白銀のたてがみはもうありません

さくら乃

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銀色のリボン

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 ーー銀色のリボン。

 時折夢に出てくる、白銀の獅子が浮かんでくる。
 しかし、それは今は関係なく。


 これ、イオに似合いそう。


 なんとなく、そう思った。

「トール、さよなら~」
「うん。フィン、またね」
 陽が傾きかけた頃、伯母さんが迎えに来たので、フィンとはそこで別れた。
 伯母さんは、余ったからとケーキの残りをくれた。
 伯母さん自身はちょっとだけど、伯母さんのケーキは美味しい。ケーキに罪はないので、ありがたく貰って帰った。


「ただいま~」
「お帰り。遅かったな」
 家に入ると、既に食卓には夕食の準備が整えられていた。
「うん。伯母さんに頼まれて、フィンの面倒見てた」
 スープを器に入れているイオの隣で手を洗う。
「ーーあのね、イオ」
「うん?」
「あ、ご飯食べてからでいい」
 いざとなると、何だか照れくさくなり、後回しにする。
「いただきます」
 食卓につき、二人同時に手を合わせた。

 
 イオは器用で料理も上手い。食卓にあがる肉は、けして誰も入ろうとしない谷ーー村人の言うところの『悪魔の谷』で狩った獲物だ。
 ボクはまだ行ったことのないはずのその光景を、何故だか思い浮かべることができる。
 とは言え、自分の想像で、もしかしたら全然違うのかもしれないけど。
 食事を終え、片付けも終わったところで、ボクはイオの背に声をかけた。
「イオ、あのね」
「うん?」
 イオが振り返る。
 今度はちゃんと言おう。
「ボク、イオにあげたいものがあるんだ。これ……」
 後ろ手に隠していたリボンをイオの眼の前に、両手で捧げるようにして見せた。
「銀色の……リボン?」
 何だか酷くびっくりしているようだ。
「今朝、イオの髪、邪魔そうだったから。リボンで結べばいいって思って。あの……嫌いな色だった?」
 光に当てるときらきら輝くような生地だ。


 やっぱり、大人の男の人に、リボンなんて……。


 何も言わないイオに、不安になってくる。
 ふ……っと、イオの顔が和らいで、大事そうに受け取ってくれた。
「そんなことない。綺麗な色だ」
 イオのその顔にほっとした。
 ボクの心臓はどきどきと少し早くなる。イオは、ボク以外の人間にはこんな柔らかな顔は見せない。それに気がついた時から、ボクのどきどきは始まったのだ。
「ボク、結んでもいい?」
「ああ、頼む」 
 もう、寝る前だ。すぐに外してしまうかもしれない。それでも、今自分の手でイオの髪に結びたかった。
 イオはボクの高さに合わせるために、椅子に座ってくれた。
 そっと髪に触れ、手櫛で軽く整える。項の辺りでひとつに纏め、リボンをくるくると巻きつけ、最後に蝶々のような形に結んだ。
 ちょっと不恰好。
 でもこの色は、何故かしっくりくるような気がした。
「どうだ? 似合うか?」
「うん。似合うよ!」 

    
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