貴様の手の甲に誓いの口づけを

三崎

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※19.1000年前、某日-3

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 うとうとと浅い眠りから覚めた。
 目が覚めてまず初めに感じたことは「熱い」。心臓がドクドクとうるさいほどに脈打ち、全身が火の玉のように熱い。頭が朦朧として考えることが億劫だ。手足も鉛のように重たい。人生で初めて感じる不調だ。

 部屋の灯りは落とされており、辺りは暗闇に包まれていた。しかし充満したアルコールの香りから、そこがセロの私室であることがわかる。背中には柔らかな感触、どうやらベッドに寝ているようだ。しかし自らベッドに上った記憶はない。セロのコレクションを飲むうちに酔い潰れてしまったのだろう。ならば酔い潰れたギオラをベッドまで運んだ者は、一緒に酒を飲んでいたセロか。

「ふ……んん……」

 くぐもった声が聞こえた。声と一緒にぴちゃぴちゃと何かを舐める音。下腹部にぬるりとした感触を感じ、ギオラの意識は一気に覚醒へと向かった。首をもたげ、その艶めかしい音のする方を見る。

「セロ……何をしている」

 ギオラの下腹部にはセロが頭を埋めていた。だらだらと涎を垂らし、ギオラの陰茎を一心不乱で舐め回している。まるで極上の砂糖菓子を口に含むかのように、恍惚とした表情を浮かべながら。狂気すら感じさせる光景だ。

「何って、見た通りさ。舐めてたんだ。ギオラに気持ち良くなってもらおうと思って」

 ギオラの陰茎に頬擦りをしながらセロは言う。宰相セロ・リューガンの名に似つかわしくない、どこか幼げな話し方だ。狂気的な光景も相まって、セロではない別の人物と話をしているかのような錯覚すら覚える。しかし癖の強い赤茶髪はセロのものであるし、顔や身体の作りもセロのそれに相違ない。

 それなのになぜ、なぜこんな事態になっている?

「セロ、離れろ。俺はこのようなことを望んではいない」
「そんなこと承知の上さ。じゃなきゃわざわざ浴びるほどの酒を飲ませるもんか。手首を繋ぐような真似もしない」

 セロの言葉に、一瞬にして体温が冷える。ギオラは慌てて腕を動かそうとするも、シーツの上の両腕はガジャリと鈍い音を立てただけで、まともに動かすことは叶わない。手錠で繋がれているのだ。ベッドの上に仰向けに寝かされ、両手首は手錠により天蓋の柱へと繋がれている。
 ドクドクとうるさいほどに心臓が鳴るのは、もう酒のためだけではない。

「何が目的だ」
「目的? 目的はこの行為そのものさ。別にギオラと恋人同士になろうだとか、弱みを握って脅してやろうだとか、そんなことは微塵も考えていない。ギオラと繋がりたいんだ。ただそれだけ」

 それだけ、とは何だ。今のギオラにはセロの言う事がまるで理解できない。セロの変貌の理由も分からない。ほんの数時間前までは、気心の知れた友人同士のように語らっていたというのに。
 セロの手にするするとズボンを脱がせられるのを、ギオラは他人事のように感じていた。元々前部分が大きく開け放たれていたのだから、ズボンが足から引き抜かれるまでに然程の時間は要しない。セロの唾液にまみれた陰茎が、暗闇の中に勃ち上がる。

 次いでセロが手に取った物は、蜂蜜色の液体で満たされた小瓶だ。小瓶の大きさは手のひらにちょうど収まる程度、ころりと丸みを帯びている。
 セロは小瓶の蓋を開け、中の液体を手のひらに垂らす。蜂蜜のようにとろとろと粘性のある液体だ。

「何をするつもりだ」
「慣らすんだよ。ギオラと繋がりたいって言っただろ? 心配しなくてもこれはただの香油だ。ちょっとばかり催淫剤を混ぜてはあるけどさ」
「催淫……剤……?」

 ギオラがその言葉を正しく理解するよりも先に、セロはギオラの両脚を押し開いた。とろみのある液体をたっぷりと指先に絡ませて、まだ穢れを知らない後孔に触れる。
 途端、ギオラは全身を硬直させる。

「セロ、セロ! 駄目だ、それ以上触るな!」
「何で? ここを触らないと繋がれないじゃないか。僕は僕が気持ちよくなるだけじゃなくて、ギオラにも気持ちよくなってほしいんだ。この穴に奥まで突っ込んでさぁ、ひんひん可愛い声で鳴かせたいんだよ」
「駄目だ駄目だ、触るな……あ、あ」

 ぴったりと閉じた後孔にセロの指が入り込む。暴かれてはならない場所を暴かれる嫌悪感。身体の内側に触れられる不快感。ギオラは懸命に両脚を閉じようとするも、両腕を繋がれたままでは下肢に力が入らない。

 壊すか、そんな考えが頭をよぎる。黒龍へと姿を変えて、今この場所にある全ての物を破壊してしまおうか。けれどもいくら下腹に力を込めても、魔力の集まる感覚は感じない。酒のせいだ。人生で初めて意識を失うほど酒を飲んだ。酩酊状態では黒龍に変身することはおろか、簡単な魔法すらうまく使えない。これすらもセロの計画のうちだったというのだろうか。

 セロの指はギオラの体内で生き物のように動き回った。初めは入口の浅いところで抜き差しを繰り返し、粘膜に香油が馴染んだところでもっと深いところに指を突き入れる。ギオラは初めのうちこそ「止めろ、止めろ」と懸命の抵抗を試みていたが、次第にその身体からは力が抜けていく。酒が回り、薬が回り、朦朧とする意識の中で喘ぐ。

「あああ……セロ、止めてくれ。もうこれ以上は」
「なぜ。こんなに気持ち良さそうなのに。恥ずかしがらなくたって、全部酒と薬のせいにしちゃえば良いだろ? 素直に『気持ちイイ』って言っちゃえよ」
「違う、違う。おかしいだろう、こんなの。折角作り上げた関係を目茶目茶にするつもりか」
「作り上げた関係? この数日の間に、僕たちは一体どんな関係を作り上げたんだ? そんなものは見せかけだ、偽物だよ。僕は初めて会ったときから、ずっとお前を抱きたかったんだから」

 ちゅぷりと水音を立てて、後孔から指先が引き抜かれる。香油にまみれた指先に、セロは愛おしむように唇を付ける。

「ずっと? 初めからこうすることが目的で、俺に近づいたのか」
「そうさ。廊下を歩くお前を見るときも、国王と話をするお前を見るときも、美味そうに酒を飲むお前を見るときも、ずっとこのことばかり考えていた。気付かなかっただろ? 僕、外面だけは良いからさぁ。シルバ国王殿下も大臣たちも、僕がこんなぶっ飛んだ人間だということを知らない」

 けらけらと笑い声を上げながら、セロはシャツのボタンを次々に外した。シャツの次はズボンだ。下肢の衣類を躊躇いなく脱ぎ去ったセロは、膨張した陰茎をギオラの後孔に擦りつける。

「駄、目だ。それだけは止めてくれ」

 ギオラは抵抗する。頭を振り乱し、手首の鎖を引き千切らんとし、両脚でセロの胸元を力いっぱい蹴り飛ばして、最悪の未来から逃れようとする。
 セロはギオラを逃がさない。ガチャガチャと鳴らされる鎖の音を聞きながら、ギオラの両脚をいともたやすく抑え込む。香油に濡れた後孔に陰茎の先端を押し当てて、うっとりとした表情で言う。

「ああ、夢みたいだ。やっとギオラを繋がれる。時間はたっぷりあるんだからさぁ。気が狂うまで愛し合おうな?」



「はぁっ、うあぁ……」

 後孔に押し入る異物感に、ギオラの口からは悲鳴が漏れる。十分に解されているとはいえ、突き入れられるモノは指よりも遥かに太く大きい。それで体内を突き乱されることなど恐怖でしかない。

「ギオラ。ほら、きちんと息を吐くんだ。吸うだけじゃなくて。身体の力を抜いて深呼吸。怖がらなくたって、初めから滅茶苦茶に突いたりしない。僕はギオラがあんあん喘ぐ声を聞きたいんだからさぁ」

 セロの指先がギオラの黒髪を梳く。優しく慈愛に溢れた動作だ。

「セロ……抜いてくれ。嫌だ、気持ち悪い」
「人様のモノを気持ち悪いだなんて言うなよ。薬も効いているみたいだし、直にこれが欲しくて堪らなくなるさ。『もっともっと』って可愛くおねだりしろよ? 空っぽになるまで注ぎ込んでやるからさぁ」

 セロはギオラの頬に優しく口付けを落とすと、ゆるゆると腰を動かし始める。入り口の粘膜を擦るだけの、もどかしいくらいにゆっくりとした挿抜だ。香油が潤滑剤となっているため、挿抜による痛みはない。ギオラは両脚から力を抜いて、人生で初めてとなる刺激に耐える。
 好き勝手に体内を弄られることは恐ろしい、しかしそれ以上に乱暴にされることが恐ろしい。受け入れるしか選択肢はない。

「あ、はぁっ……」

 緩やかな挿抜が数分にも及んだとき、ギオラの口から吐息が漏れる。異物感の中に甘い疼きがある。射精の快楽とはまた違う、身体の内側から溶かされるような疼き。喘ぐ声は次第に大きくなり、セロは満足そうに目を細めて笑う。

「ヨクなってきた? 可愛い声出してさ」
「違、う」
「違わないだろ。こっちも硬くなってるしさ。僕のモノで穴を犯されて気持ち良いんだろ? ひくひくさせちゃってさぁ、可愛いやつめ。あああ……早くギオラの中に出したい。もう動いても良い? 限界なんだ、この穴に精子を注ぎ込んでやりたくてさぁ」

 駄目だ、という間もなく、セロはギオラの後孔に腰を打ち付けた。ぱん、と乾いた音がする。汗に濡れた皮膚と皮膚が打ち合う音。ひゅ、とギオラの喉から短い息が漏れる。
 恍惚とした表情を浮かべたセロは、ギオラの後孔に絶え間なく腰を打ち付ける。香油に濡れた後孔は膨張したセロの陰茎を拒まない。それどころか入り口をひくひくと震わせて、激しい挿抜を受け入れる。

「ん、あァ……はぁっ」
「ギオラ、気持ち良い? 気持ち良いんだろ。腰が動いてる。僕のモノが欲しくて堪らないってさ」

 酒と薬で意識は朦朧として、快楽に理性までも溶かされる。セロの声がどこか遠くに聞こえる。

「ふぁぁ……セロ。も、無理だ。おかしくなる」
「僕も気持ち良くておかしくなりそう。ほら、こっちも触ってやるからさ。一緒にイこう?」

 セロの右手がギオラの陰茎に触れる。後孔への刺激で限界まで昂った場所。少し擦られただけで突き抜けるような快感が全身を走る。出したい、出したい、イきたい。後孔を好き勝手に突き乱されて、陰茎を弄ばれて、もうそれしか考えられなくなる。

「はっ、あァ。もうイ、ク……」
「僕も、出るっ……」

 瞼の裏で閃光が瞬く。今まで感じたことのない強烈なオーガズム。ギオラは全身をガクガクと震わせて、体内の一番深いところでセロの精を受け止めた。同時に吐き出した己の精は、ぱたぱたと音を立て腹に落ちる。
 セロはその白く濁った精を指先で掬い上げ、蜂蜜でも舐めるかのように口に含む。

「最高だった。やっぱり僕たちはこうして繋がる運命だったんだ。お前は僕に抱かれるために生まれたんだよ。この穴は僕のモノを受け入れるためにある」

 そうしてまた腰を揺らし始める。

「まだ出したりない。お前の中を僕の精で満たしてやりたい。付き合ってくれるだろ? あんなにヨさそうにしてたんだからさぁ」

 謳うようなセロの声を、ギオラは快楽の波に溺れながら聞いた。

 *

 明朝。ベッドですやすやと眠るセロを、ギオラは魔法で八つ裂きにした。首を切り落とし、4本の手足をボロ布のように裂いた。物音を聞きつけた宮殿の使用人が、セロの私室の扉を開けた。悲鳴、助けを求める声。ギオラは叫ぶ使用人に背を向け、セロの私室の窓を突き破り、黒龍へと姿を変えて宮殿を逃げ出した。朝日に照らされる聖ミルギスタ王国の上空を、雷にも似た雄叫びを上げながら飛んだ。

 この事件は後に「聖ミルギスタ王国宰相セロ・リューガン氏惨殺事件」と呼ばれる。事件をきっかけに、ギオラと聖ミルギスタ王国の関係は決裂。聖ミルギスタ王国は、魔王ギオラを「友好関係の構築が不可能な至悪の存在」と位置付けることとなる。

 人間と魔族の確執の歴史はここから始まった。
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