親友のあそこに触手が生えた話

三崎

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『今からうち、来れない?』
 
 親友である松本まつもと大地だいちからそんなメッセージが届いたとき、時計の針は19時ちょうどを指していた。
 俺は少し迷い、探るようなメッセージを返した。
 
『何で?』
『ちょっと困ったことになってて、助けてほしい』
『困ったことって?』
『説明が難しいから、うちに来て』
『風呂上がりだから、すぐには出れないけど』
『ゆっくりでもいいから取りあえず来て』
 
 ここまで引っ張られると呼び出しの理由も気になってきて、俺は『OK』のスタンプを押した。すぐに大地からは『ありがとう』とスタンプが返ってきた。
 
 俺の家から大地の家までは、徒歩と電車で40分の道のりだ。濡れた髪にドライヤーをかけて、最低限の身支度で家を出れば、1時間後には到着することができるだろう。
 
 俺は大地の呼び出し理由にあれこれと思いを巡らせながら、てきぱきと身支度を始めるのであった。

 ◇

 俺――神原かんばらみなとは、ごくごく普通のサラリーマンだ。年齢は24歳、役職はなし、ついでに恋人もなし。JR駅から徒歩10分のところにある2LDKにマンションで一人暮らしをしている、絵に描いたような独り者。

 友人である松本大地は、大学時代のサークル仲間だ。当時はそこまでつるむ間柄ではなかったが、社会人1年目のときに町中で再会し、それから段々と仲良くなった。今では仕事終わりに合流して一緒に酒を飲んだり、休日に映画を見に行ったりする仲だ。

 大地との距離感は心地良い。職場が違うから必要以上に仕事の話をすることはないし、かと思えば大学時代の思い出話で盛り上がったりもする。
 酒や食の好みもよく似ている。お互いに独り身だから変に気を遣うこともない。理想の友人関係だ。

 ただ――俺には一つだけ秘密がある。
 それは1年くらい前から大地に片思いをしているのだということ。

 大地が好きだと気付いたきっかけは、大地の自宅で一緒に酒を飲んだときのことだった。うっかり酒を零した大地が服を脱ぎ、裸体を見た瞬間、「あ、抱かれてぇ」と思ってしまった。
 
 でもそんな邪な気持ちは心の奥底にしまいこんで、以前と同じ友人付き合いを続けている。なぜなら告白をしたところで叶う望みはないからだ。
 
 大地への恋心を自覚して間もない頃、酒の力を借りて「好きな人はいないのか」と尋ねたことがある。
 大地はいると答えた。もう何年も前からずっと好きな人がいるのだ、と。その相手とは現在も定期的に会っているらしく、お付き合いまではいかずともそこそこ良い関係を築けているのだとか。

 その話を聞いて、俺は大地への恋心を隠し続けると決めた。今の俺にとっては、叶うはずのない告白をして大地との友人関係が終わってしまうことが何よりも怖かったから。

 ◇

 自宅を出発してから38分後。俺は大地の自宅の前に立っていた。
 呼び鈴を押してみるが、待てど暮らせど応答はない。痺れを切らしてドアノブに手をかけると、思いがけず鍵が開いていたので、挨拶をしながら部屋に入ることにした。

「大地ー、来たぞー」

 すぐに、風呂場から大地の声が聞こえてきた。

「悪い。すぐ行くから、リビングで待ってて」
「はいよー」

 シャワーでも浴びていたのだろうか、と疑問を感じながらリビングの扉をくぐる。
 
 大地の自宅は、俺と同じくらいの広さの2LDKだ。でも物が多くごちゃついている俺の自宅とは違い、すっきりと片付いている。本は本棚にしっかりと収まっているし、ベッドの上に脱いだ服が散らかっていることもない。
 こうした理由から、宅飲みをするときは大地の自宅にお邪魔することが多かった。

 俺がソファに座ってくつろいでいると、間もなくして大地が風呂場から出てきた。
 癖のない栗色の髪に、きりりと整った顔立ち。大地は同性の俺の目から見てもイケメンな部類だ。平凡を絵に描いたような俺とは大違い。

「湊、いきなり呼び出して悪いな」
「明日、休みだし別にいいよ。それで、何の用だった?」
「そう……ちょっと困ったことになっててさ。見てくれる?」

 そう言うが早いか、大地はズボンのファスナーを開けた。
 俺は驚いて大声を出した。

「うおぉい! 見てって何⁉ 何を見ろって⁉ まさかのちんこ⁉」
「ちんこだよ」
「嘘だろ⁉」

 まさか自宅に到着して1分と経たずにちんこを見せられる羽目になろうとは。俺は狼狽えながらも、内心これはラッキーなんじゃないかと感じていた。
 大地のちんこに異変が生じたのだとすれば、ちんこを凝視するまたとないチャンスだ。
 
 ごくりと息を呑み、ズボンから露出した大地のちんこを見た。
 そこにあったのは思いもよらない光景だった。

「え……ナニコレ。イソギンチャク……!?」

 本来ちんこがあるべき場所には、赤黒いイソギンチャクのような物体が生えていた。細い触手がもにょもにょと不規則に動いている。正直、かなりグロテスクだ。

「……もしかしてこういうドッキリ?」

 あまりに不可解な光景に、よくできたドッキリを疑った俺は、大地の股間部に生えたイソギンチャクを鷲掴みにした。
 最近のドッキリグッズはとてつもなくリアルだから、股間部に装着する動くイソギンチャクがあってもおかしくはないと思ったのだ。

 次の瞬間、大地の悲鳴が響き渡った。

「ぎゃああ! 馬鹿、痛い!」
「え、痛いの?」
「ちんこ掴まれたら痛いに決まってるだろ!」
「……ドッキリじゃなかったのか。え……てことはコレ本物? うわっ嘘だろ! 気持ち悪い!」
「人のちんこを気持ち悪いとか言うんじゃねぇ」

 大地が叫んだところで、俺は少し落ち着きを取り戻した。
 もにょもにょと動くイソギンチャク――もとい大地のちんこはかなり気持ち悪いが、そうとばかりも言っていられない。こうして俺を自宅に呼び寄せたくらいなのだから、大地は本当に困っているのだ。
 
 困っているならば知恵と力を貸してやるのが親友というものである。

「で、何でちんこがこんなことになってんの?」
「俺の方が聞きたいわ」
「こうなる前に何か特別なこと、した?」
「……いや別に」
「嘘吐け。何もしてないのに、突然ちんこがイソギンチャクになるわけねぇだろ」

 俺がずずいと詰め寄ると、大地は言いにくそうに白状した。
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