上 下
69 / 105

冒険の危険

しおりを挟む
「おい、ミランはどうした?」


撤収しようと荷物を点検していたら、船長が低い声を出す。
良い声してるから、迫力でちびりそうだ。


「え。さっきまでそこで…。いねえ。」


ヤジスさんが見渡す先を見るが、俺にもミランさんの姿は見えない。
どこ行ったんだろう。ここは危ないのに。


もし、あの氷が割れたら。
せき止められてた水が押し寄せたら。


そんな考えが頭の中で一杯になってしまう。
あれはダメだ。直感でそう思った。


冷たい空気の洞窟、氷の壁、しみ出した水。
もし、そんな冷たい水が押し寄せたら、泳ぐこともできないだろう。


「…大丈夫だよ。サイ。すぐに見つかる。そしたら、ここを出ようね。」


オルが俺の手を取って励ましてくれる。
その暖かい手に、ふっと息をつける。


「そうだよな。すぐ見つかる。…ありがと。オル。」


俺の返事に大丈夫だと思ったのか、傍を離れるオル。
俺も捜索に参加し、休憩所にしたあのランドセルのあった部屋や近くの道も見たが、ミランさんの姿はなかった。


「船長…。」
「置いていく。もう時間がねえ。」


ミランさんを置いていくのか。
いや、納得はしてないんだ。船長も。


不機嫌極まりない顔だ。後が怖い。
先に船に逃げ帰ってたとかだったらいいんだけどな。


違うってわかってても、そう願っちまう。
きっと、ミランさんはあの試掘の先に行ったんだ。


俺の報告に他にも何かあると感じ取ったのかもしれない。
それはあの獣人の事なんだけど、もし、もっと良く見ようと長いこと火を近づけたら…。


『時間が無い』と船長は言った。
たぶん、同じことを考えてるんだろう。


船長の決定で、速やかに帰りの隊を組む。
帰りは時間がないので、皆一緒だ。


「行きます。」


ヤジスさんが短めの松明を持って先頭を行く。
その後に俺、オル、イージスさん、船長、副船長、クレックさんと続く。


帰りは皆松明を持ってる。
迅速さが必要だかららしいが、お宝取った後は罠が発動することがあるからだろう。


洞窟が崩れるってやつ。ぶるる。
考えない考えない。洒落にならねえ。


「落ち着いて、足元を良く見ていくんだよ。」
「ああ。」


オルの指導されながら、俺も後に続く。
気が急くからと、罠に引っかかったら元も子もない。


無事に辿りつけますように。
俺たちは黙々と元来た道を進んでいった。
しおりを挟む

処理中です...