齢1200の龍王と精を吸わないオタ淫魔

三崎

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無垢と笑えよサイコパス

交渉決裂

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 クリスが地下研究室へと戻ってきたのは、正午を30分ほど回った頃のことだった。右手には分厚い冊子を詰め込んだ手提げ袋、左手には「手造りパン」の文字が書かれた2つの紙袋。両手いっぱいの荷物をぶら下げたクリスは部屋の中へと1歩立ち入り、しんと静まり返った研究室内をぐるりと見まわす。

「ただいま」

 帰還の挨拶に返事はない。クリスはしばし部屋の中を見渡し、やがて部屋の中央に置かれたソファの座部に目を止めた。地下研究室への移動を命ぜられた当初、魔導大学敷地内の不用品置き場から拾ってきた年代物のソファ。そのソファの上には赤と緑のクッションの他に、大きな布団の塊がのっている。ソファへと歩み寄り、まん丸布団を力任せに剥ぎ取れば、やはり中から現れたのは子猫のように丸々と身体を丸めたゼータだ。

「見ぃつけた。ほら、かくれんぼはお終いにしてお昼ご飯にしよう。今日はパンだよ。中央食堂のパン屋さん、美味しいと評判なんだ。値段も安いし、月初めに新商品が出るのが嬉しいんだよねぇ。多めに買ってきたから好きな物を選んでよ」

 クリスは応接テーブルに紙袋をのせ、かさかさと口を開いた。辺りにはふわりと小麦の香りが広がる。

「それとも小さく切ろうか?僕、パンとかケーキは小さく切って色々食べたい派なんだよね」

 クリスの問いかけにゼータは答えない。ソファの上に身を丸めたまま、頷くでもなく首を横に振るでもなくじっと黙りこくっている。中途半端に捲り上げられた布団が身体の上を滑り、床に落ちる。クリスは一瞬ゼータに向けて奇異の眼差しを向けるが、反応の鈍さは眠気のためと判断されたようだ。紙袋を手に調理台へと足を向けたクリスは、鼻歌交じりに昼食の準備を始める。やかんを火にかける音、紙袋からパンを取り出す音、ガラス皿のぶつかり合う音。5分と経たずにクリスは食事の準備をすっかり終えて、ゼータの元へと戻ってきた。真四角の陶器皿の上には山盛りのパン、パンは全て几帳面に4つに切り分けられている。それに簡易スープというおまけつきだ。ゼータはここに来てようやくソファから身を起こすが、山のように積み上げられたパンに手を伸ばすことはない。

「どうしたの。お腹空いていない?」

 言って、クリスは胡桃パンの一切れにかじりついた。ゼータは香ばしく香るパン山を見つめ、湯気立ち昇るスープを見つめ、それから上目遣いにクリスの顔を見やった。

「クリスはどういった経緯で地下治験場の食事配膳係になったんですか?」
「僕?別に特別なことはないよ。セージ学長から打診があって引き受けただけ」
「セージ学長がクリスを選んだ理由は?外交使節団の一件で面識があったから?」
「それも一つの要因ではあると思うけど…。一番の理由は僕が国家に従順な研究員だからじゃないのかな。相手が罪人とはいえ劣悪な環境に魔族を幽閉していることに変わりはないし、治験を行う以上死亡事故は避けられない。下手に正義感の強い人物を食事配膳係に任命して、地下治験場の現状を悪し様に吹聴されると国家として体裁が悪いでしょ」
「クリスは国家に従順な研究員なんですか?」
「僕自身そうであるつもりはないけれど、見る人が見ればそう感じるんじゃないかな。魔導大学内各研究棟の入り口にある掲示板の話、誰かに聞いた?」
「いえ…」

 ゼータは首を傾げる。クリスは応接テーブルの上から陶器のカップを取り上げて、そろそろと口に運んだ。温かなスープを一口飲み下し、そしてまた語り出した。

「何度も言っていると思うけど、魔導大学は近隣諸国随一の研究施設である。行われる研究が最先端であることは勿論、所属する研究員は他の研究施設より優秀であると言われている。加えて中央図書館は国内一の蔵書数を誇り、専門書の数で言えばリモラ駅内の大型書店を遥かに凌ぐ。…といういくつもの要因があって、魔導大学には国内各研究機関及び行政機関から頻繁に調査依頼が舞い込むんだ」
「調査依頼?」
「そう。例えばとある研究員が執筆した論文を探し出して謄写してくれ、とある物質に関する資料を集めてくれ、国内遠地のとある農地に赴いて農作物の生育状況を資料化してきてくれ、などなど。そういう細々とした調査依頼が各研究棟入り口にある掲示板に貼られるんだ。休日を持て余した研究員や、小金を稼ぎたい研究員が、そういった依頼を請け負うというわけ」
「へぇ…」
「それで本職研究趣味研究の僕は、時間ができるたびにそういった調査依頼を請け負っているんだよ。面倒な依頼ばかりと頑なに手を付けない人もいるけれど、慣れれば結構お得なんだよね。依頼元の経費で国内各地に遠征に行けるし、報酬も割高。それで小旅行と報酬目当てに依頼をこなしていたら、いつの間にか魔導大学上層部で僕の評価がうなぎ上りになっていたんだ。そこにほら、丁度外交使節団の一件が重なったでしょう」

 国家直属の研究機関である魔導大学には、毎年のように外交使節団員の選任依頼が舞い込む。しかしセージを含む魔導大学の上層部は、毎年この選任に四苦八苦するのだ。およそ2週間に渡り他国への滞在が強いられる外交使節団は、多忙な研究員の間では嫌われる。植物の栽培や微生物の培養を行っている研究員は、長期に渡り研究室を空けることなど不可能であるし、ルーメンのように学生指導を行う立場の人物も安易と国を空けることはできない。毎年顔見知りの研究員に直談判し外交使節団員の確保を行っていたセージであるが、前回の派遣は殊更条件が悪かった。2国の間で魔導具の共同開発の案件が持ち上がり、「ドラキス王国のお偉い様方に魔導具の講演を行う」という面倒な仕事が付されたのである。重鎮相手の講演を行うのならば当然入念な事前準備が必要で、面倒極まりない上に責任重大な外交使節団の任を引き受ける者などいない。困り果てたセージが目を付けた者が、外部組織からの調査依頼を細々とこなしていたクリスだ。セージは当時面識のなかったクリスを呼び出し、駄目元で外交使節団としての派遣依頼を出す。答えは2つ返事での「了」だ。「特段断る理由もないし」というのがクリスの言い分である。
 こうしてクリスはセージ及び魔導大学上層部にとっての天の助けとなり、めでたく面倒事引受要員の地位を確立した。そしてこの件が、後に地下治験場の食事配膳係任命の一件へと繋がっていくのである。

「―というのが、僕がセージ学長の目に留まった理由だと思うよ」

 一連の説明を終えたクリスは、総菜パンをつまみ上げ口に入れた。今まで頑なに食事に手を付けずにいたゼータも、ここに来てようやくパン山から一つのパンを取り上げる。乾燥果物と胡桃のぎっしりと詰まったパンは、ポトスの街のパン屋でもよく見掛ける一品だ。

「それを聞いて安心しました。クリスは魔族が嫌い、というわけではないんですね」
「嫌いなわけないじゃない。何でそんな話になるの?魔族を幽閉しているから?あれは法的にも認められた拘束だって何度も言っているでしょう」
「対魔族武器専用地下治験場」

 ゼータがその名称を口にした刹那、部屋の中は一瞬にして静まり返った。元々2人しかいない空間なのだから、いかようにしても賑やかになどなりようがない。しかし一時前の穏やかな雑談の声を懐かしく感じるほどに、部屋の中は不気味に静まり返る。響くのは規則的な時計の音だけだ。
 永遠に続くかと思われた沈黙に終止符を打った者は、クリス。

「…どこでその名前を?」
「クリスの出向辞令書を見たんです。作業机のファイルに触れたときに、たまたま落ちてきたんですよ。上手く挟み込まれていなかったみたいで」

 ゼータがそう言うやいなや、クリスは勢いよく席を立った。長い脚が応接テーブルに当たり、テーブルの上の陶器皿が大きく揺れる。積み上げられていたパンのいくつかが皿の上から零れて落ちる。

「作業机に触ったの?僕、余計なことはしないでって何度も言ったじゃない」
「すみません…。でも国家機密に関わるような資料は見ていないですから…」
「そりゃ他国のお客様を留め置いているのに、機密資料を投げ出しておくわけないでしょ。全部鍵付きの引き出しにしまってあるよ」

 クリスは足音荒く作業机の傍まで歩いて行き、机の引き出しを次々と開けた。一つ、二つ、三つ。四つ目の引出しには鍵が掛かっており、がちゃりと無味な音が鳴る。目的の引出しに鍵が掛かっていることを確認したクリスは、すぐにソファの側まで戻ってきた。元いた席に座り込んで、悩ましげに溜息を零す。ゼータは指先につまみ上げた乾燥果実パンを一口かじり、そしてまた遠慮がちに話し出した。

「クリス、魔導大学では密かに対魔族武器の開発が行われているということですか?」
「さぁ、どうだろうね。僕の口からは何とも」
「私を魔導大学に誘い込んだということは、いつかは話すつもりだったんでしょう。今話してくださいよ」
「机漁りをする礼儀知らずな人に話すことはありません」

 不機嫌を隠そうともしない投げやりな反応。ゼータは眉尻を吊り上げる。

「誤魔化すつもりなら、私は私で勝手に妄想を繰り広げますよ。ロシャ王国では魔導大学を拠点として国家を上げての武器開発を行っている!目的は隣国ドラキス王国の領土侵略!そのために魔族の罪人を地下治験場に幽閉し、日々非人道的な実験行為を―」
「ちょ、ちょっと待ってよ。極端な妄想は止めてよね。別に領土侵略なんて考えていないってば」
「じゃあ何を目的に対魔族武器の開発を?」

 さあ真実を語れと身を乗り出すゼータ。クリスはしばらく口を噤んでいたが、表情には次第に諦めの色が広がる。真実の一端を暴かれた以上、ここで嘘を重ねるのは悪手だ。

「先に言っておくけど僕、全てを知っているわけではないからね。地下治験場を訪れるお偉い様方の雑談を聞いて、勝手に想像を働かせているだけ。あまり期待しないでよ」

 ゼータは頷く。クリスは投げやりな口調で語り出した。

 まず大前提として、ロシャ王国の民には二通りの考え方の者がいる。魔族に友好的な者と、非友好的な者だ。国家の統治を担う王宮の官吏も同様に魔族友好派と非友好派が入り乱れており、その割合はおよそ半々程度であると認識されている。そして国家の頂に立つ国王アポロ、彼は即位の時より魔族に対しては一貫して同様の立場を貫いている。中立だ。隣国の王であるレイバックと個人的には良好な関係を築きつつも、国政運営の場では魔族に一線を引いている。必要最低限の友好関係を維持しつつ、決してそれ以上の関係には踏み込まない。30年の治世において頑なに守り抜いてきたアポロの立ち位置が、魔族友好派と非友好派を上手く取り成し円滑な国政運営を可能にしていた。
 しかしおよそ1年前に、絶妙に保たれていた国家のバランスを著しく傾げる事案が発生した。アポロ王が中立の立場から一転、魔族に友好的な国政運営へと舵を切ったのである。ドラキス王国との魔導具の共同開発を皮切りに、交易品目の追加、ロシャ王国内への魔族の旅行者の受け入れなど、今までの治世からは想像もつかぬ提案を次々とした。魔族友好派の官吏がアポロの提案を後押しする一方で、非友好派の官吏はひどく狼狽えた。彼らとて理由なく魔族を毛嫌いしているわけではない。近隣諸国の歴史書を漁れば人間が魔族に虐げられた歴史など腐るほどあるし、魔族立ち入り禁止のロシャ王国内でも魔族における魔法犯罪は後を絶たない。魔族は支配欲が強く野蛮で、一度国家への立ち入りを許せば、非力な人間などあっという間に魔族の支配下に置かれるだろう、というのが魔族非友好派の官吏の主張である。
 国家の長であるアポロが魔族に友好的な政策を提案しながらも、魔族非友好派の官吏がそれを押しとめる。ゆらゆらと揺れる天秤のような関係は半年ほど続いていたが、そこでまた少し状況が変わる。アポロの一人娘メアリの婚約が、正式に世に発表されたのだ。婚約者の名はアムレット、アポロに続くロシャ王国26代目の国王となる青年である。国家にとって幸運というべきか不幸というべきか、アムレットの故郷はロシャ王国とドラキス王国の端境に位置し、彼は極端な魔族嫌いであったのだ。

「アムレット皇太子の魔族嫌いについては、何か特別な事件があったというわけではなさそうだ。彼の父親が魔族嫌いで知られているから、幼い頃からの教育の賜物なんだろうね。そういう人は多いんだよ。自身が魔族と諍いを起こしたわけでもないのに、親の影響を受けて魔族嫌いになっちゃう人」
「…そうなんですか」

 アポロが中立の立ち位置を守っていれば、アムレットが魔族非友好派であることは然して大きな問題とはならなかった。政権交代の後も、ドラキス王国とは最低限の友好関係を維持していれば良い。しかしメアリとアムレットの婚約発表を目前にして、アポロは魔族友好派に一転。王宮内の魔族非友好派が不満を募らせる中に、魔族嫌いの次期国王候補がやって来た。状況は悪い。アポロとアムレットの間に表面上の確執はないが、彼らを頭として王宮内の官吏は二分することになる。アポロ率いる魔族友好派と、アムレット率いる魔族非友好派。率いると言っても、アポロとアムレットが直接足元の官吏に指示を下しているわけではない。ただ王宮内の官吏が水面下で対立し、勝手に火花を散らしているというだけ。

 対魔族武器専用地下治験場が設立されたのは、そんな密かな対立の最中であった。同時に魔導大学内で行われる特定の魔導具の研究に莫大な補助金が支給され、国家の指示の元研究が推進されることとなる。例えば対魔獣武器として開発が進んでいた魔喰蟲仕込みの狩猟具、魔獣を拘束し安全に運搬するための魔封じの首輪、これらは対魔族武器として大幅な改良を施された。その他にも感情のない兵士となり得る等身大魔導人形の開発、元来薬剤耐性の強い魔族に効く毒薬の開発、強大な魔法攻撃に耐えうる防具の研究など、幅広い分野の研究に現在進行形で巨額の資金が投入されている。そして公の治験場では治験を行えない武器や薬剤の類が、クリスの管理する対魔族武器専用地下治験場に運び込まれる、という次第である。

「最初の質問に戻ろう。対魔族武器開発の目的は何か。僕は『国土の自衛』じゃないかと思っているよ。アムレット皇太子はすでに王宮に入っているけれど、実際の政権交代までにはまだ数年の時を要する。アポロ政権の元でロシャ王国内への魔族の立ち入りが認められてしまえば、アムレット政権でそれを覆すのは難しいでしょう。だから今のうちに、せめて魔族と戦えるだけの武器を用意しておきたいんじゃない。来るかどうかも分からない『いざ』に備えてさ。…というのが、僕の想像するロシャ王国の現状。何か質問は?」

 質問はと問うや否や、クリスは口の中に胡桃パンを詰め込んだ。近年稀にみる不機嫌さだ。クリスが胡桃パンを飲み下した瞬間を狙って、ゼータは質問を重ねる。

「対魔族武器の開発は、アムレット皇太子の直接の指示ではない?」
「違うんじゃないかな。彼はまだ王宮に入ったばかりだもの。次期国王の立場とはいえ、アポロ王の足元で官吏に好き勝手命じることはできないでしょう」
「なら一官吏の独断で、ここまで大掛かりな対魔族武器の開発が行われているということですか?」
「そうなんじゃないの。地下治験場を訪れる官吏らの会話で、先導者と思われる人物の名前は何度か聞いたことがあるよ。僕は実際に会ったことはないけどね」
「アポロ王は、対魔族武器開発について何も知らないんですよね」
「知らないんじゃないのかなぁ。だって対魔族武器の開発を許すということは、ドラキス王国との友好関係を破棄するに等しいでしょ。アポロ王はほら、メアリ姫にあんなことがあったからさ。レイさんとは仲良くしていたいんじゃない」
「そうですね…」

 ゼータの相槌に、クリスの口元には笑みが浮かんだ。三日月を描く唇からはふふ、と笑い声が零れる。真面目な議論の場には不釣り合いな笑い声。ゼータは首を傾げる。

「何か面白いこと、ありました?」

 クリスは片手で口元を抑えたまま、いや、と首を振った。

「何でもないよ。気にしないで。それで僕は全ての質問に嘘偽りなく答えたわけだけど、ゼータはどうするの?まさかここまで話させておいて、移籍の条件は飲めませんなんて言わないよね」

 穏やかな笑みからは一変。強い語調での問いかけに、ゼータは言葉に詰まる。何かを言わんとして口を開き、結局何も言えずに口を閉じる。長い長い沈黙の後に、ゼータは蚊の鳴くような声で言った。

「クリス。申し訳ないですけど、やっぱり私は魔導大学に移籍できません」
「…理由を聞いても?」
「レイを裏切ることになるからです。クリスの推薦で魔導大学に移籍すれば、対魔族武器の開発に携わることは避けられないですよね。武器開発自体を強く咎めるつもりはありません。強大な魔法を使う魔族に対して、恐れを抱く人間の気持ちはよく分かります。でも例え万が一でも、それらの武器がレイの守るドラキス王国の民に向く可能性があるのなら、私は武器開発に携わることはできません」
「成程ね。できる限りの情報を搾り取っておいて、僕の出す条件は飲めないと言うわけか。なかなか小狡い性格をしているじゃないの」

 クリスはふん、と鼻を鳴らす。

「参考までに聞くけど、ゼータはこの件の後処理をどうするつもり?入るなと言った地下室に興味本位で入り込んで、作業机を漁り、思わせぶりな態度でまんまと僕からロシャ王国の極秘情報を聞き出した。僕が出るところに出て訴えれば、ゼータはドラキス王国の諜報人扱いで刑事施設送りだよ」
「私を訴えれば、クリスも非を咎められることになると以前言ったじゃないですか。お互いの立場のためにも、この件は外部に出すことなく穏便に収めましょう」
「どうやって?」
「レイを呼んできてください。レイを相手に、さっきの話をもう一度してくださいよ」

 ゼータの口から「レイバック」の名が出た途端に、クリスは苦虫を嚙み潰したような表情となった。

「魔族の王様相手に、魔導大学では密かに対魔族武器の開発をしていますって言うの?魔族を幽閉している現場を見せつけた後に?冗談は止めてよね。それでレイさんと喧嘩して友好破棄なんて事態になったら、全部僕の責任になるじゃない。僕を世捨て人にでもするつもり?」
「レイをここに呼んでくれれば、私は全力でクリスの援護をしますから。2国の関係にひびが入らないように、3人で良い方法を考えましょうよ。レイは少し血の気の多い一面もありますけど、基本的には国想い民想いの良い王様です。対魔族武器の開発目的があくまで国土の自衛ということであれば、それを理由にロシャ王国との友好関係を無下にすることはないですよ」
「良い王様なのは知っているけどさぁ…」

 その後小一時間議論を重ねるも、結局着地点は定まらなかった。クリスは「全ての秘密を知られた以上無条件での解放は有り得ない」と言い、監視の意味も込めてゼータの魔導大学移籍を要求する。しかしゼータはこれに応じず、「自衛目的に限り対魔族武器の開発を認めるとのレイバックの言質が取れれば、クリスにとって不足はないはずだ」と訴える。ゼータの口から「レイバック」の名が出るたびにクリスは声を荒げ、つられるようにゼータの口調も激しくなる。
 泥沼にはまった話し合いに終止符を打ったのは、テーブルを叩く大きな音だ。音とともにクリスは席を立ち、今しがたテーブルを打ったばかりの自身の手のひらを見つめる。

「交渉は決裂だ。少し考えさせて」

 そう吐き捨てると、クリスはさっさと地下研究室を後にした。重厚な鉄扉は閉ざされて、しんと静まり返った空間にはゼータ一人が残される。陶器皿から零れ落ちたパンの欠片を拾い上げ、ゼータは溜息を零す他にない。
 交渉は決裂、クリスの言葉が耳朶に残る。



***
ごちゃっと説明会ですみません。

〇アポロ(現国王)→魔族友好派、ロシャ王国への魔族立ち入りを認めたい
〇アムレット(次期国王)→魔族嫌い、足元の官吏が魔族の国土侵略に備えて勝手に色々やってる→開発された対魔族武器が地下治験場に運び込まれてくる

くらいの感じでOKです。3話程度でクライマックスに入ります。
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