形を家族に迎えた覚えはないぞ」

 先ほどまで満足げだったのに、この変わりようはなんだろう?
 清志は眉を寄せ、口をへの字に曲げる。

「せめて高校を卒業するまではコンシューマー版にしときなさい。お兄ちゃん、全年齢版の方が好きだから」

 とうとう二次元と三次元の区別がつかなくなったのか。泉は納得し、「はいはい」と適当に相槌を打つ。
 だからゲームはほどほどにと言ったのに。暇な文系大学生だからといって遊び呆けているからこうなるのだ、きっと。
 真面目に取り合うだけ無駄。とはいえそんな気もなさそうな薫については誤解を解いてあげたい。兄ひとりの思い込みとはいえ、軽薄なひとだと思われるのは可哀想だ。
 「先輩に失礼でしょ」泉が抗議する横。それまでおとなしくことの成り行きを見守っていた薫が、一歩足を踏み出す。

「信じてください、お義兄さん。彼女への愛にかけて誓います。俺は婚姻を結ぶまで彼女と契るつもりはありません」

 それは高らかな宣言だった。厳かな誓いの言葉、そんな具合で薫は言い放つ。

 ……いやいや、婚姻って。

 気が早い、というのは知っていた。けれどこうして明確な言葉にされたのは初めてのことで、色々なことに慣れてきた泉もさすがに驚き、呆気に取られてしまう。
 殺したいほど愛してるだけじゃなく、結婚まで考えていたのか。それは至極平凡な幸せの形であったが、だからこそそんなものをこの先輩が欲しているとは考えもしなかった。
 その驚きは凄まじく、故に言い回しが古風な点については突っ込む余裕がない。妹の泉も、兄の清志も。兄妹そろって口をポカンと開けていた。

「まぁ、ウン……それならいい、かな…………?」

「信じてくださるのですね。ありがとうございます、お義兄さん。今後ともどうぞよろしく、」

「あぁ、よろしく……」

 気持ちいいほどの笑顔で手を差しのべられ、清志もそれに応える。もう『お義兄さん』という呼び方にも突っ込まない。否定するだけ無駄だと兄も理解したのだろう。
 やっぱり先輩のぶっ飛び具合の方が上だった。勝敗の決した変人ふたりの間で、泉は額を押さえる。

 ──私の周りにはどうしてこう、変人ばかりが集まるのか。

 幼馴染みやその恋人(?)のことを思い出すと、頭痛がしてきた。
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