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※40.エピローグー騎士と魔王ー
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返事を返す間も惜しんで、ベッドへと飛び乗った。そこにいるギオラを抱き締めて、唇にキスを落とす。噛みつくように求めるように、何度も何度も。ギオラもそれを拒みはしない。望まれるがまま唇を開き、イシュメルの舌を受け入れる。
長い長いキスを終えたとき、ギオラの花びらにも似た唇は2人分の唾液に濡れていた。のど仏が艶めかしく上下する。イシュメルはギオラのシャツのボタンを忙しなく外し、脱がせたズボンと下着はベッドの隅に追いやって、全裸の身体を抱きすくめた。
風の匂いが残る首元に頬擦りをする。
国境の町バルザでギオラを見失ったときは、もう二度と会うことは叶わないのかと思った。ギロチン台に上るギオラを見たときは、もう二度と抱き締めることは叶わないのかと思った。
生きていて良かった。
「おいこら……人様の衣服を脱がせて満足するな。お前も脱げ」
耳元で不満げな声。イシュメルは首をもたげ、ギオラの瞳をのぞき込んだ。ダイヤモンドにも似た銀眼は、今はもう真っ赤なアイラインで囲われていない。上下のまぶたに長いまつ毛が生えているだけだ。人間を恐怖に陥れる至悪の魔王は古い伝承に消えて、いるのは人間との共存を誓った一人の男だけ。
イシュメルは言う。
「もう少し抱き締めさせてくれ。ずっとこうしたかったんだ」
「ずっと?」
「ずっとだ。いつからかなど分からない」
「それは大望だ。どうぞ存分に叶えてくれ」
ギオラはくつくつと笑い声を零すと、イシュメルの背中に両腕を回した。しなやかな女性の腕とは違う、硬くて筋張った男の腕だ。けれどもその硬い腕に抱き返されることが、今のイシュメルにとっては何よりも幸福だ。
胸の内が温かな気持ちで満たされて、思わず涙が頬をつたう。ギオラは何も言うことなく、黙ってイシュメルの背中を抱いていた。
抱擁の時間が数分にも及んだとき、イシュメルはようやくギオラの身体を解放した。今度は自身のシャツのボタンを次々と外し、正真正銘2人ともが真裸となって行為再開。
手のひらを絡ませ、脚を絡ませ、イシュメルはギオラの身体のあちこちにキスを落とした。首筋、耳たぶ、肩、二の腕、脇腹。鎖骨をなぞるように舐め、首筋にいくつもの吸い跡を残し、薄紅色の胸先につんと触れる。そのとき、ギオラの身体がひくりと跳ねた。
「はぁ、ああっ」
「……ここがイイのか?」
甘い声に気を良くしたイシュメルは、ギオラの胸先を小鳥のようについばんだ。まだ長くは触れていないはずなのに、左右の乳首はぷっくりと膨らんで、果実のようで美味そうだ。
その果実を味わおうと舌先を這わせれば、ギオラの指先には力がこもる。ベッドから腰を浮かせ、唇を噛み、与えられる甘美な刺激に耐えようとする。
もっと蕩けるような声が聞きたいと、イシュメルはギオラの太ももを撫でた。汗ばみしっとりと吸い付く肌を、くすぐるように何度も撫でて、ついにその中心に触れる。入り口の浅いところに指を差し入れれば、ギオラはのどを仰け反らせた。
「あ、う……イシュメル、待て」
「なぜ?」
「身体がおかしいんだ。だから少し待て、指を動かすんじゃない」
「……おかしい? そうは言われても、身体に特別おかしな点はないぞ」
制止の言葉は聞かなかったことにして、イシュメルは後孔のさらに深いところへ指を突き入れた。内側の粘膜を優しくこすれば、入口部分はきゅうと締まる。もっと中を掻き回して、と誘われているようだ。「待て、止まれ」耳元で聞こえる声など、もう甘い嬌声の一部でしかない。
そうしてぐちゃぐちゃに溶かした穴に、勃起した陰茎を押し当てる。
「挿れたい。良いか?」
短い問いかけに、ギオラは答えない。長いまつ毛に涙の粒をのせて、荒い呼吸を繰り返すだけ。いつもは色味のない頬が、今ばかりは林檎のように赤らんでいる。
イシュメルはギオラのまなじりにキスを落とし、熱くうねる体内に入り込んだ。十分な愛撫により柔らかくなった穴は、イシュメルのモノを難なく咥えこむ。
「あ、ァあ。イシュメル、駄目だ」
喘ぐギオラはイシュメルの背に爪を立てた。
「何が駄目なんだ」
「動くな。身体が変だ。おかしいんだ」
「別に何もおかしくないだろう」
イシュメルはギオラの身体を抱き込んで、ゆるゆると腰を揺すった。ただ繋がっていることを確かめるためだけの、緩やかな挿抜だ。そうであるはずなのに――
「止め、ろ。うぁ……あぁっ」
甲高い嬌声とともに、ギオラの陰茎からは白濁液が吐き出された。同時に内壁が痙攣し、イシュメルのモノを痛いほどに締め付ける。
イシュメルはぽかんと口を開けた。
「は……え?」
まさかじゃれ合い程度の挿抜で絶頂を迎えてしまおうとは。まさかの出来事に慌てふためくイシュメルの頭頂に、渾身のげんこつが振り下ろされた。げんこつの主は、怒りに眉を吊り上げたギオラだ。
「だからっ……動くなと言っただろうが!」
「あ、なるほど。『身体が変』とはそういう意味か」
つまり先程からギオラが訴えていた身体の異常は、「いつもより身体が敏感だ」という意味だったようだ。
げんこつを振り下ろしたことで、いくらか落ち着きを取り戻したのだろう。ギオラはふぅ、と大きく息を吐いた。
「仕切り直しだ。そのまま5分ばかり動くな」
「……拷問か?」
ここに来てまさかの「待て」である。深く繋がったままの陰部を見下ろせば、イシュメルの陰茎はまだ挿入当初の硬さを保ったまま。5分のお預けは、今のイシュメルにとっては拷問にも等しい処罰だ。
気を紛らわすために、イシュメルはギオラの右手に触れた。手のひらを擦ってみたり、指の腹を揉んでみたり、意味のない手遊びを繰り返す。右手でひとしきり遊んだ後、今度は左手に触れてみれば、そこに輝く銀色の物体が目に留まった。
「この指輪、なぜこの指につけたんだ?」
イシュメルの問いかけに、ギオラは左手を高く掲げた。薬指にはまる銀色の指輪が、日の光を浴びてきらきらと輝いている。
ギオラの指にある指輪はただの指輪ではない。聖女アリシアが創りし神器、名を『誓約の指輪』という。細かな文字が刻まれた神器の指輪を、ギオラはじっと見つめた。
「なぜこの指かと訊かれれば……なぜだろうな。特に深い意味はない。利き手に宝飾品はつけたくないし、親指と小指ではサイズが合わない。それで何となくこの指になった」
「そうか。他意はない?」
ギオラは眉をひそめた。
「他意? どんな他意だ? 指輪をつける場所に意味があるのか? お前だって同じ指につけている癖に」
そう、イシュメルの左手薬指にギオラと同じ指輪がはまっている。聖女が創りし誓約の指輪の片割れが。
誓約の指輪は2つでひとつとなる神器だ。この指輪をはめた両名は、互いに交わした誓いを決して破ることができない。聖女の赦しなくしては外すことも許されない、強固な拘束力を持つ神器である。
イシュメルとギオラが誓約の指輪をはめることは、国王と聖女を交えた対談の最中に決定された。一方的に命ぜられたのではない。人間と魔族の共存のために、2人は進んで指輪をはめることを受け入れたのだ。
ギオラの誓約は「イシュメルの許可なく黒龍の姿にならない」こと。強大な力の行使権をイシュメルに託したのだ。
例え共存への道を歩み始めたのだとしても、人間にとって黒龍の力が脅威であることは変わらない。だからギオラは強大な力に誓約をかけた。真実を語らず、歩み寄ることを拒み、1000年もの間聖ミルギスタ王国の民に恐怖を与えた。ギオラなりの償いとけじめだ。
そしてその誓いの対価として、イシュメルはギオラに対する誠実と忠誠を誓った。「ギオラを欺かず、常に傍にあり忠義を尽くす」と。聖ミルギスタ王国の騎士イシュメル・フォードは、神器の誓約のもと、黒龍の力の守り人となったのだ。イシュメルが魔王城駐在を言い渡された最大の理由である。
2つでひとつの誓約の指輪。薬指にはまるその指輪を、今度はイシュメルが見つめる番だ。
「……そうだな。なぜこの指にはめたんだろう。何となく、この指にはめることが当然だと思えたんだ。一緒にいるのなら」
「はぁ?」
意味が分からない、とギオラは顔をしかめた。
それで良いのだ、とイシュメルは声を立てて笑った。
指輪をつける場所がどのような意味を持つかなど、わざわざ伝える必要はない。そんなものは一部の人間の間で語られる伝承に過ぎないのだ。けれどもその古びた伝承が、聖女に与えられた2つの指輪が、溢れんばかりの想いを伝える手段のひとつになれば良い。
イシュメルの左手がベッドに落ちたギオラの左手をすくい上げた。まるで騎士が姫君の御手を取るような、優雅でいて手馴れた動作だ。
屈強な騎士の唇が紡ぐ言葉は――
「我が名はイシュメル・フォード。今日この時より貴方を守る騎士となる。果てなき路を共に歩き、苦難を乗り越え、幸を分け合い、この命が尽きる時まで傍に在ることを。永遠の忠誠を、誓う」
ちゅ、とすくい上げた手の甲にキスが落とした。それは紛うことなき忠誠の証だ。ギオラはくすぐったそうに肩を竦めた。
「自分の股間をよく見てみろ。その状態で、よくもそんな恥ずかしい台詞が吐けたものだ」
「仕方ないじゃないか。こんな状況だから言いたくなったんだ」
「……まぁ、誓うというものを拒みもせんが。ああ、そうだ。明日正午、ヴィザルの剣を持って園庭に来い」
「ん、なぜ?」
「決闘が延期になったままだ。こうして城に戻ったことだし、潔く決着をつけようじゃないか。せいぜい死なないように足掻くことだ。もしも決闘で負け、俺の眷属として再びこの世に生を受けてしまえば、お前は魔族に匹敵する寿命を手にすることになる。数百年あるいは数千年、俺の傍にいるなど地獄のような人生だ。ざまぁみろ」
などと毒舌を吐き散らかしながらも、ギオラの顔には笑顔が浮かぶ。園庭で見た嫌味な笑みとは違う、未来に夢抱く少年のような笑顔だ。
イシュメルもまた顔をほころばせた。
「確かにそれは壮絶な人生だ。しかしもう誓いを立ててしまったことだし、腹をくくって傍にいることにしよう。――いつまでも」
そうしてギオラの唇に、触れるだけのキスを落とした。
決して欺かず裏切らないことを誓う。
悪意を寄せつけぬ盾となることを誓う。
例え永遠に近い命を手にしようとも、傍にいることを誓う。
この命が尽きるその日まで、魔王を守る騎士となる。
Fin.
長い長いキスを終えたとき、ギオラの花びらにも似た唇は2人分の唾液に濡れていた。のど仏が艶めかしく上下する。イシュメルはギオラのシャツのボタンを忙しなく外し、脱がせたズボンと下着はベッドの隅に追いやって、全裸の身体を抱きすくめた。
風の匂いが残る首元に頬擦りをする。
国境の町バルザでギオラを見失ったときは、もう二度と会うことは叶わないのかと思った。ギロチン台に上るギオラを見たときは、もう二度と抱き締めることは叶わないのかと思った。
生きていて良かった。
「おいこら……人様の衣服を脱がせて満足するな。お前も脱げ」
耳元で不満げな声。イシュメルは首をもたげ、ギオラの瞳をのぞき込んだ。ダイヤモンドにも似た銀眼は、今はもう真っ赤なアイラインで囲われていない。上下のまぶたに長いまつ毛が生えているだけだ。人間を恐怖に陥れる至悪の魔王は古い伝承に消えて、いるのは人間との共存を誓った一人の男だけ。
イシュメルは言う。
「もう少し抱き締めさせてくれ。ずっとこうしたかったんだ」
「ずっと?」
「ずっとだ。いつからかなど分からない」
「それは大望だ。どうぞ存分に叶えてくれ」
ギオラはくつくつと笑い声を零すと、イシュメルの背中に両腕を回した。しなやかな女性の腕とは違う、硬くて筋張った男の腕だ。けれどもその硬い腕に抱き返されることが、今のイシュメルにとっては何よりも幸福だ。
胸の内が温かな気持ちで満たされて、思わず涙が頬をつたう。ギオラは何も言うことなく、黙ってイシュメルの背中を抱いていた。
抱擁の時間が数分にも及んだとき、イシュメルはようやくギオラの身体を解放した。今度は自身のシャツのボタンを次々と外し、正真正銘2人ともが真裸となって行為再開。
手のひらを絡ませ、脚を絡ませ、イシュメルはギオラの身体のあちこちにキスを落とした。首筋、耳たぶ、肩、二の腕、脇腹。鎖骨をなぞるように舐め、首筋にいくつもの吸い跡を残し、薄紅色の胸先につんと触れる。そのとき、ギオラの身体がひくりと跳ねた。
「はぁ、ああっ」
「……ここがイイのか?」
甘い声に気を良くしたイシュメルは、ギオラの胸先を小鳥のようについばんだ。まだ長くは触れていないはずなのに、左右の乳首はぷっくりと膨らんで、果実のようで美味そうだ。
その果実を味わおうと舌先を這わせれば、ギオラの指先には力がこもる。ベッドから腰を浮かせ、唇を噛み、与えられる甘美な刺激に耐えようとする。
もっと蕩けるような声が聞きたいと、イシュメルはギオラの太ももを撫でた。汗ばみしっとりと吸い付く肌を、くすぐるように何度も撫でて、ついにその中心に触れる。入り口の浅いところに指を差し入れれば、ギオラはのどを仰け反らせた。
「あ、う……イシュメル、待て」
「なぜ?」
「身体がおかしいんだ。だから少し待て、指を動かすんじゃない」
「……おかしい? そうは言われても、身体に特別おかしな点はないぞ」
制止の言葉は聞かなかったことにして、イシュメルは後孔のさらに深いところへ指を突き入れた。内側の粘膜を優しくこすれば、入口部分はきゅうと締まる。もっと中を掻き回して、と誘われているようだ。「待て、止まれ」耳元で聞こえる声など、もう甘い嬌声の一部でしかない。
そうしてぐちゃぐちゃに溶かした穴に、勃起した陰茎を押し当てる。
「挿れたい。良いか?」
短い問いかけに、ギオラは答えない。長いまつ毛に涙の粒をのせて、荒い呼吸を繰り返すだけ。いつもは色味のない頬が、今ばかりは林檎のように赤らんでいる。
イシュメルはギオラのまなじりにキスを落とし、熱くうねる体内に入り込んだ。十分な愛撫により柔らかくなった穴は、イシュメルのモノを難なく咥えこむ。
「あ、ァあ。イシュメル、駄目だ」
喘ぐギオラはイシュメルの背に爪を立てた。
「何が駄目なんだ」
「動くな。身体が変だ。おかしいんだ」
「別に何もおかしくないだろう」
イシュメルはギオラの身体を抱き込んで、ゆるゆると腰を揺すった。ただ繋がっていることを確かめるためだけの、緩やかな挿抜だ。そうであるはずなのに――
「止め、ろ。うぁ……あぁっ」
甲高い嬌声とともに、ギオラの陰茎からは白濁液が吐き出された。同時に内壁が痙攣し、イシュメルのモノを痛いほどに締め付ける。
イシュメルはぽかんと口を開けた。
「は……え?」
まさかじゃれ合い程度の挿抜で絶頂を迎えてしまおうとは。まさかの出来事に慌てふためくイシュメルの頭頂に、渾身のげんこつが振り下ろされた。げんこつの主は、怒りに眉を吊り上げたギオラだ。
「だからっ……動くなと言っただろうが!」
「あ、なるほど。『身体が変』とはそういう意味か」
つまり先程からギオラが訴えていた身体の異常は、「いつもより身体が敏感だ」という意味だったようだ。
げんこつを振り下ろしたことで、いくらか落ち着きを取り戻したのだろう。ギオラはふぅ、と大きく息を吐いた。
「仕切り直しだ。そのまま5分ばかり動くな」
「……拷問か?」
ここに来てまさかの「待て」である。深く繋がったままの陰部を見下ろせば、イシュメルの陰茎はまだ挿入当初の硬さを保ったまま。5分のお預けは、今のイシュメルにとっては拷問にも等しい処罰だ。
気を紛らわすために、イシュメルはギオラの右手に触れた。手のひらを擦ってみたり、指の腹を揉んでみたり、意味のない手遊びを繰り返す。右手でひとしきり遊んだ後、今度は左手に触れてみれば、そこに輝く銀色の物体が目に留まった。
「この指輪、なぜこの指につけたんだ?」
イシュメルの問いかけに、ギオラは左手を高く掲げた。薬指にはまる銀色の指輪が、日の光を浴びてきらきらと輝いている。
ギオラの指にある指輪はただの指輪ではない。聖女アリシアが創りし神器、名を『誓約の指輪』という。細かな文字が刻まれた神器の指輪を、ギオラはじっと見つめた。
「なぜこの指かと訊かれれば……なぜだろうな。特に深い意味はない。利き手に宝飾品はつけたくないし、親指と小指ではサイズが合わない。それで何となくこの指になった」
「そうか。他意はない?」
ギオラは眉をひそめた。
「他意? どんな他意だ? 指輪をつける場所に意味があるのか? お前だって同じ指につけている癖に」
そう、イシュメルの左手薬指にギオラと同じ指輪がはまっている。聖女が創りし誓約の指輪の片割れが。
誓約の指輪は2つでひとつとなる神器だ。この指輪をはめた両名は、互いに交わした誓いを決して破ることができない。聖女の赦しなくしては外すことも許されない、強固な拘束力を持つ神器である。
イシュメルとギオラが誓約の指輪をはめることは、国王と聖女を交えた対談の最中に決定された。一方的に命ぜられたのではない。人間と魔族の共存のために、2人は進んで指輪をはめることを受け入れたのだ。
ギオラの誓約は「イシュメルの許可なく黒龍の姿にならない」こと。強大な力の行使権をイシュメルに託したのだ。
例え共存への道を歩み始めたのだとしても、人間にとって黒龍の力が脅威であることは変わらない。だからギオラは強大な力に誓約をかけた。真実を語らず、歩み寄ることを拒み、1000年もの間聖ミルギスタ王国の民に恐怖を与えた。ギオラなりの償いとけじめだ。
そしてその誓いの対価として、イシュメルはギオラに対する誠実と忠誠を誓った。「ギオラを欺かず、常に傍にあり忠義を尽くす」と。聖ミルギスタ王国の騎士イシュメル・フォードは、神器の誓約のもと、黒龍の力の守り人となったのだ。イシュメルが魔王城駐在を言い渡された最大の理由である。
2つでひとつの誓約の指輪。薬指にはまるその指輪を、今度はイシュメルが見つめる番だ。
「……そうだな。なぜこの指にはめたんだろう。何となく、この指にはめることが当然だと思えたんだ。一緒にいるのなら」
「はぁ?」
意味が分からない、とギオラは顔をしかめた。
それで良いのだ、とイシュメルは声を立てて笑った。
指輪をつける場所がどのような意味を持つかなど、わざわざ伝える必要はない。そんなものは一部の人間の間で語られる伝承に過ぎないのだ。けれどもその古びた伝承が、聖女に与えられた2つの指輪が、溢れんばかりの想いを伝える手段のひとつになれば良い。
イシュメルの左手がベッドに落ちたギオラの左手をすくい上げた。まるで騎士が姫君の御手を取るような、優雅でいて手馴れた動作だ。
屈強な騎士の唇が紡ぐ言葉は――
「我が名はイシュメル・フォード。今日この時より貴方を守る騎士となる。果てなき路を共に歩き、苦難を乗り越え、幸を分け合い、この命が尽きる時まで傍に在ることを。永遠の忠誠を、誓う」
ちゅ、とすくい上げた手の甲にキスが落とした。それは紛うことなき忠誠の証だ。ギオラはくすぐったそうに肩を竦めた。
「自分の股間をよく見てみろ。その状態で、よくもそんな恥ずかしい台詞が吐けたものだ」
「仕方ないじゃないか。こんな状況だから言いたくなったんだ」
「……まぁ、誓うというものを拒みもせんが。ああ、そうだ。明日正午、ヴィザルの剣を持って園庭に来い」
「ん、なぜ?」
「決闘が延期になったままだ。こうして城に戻ったことだし、潔く決着をつけようじゃないか。せいぜい死なないように足掻くことだ。もしも決闘で負け、俺の眷属として再びこの世に生を受けてしまえば、お前は魔族に匹敵する寿命を手にすることになる。数百年あるいは数千年、俺の傍にいるなど地獄のような人生だ。ざまぁみろ」
などと毒舌を吐き散らかしながらも、ギオラの顔には笑顔が浮かぶ。園庭で見た嫌味な笑みとは違う、未来に夢抱く少年のような笑顔だ。
イシュメルもまた顔をほころばせた。
「確かにそれは壮絶な人生だ。しかしもう誓いを立ててしまったことだし、腹をくくって傍にいることにしよう。――いつまでも」
そうしてギオラの唇に、触れるだけのキスを落とした。
決して欺かず裏切らないことを誓う。
悪意を寄せつけぬ盾となることを誓う。
例え永遠に近い命を手にしようとも、傍にいることを誓う。
この命が尽きるその日まで、魔王を守る騎士となる。
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1ページめから引き込まれてあっという間に最新話に追いついてしまいました。めちゃめちゃ好きです…。
イシュメル大好きですが、ド執着セロもとても推してます☺️❤️
面白くて素敵なお話ありがとうございます!ほかの作品もこれから拝読します✨
お読みいただきありがとうございました!
セロ人気高い笑 作者もセロ大好きなんです。執着攻め!
冒頭何度も書きなおし重ねたので、褒めてもらえるととても嬉しいです♡
退会済ユーザのコメントです
お読みいただきありがとうございます!
実は作者もセロ推しでして!
あのブレないヤンデレは書いていてとても楽しかったのです。
どうぞ最後までお楽しみください♪
26話
魔王……イシュメル……(´;ω;`)
ドキドキしながら続きを待っています
わーい! まだまだしばらくドキドキ続きます!
多分、今日更新分が一番ダークなとこ……