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18.1000年前、某日-2
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ギオラはそれから数日に渡り、聖ミルギスタ王国の宮殿に滞在した。魔族と人間の共存のために、王国の関係者とたくさんの取り決めをなすためだ。例えば互いに領土を侵略しない旨の条約の締結、物資や人の移動に関する取り決め、災害時の協力協定、その他諸々。
ギオラが魔王を名乗ったことにより、話し合いは思った以上に円滑に進んだ。名のつく地位とは想像以上に人を安心させるものなのだ。
その夜、ギオラは1人宮殿の廊下を歩いていた。初めこそギオラが宮殿内を出歩く際には、必ずといって良いほど伴の者がついたものだが、今となってはすっかり1人で歩くことを許されてしまった。ここ数日間の間に、ギオラと王国の重鎮らとの間に信頼関係が出来上がったということ。嬉しい変化だった。
廊下を歩くギオラの前に、ゆらりと人が立ち塞がった。セロだ。宰相セロ・リューガン、聖ミルギスタ王国の頭脳とも呼ぶべき男だ。
ギオラは立ち止まりその名を呼んだ。
「セロ殿」
「ギオラ殿、夜分に失敬。この後、少々お時間はありませんか?」
「作れないことはないが……何か急用か?」
「いえ、急用ではなく私用です。実は今、酒蔵で美味そうな酒を見つけましてね。ギオラ殿、ご一緒に一杯いかがですか」
そう話すセロの懐には、確かに飴色の酒瓶が抱き込まれていた。聖ミルギスタ王国で作られる酒は美味い、それはギオラがここ数日のうちに知ったことだ。
「付き合おう。他に誰を誘う?」
「2人だけで飲みましょう。ギオラ殿とは一度2人きりで話をしたいと思っていたのです。ギオラ様さえ宜しければ、私の私室へご案内いたします」
意外な誘いであった。ギオラは少し迷い、しかし数秒と経たずにセロの誘いを受けた。
ここ数日間の間で、ギオラが最も信頼関係を構築した人物がセロだ。何かと婉曲的な物言いをすることの多い宮殿人の中で、セロはただ1人ギオラに対して遠慮がない。気持ち良いほどはっきりとした物言いをするのだ。周囲の人々はセロの発言に対し、不安そうに肩を竦めることも多いけれど、ギオラはセロが気に入っていた。誘いを受けたのはそういう理由だ。
セロの私室は宮殿の5階部分に位置していた。ソファにベッド、衣装ダンスから小さな書き物机まで、思いつく限りの家具が備えられた大きな部屋だ。
セロの背に続き扉をくぐったギオラは、部屋の内部を見回し「ほぉ」と声を上げた。
「てっきり執務室に案内されるものかと思っていたが。セロ殿はこの部屋で寝起きをされているのか」
「いえ、私宅は別にあります。ここは仮眠室ですね。宰相という立場柄、日を超えて執務にあたることは珍しくありませんから」
「この豪華な部屋が仮眠室か。大層な身分だな、宰相とは」
「国家の頭脳なのだから当たり前でしょう。私なくして国は成り立ちません。顔の挿げ替えは――いくらでも利きますがね」
顔、すなわち国王。不敬な物言いにギオラは言葉を返さなかった。その発言がただの冗談であることを知っているからだ。セロは私的な会話の最中に、ときたまそういった質の悪い冗談を言う。そしてその冗談には、無理をして気の利いた答えを返さなくとも、適当に受け流しておけばそれで済む。この数日間のうちに学んだことだ。
2人きりの宴は間もなく開始された。ソファに並んで腰かけるギオラとセロ、テーブルの中央にのせられた飴色の酒瓶、対のグラス、数種のつまみ菓子。
満杯のグラスにちびりと口を付けて、セロは言う。
「ギオラ殿はかなりの酒好きと見えます。晩餐会の最中はいつも酒を飲んでばかりでしょう。豪華な食事には目もくれず」
ギオラは満杯のグラスを一気に空ける。鼻から抜ける芳醇な香り、美味い。
「特別酒を好むということもないのだが。人間の食事に慣れていないがゆえに、飲料ばかりに手が伸びてしまう」
「ああ。そういえば魔族は、人間と比べて極端に食事量が少ないのだと聞いたことがあります。真偽を疑ったこともありませんでしたが、真でしたか」
「貴殿らの食いっぷりを見ていると真だろうな。俺とて人間との食事量の差を気に掛けたことはなかったが」
セロの右手が酒瓶を持ち上げ、ギオラのグラスに2杯目となる酒を注ぐ。ギオラはまたすぐにグラスを空ける。一瞬にして空っぽになってしまったグラスを見下ろし、セロは怪訝な表情だ。
「……ギオラ殿。飛ばしすぎではありませんか。この酒は、晩餐会で提供される酒よりも酔いが回ります。酔い潰れたくなければ少しペースを落としてください」
セロの指先が、こんこんと酒瓶の側面を叩いた。酒瓶に貼り付けられたラベルには、その酒がいわゆる火酒であることを示す数値が刻まれている。
しかしギオラはその数値を恐れることなく、空になったグラスを指先で揺らすだけ。
「酔う、とは一体どのような感覚であろうな。一度経験してみたいものではある」
「……まさかギオラ殿は酔ったことがありませんか? 晩餐会であれほど酒ばかり飲んでいるのに」
「人間と魔族では、そもそも身体の作りが違うからな。人間の身体に合わせて作られた酒を飲んでも、そう簡単には酔わん」
「左様でございましたか……道理でいつもけろっとした顔をしていると」
謎が解けたと言わんばかりの表情のセロは、グラスを置きおもむろに席を立つ。それから部屋の隅に置かれた飾り棚の方へ歩いていくと、数本の酒瓶を抱えまたソファの方へと戻ってきた。
ギオラの目の前に、様座な形状の酒瓶が並べられていく。
「セロ殿、これは?」
「私のコレクションです。といっても特別古い酒はありませんが。聖ミルギスタ王国の建国後、領土に組み入れた集落を視察した際に、ちまちまと買い集めた物です」
「ほう、その貴重なコレクションを俺のために開けていただけると?」
セロは栓抜きを片手ににっこりと笑う。
「人生で一度くらい、酔い潰れてみるのも悪くはありません」
***
テーブルの上には五本の空き瓶、部屋に立ち込めるアルコールの香り。ソファに深く腰掛けたギオラは、セロの酌で酒を飲む。
「ギオラ殿、気分はいかがですか?」
「頭の中がふわふわとして良い気分だ。心拍数も上がっている。これが酔っているということか?」
「酔っていますね。しかし5本の酒瓶を1人で空けて、まだほろ酔いですか。ギオラ殿が酔い潰れるのと、私のコレクションが尽きるのでは、一体どちらが先でしょうね?」
「貴重なコレクションを一人で飲み干してしまっては申し訳ないな。セロ殿、貴殿も飲まんか」
「いえ、私は止めておきましょう。ギオラ殿が酔い潰れた暁には、介抱にあたらねばなりませんから」
「介抱など必要ない。適当に床に転がしておいてくれ」
「魔王殿下を床に転がしておくなど、恐れ多くてできるはずがないでしょう。どうぞベッドをお使いください。私も隣で休ませていただくことにはなりますが」
「次期国王と名高い宰相殿と同衾せよと? それこそ恐れ多くて吐き気を催しそうだ」
ギオラはグラスを掲げ、くつくつと笑う。
本当に、日頃の悩みを忘れるくらい良い気分だ。柄にもなく下世話な冗談も言える。こんなに良い気分なら、年に一度くらい浴びるほど酒を飲むのも悪くはない。
「ギオラ殿。上着を脱ぎませんか。どうせ2人きりの場です。僕も脱ぎますから」
「『僕』?」
「ああ、失礼。『私』も脱ぎますから」
「咎める意図はない、気になっただけだ。好きに話せば良いだろう。どうせ2人きりの場なのだから」
「……それもそうですね。ではギオラ、上着を脱ぎませんか?」
そこを言い直すのか、とギオラは目をまたたかせた。しかし友人同士のような呼名を責め立てはしなかった。セロにそう呼ばれるのは不快ではないからだ。人間と魔族、種族を超えて友情を育むのも悪くはないだろう。
「遠慮なく脱がせていただこう。ついでにシャツのボタンも外させてくれ。さっきから身体が火照ってたまらん。セロも上着を脱ぐなり、寝間着に着替えるなり、好きにすると良い」
「では僕も、遠慮なく」
そうして衣服を着崩して、2人きりの宴は続く。
ギオラが魔王を名乗ったことにより、話し合いは思った以上に円滑に進んだ。名のつく地位とは想像以上に人を安心させるものなのだ。
その夜、ギオラは1人宮殿の廊下を歩いていた。初めこそギオラが宮殿内を出歩く際には、必ずといって良いほど伴の者がついたものだが、今となってはすっかり1人で歩くことを許されてしまった。ここ数日間の間に、ギオラと王国の重鎮らとの間に信頼関係が出来上がったということ。嬉しい変化だった。
廊下を歩くギオラの前に、ゆらりと人が立ち塞がった。セロだ。宰相セロ・リューガン、聖ミルギスタ王国の頭脳とも呼ぶべき男だ。
ギオラは立ち止まりその名を呼んだ。
「セロ殿」
「ギオラ殿、夜分に失敬。この後、少々お時間はありませんか?」
「作れないことはないが……何か急用か?」
「いえ、急用ではなく私用です。実は今、酒蔵で美味そうな酒を見つけましてね。ギオラ殿、ご一緒に一杯いかがですか」
そう話すセロの懐には、確かに飴色の酒瓶が抱き込まれていた。聖ミルギスタ王国で作られる酒は美味い、それはギオラがここ数日のうちに知ったことだ。
「付き合おう。他に誰を誘う?」
「2人だけで飲みましょう。ギオラ殿とは一度2人きりで話をしたいと思っていたのです。ギオラ様さえ宜しければ、私の私室へご案内いたします」
意外な誘いであった。ギオラは少し迷い、しかし数秒と経たずにセロの誘いを受けた。
ここ数日間の間で、ギオラが最も信頼関係を構築した人物がセロだ。何かと婉曲的な物言いをすることの多い宮殿人の中で、セロはただ1人ギオラに対して遠慮がない。気持ち良いほどはっきりとした物言いをするのだ。周囲の人々はセロの発言に対し、不安そうに肩を竦めることも多いけれど、ギオラはセロが気に入っていた。誘いを受けたのはそういう理由だ。
セロの私室は宮殿の5階部分に位置していた。ソファにベッド、衣装ダンスから小さな書き物机まで、思いつく限りの家具が備えられた大きな部屋だ。
セロの背に続き扉をくぐったギオラは、部屋の内部を見回し「ほぉ」と声を上げた。
「てっきり執務室に案内されるものかと思っていたが。セロ殿はこの部屋で寝起きをされているのか」
「いえ、私宅は別にあります。ここは仮眠室ですね。宰相という立場柄、日を超えて執務にあたることは珍しくありませんから」
「この豪華な部屋が仮眠室か。大層な身分だな、宰相とは」
「国家の頭脳なのだから当たり前でしょう。私なくして国は成り立ちません。顔の挿げ替えは――いくらでも利きますがね」
顔、すなわち国王。不敬な物言いにギオラは言葉を返さなかった。その発言がただの冗談であることを知っているからだ。セロは私的な会話の最中に、ときたまそういった質の悪い冗談を言う。そしてその冗談には、無理をして気の利いた答えを返さなくとも、適当に受け流しておけばそれで済む。この数日間のうちに学んだことだ。
2人きりの宴は間もなく開始された。ソファに並んで腰かけるギオラとセロ、テーブルの中央にのせられた飴色の酒瓶、対のグラス、数種のつまみ菓子。
満杯のグラスにちびりと口を付けて、セロは言う。
「ギオラ殿はかなりの酒好きと見えます。晩餐会の最中はいつも酒を飲んでばかりでしょう。豪華な食事には目もくれず」
ギオラは満杯のグラスを一気に空ける。鼻から抜ける芳醇な香り、美味い。
「特別酒を好むということもないのだが。人間の食事に慣れていないがゆえに、飲料ばかりに手が伸びてしまう」
「ああ。そういえば魔族は、人間と比べて極端に食事量が少ないのだと聞いたことがあります。真偽を疑ったこともありませんでしたが、真でしたか」
「貴殿らの食いっぷりを見ていると真だろうな。俺とて人間との食事量の差を気に掛けたことはなかったが」
セロの右手が酒瓶を持ち上げ、ギオラのグラスに2杯目となる酒を注ぐ。ギオラはまたすぐにグラスを空ける。一瞬にして空っぽになってしまったグラスを見下ろし、セロは怪訝な表情だ。
「……ギオラ殿。飛ばしすぎではありませんか。この酒は、晩餐会で提供される酒よりも酔いが回ります。酔い潰れたくなければ少しペースを落としてください」
セロの指先が、こんこんと酒瓶の側面を叩いた。酒瓶に貼り付けられたラベルには、その酒がいわゆる火酒であることを示す数値が刻まれている。
しかしギオラはその数値を恐れることなく、空になったグラスを指先で揺らすだけ。
「酔う、とは一体どのような感覚であろうな。一度経験してみたいものではある」
「……まさかギオラ殿は酔ったことがありませんか? 晩餐会であれほど酒ばかり飲んでいるのに」
「人間と魔族では、そもそも身体の作りが違うからな。人間の身体に合わせて作られた酒を飲んでも、そう簡単には酔わん」
「左様でございましたか……道理でいつもけろっとした顔をしていると」
謎が解けたと言わんばかりの表情のセロは、グラスを置きおもむろに席を立つ。それから部屋の隅に置かれた飾り棚の方へ歩いていくと、数本の酒瓶を抱えまたソファの方へと戻ってきた。
ギオラの目の前に、様座な形状の酒瓶が並べられていく。
「セロ殿、これは?」
「私のコレクションです。といっても特別古い酒はありませんが。聖ミルギスタ王国の建国後、領土に組み入れた集落を視察した際に、ちまちまと買い集めた物です」
「ほう、その貴重なコレクションを俺のために開けていただけると?」
セロは栓抜きを片手ににっこりと笑う。
「人生で一度くらい、酔い潰れてみるのも悪くはありません」
***
テーブルの上には五本の空き瓶、部屋に立ち込めるアルコールの香り。ソファに深く腰掛けたギオラは、セロの酌で酒を飲む。
「ギオラ殿、気分はいかがですか?」
「頭の中がふわふわとして良い気分だ。心拍数も上がっている。これが酔っているということか?」
「酔っていますね。しかし5本の酒瓶を1人で空けて、まだほろ酔いですか。ギオラ殿が酔い潰れるのと、私のコレクションが尽きるのでは、一体どちらが先でしょうね?」
「貴重なコレクションを一人で飲み干してしまっては申し訳ないな。セロ殿、貴殿も飲まんか」
「いえ、私は止めておきましょう。ギオラ殿が酔い潰れた暁には、介抱にあたらねばなりませんから」
「介抱など必要ない。適当に床に転がしておいてくれ」
「魔王殿下を床に転がしておくなど、恐れ多くてできるはずがないでしょう。どうぞベッドをお使いください。私も隣で休ませていただくことにはなりますが」
「次期国王と名高い宰相殿と同衾せよと? それこそ恐れ多くて吐き気を催しそうだ」
ギオラはグラスを掲げ、くつくつと笑う。
本当に、日頃の悩みを忘れるくらい良い気分だ。柄にもなく下世話な冗談も言える。こんなに良い気分なら、年に一度くらい浴びるほど酒を飲むのも悪くはない。
「ギオラ殿。上着を脱ぎませんか。どうせ2人きりの場です。僕も脱ぎますから」
「『僕』?」
「ああ、失礼。『私』も脱ぎますから」
「咎める意図はない、気になっただけだ。好きに話せば良いだろう。どうせ2人きりの場なのだから」
「……それもそうですね。ではギオラ、上着を脱ぎませんか?」
そこを言い直すのか、とギオラは目をまたたかせた。しかし友人同士のような呼名を責め立てはしなかった。セロにそう呼ばれるのは不快ではないからだ。人間と魔族、種族を超えて友情を育むのも悪くはないだろう。
「遠慮なく脱がせていただこう。ついでにシャツのボタンも外させてくれ。さっきから身体が火照ってたまらん。セロも上着を脱ぐなり、寝間着に着替えるなり、好きにすると良い」
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