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銀色のリボン
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前髪は眉にかかるくらい。後ろは一番長いところが背中の半分くらいになるように切った。
櫛で前髪を整える。
間近でイオの綺麗な顔を見て、どきどきと心臓が鳴る。これはもういつになっても変わらない。
真実の父親の顔。父親として暮らしてきた、イオの顔。獅子から人間に変わった時のーー記憶が曖昧で、どれも今のイオの顔と一緒だったように思えていた。記憶が消されたり、甦ってきたりした影響かもしれない。
ずっとーーこの美しい顔を見続けていたような気がする。
「いいよ、眼を開けて」
ゆっくりと瞼が開く。
両眼とも、宝石のように美しい青色。
この記憶だけははっきりしている。親子として暮らしていた頃、イオの片眼は、けして開かなかった。そして、白銀の獅子は、片眼が銀で、片眼が青。人間に変わった時もそれは受け継がれていた。
今はすべてが解け、両眼青い瞳。
「どうだ?」
「大丈夫、上手にできたよ」
手鏡に映してみせた。
「そうか」
覗き込みながら、あからさまにほっとする。ボクは軽く頬を膨らませた。
「信用ないなぁ。もう何回もやってあげてるよねぇ?」
この家で一緒に暮らし始めてから、月は三回満ちて欠けた。二人が再会した花畑は、背の高い黄色い花から、淡いピンクや紫の可憐な花に変わった。
「あ、そう言えば、子どもの頃、切ってあげようかって言った時はやらせてくれなかったよね」
「あんな子どもにやらせて堪るか。どんなふうになるかわかったもんじゃない」
「ふーん」
村人たちと交流をしたくなかったイオは、村の散髪屋にも行きたがらず、ずっと髪を伸ばしていた。
でも、ボクは知っているんだ。
イオが自分で切ったことがあるって。それで失敗して、そのままにしてあったって。
二度とイオは自分の髪を切らなかった。何でも器用にこなすイオの意外な一面だったわけだ。
その時のイオの顔ときたらーーこの世の終わりって感じだった。
それを思いだし、ボクはくすっと笑ってしまった。
「何が可笑しい」
「なんでもない」
ぺろっと舌を出して、今度は後ろの髪に櫛を入れる。
そう言えば……。
途中で空いた手のほうで、ぽんぽんと頭を撫でる。
あれ……って、どうなってるんだろう。
あれから何度も睦み合った。それこそ、昼夜なく毎日求められるので、途中でボクは条件をつけた。
『毎日しない。陽のあるうちはしない』
身体はもたないし、明るいうちなんて恥ずかし過ぎる。イオは毎日しても全然疲れも見せないんだけどね。
する度に、頭から耳が生え、お尻からは自由自在に動く細長い尻尾が……。
でも、今は頭にそんなの影も形もないんだよなぁ。
「ねえ、イオ。あれってどうなってるの?」
「あれ……とは?」
「耳と尻尾だよ」
「知らん。あいつの仕業だ」
あいつと言うのは例の神様のことだろう。
「ふうん」
これ以上は、機嫌を損ねそうなので、問いただすのはやめた。
尻尾はちょっと悪戯が過ぎるけど、あの耳は可愛いよね!
ボクは、一人楽しげに笑った。
♡おしまい♡
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