聖なる夜に馬鹿ふたり~ウケ狙いでサンタのエロコスプレをしたら親友に押し倒された

三崎

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 大学3年生の春、人生ではじめての彼女ができた。
 名前は莉菜りな――所属している水泳サークルの後輩で、さっぱりした性格で親しみやすい。それでいてアイドルなみに可愛いから、入部当初から男性人気が高かった。
 
 一方の俺は、100人に尋ねたら99人が「平凡だ」と答える特徴のない顔立ちだ。大学の成績も中の中、会話を盛り上げるスキルも持っていない、特技といえば人よりちょっと長く泳げることくらいだろうか。
 
 だからこそ玉砕覚悟で莉菜に告白し、OKを貰ったときは喜びで失神するところだった。何でもサークルの会計係を黙々とこなす姿に好感を抱かれていたのだとか。人生、どんなところで努力が報われるかわからない。
 そうして晴れて初彼女をGETした俺は、華の大学生活を謳歌することとなった――



「……はずなのにさぁ! まさかイブ前日にフラれるとか想像もしねぇわ!」
 
 俺はタァンッと大きな音を立ててビール缶をこたつテーブルに置いた。飲み口から黄金色の液体が飛び出して、開けたばかりのコンビニ惣菜にかかった。
 
 今日はクリスマスイブ。恋人たちの聖夜。
 本当なら今頃、俺と莉菜はベッドでイチャイチャタイムを満喫しているはずだった。それなのにまさかイブ前日にフラれてしまったため、本日の俺は一人暮らしの自宅で孤独な聖夜。
 
 いや、正確には孤独ではない。惣菜と缶ビールが並べられたこたつの向こう側には、水泳サークルの同期であり親友の貴弘たかひろが座っているのだから。
 友達思いの貴弘は、『彼女にフラれちゃったから飲み会しようぜ!』という急な呼び出しに快く応じてくれた。
 
「過ぎたことをとやかく言っても仕方ないし元気出せって」
 
 と軽い調子で俺をなぐさめる貴弘。
 
「昨日の今日で元気になってたまるか! 初彼女だぞ! 大好きだったのに……うぇぇん……」
「確かに光流みつる、莉菜ちゃんにベタ惚れだったよなぁ。何が原因でフラれたんだ?」
「……」
「心あたりない感じ?」
「いや……ないことはないんだけどさ……」
 
 俺は冷めた唐揚げをかじりながら昨日の出来事について語った。
 
 昨日、12月23日。俺と莉菜はデートをした。デートの日付が23日なのは、24日は2人とも講義の予定が入っていたためだ。だから空いている23日に1日がかりでデートを楽しみ、24日は講義が終わりしだい莉菜の家に行ってイチャイチャして過ごす予定だった。
 
 日が暮れかけてイルミネーションがまばゆく輝き始めた頃、俺は莉菜にクリスマスプレゼントを渡した。荷物になるから渡すのは24日でも良かったのだか、1日でも早く莉菜に渡したかったのだ。
 
 莉菜は真紅のリボンをほどき、期待に満ちた顔でプレゼントの箱を開けた。
 そして次の瞬間、潰れた芋虫を見るような目で俺を見た。
 
「光流くん……これ、冗談だよね?」
「え? 冗談ではないけど……」
「本当にこれが私へのプレゼントなの?」
「うんそう」
 
 俺は悪びれることもなく答えた。
 莉菜は呆れ果てたように溜息を零すと、開けたばかりのプレゼントを俺の胸元に突き返した。そしてすっかり冷めた口調で宣言した。
 
「ごめん光流くん、無理」
「え?」
「せっかく用意してくれたプレゼントに文句なんて言いたくないけどさ……これは本当に無理。さよなら」
「え? え?」
 
 突然のお別れ宣言にあたふたする俺を残し、莉菜はイルミネーションに照らされた道を歩き去っていく。呼び止めることも追いかけることもできなかった。
 
 放心状態から我に返った俺が慌てて莉菜に電話をかけると、「今までありがとね、さよなら」と短い挨拶を残し電話は切られてしまい、俺はようやく莉菜にフラれたことを悟ったのだった。



「そしてこちらが莉菜に渡そうとしたプレゼントでございます」
 
 一通りの説明を終えた俺は、貴弘の前にそっとプレゼントの箱を差し出した。リボンは解かれているがそれ以外は莉菜に渡そうとしたときのまま。
 緊張の面持ちでプレゼントの箱を開けた貴弘は、次の瞬間には苦笑いを浮かべていた。
 
「いや、これはねぇわ。マジかよお前……」
「……やっぱりまずかった?」
 
 俺は貴弘と一緒になって箱の中を覗き込んだ。
 高級感のある白い箱の中に入っているのは、俺がドン・〇ホーテで買い漁ったアダルトグッズの数々だ。ローションにミニローター、SMグッズにラブサプリ、その他諸々。
 
「何でコレをクリスマスプレゼントにしようと思ったわけ?」
 
 貴弘は笑いながらミニローターを持ち上げた。赤くて可愛いイチゴ型のローターだ。
 
「少し前に、莉菜と2人で通販サイトを覗いたんだよ。そしたら莉菜が興味を持ってるみたいだったから、プレゼントするならいい機会かなと思って……」
「だからってデートの最中に渡すか、普通。その場はアクセサリーでも渡して雰囲気を作っておいてさ、夜の部で改めて渡せばよかっただろ」
「……その手があったか!」
「マジかよお前……」
 
 信じられないという表情を浮かべる貴弘に、俺はプレゼントの箱を押しつけた。
 
「というわけだから、コレやるよ。一緒に使う相手もいなくなっちゃったし、俺からのクリスマスプレゼント。乙葉おとはさんと2人で使ってくれー」
 
 乙葉は貴弘の彼女の名前だ。同じバイト先の先輩で、向こうからの告白で付き合い始めたのだと言っていた。一度だけ顔を見たことがあるが、黒縁眼鏡をかけた清楚な女性だった。
 
 貴弘は俺よりもずっとできた男だ。大学内にはたくさんの友達がいるし、水泳サークル内でもみんなから好かれている。勉強ができて機転も利く。そして同性の俺の目から見てもわかるくらいイケメンだ。少しばかり奔放なところもあるがそこは愛嬌のうち。
 
 そんな貴弘は彼女とさぞかしうまくやっているのだろう。そう考えてプレゼントを譲り渡したわけであるが――
 
「あー……実は俺、乙葉さんと別れたんだよね」
 
 貴弘は言いにくそうに口を動かした。それは思いもよらない報告だったので、俺はびっくり仰天して聞き返した。
 
「うそぉ⁉ 別れたっていつ⁉」
「今日」
「まさかの本日付け‼ 何があったんだよ……」
 
 突然の破局宣告にてんやわんやの俺だが、貴弘はあまり傷ついた様子もなく答えた。
 
「今日の日中、乙葉さんとおうちデートしたんだよ。一緒に昼ご飯を作って食べて、おしゃべりしながらまったりしてたわけ」
「うんうん」
「そしたら当然、そういう雰囲気になるじゃん? だから俺、『今日はこれを着て奉仕してほしいな♡』ってプレゼントを渡したんだ。そのプレゼントっていうのがコレで」
 
 貴弘はそこで言葉を句切ると、壁ぎわに置いていたおしゃれな紙袋を逆さまにした。ぱさりと音を立てて赤と白の布地が落ちた。貴弘の言い方から察するに女性物の衣服だろうか。
 
「……」
 
 俺は無言でその赤白布地を手にとった。手触りがよく高級感がある。
 
 肩だと思われる部分を両手でつまみ、ぱっと宙に開いてみると、それはサンタのコスプレ衣装だった。かなりエロめの。白いフリルのついたスカートは下着が見えてしまうくらい短くて、胸元には大きな切れ込みが入っている。
 スケスケのニーソックスがセットになっているのは貴弘の趣味だろうか。
 
「それ見た瞬間、ビンタだぜ。ヒデェの」
 
 貴弘は唇をとがらせて左頬をさすった。
 
 俺が貴弘に『彼女にフラれちゃったから飲み会しようぜ!』とメッセージを送ったのは、今日の正午頃だったはずだ。そのメッセージを受け取って数時間と経たず、貴弘は乙葉さんにフラれてしまったということか。
 
「いやいや、お前もプレゼントが原因でフラれてんじゃねぇか。偉そうに説教たれてたくせに!」
「いやー。俺の場合、プレゼントが直接の原因じゃないと思うんだよね。多分『ご奉仕して』って言ったのが悪かった」
「同じことだわ!」
「下心丸出しのアダルトグッズと一緒にすんな。俺の方がまだマシ」
「何だとこの」
「ん? やんのか」
「んだとおら」
「この」
 
 閑。


 
 その後は愚痴や思い出話を肴に酒は進み、気がつけば時刻は22時を回ろうとしていた。
 貴弘が俺の家にやってきたのが18時頃だったから、もう4時間以上もだらだらと飲んでいることになる。こたつの上には空き缶が散乱し、たくさん買ったはずのつまみも大方がなくなった。
 
 酒がまわり赤い顔をした貴弘が、思いついたように立ち上がった。
 
「アイス食いてぇ」
「この寒いのに?」
「うん、コンビニ行ってくるわ。欲しい物ある?」
「ビールとつまみ、適当に買い足してきて」
「了解ー」
 
 貴弘はコートをはおると、鼻歌を歌いながら玄関へと向かった。顔は赤いが足取りはしっかりとしている。俺の自宅から一番近いコンビニまでは徒歩で5分ほどの距離だから、道中で寝こけることを心配する必要はなさそうだ。
 
 貴弘がいなくなった部屋で、俺は気持ちばかりに片付けを始めた。空き缶はビニール袋に入れ、空の惣菜容器はキッチンへ。
 
 貴弘と2人で宅飲みをするのは今日が初めてのことではない。酒を飲んだ貴弘は日付が変わると糸が切れたように寝てしまうから、家には帰らずうちに泊まっていくことが多い。今回もそのパターンだろう。
 本当だったら莉菜とイチャイチャするはずが、貴弘と2人ビールと惣菜だなんて、とんだクリスマスイブだ。
 
 ふと忘れ去られていた紙袋が目に入った。エロコスプレ衣装が入った紙袋だ。俺が貴弘にアダルトグッズを押しつけようとしたのと同様に、貴弘も俺に押しつけるためにその衣装を持参したらしい。
 言うまでもなく、それらは2つとも行き場を失ってしまったわけであるが。
 
「……」
 
 俺は酔った頭で考えた。今夜はイブだというのにクリスマスらしいことを何もしていない。食べたのはありふれた惣菜だけで、イチゴののったケーキもなし。大学生の1人暮らしの部屋にはツリーも飾られていない。
 
 悪戯心がむくむくと頭をもたげてきた。彼女にフラれてしまった散々なクリスマス。悲しい記憶を塗り替えるためにちょっと面白いことをしてやろうか、なんて。
 俺はにんまり笑って紙袋を逆さまにした。
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